鍵は「創作意欲をどうやって刺激するか?」
宮城 TikTokでは有名俳優など自分の「推し」を表現する動画をつくっている人がいます。そういう動画で、歌詞の“別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す”の部分が使われたのがきっかけですね。
「TikTokが『おすすめ』に動画をレコメンドする仕組み」(外部リンク)にもあるように、ユーザーが最後まで動画を見終えたかどうかはTikTokが重視するポイントのひとつです。
「おすすめ」フィードでレコメンドされている動画も興味がなければスワイプされて飛ばされてしまいますが、人気のタレントさんなどの画像があると、ユーザーに最後まで見ていただける傾向があります。
──確かに楽曲に関係なかったとしても、好きな人が出てくれば目を引きやすいと思います。
宮城 それで「香水」を使った「推し」を表現する動画が評価され、多くのユーザーの「おすすめ」フィードに散見されるようになったようです。
そもそも、TikTokでは「みんなは知らないけどこの楽曲のこの歌詞良いよね」みたいな部分を使って、自分のセンスの良さを表現したい層がいるんですよ。運営としてそういった方々から学ぶこともありますね。
──歌詞の一部に目をつけて。
宮城 そうですね。楽曲を聴いているだけではイメージできないことが、動画で使われると増幅されてその世界観も広がっていく。短尺だからこそ、そこにフォーカスできる。
「香水」を例にすると、先ほどの歌詞に続く“君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ”も、動画で使いやすい部分です。しかし、ただ楽曲を一聴しただけでは、そこも使いどころだと伝わらなかったのではないかと思います。
ユーザーがつくった動画のおかげで楽曲の魅力が増幅され、楽曲だけでは届かなかった層にリーチするようになった気がしますね。
──二次創作しがいがある、それを使って何か動画コンテンツをつくりたくなるような楽曲が、TikTokでヒットしやすいということでしょうか?
宮城 おそらく「創作意欲をどうやって刺激するのか」が、歌詞のフレーズやアレンジなどを考える上で重要な尺度になると思います。
──逆に、二次創作のされやすさではなく、そのアーティストの歌唱力やスキルの高さから注目される例もあるのでしょうか?
宮城 歌唱力という意味では、「#春の歌うま」キャンペーンをやった際には、5人組ダンス&ボーカルグループ・Da-iceの「Citrus」という難しい歌に挑戦するのが盛り上がりました。
ヒップホップやラップでは、Eminemさんの「Rap God」に乗せて目玉焼きがラップする「emineggs」という動画がバズったりしていました。
宮城 とにかく、どこかで耳に残ることが重要なんだと思います。それをアーティスト自身か誰かがうまく動画にしてバズれば、他のユーザーも使いはじめる。
──ボーカル以外のトラックも含めた、楽曲のアレンジ全体について何かポイントはありますか?
宮城 TikTokは、ユーザーが“没入”しながら聴く媒体という特徴があります。そのため、楽曲のどこに引っ掛かりをつくるかが重要だと思っています。
声やビート、転換のポイント、音色などでユーザーに「もうちょっと聴いていよう」と思わせなきゃいけない。
おすすめフィードで動画がどんどんスワイプされて流れていく中、耳に止まるポイントがあるとTikTokのユーザーも使いやすいです。その中の誰かがつくった動画がバズれば他のクリエイターたちも使ってみたくなる。その結果、雪だるま式に楽曲が拡散されていく。
Adoさんの「うっせぇわ」がサビ頭の唸り声で耳を惹きつけらえるように、どこでインパクトを出していくかは重要な部分なんだと思います。
TikTok発ヒットを目指す上ですべきことは?
──今後、TikTokからバイラルヒットを目指すアーティストが増えていくと思います。そういった人たちが新たにTikTokアカウント開設して、まずするべきことはありますか?宮城 「自分の楽曲をTikTokユーザーに使ってもらって広めたい」という目的であれば、その楽曲の使い方のサンプル例を自分で投稿するのがいいと思います。
例えば、イラストレーターに頼んで自分の楽曲の世界観を短尺のMVにしてもらっているアーティストもいます。
ボカロPの方々の中には、初心者のように「#曲作ってみた」とハッシュタグを付けて進捗を投稿している人もいますね。ユーザーは出来上がるまでの過程を見守って楽しんでいます。
──他にハッシュタグの活用例はありますか?
宮城 弾き語りのアーティストだったら「#歌うま」、ボカロPだったら「#オリジナル曲」がよく使われていますね。
トレンドのハッシュタグを付けているかどうかも評価の対象になっているので、その時々で行われている公式のハッシュタグチャレンジで合うものがあれば、付けてみるのもいいかもしれません。
なるべく検索されやすい状態にしておくべきですね。
──逆に、ユーザーの立場からアーティストを応援する方法についてはどうでしょうか?
宮城 実は、そのアーティストへのロイヤリティが高いファンが動画を上げて盛り上げるよりも、それ以外のユーザーが曲を取り上げて広がっていく方が、バイラルヒットに繋がる可能性が高いんですよね。
必ずしもロイヤリティが高いファン(フォロワー)の多さに寄らないという点が、他のプラットフォームと違う点です。
──他のSNSと異なり「音楽を聴く」ことが前提にあるTikTokは、アーティストにとっても楽曲に触れてもらいやすいプラットフォームだと思います。その上で、今後の音楽シーンに対する展望は何かありますか?
宮城 やはり、次から次へと新しいクリエイターやアーティストが出てきてバイラルヒットが生まれていくプラットフォームになってほしいですね。
かつてのニコニコ動画のように、TikTokでもアーティスト同士のコラボレーションがアプリ上で展開されていく事例が増えていくと思いますが、運営としてもそれを促進するようなことができれば良いなと。
その中で、クリエイターやアーティストが成長できる仕組みをつくって、クリエイター・アーティストの「登竜門」のような存在にTikTokがなれたら、より音楽シーンに貢献できるのではないかと思います。
──最近では小説など、音楽以外のヒットが生まれるサービスになりつつあります。
宮城 おっしゃる通り、TikTokに音楽は重要な要素ではありますが、それがすべてではありません。先日もTikTokで紹介された筒井康隆さんのSF小説『残像に口紅を』が、およそ30年前の本にもかかわらず動画投稿をきっかけにヒットするということがありました。
実はこうした流れは2020年頃から目立つようになって、実際にデータを見ても、TikTokが出てきて以降、若年層の本の購買率が上がっていると。 そういった背景もあって、TikTokでも昨年から各出版社さんや出版取次最大手の日本出版販売(日販)さんとの取り組みをスタートして、レビュー動画の投稿キャンペーンなども展開しています。
これはあくまでも一例ですが、今後も音楽とそれ以外の要素がコラボレーションしていく流れをつくっていきたいと考えています。
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