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連載 | #4 LGBT表現が生まれ、送り出される現場

「ゲームでマイノリティを描くこと」LGBTQ+の視座から見た、社会を変えるゲームの力

「ゲームでマイノリティを描くこと」LGBTQ+の視座から見た、社会を変えるゲームの力

『one night, hot springs』/画像はnpckcさんのSteamページより

POPなポイントを3行で

  • ゲームがマイノリティを描くことで変わる“前提”
  • トランスジェンダー女性を描いた「スプリング」シリーズ
  • 作者・npckcとアニメーション作家・ソーシキ博士が対談
自分のような人が出てくるゲームがない」──セクシュアルマイノリティの当事者であるゲームクリエイター・npckcさんは、今日世に出ているゲームの現状についてそう指摘する。

npckcさんはゲーム会社で日英間のローカライズ(ある言語から他言語への対応化)を担当しつつ、2017年より個人的にゲーム開発にも取り組んでいる。

ゲーム販売サイト「itch.io」では、トランスジェンダー女性(※生まれたときに男性に割り当てられた女性)のハル、ハルの幼稚園時代からの幼馴染・愛美、そして愛美の高校時代の友人・エリカが登場する『one night, hot springs』をはじめとするノベルゲーム3部作(通称・スプリングシリーズ)を発表している(外部リンク)。

『one night, hot springs』/画像はnpckcさんのSteamページより

日常に遍在する他者との会話や行動から、ごく一部の人にしか当てはまらない「普通」が存在すること、その普通に含まれない人の生活上の負担や閉塞感に気づかされ、ハッとする。この3部作は当事者である/ないに関わらず、多くのプレイヤーから反響を呼んだ。

あらゆる人に多くの気づきをもたらす3部作の反響は海外にも及び、米メディア「WIRED」には2作目『last day of spring』のレビュー記事が掲載された(外部リンク)。

近年よく目にするようになった「多様性」という言葉を誰もが実感できる形で実現するために、無数に存在する「個」を想像し、省みることは簡単ではないかもしれない。

しかしnpckcさんの「スプリング」シリーズは、至ってシンプルなノベルゲームという形で、その言葉にグッとリアリティを持たせる足がかりとなる。「プレイヤーへあらゆる可能性やイメージを示唆する」というゲームそのものの持つ面白さが、多様性という言葉の実態を引き出している。

海外インディーゲームを中心に、年間およそ1000本ものゲームをプレイするアニメーション作家・ソーシキ博士さんも、「スプリング」シリーズに衝撃と感銘を受けたプレイヤーの1人だ。

Nulbarich「LUCK」の全編アニメMVなどで知られるソーシキ博士さんは、自身のYouTubeチャンネル「なんてことなの。」(外部リンク)でゲームの実況動画を配信。
ソーシキ博士による『one night, hot springs』のゲーム実況
「スプリング」シリーズをプレイした動画では、登場人物たちに自身の気持ちを重ね合わせ、真剣に、慎重に選択肢を選んでいく姿勢が印象的だった。

今回はソーシキ博士さんから要望もあり、npckcさんとの対談が実現。「スプリング」シリーズについてはもちろん、自分を守りながら世に溢れるコンテンツを選び取って楽しむ方法など、多くの気づきにあふれた対談が展開されていった。

取材・文:ありた 編集:恩田雄多
※記事初出時、一部表記に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。

目次

「自分が主人公」になれるゲームを

──まずそもそものお話として、npckcさんが自らゲーム制作をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

npckc(以下、kc) 仕事でいろいろなゲームに携わる中で、自分のような(セクシュアルマイノリティの)キャラクターが登場する作品が少ないと感じていました。自分にできることはゲームづくりだったので「ないならつくろう!」と。ありがたいことに、いろいろな人にプレイしていただけて、おかげでなんとかつくり続けています。

──1作目『one night, hot springs』続く「スプリング」シリーズ3作は、セクシュアルマイノリティのキャラクターが登場し、プレイヤーは様々な当事者の立場を体験します。

kc やっぱりゲームだと、自分がメインキャラになれるじゃないですか。本を読んでも映画を見ても、完全に「登場人物=自分」とはならないし、どこか客観的な視点が入りますよね。ゲームだと、キャラクターの行動や選択をプレイヤー自らが決定することで、本当にその人自身の経験になると思うんです。

『one night, hot springs』は、どこにでもいる女性の経験をみんなに届けたいという気持ちでつくりました。トランスジェンダー女性として、自分の行動が何かを変えるという感覚を、ゲームを通じて体験してもらえたらと思います。

ソーシキ博士 話を聞いていて気になったんですが、kcさんが影響を受けたゲームって何かありますか?

kc ゲームボーイで出た『カエルの為に鐘は鳴る』ですね。

ソーシキ博士 あー! 面白いですよね!

kc (笑)。このゲームは自分が王子となって姫を救いに行く話なんですが、最後までやると「本当は救えなくてもよかった」とわかるところがすごく良くて。主人公の目的とは関係なしに、ほかの人はほかのことをやっているようなストーリーが大好きです。

自分でつくるゲームへの影響も大きいと思います。社会がこうしろと言っても、実際にそれが正しいかどうか自分で考えて、どんな結果をもたらすのか、想像するのが楽しいですね。
カエルの為に鐘は鳴る プレイ映像
ソーシキ博士 kcさんのゲームはノベルゲームが多いですが、ノベルゲームの中で影響を受けた作品はあります?

kc ノベルゲームも結構やっていますが、私はノンバイナリー(※1)のアロマンティック(※2)・アセクシュアル(※3)なので、例えば乙女ゲームの場合は好きな男性とくっついて、ギャルゲーの場合は好きな女性とくっつく、みたいなところが合わなくて……。
※1 ノンバイナリー(Xジェンダー):性自認が男性にも女性にも当てはまらないセクシュアリティ
※2 アロマンティック:他者に恋愛感情を抱かないセクシュアリティ
※3 アセクシュアル:他者に性的魅力や性的欲求を感じないセクシュアリティ


ソーシキ博士 異性愛がベースのものが多いですよね。

kc そうなんです。そして百合のゲームの場合は、男性がつくっているゲームが多くて。自ずと男性目線による女性同士の恋愛の話になっているので、自分にはあまりしっくりこなくて。ノベルゲームは好きですが、そういう決まりが多くてなかなか手が出ないですね。

ソーシキ博士 そうすると、ノベルゲームからの影響というよりも、あくまでも制作するタイトルに適したジャンルがノベルゲームだったと。

kc 自分に合わないノベルゲームをプレイして「違う!自分はこういうゲームをやりたい!」と思ってつくっているところもあります。

ソーシキ博士 なるほど、反面教師的な部分もあるんですね。ちょっとマニアックな話になるんですけど『Secret Little Heaven』はプレイされました?

kc やりました! 大好きです!

ソーシキ博士 そうだと思いました!(笑)。

ちょっと説明すると、『Secret Little Heaven』はトランスジェンダー女性の主人公が、90年代のインターネット文化の中でチャットを通して自分の好きなオタク文化などを語り合いながら、自分を見つけていく物語なんです。kcさんの「スプリング」シリーズにも、同じようにゲームとしての深さを感じていたのでスッキリしました。

kc 『Secret Little Heaven』は、本当に自分が主人公になった感覚でプレイできるんですよ。「自分の秘密を友達に話したい、でも言っていいのかどうか」と、普通の人が悩みそうなところで一緒に悩めて最高のゲームですよね。
「Secret Little Haven」をプレイ1。90年代のインターネットで女の子が自分自身を発見する物語
ソーシキ博士 ゲームは追体験しやすいメディアだと思うんですけども、kcさんのゲームの主人公は、他のゲームよりも圧倒的に自分に近い存在に感じられるのがすごいと思いました。

例えばkcさんの「スプリング」シリーズ以外のゲームでは、勇者や魔法少女といったファンタジックな主人公も登場します。それなのにとても身近な自分と同じような存在に感じられることに驚きました。キャラクターづくりにおける意識や工夫が気になります。

kc ゲームの主人公はかっこよくて憧れるキャラが多いのですが、それを目指さないことが大事だと思います。何でもできるキャラクターではなくて、現実的な人間としての悩み──例えば私自身が「大変だな」と思ったり「こういうのやりたいな」と感じたり──を込めてセリフを考えるようにしています。

ソーシキ博士 なるほど!キャラクターに沿ったセリフじゃなくて、たとえ勇者のようなキャラクターであっても、セリフはあくまでkcさんが言いそうなことなんですね。たしかに、日常生活で誰もが口にする言葉で構成されていると思いました。

『A HERO AND A GARDEN』/画像はnpckcさんのitchページより

kc 言うなれば「隣にいる勇者」ですね。

でもきっと、寄り添ってくれるプレイヤーの心も大事だと思います。ソーシキ博士さんが「スプリング」シリーズをプレイした配信を見たのですが、主人公の思考を自分と重ねて考えてくれていて。一歩踏み込んだプレイだからこそ、より多くのことを感じてくれているんだなと思いました。

ソーシキ博士 主人公たちには本当に身近にいるような親しみやすさ繊細な機微があって、とても他人事にできなかったんです。一般的なゲームだったら「フラグを立てる」という言葉に象徴されるように、次の展開を想像しながら選択すると思うんです。

でも「スプリング」シリーズの選択肢はすべて、(セクシュアル)マイノリティの人たちが日々直面している選択肢ばかりで。

『one night, hot springs』でトランスジェンダー女性のハルが、「友達から温泉に誘われて行くかどうか迷う」という選択肢を見た瞬間、ゲームだけどこれは実際に現実でも起こっていることなんだと感じました。同時に「自分自身も考えなきゃいけない」という思いが強くなっていったんです。

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