オスカー受賞『愛してるって言っておくね』レビュー 喪失と光を描く珠玉の12分

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オスカー受賞『愛してるって言っておくね』レビュー 喪失と光を描く珠玉の12分
オスカー受賞『愛してるって言っておくね』レビュー 喪失と光を描く珠玉の12分

画像はNetflix Trailers『If anything happens i love you Official trailer (HD) Movie (2020)』より

POPなポイントを3行で

  • 短編アニメ『愛してるって言っておくね』レビュー
  • アカデミー賞では短編アニメーション賞を受賞
  • サッカーボールとぬいぐるみ、秀逸な演出力
旬の映画を自宅で楽しめるNetflix。4月に開催された「第93回アカデミー賞」ではオリジナル作品16作がノミネート、うち7作品が入賞しました。

校内銃乱射事件で娘を亡くした夫婦を描いた短編アニメ『愛してるって言っておくね』もその1つで、同アカデミー賞では短編アニメーション賞を受賞。

監督はウィル・マコーマックさんとマイケル・ゴヴィアさん。

言葉では言い表せない悲しみと苦しみ、そしてわずかな救いを、12分という限られた時間で描き切った、詩のような作品です。

徐々に近づいていく「この家族に起きたこと」

テーブルを挟み、黙々と食事をする一組の夫婦。二人の間には一言の会話もありません。しかし、時折現れる彼らそれぞれの「影」は激しく罵り合っています。

ただの喧嘩中にしては彼らの表情はあまりにも沈鬱です。すっかり愛情が冷めきって関係が壊れてしまった夫婦なのか? と想像するも、それも違いそう。なぜなら彼らは「うんざり」ではなく「悲しみ」に支配されているように見えるからです。

いったいこの夫婦に何が起きたのでしょうか? その謎を解くのは、ぽつぽつと映し出される「家に子どものいる形跡」です。一部だけ塗りなおされた壁、サッカーボール、小さなシャツ。しかし家にいるのは夫婦と猫だけ。そう、彼らは子どもを亡くし悲しみに沈んでいたのでした。 そして、シーンは過去の回想へ。産まれたばかりの我が子を初めて抱っこした日や親子三人で楽しげにテーブルを囲むランチ、庭でサッカーをしていたら壁の塗装が剥がれてしまったこと、お誕生日会。

子どもの成長を追う流れで映し出されていく幸せな家族の思い出に、私たち観客は心温まりつつ、背筋が冷えていきます。なぜなら私たちはもう、この一家を何らかの悲劇が襲うことを知っているし、この子が成長するほど「その日」は近づいてくるからです。

やめて、やめて、そっちへ行っちゃダメだ……と見ている私たちがどんなに思っても、その子は歩いて行ってしまいます。その子が自分のスマホから両親へ「If anything happens I love you(愛してるって言っておくね)」とメッセージを送ったところで回想は終わるのでした。

サッカーボールとぬいぐるみ、秀逸な演出力

ほぼまったくセリフのない本作ですが、ストーリーも登場人物たちの心情もスーッと理解できて彼らに感情移入してしまうのは、おそらく演出が巧みだから。なかでも「家に子どものいる形跡」の演出が特に印象的でした。

形跡はサッカーで剥がれた壁以外はその子の持ち物で、青いシャツ、サッカーボール、レコード、ぬいぐるみなどが登場し、最後に壁に飾られたポニーテールの子どもの写真が映し出されます。

このラインナップが私には少し新鮮でした。というのも、一般的に息子を連想するもの(青いシャツ、サッカーボール)と娘を連想するもの(ぬいぐるみ、ポニーテール)がどちらも入っていたからです。 「亡くなった子どもの部屋」は映画でしばしば登場するシーンですが、息子の部屋なら男の子っぽいもの、娘なら女の子っぽいもので統一された演出をよく見かけます。

本作でそうしたステレオタイプな演出を採用しなかったのは、多様性への理解が重視される今の時代にそれをやったら(つくり手の感覚古っ…)と思われるからもあるでしょうが、この子を記号化しないためもあったんじゃないでしょうか。

ステレオタイプな演出はその人を記号、つまり特定のキャラにします。娘さんだけどサッカー好きで青いシャツを着るの?じゃあボーイッシュな子ね。え?別にスカートも履くしスマホケースはウサちゃん?それちょっとキャラブレしてない?でも、生身の人間ってそこまでキャラ統一してないです。

夫婦にとってこの子は他のどの子とも違う、たった一人の我が子。かけがえのない存在だったからこそ喪失が耐え難かったことを思えば、この子の演出には多様性への配慮以上の目的を感じました。

わずかな光がさすラスト

優しい雰囲気のイラストと控えめな旋律の音楽にも関わらず、夫婦が突きつけられた衝撃が伝わってくる本作。

到底受け止められない悲劇に見舞われた時、人はどうすればいいのでしょうか? 決して答えの出ないその問いに、本作のラストはわずかな光を与えています。

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