「ボカロを知らなかった人たち」に届けるために
──「ボカロを知らなかった人たち」に届けるために、制作で意識していたことはありますか?tamimoon 私のフォロワーにはファッションが好きな子が多いので、各キャラクターに合うファッションは意識的に考えていきました。その上でキャラクターの特徴がちゃんとわかるようなモチーフを入れています。
ただ日常っぽくすると、今度は「ボカロ感」みたいなものがどうしても減ってしまう。そこは気にしつつバランスを取っていきました。 ──普段tamimoonさんが描く女の子は、「実際に存在してそう」なところが持ち味だと思います。一方でボカロのキャラクターは、キャラクターデザインも含め二次元に近い存在で、どうやってバランスを取られたのかは気になるところでした。
tamimoon 確かに、普段のイラストでは「あり得そう」を意識しています。あり得そうな目の色、あり得そうな髪型。そういう自分の良さを出しつつ、ボカロたちをどう描くのかは、確かに自分の中で課題ではありました。
でも今回、「日常の中の音楽のある風景」というテーマがあったおかげで、すんなり考えられたような気がします。あくまで二次元の存在として描くお仕事だと、今度は私の良さが活かせなかっただろうなと。日常を意識したおかげで、2.5次元っぽいアートワークにできたのかなと思ってます。テーマに助けられた面はありますね。 ──背景が実写ですし、彼女たちが本当に存在してそうなワクワク感がありますよね。
tamimoon 背景の写真は、「この子はここにいてほしいな」と思う場所に自分で撮りに行きました。こっち側の世界に来てくれそうな雰囲気を出したくて。
──この子は描きやすかったな、難しかったな、というのはありましたか?
tamimoon GUMIちゃんの髪型は少し特殊な形をしていて、日常感を出すのが難しかったです。可不ちゃんは、以前「メスト」のMVなどで2回書かせていただいたので、「あ、そうそうこれこれ」って感じで描けましたね。
tamimoon ぜひ引き受けたいです。私ができることって、今どきの子たちやファッションが好きな子たちに向けて、ボカロの魅力を発信することなのかなって思っていて。先日の個展で自分のファンの方々を初めて見たんですけど、若くておしゃれな子が本当に多くてびっくりしたんです。
自分はずっとずっとボカロやボカロ文化が好きで、今広がりを見せていることにも嬉しい気持ちがあるんですけど。ただ私の友達にも「ボカロの曲は知ってるけど、ボカロそのものはよく知らない」みたいな子がいて、ショックだったんですよね。
でも、Instagramで今回のアートワークの告知をしたら、今まででいいね数が一番多かったんですよ。すごく意外で驚きましたし、新しい人の目にもボカロが触れる機会になっているようでよかったなと思いました。
イラストは、あり得ないこともあり得ることにできる
──今回のボカコレに参加する人は、この4点のイラストを動画の素材として使用することができます。「こういう曲に使われたら嬉しい」「こういう雰囲気の曲に合うんじゃないか」というイメージはありますか?tamimoon 逆にどういう曲で使ってくださるのか、すごく楽しみなんです。こう使ってほしいというよりは「どう使っていただけるんだろう」って。
だいたいいつもは曲を最初に聞かせていただいてからMV用イラストを描くので、自分の絵を使っていただく形は全然想像がつかなくて。とてもワクワクしています。 ──ことボカロにおいては、イラストやMVが持つ意味が大きいと思っています。おっしゃったように曲とイラストの化学反応も起こりやすい。tamimoonさんはボカロ曲におけるイラストMVの役割をどのように感じていますか?
tamimoon イラストは、写真や三次元ではできないことを表現できるところが強みだと思っています。あり得ないこともあり得ることにできるというか。今はメジャーシーンのアーティストさんも、イラストを使ったリリックビデオやアニメーションMVを出している。
音楽だけでなくビジュアルの面でも、ボカロカルチャーから今の音楽業界に影響が広がっている気がします。
──改めて、今好きなボカロPや曲名をうかがえますか?
tamimoon 今回ドワンゴさんから、プレイリストのご依頼もいただいていて。kzさんの「Packaged」「Yellow」、ryoさんの「メルト」などを入れました。昔の曲ばかり選んじゃったんですけど、でも「今こそぜひ聴いてほしい」という思いがあったんですよね。あとは古川本舗さんやwowakaさんも大好きで、よく聴いてます。
繰り返しになってしまいますが、ドワンゴさんにはもう感謝しかなくて。プレイリストのお話いただいたときも「ぜひ! 何曲でも出します!」って感じでした(笑)。
想像力をかきたてる「女の子が見せる一瞬の儚さ」
──絵を描くとき、ボカロ曲からインスピレーションを受けることもありますか?tamimoon 私は主に音楽とファッションからインスピレーションを受けることが多いんですけど、ボカロ曲を聴くとかき立てられるものがありますね。
ryoさんの「ODDS&ENDS」という曲があって、ミクちゃんのことを歌っている曲なんですけど、すごく切なくなって……切なくなると、創作意欲がかき立てられます。今回のキービジュアルも、それぞれのキャラたちの曲を聴きながら描きました。
──その「切なさ」は、普段の作品の中身にも影響していますか? tamimoonさんが描く女の子は、遠くを見ている子が多いようにも思います。
tamimoon 女の子の持つ儚さというか、今にも消えてしまいそうな瞬間みたいなものを描いていきたいんですよね。これは妄想なんですけど、普段から、私の目の前に女の子がいて、その子を写真に収めるような感覚で描いていて。その女の子が見せる一瞬の儚さは、自分の中のひとつのテーマだったりします。
あとは、自分の中ではその子が訴えかけていることとか、思っていることを想像しながら描くことが多いです。
たとえば今回描いたGUMIちゃんも、にこって笑ってはいるけど、それがどういう笑顔なのかはわからない。もしかしたら前後に何かがあったのかもしれないし、笑ってるけどもしかしたら切ないシーンなのかもしれないし、悲しいことがあった後にひとつ残った写真がこの絵なのかもしれないとか……見る人にも、いろいろと想像していただけたら嬉しいなと思います。 ──最後に、tamimoonさんが思うボカロの魅力を教えてください。
tamimoon もちろん個々のビジュアルも素敵なんですけど、ボカロ自体が無限の可能性を持っているところに惹かれます。たとえば同じミクちゃんでも曲をつくる人によって全然違う面を見せるし、さらに言えば曲ごとにミクちゃんが持つイメージも変わってくる。
ボカコレも毎回楽しみに見ています。ボカコレのために曲をつくったりイラストを描く人がいて、一気にいろんな人の作品が見られるし、すごく盛り上がっていて楽しい。ボカロ好きにとっては、こういうイベントがあると、ボカロがすごく大事にされてることを実感できて嬉しいです。
「The VOCALOID Collection ~2022 Spring~」をチェックする 動画にも使えるtamimoonさんによるキービジュアル
ボカロP、イラストレーターへのインタビュー
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イベント情報
「The VOCALOID Collection ~2022 Spring~ Supported by 東武トップツアーズ」/「ニコニコ超会議2022 Supported by NTT」
- ■「The VOCALOID Collection ~2022 Spring~ Supported by 東武トップツアーズ」
- 開催日時
- 2022年4月22日(金)~25日(月)※22日は前夜祭
- 開催場所
- ニコニコTOPページなどのネットプラットフォームほか
- 公式サイト
- https://vocaloid-collection.jp/
- 公式生放送
- https://live.nicovideo.jp/watch/lv335964371(day1)
- https://live.nicovideo.jp/watch/lv335967537(day2)
- https://live.nicovideo.jp/watch/lv335967642(day3)
- 公式Twitter
- https://twitter.com/the_voca_colle
- 協賛
- 東武トップツアーズ株式会社、白夜極光
- VOCALOID(ボーカロイド)」ならびに「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。
- ■「ニコニコ超会議2022 Supported by NTT」開催概要
- 日時
- 2022年4月23日(土)~30日(土)
- ネット:4月23日(土)~30日(土)
- リアル:4月29日(金)10時~18時、4月30日(土)10時~17時
- 主催
- ニコニコ超会議実行委員会
- 会場
- リアル開催:幕張メッセ / ネット開催:ニコニコ公式サイト・総合TOP(https://www.nicovideo.jp/)
- ニコニコ超会議 公式サイト
- https://chokaigi.jp/
- twitter公式アカウント
- https://twitter.com/chokaigi_PR
- テーマソング
- 「しろくろましろ」 作詩・作曲:松岡充/歌:「シロクマ」小林幸子×松岡充
関連リンク
tamimoon
イラストレーター
2020年より活動を開始したイラストレーター。その後急速に活動の場を広げ、イラスト集『ニュー・リアルクローズ イラストレーション』ではカバーイラストを担当。2022年には、KADOKAWAより初となる画集『IDENTITY』の出版と、それを記念した初個展を開催した。「The VOCALOID Collection ~2022 Spring~」ではキービジュアルを担当する。
連載
例年幕張メッセで開かれている「ニコニコのすべて(だいたい)を地上に再現する」イベントこと「ニコニコ超会議」。新型コロナウイルス感染症の影響で、2019年を最後にネット開催が続いていたが、「ニコニコ超会議2022」では3年ぶりに現地開催。事前情報はもちろん、人気企画として定着したバーチャルYouTuber、目に見えて勢いを増す「ボカコレ」、さらにはコスプレや会場内のブースなどをレポートしていく。
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