いま、にわかに注目を集めている「チル」というワード。
肩の力を抜いて、リラックスする。まったりと、気楽にすごす。いろんな風に捉えることのできる言葉だけれど、そういうムードが求められるようになった背景に、コロナ禍の閉塞感、さまざまな社会問題が前面化してきたここ数年の状況が関連しているのは間違いないだろう。
そんな時代性に真っ向から対峙してきたアーティストのひとりが、SIRUPだ。
R&B、ネオソウル、ヒップホップをルーツに、甘い歌声と心地よいヴァイブスを持った楽曲で支持を広げてきた彼。そのアーティストとしてのスタンスと信条は、コロナ禍以降、大きな変化を見せてきた。"Love & Educate yourself"というキーワードを掲げ、メンタルヘルスについて自ら学びつつ、セルフケアの大切さを発信してきた。
だからこそ、SIRUPがリラクゼーションドリンク・CHILL OUT(チルアウト)とのコラボレーション企画に取り組んだということには、すごく納得するものがあった。まず何より、SIRUPの楽曲は、とても「チルい」。そして、そのことに、確固たる必然性がある。そういうタイプのアーティストはなかなか少ないと思う。 「CHILL OUT MUSIC」の第3弾オリジナル・ソングとして発表された「friends」はシンガポールのR&Bバンド、brb.とのコラボレーションによる一曲。仲間や友人同士がフランクにわいわい話す、自然体で楽しいムードを封じ込めたナンバーだ。brb. & SIRUP - friends (Official Music Video)
インタビューでは、楽曲の制作背景やSIRUPの音楽への思いだけでなく、「チル」が求められる今の社会についても、たっぷりと語ってもらった。
取材・文:柴那典 撮影:Yukitaka Amemiya ヘアメイク:Haruka Miyamoto 動画:古見湖 編集:新見直
SIRUP 基本的には、シリアスなものをシリアスなままで伝えるなら、しゃべったほうが早いですよね。それを音楽でやる理由としては、シリアスなものをグッドミュージックに落とし込んで、聴いているあいだに自然に考えられているようになればいいなと思うからです。
それがダンスミュージックなら踊っているあいだにそうなったらいいし。とは言っても、もちろんシリアスなことや真面目なことばっかりを歌っているわけじゃないですけどね。 ──そういった社会に対してのメッセージや自分のスタンスを音楽に落とし込んで表現しようと思ったのは、どういう経緯だったんでしょうか?
SIRUP そもそも自分は思ったことしか歌いません。この2年の社会情勢とか、コロナ下に入ってからの政府の具合とか、そういうことを見て「なぜ、日本はずっと変わらないんだろう?」と思うようになっていったんですよね。
それは個々人じゃなくて教育とか、もっとデカいところに問題があるんじゃないかということを、いろいろ学ぶようになったんです。僕が音楽で伝えたいことって、まさに人生における「CHILL OUT」みたいなもの。音楽を聴くことでリラックスしたり、気分を切り替えられたり、何かのパワーをもらえたり──僕の音楽がそういうものになってほしいんです。
そのためには、嘘をついたらいけない。たとえば今の情勢で「なんとかなるさ」とか「がんばろうぜ」とだけ歌われても「いや、そういう問題じゃないじゃん。それじゃあもう(状況を改善するのは)無理だよ」ということがわかっている状態ですよね。
──そうですよね。
SIRUP だから、「シリアス」という言葉を使ってますけど、実は全然シリアスなことを歌っているつもりはないんです。当たり前に、みんなでよりよい社会にするために考えないといけないことがある。それが、日本だとまだシリアスに感じられてしまうというのが現状というだけなんだと思います。
自分としてはそういうことを思いながらも、もっといろんな人の話を聞くようにして、学ぼうと。それで、みんなに伝えるときには、音楽としてもっとラクに聴けるものにしたいと思ってますね。
SIRUP そうですね。仕事でも、自分がいろんなことを学んで成長していくことで環境が楽になっていく。恋愛や日常生活の中でも、自分を大切にして学んでいくべきものが沢山あると思います。
──自分を大切にするという意味では、SIRUPさんは近年、セルフケアについて、自分をいい状態に保つことについても意識的に発信してきましたよね。それはどういった思いからだったんでしょうか?
SIRUP ミュージシャンは特にそうなのかもしれないけれど、何もしていないことが不安になったりしがちです。東京にいると余計にそうだと思うんですよ、何かしないといけない気持ちにされてしまう街でもある。 自分も「今日はこれをやったからOK」とか、すごく考えてしまう方でした。でも、メンタルケアを学んで、やらなくてもいいことは無理にやらない方がいいと思うようにもなって。単純に、そうすることでもっと音楽を楽しめるし、もっと力を抜いて人生を送れるということを知りました。
そうやって自分が学んでよかったと思うことをシェアすることで、みんなにももっと音楽も楽しんでもらえるようになるんじゃないかって。そういうことをいっぱい考えてきました。
SIRUP 結局、自分にとっては、曲をつくることがセルフケアにもなっているんですよね。思っていることを形にしているので、それがストレス発散になる。去年『cure』をつくった時にはより強くそのことを感じました。いろんな問題を(音楽に)落とし込んでいったことで、自分の人生にも踏ん切りがついたというか。それが自分にとっての“cure”になったので、タイトルも『cure』にしたんです。 ──アルバムを出してからは、どんな変化がありましたか?
SIRUP 正直、むちゃくちゃ大変でした。ツアーはさせてもらったんですけれど、コロナ下でプロモーションも思ったよりできなかったり、伝えきれないことが多かったり。
ただ、『cure』というアルバムで自分の思っていることを、社会や時代の中で表現できたという感触があって。だから、フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL '21)に出た時には情勢がシビアだったけれど、その時に自分の考えを表現した曲をライブで披露することで、感じていることを全部伝えられた感じがあったんです。
──アルバムの後に発表されている新曲を聴くと、もっとオープンで楽しいムードの曲も増えてきた感じはありますね。
SIRUP そうですね。『cure』はどちらかと言えば内省的なアルバムだったし、自分の生き方的にも、去年はすべての問題を自分の人生の延長線上につなげすぎて、だいぶくらってしまった時期があったので。そこから踏ん切りがついたのがフジロック後から年末にかけてのあたりでした。だから、今年は自分も音楽を楽しむぞっていう感じがありますね。
肩の力を抜いて、リラックスする。まったりと、気楽にすごす。いろんな風に捉えることのできる言葉だけれど、そういうムードが求められるようになった背景に、コロナ禍の閉塞感、さまざまな社会問題が前面化してきたここ数年の状況が関連しているのは間違いないだろう。
そんな時代性に真っ向から対峙してきたアーティストのひとりが、SIRUPだ。
R&B、ネオソウル、ヒップホップをルーツに、甘い歌声と心地よいヴァイブスを持った楽曲で支持を広げてきた彼。そのアーティストとしてのスタンスと信条は、コロナ禍以降、大きな変化を見せてきた。"Love & Educate yourself"というキーワードを掲げ、メンタルヘルスについて自ら学びつつ、セルフケアの大切さを発信してきた。
だからこそ、SIRUPがリラクゼーションドリンク・CHILL OUT(チルアウト)とのコラボレーション企画に取り組んだということには、すごく納得するものがあった。まず何より、SIRUPの楽曲は、とても「チルい」。そして、そのことに、確固たる必然性がある。そういうタイプのアーティストはなかなか少ないと思う。 「CHILL OUT MUSIC」の第3弾オリジナル・ソングとして発表された「friends」はシンガポールのR&Bバンド、brb.とのコラボレーションによる一曲。仲間や友人同士がフランクにわいわい話す、自然体で楽しいムードを封じ込めたナンバーだ。
取材・文:柴那典 撮影:Yukitaka Amemiya ヘアメイク:Haruka Miyamoto 動画:古見湖 編集:新見直
目次
シリアスなまま伝えるなら音楽じゃなくていい
──昨年のアルバム『cure』など、ここ最近のSIRUPさんの作品には社会問題やメンタルヘルスのようなシリアスなテーマを背景にしたものも多いですよね。それでも聴き心地としてはグッドミュージックとして人に届くものになっているように思います。アーティストとして、そういうバランス感は大事にしていることですか?SIRUP 基本的には、シリアスなものをシリアスなままで伝えるなら、しゃべったほうが早いですよね。それを音楽でやる理由としては、シリアスなものをグッドミュージックに落とし込んで、聴いているあいだに自然に考えられているようになればいいなと思うからです。
それがダンスミュージックなら踊っているあいだにそうなったらいいし。とは言っても、もちろんシリアスなことや真面目なことばっかりを歌っているわけじゃないですけどね。 ──そういった社会に対してのメッセージや自分のスタンスを音楽に落とし込んで表現しようと思ったのは、どういう経緯だったんでしょうか?
SIRUP そもそも自分は思ったことしか歌いません。この2年の社会情勢とか、コロナ下に入ってからの政府の具合とか、そういうことを見て「なぜ、日本はずっと変わらないんだろう?」と思うようになっていったんですよね。
それは個々人じゃなくて教育とか、もっとデカいところに問題があるんじゃないかということを、いろいろ学ぶようになったんです。僕が音楽で伝えたいことって、まさに人生における「CHILL OUT」みたいなもの。音楽を聴くことでリラックスしたり、気分を切り替えられたり、何かのパワーをもらえたり──僕の音楽がそういうものになってほしいんです。
そのためには、嘘をついたらいけない。たとえば今の情勢で「なんとかなるさ」とか「がんばろうぜ」とだけ歌われても「いや、そういう問題じゃないじゃん。それじゃあもう(状況を改善するのは)無理だよ」ということがわかっている状態ですよね。
──そうですよね。
SIRUP だから、「シリアス」という言葉を使ってますけど、実は全然シリアスなことを歌っているつもりはないんです。当たり前に、みんなでよりよい社会にするために考えないといけないことがある。それが、日本だとまだシリアスに感じられてしまうというのが現状というだけなんだと思います。
自分としてはそういうことを思いながらも、もっといろんな人の話を聞くようにして、学ぼうと。それで、みんなに伝えるときには、音楽としてもっとラクに聴けるものにしたいと思ってますね。
音楽をもっと楽しむには
──SIRUPさんには、学ぶことへの強いモチベーションがあるんですね。SIRUP そうですね。仕事でも、自分がいろんなことを学んで成長していくことで環境が楽になっていく。恋愛や日常生活の中でも、自分を大切にして学んでいくべきものが沢山あると思います。
──自分を大切にするという意味では、SIRUPさんは近年、セルフケアについて、自分をいい状態に保つことについても意識的に発信してきましたよね。それはどういった思いからだったんでしょうか?
SIRUP ミュージシャンは特にそうなのかもしれないけれど、何もしていないことが不安になったりしがちです。東京にいると余計にそうだと思うんですよ、何かしないといけない気持ちにされてしまう街でもある。 自分も「今日はこれをやったからOK」とか、すごく考えてしまう方でした。でも、メンタルケアを学んで、やらなくてもいいことは無理にやらない方がいいと思うようにもなって。単純に、そうすることでもっと音楽を楽しめるし、もっと力を抜いて人生を送れるということを知りました。
そうやって自分が学んでよかったと思うことをシェアすることで、みんなにももっと音楽も楽しんでもらえるようになるんじゃないかって。そういうことをいっぱい考えてきました。
SIRUPにとっての“cure”
──2021年にリリースされたアルバム『cure』も、そうやってSIRUPさんが学んだことや考えたことが反映された作品だったと感じます。改めて振り返って、あのアルバムは自分自身にとってどういうものになったと思いますか?SIRUP 結局、自分にとっては、曲をつくることがセルフケアにもなっているんですよね。思っていることを形にしているので、それがストレス発散になる。去年『cure』をつくった時にはより強くそのことを感じました。いろんな問題を(音楽に)落とし込んでいったことで、自分の人生にも踏ん切りがついたというか。それが自分にとっての“cure”になったので、タイトルも『cure』にしたんです。 ──アルバムを出してからは、どんな変化がありましたか?
SIRUP 正直、むちゃくちゃ大変でした。ツアーはさせてもらったんですけれど、コロナ下でプロモーションも思ったよりできなかったり、伝えきれないことが多かったり。
ただ、『cure』というアルバムで自分の思っていることを、社会や時代の中で表現できたという感触があって。だから、フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL '21)に出た時には情勢がシビアだったけれど、その時に自分の考えを表現した曲をライブで披露することで、感じていることを全部伝えられた感じがあったんです。
SIRUP 『cure』はだいぶ濃厚なアルバムになったから今年はアルバムを出すつもりはなくて、まだまだもっと『cure』を聴いてもらいたいですね。フジロック出演にあたって
— S I R U P (@IamSIRUP) August 18, 2021
ご一読頂ければ幸いです! pic.twitter.com/Ipti2g17qB
──アルバムの後に発表されている新曲を聴くと、もっとオープンで楽しいムードの曲も増えてきた感じはありますね。
SIRUP そうですね。『cure』はどちらかと言えば内省的なアルバムだったし、自分の生き方的にも、去年はすべての問題を自分の人生の延長線上につなげすぎて、だいぶくらってしまった時期があったので。そこから踏ん切りがついたのがフジロック後から年末にかけてのあたりでした。だから、今年は自分も音楽を楽しむぞっていう感じがありますね。
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