この記事の筆者・ふかみんはメタバース本のだいたい全部を読んでいて、こちらの記事で全レビューもおこなった。
本書は全レビュー記事執筆後に発売されたため、別記事とした。全レビュー同様、忖度なしで書かせていただく。
関連商品
メタバースの核心とビジネスの始め方を一冊で学べる最新のビジネス書が、ついに刊行!
今からでも遅くない。2030年、現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤を手に入れよう。
『メタバース未来戦略』はどんな本か
正直なところ、読み応えがありとても面白い本だった。メタバース本としては後発であるが、これまでに読んだ30冊以上のメタバース本の中からビジネスパーソン向けに一冊、と言われたらこの本をおすすめする。メタバースのビジネスとしての可能性についてしっかり書いてあるし、読者が考える上でのヒントにあふれた良書だ。
2021年末からはじまったメタバースブーム以降の動きをまとめるとともに、ビジネスパーソンが気になるであろう、メタバース関連のビジネスの現在と未来についてこれでもかというほどに事例と予想が詰め込まれている。それぞれの説明も適切な詳しさ。
例えばメタバース実現に至る4段階のフェーズとして、メタバースがブーム前の2000年代から2030年あたりまで、どのように進化していくかを予想した図が掲載されている(Chapter 3-1)。
このような形で将来について予想しているメタバース本は他にはなかった。予測が非常に困難だからだと思うが、そんな中、非常に助かる。「将来こんなことが起きそうだ」ということを頭に描くことができるからだ。
さらに、メタバースの4つのビジネスポジションと題して、どんなビジネスが考えられるかをわかりやすく整理したり、ゲームデザイナーのジョン・ラドフ氏が挙げたメタバースの7層のバリューチェーンについて詳しく解説したりしてくれている。
メタバースに関連するビジネス事例も豊富に列挙されている(Chapter4)。読者がこれからメタバースに仕事で関わるとしたら、どのポジションでどんなことができるんだろう、ということを考える上で参考になる情報だ。
巻末、本書のエピローグには「バズは終わってもメタバースの追求は終わらない」と書いてある。この本はメタバース本としては後発であり、後発なりの役割としてこのメタバースブームを総括したいという意識も著者らの中にあったのではないか。
今回のメタバースブームはそろそろ終わるのだろう。しかしメタバースはそんな一時的なブームとは関係なく、粛々と進化していくものなのだ。僕もそれはその通りだと思う。
今はまだ長いメタバースの歴史のほんの一歩目なのだ。
今起きている瞬間的なメタバースのバズを締めくくる一冊として、この本はその役割をきちんと果たしている。
著者らの考えるメタバースとは
これを簡潔にして誰もが現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことができるオンライン上のバーチャル空間『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』より引用
とも表現している。3次元のインターネット『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』より引用
著者の立ち位置
本書は久保田瞬氏と石村尚也氏の共著。2人は中学、高校で同級生、さらに同じMMORPGにはまった仲だそうだ。2021年にVR/ARやメタバースについての論文を共著で執筆している。そして22年、その2人がVR&メタバースについての本を一緒に執筆。中学から一緒で共著というのが素敵だ。久保田氏はVRメディア「Mogura VR」の編集長。2014年よりVR/ARに興味を持ち、「Mogura VR」を創刊。この業界では有名なニュースサイトである。創刊時から石村氏もこの媒体に関わっていたようだ。なので、VRやメタバースは完全に守備範囲でありもはや「庭」。本書が細かい部分まで詳しく、情報豊富であるのはそういう理由だ。
立ち位置についてだが、あくまでVRファーストであり、すべてのことをVRで行うのが理想とする立場のようだ。VR/ARニュースサイトの中の人であるから当然といえば当然。しかしゲームもメタバースに至る大事なステップであると位置づけている。
元々2人でハマっていたMMORPGについても詳しく書かれており、ゲームもメタバースに近いという柔軟な姿勢。中立的で大きな偏りは感じられなかった。
著者ならではの部分
他のメタバース本ではみかけない、本書ならではの部分をいくつかピックアップ。実際に試してみることを強くすすめる
著者はまず、現在あるメタバース関連サービスをひと通り試してみることをおすすめしている。これは筆者も同感だ。例えばあなたが「ゲームとは何か詳しく知りたいんだ」と誰かに言われたら、とりあえずNintendo SwitchでもPlayStationでもスマホゲームでもなんでもいいから、どれかやってみなさいよと言うんじゃないだろうか。体感するのが理解への一番の近道。特にVRヘッドセットの没入体験は試してみないとわからない。
メタバースのほとんどのサービスは無料で試すことができるし、VRヘッドセットも4万円以内で購入できるようになってきた。今最も売れているMetaのVRヘッドセットOcculus Quest 2の累計販売台数は1500万台に迫っていると言われ、コンシューマーゲーム機ほどの規模感となってきている(ちなみにPlayStation 5は累計2000万台。つまりVRヘッドセットが、人気のゲーム機──需要に対して生産数が追いついていないとは言え──と引けを取らないぐらい売れている)。
デバイスの体験だけでなく、本書では、どのサービスを試したら良いかについても丁寧に解説されている。まずはそれにならって、ひと通りのサービスを試してみると良いだろう。
著者のガイドに従ってひと通り試していけば、メタバースのまだまだいけてない点も徐々に見えてくると思う。
ゲームに対する目線
ゲームとメタバースの関係についての目線は優しい。著者の言葉を引用する。ゲーム会社は今後メタバースの構築において重要な役割を担うだろう。『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』より引用
著者は、メタバースの発展のステップのひとつとしてゲームは重要なものだと捉えている。ひとつは利用者がメタバースに慣れるために。もうひとつは、例えば3Dエンジンなどゲームによって発達したさまざまな技術はそのままメタバースでも使えるため、メタバースの進化を速めるために。ゲーム産業はメタバースを構築するためのさまざまな要素技術の宝庫といえる。『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』より引用
ただ、著者が描くメタバースの最終到達のイメージはあくまでもVRヘッドセットを用いた没入感のある世界であり、あくまでもゲームは「メタバースに慣れるために有効」という捉え方であるように感じた。
アバターはプラットフォームを横断できるか?
本書を読みながら、筆者もさまざまなことを考えさせられた。ここではそのうち、ひとつだけ取り上げてみる。「アバターの相互利用」についてだ。各メタバースにおいては、ユーザー情報や作成されたデータはプラットフォームごとに管理されていることが多い。『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』Chapter1-2より引用
本書に限らず、理想のメタバースを語る書籍でみかけるのが、「アバターやその身につけた服やアイテムといったデジタルアセットは、複数のメタバースを横断して相互利用されるようになるべき」という主張だ。理想としてそうなってほしい、というのはわかるが、実際のところ相互利用の実現は一部にとどまるのではないだろうか。各プラットフォームを統一的に扱うフォーマットの開発が進み、デジタルアセットの相互運用性が高まれば、利便性は大きく向上する。『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』Chapter1-2より引用
そもそも、すでに多くのユーザーを抱える大規模なメタバースは、それをやるメリットがない。
なぜならそれらのメタバースはアバターの身につけるものやアイテムを販売しそれを商売にしているわけで、他のメタバースで購入したものを自分のところに持ち込んでほしくはないだろう。それどころか、できるだけ多くの時間を自社のメタバースで過ごし、できれば他のメタバースには移動してほしくないはずだ。
プラットフォームの立場に立てば、自分のプラットフォームでしか使えないものをたくさんクリエイターにつくってもらって、マージンを抜くという形を構築するのが一番儲かる。運営元が株式会社という形態で、儲かる方法がわかっているのにそれを選択しないというのは難しい。
将来、相互運用を熱望するユーザーが増えればそれを可能とするメタバースも増えるだろうが、そもそも相互運用を希望するユーザーがそんなにいるだろうか。一般ユーザーは、アバターを他で使えなくても何の不便もない。別のメタバースでは別のアバターをつくればいいだけの話だ。
たとえば新しいゲームをやる時、ゲームの世界観に合わせてキャラメイクするのはひとつの楽しみでもある。
毎回同じキャラクターを使いたいというのは、複数の世界を通して同じアイデンティティを持っていると見られたい特殊な事情や欲求のある人だけじゃないだろうか。一般ユーザーは複数の世界を通して同じアイデンティティを主張する必要はない。
メタバースのアバターも同様で、メタバースの世界観に合わせて新しくアバターをつくるのが楽しみだという人も多いだろう。
猫のメタバース「ネコデース」(NEKODEESU)に至っては、猫にしかなれない。アバターのデザインが世界観を反映しているメタバースだとそもそもアバターの相互運用自体が難しい。
しかし不思議なことに、相互運用できたほうがよいというメタバース本の著者が多い。
いや、別にそうなってもいいんだけど、なくても別にいいんじゃない? という人も多いのではないだろうか。
もちろん、著名人やインフルエンサーは、その方が便利かもしれない。同じイメージを繰り返し繰り返し使って自分を宣伝し、少しでも多くの人に覚えてもらう必要があるからだ。メタバース本の著者も著名人である。著名人・インフルエンサー目線でそうなった方が良いと思い込んでいるに過ぎないのではないか。
現在、TwitterなどのSNSでは、NFTアートをアイコンに設定できるような機能拡張がおこなわれている。おそらくNFTアートをアイコンにしている人たちは、メタバースでも購入したデジタルアセットを複数プラットフォームにわたって使いたがるのではないだろうか。
SNSでのNFTアート利用がどの程度広がるかを観察すれば、将来のメタバースにおけるデジタルアセットのありかたや、相互利用のあり方が見えてきそうだ。
インタビュー記事へのリンク
本書に掲載されているインタビュー・対談・コラムは全てWebサイトで無償公開されている。無償公開されているものは大きく分けて2種類。ひとつはもともとニュースサイト「Mogura VR」に掲載されていたインタビュー記事やコラムを本書に転載したもの。もうひとつは本書に掲載されているインタビュー記事をそのまま日経クロストレンドに転載したもの。後者は昨今よくみられる、書籍本文を一章まるごと等たっぷり転載して書籍PRとすることを目的としたもののようだ。
本書に掲載されているインタビュー記事のうち、無償公開されているページは、本書の約4分の1のボリュームに相当する。かなりの大盤振る舞いだが、本書の購入を検討している人にとってはとても参考になる。
大盤振る舞いに見えるが、本書の魅力が損なわれているわけではない。書籍のみで読めるコンテンツも充実しており、無償公開されている部分が多いからといって、この本を買う理由がなくなるかというとそんなことはない。
以下、本書の購入を検討している方の参考のために、それらの記事へのリンクをまとめる。
個人的にはビームスクリエイティブ代表取締役社長 池内光氏のインタビューが経験に基づく率直な内容で面白かった。
「Second Life」全盛期の仕掛け人たちが語る
Meta社Metaverse Contents VPジェイソン・ルービン氏インタビュー
ゲームAI研究者・開発者三宅陽一郎氏インタビュー
Unity Technologes社クリエイト部門シニアバイスプレジデント マーク・ウィッテン氏インタビュー
KDDI 事業創造本部 副本部長 中馬和彦氏インタビュー
ビームス取締役、ビームスクリエイティブ代表取締役社長 池内光氏インタビュー
国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐 内山裕弥氏インタビュー
ザッカーバーグ、メタバースを語り尽くす
メタバースのことをもっと知る
この記事どう思う?
ふかみん(深水英一郎)
笹舟にちょうどよい笹があり見とれていて橋から川へ落ちたことがあります | 詩や短歌をつくっています | 基本いつでものんきです | シュークリームが大好き
Twitter
https://twitter.com/fukamie
最近の企画
Twitterで歌会を開催する「ついうた」
https://kotobadia.com/tanka
0件のコメント