家を出るきっかけは、LiSAのライブ映像制作
──ご自身の作品の中で、転換点になったと思うものはありますか?Nate そうですね。僕のキャリアや人生で重要だった作品なら、やっぱり高校2年生の頃に手がけたLiSAさんのライブ「LiVE is Smile Always ~LiTTLE DEViL PARADE~」(2017)の演出映像です。
初めて企業からのクライアントワークとして受けた案件でした。
──そこから他の仕事に繋がったということでしょうか?サイコーだった✌️ pic.twitter.com/ppss9wMdfI
— Nate / ねいと (@nate_nate_co) June 25, 2017
それもありますが、ライブの演出映像だったので現場に僕も参加させていただいたんです。
自分が家で1人ちまちまPCの前でつくった映像が、いきなりLiSAさんのバックで、初めて万を超える観客の目の前に流れたわけですよ。それはもう……本当に言葉にならないほどの感動で、めちゃくちゃ鳥肌が立ったのを覚えています。
みんなLiSAさんのライブを観に来てるわけだから僕の力はわずかだったのかもしれない。それでもファンの人の盛り上がりを見て、自分の作品が初めてダイレクトに人に影響を与えてるって思えたというか。
その経験は大きくて、その後のいろいろな立ち回りや自信に繋がった感じがします。それがなかったら、今こうなってるかもわからないですね。
──依頼を受けたときのことは覚えてますか?
Nate びっくりしたのは覚えてますね。
それまでTwitterにつくった映像を上げてるくらいだったんですが、多分それを観て、ライブのクリエイティブ周りをプロデュースしていた人が、メールで直接コンタクトしてくれたんですよ。
メールが来たときも「えー!」と驚いてすぐお母さんに報告しました(笑)。
──ご家族の反応はいかがでしたか?
Nate 実はそれまで、映像制作のことはあんまり親に言ってなかったんです。初めてちゃんと言ったのがそのLiSAさんのライブの時。
同じタイミングで、CG関係のコンテストで入賞させていただいたこともあって、それを説得材料に、芸術系の大学に行くことや、映像制作の仕事につくことについて親の賛同を得るための交渉をしました。「ちゃんとやってるから、どうにかこっちの道に行かせてくれ」という感じで、何度も何度も家族会議を開きました。
僕の家系には芸術系、デザイン系のお仕事をしている人なんて1人もいないんですよ。そんな中でいきなり、高校まで普通科だった僕がそんなことを言い出したから、もうめちゃくちゃ揉めたというか……きっと親もびっくりしたでしょうね。
──最終的にどうやって説得されたんでしょうか?
Nate 結局、最後まで僕が意見を曲げなかったんです。
幸いにも両親に恵まれたので、僕が曲げないから「もうお前が好きなようにやれ」となったんでしょうけど、高校生のうちに僕がクライアントワークをこなしたりしてなかったらもっと反対されてたと思うし、僕も心が折れちゃってたかもしれないです。
結局、大学は卒業せずにやめて東京に出てきたわけですが……(苦笑)。
──東京に出てきた理由はなんでしょう? やはり地方ではチャンスを掴みづらいものですか?
Nate やっぱりデザイン系の会社は東京に多いというのはありますよね。あと、僕の交友関係がインターネットのコミュニティがベースになっているのも理由です。
インターネットで繋がったクリエイターさんと、いざ「会ってミーティングしよう」ってなった時にいちいち東京に行かなきゃいけない。
例えば、Crazy Raccoonのオーナー・おじじさんと知り合ったとき、僕はまだ大学生で京都にいたんですけど、おじじさんは瞬発力のある人なので、急にご飯に誘ってくれたりするんですよ(笑)。それだけのために新幹線で行ってすぐ帰ってくる、みたいなことをやってたんです。それだったら東京に住んだ方がいいかなと。
リモートワークが浸透しつつある現代ですが、個人的には実際会って話す力ってやっぱりまだデカいなと思ってます。
Nate流「視覚からの快感」
──これまでFPSのモンタージュ、ボーカロイドのMVにライブの演出映像など、様々なジャンルの映像を手がけられています。それぞれ制作する際に意識していることはなんですか?例えばライブ演出の映像では、アーティストを目立たせることが一番の目的です。具体的なオブジェクトを出したりすると邪魔になったりするんですよね。そんなときはアブストラクト・抽象的な表現に仕上げる。
コンテンツによって求められてるものが違うので、何のための映像か、誰のための映像なのかをしっかり見定めた上で、シチュエーションに適したものをつくるようにしています。
──公式サイトのプロフィールには、「動きから生まれる気持ち良さ、視覚からの快感を大切に、映像でしか表現できないものをデザインしている」と記載されています。かなり難しい話だと思うのですが、「視覚からの快感」はどのようにして生み出せるものなんでしょうか?
Nate 一番難しいところで、僕もまだまだ研究中ではあるんです。音楽のコード理論とかと似て生理的というか、感覚的なものが多い部分だと思ってるんですよね。
音楽のコードも、良い響きだと人間が感じるものを集めたものだったりするじゃないですか。それと同じく、観ていてなんだか気持ちいいとか、映像と音がパチッとあって気持ちいいというのは、みんななんとなくわかると思うんですよ。
もちろん専門的・技術的な話としては、「こういうイージング(加減速)、こういうアニメーションのカーブだと快感を生みやすい」というのはあるんです。
そういう快感を生み出す手法がありつつも、まだまだ感性頼りの部分も多い。僕も言語化をしようと日々努力してるんですけど、「何でここはこんなに良い感じなんだろう」と探り探り研究してるっていう感じなんですよね。いい回答ができなくて申し訳ないです(汗)。
──とんでもないです。だからこそ、Nateさんご自身も映像業界では名の知れたVimeoやBehanceで他のクリエイターの作品を観て吸収してきたわけですよね。
Nate そうなんですよ。小手先の技法はもちろんあるんですけど、個人的には作品をたくさん観て吸収した方が、いろいろな幅を持った作品を制作できると思ってます。
最近はYouTubeにもそういう映像が出たりするし、TikTokも意識的によく観るようにしています。僕がターゲットにしている層って10代・20代なので、若者の文化を知りたいんですよ。僕ももう学生ではないので、やっぱり今の中学生や高校生の流行を知りたい。
僕の周りにも「TikTokなんて見てんの?」って馬鹿にする人はいるんですよ。でも、僕が仲良くなったクリエイターの中には、TikTokで見かけてフォローして繋がった方もいます。
感性を磨くため、いろいろ幅広くアンテナを立てるよう心がけています。
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Nate
ディレクター / CGデザイナー / モーションデザイナー
クリエイティブチーム「nim」代表。
2D、3DCGによるモーショングラフィックスを軸に、ジャンルやスタイルを問わないアプローチが可能。
動きから生まれる気持ち良さ、視覚からの快感を大切に、映像でしか表現できないものをデザインする。
最近は映像にストーリー性を持たせることで、人の心にハマるコンテンツを模索している。
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