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「デビュー曲は全部ココナラで発注した」auroragalsが見せてくれたネットの遊び方

「デビュー曲は全部ココナラで発注した」auroragalsが見せてくれたネットの遊び方

auroragals(左:TORIME 右:玉手川箱太朗)

POPなポイントを3行で

  • ヒップホップユニット「auroragals」にインタビュー
  • すべてのクリエイティブをWebサービスで発注
  • アーティスト活動は趣味でもいい?
auroragalsをご存知だろうか? いや、存じ上げないはずだ。それでいい。帽子をかぶっている恰幅のいいのが玉手川箱太朗、メガネをかけている恰幅のいいのがTORIMEという。

彼らは2021年2月24日に、初作品となる楽曲「トウキョウオーロラシティ」をYouTubeやSpotifyで公開したばかりの二人組ユニットだ。ちなみに、独自ドメインのホームページこそあるが、阿部寛もびっくりするレベルで爆速表示される。

舌を巻く実力があるとか、人気アーティストにフックアップされたとか、YouTubeで爆発的にヒットしているとか、今のところはそういう類ではない。ただ、auroragalsと「トウキョウオーロラシティ」は、ネットの現在地なくしては出来上がらなかった、ちょっとふしぎな存在ではある。
auroragals - トウキョウオーロラシティ
実はこの歌詞も、楽曲も、ジャケットも、オンラインスキルマーケットの「ココナラ」で公募が行われ、制作されたものだという。仮歌入りのファーストデモが届いたのは、発注からわずか2日後のことだった。

そして、auroragalsには楽曲制作やステージングの経験は全くない。それでもアイデアが思いついて即実行さえすれば、自分だけのオリジナル曲を爆速で誰かが作ってくれて、世界に問えるようになったのだ。有名になれるかはさておき、「やってみたい」という気持ち(と幾ばくかのお金)さえあれば、スタートラインに立つことはできる。

ただ、auroragalsの場合は、さらに一歩先を往く環境があった。プロデューサー役を買って出たオトナたちが音楽畑の経験者で、エンジニア付きのプロ仕様のレコーディングスタジオで録音まで行われた。言わば、オトナの悪ノリだ。auroragalsは自らを「あらゆる技術と経験に支えられて成り立った道化な素人たち」と表現したが、それを面白がってもいる。

その様子に「音楽を作ってデビューする」という重みのようなものは、あまり感じられない。でも、そういう状態だから生まれるヘンなものがあるかもしれない。

ふたりに話を聞いてみると、自分も何かネットでやってみたくなるような気持ちが、久しぶりに湧いてきた

取材/文:長谷川賢人 写真:わいがちゃんよねや

奇跡的にラッパーっぽい写真が撮れてしまった

auroragalsの原型は、職場の同僚である玉手川箱太朗とTORIMEが「何か面白いことをやりたい」と、YouTubeへの投稿でもしようと温めていたユニット名だった。

玉手川箱太朗 名前にあまり意味はなくて、世の中できれいだと思うものが「オーロラ」と「ギャル」だったんでくっつけました。SEO的にも競合がいないし、良い名前かなって。

ふたりが出会って7年あまりが経つ。「もはや兄弟みたいな……いや、親族みたいな……もう三親等くらいな」関係性に育っている。

TORIME 僕らは実店舗のある仕事をしているのですが、店舗を作る際のルールなんかを箱太朗さんは平気でぶち壊していた。「店内の色味は統一すべし」というルールに、カウンターは木目調に、壁はレンガにしよう、とか。会社に黙ってやるときもあったり(笑)。

仕事の内容で認め合い、話してみると馬も合う。遊び仲間になって過ごすようになった。そして、昨年の12月末、ある忘年会が転機になった。

TORIME 中目黒のスナックで、僕らのプロデューサーになる人が、買ったばかりの180万円のLeicaを持ってきていて。写真にハマってたんですよね。それで、隣同士にいた僕らにカメラを向けたら、奇跡的にラッパーっぽい写真が撮れた。

玉手川箱太朗 その場にいたオトナに「実際にラッパーとして曲でも作ってみようよ!」と持ちかけられて、僕らも勢いでそれに乗っかったんです。歌詞に入れたらウケそうな単語とか、自分たちに関係のありそうな言葉、住んでる場所、目についたものなんかをノリで挙げていって。「これで本当に歌詞ができるならやってみろ」くらいの気持ちだったかも。

1時間後にプロデューサーはココナラで発注をかける。すると、今回の作詞・作曲を担当するフリーランス作曲家の津籠海里とマッチングし、2日後にはデモが上がってきた。さらに1ヶ月後にはレコーディングが決定。驚くようなスピードで、ノリが現実になっていく。

一流アーティストも使うスタジオに入る

年明け1月早々、auroragalsは呼ばれるまま都内某所のスタジオに来た。飲み会の日、“その場にいたオトナ”には某有名音楽レーベルで働く、その道のプロがいたのだ。プロデューサーも本業は経営者だが音楽に詳しい。何も知らぬはauroragalsのふたりだけである。

玉手川箱太朗 エンジニアさん……っていうんですか? それが2人付いてくれるスタジオで、大物アーティストも録音するようなところだったらしいです。素人なので全然その凄さはわかってないんですけど……。

TORIME でも実際、本当にプロってすげーなって感じました。プロデューサーからの指示で歌い方やリズムを調整したり、僕らの歌の「走り」もエンジニアの方がフィットさせてくれたり。「技術と経験に支えられて成り立った素人たち」という状態が自分でも面白くて。

借りてきた猫でも、慣れてくれば動き回れるようになる。触発されて、プロデューサーの導きも熱を帯びる。全編がラップで構成されている「トウキョウオーロラシティ」の魅力は、テイクを重ねるごとに磨かれていった。

ガキの頃夢見た 天下一武道会
目が覚め 気づいた 変化なんかしてない
隣で寝ていた 顔も知らない bitch
どうして?いつから?なった 大人に shit auroragals「トウキョウオーロラシティ」より

歌詞には、東京でくすぶっている冴えないヤツの哀しみがにじみ、もがいているようで何もしていない、怠惰とも取れる様子が散りばめられていく。

何してんだ? uh 何をしていたんだろう
何してんだ? uh 何をしていたんだろう
何してんだ? uh 何をしていたんだろう auroragals「トウキョウオーロラシティ」より

玉手川箱太朗は「もともと目立ちたがり屋な性格だけど、だからといって目立てるわけではない。学校だと、なんかの発表会で大ウケして雰囲気が変わるとか、タイミングで跳ねる時があるじゃないですか。そういうきっかけが、僕らオトナになってからはなかったんでしょうね。語るべき背景もないし、人生の荒波もなかったですけど」と笑った。

「本物のフェイク」だから作れる遊び

楽曲が仕上がるのと並行して、YouTubeチャンネルなどの配信まわりも開設。プロフィール文はauroragalsが自ら書いた。

ただ、歌詞のフレーズしかり、このプロフィール文しかり、ふたりの発想には枷のなさを感じさせる。プロデューサーが遊んでみたくなった気持ちが、わからないでもない。

東京・オーロラシティ出身。2000年同日同時刻、視力と引き換えに心肺停止から蘇生した男と、雷に打たれてリズムが走りだした男が、幽体離脱の中で奇跡的な出会いを果たす。
2020年12月から覚醒を開始し驚異的な早さでデビュー。トラックを生まず、リリックは綴らず、語るべき人生の荒波もなかった二人は本物のフェイク。
2021年1月に活動の集大成である「トウキョウオーロラシティ」をリリース。以降の活動も他人任せとなっております。 auroragalsのプロフィール

そしていざ、自称「本物のフェイク」がリリースした曲に、ふたりの知り合いは戸惑ったらしい。

TORIME ギャグなのか、ガチなのか、本当にわからなかったらしくて。僕らの素人っぷりに反して、外堀がプロでガチガチに固められているから、そのギャップが効いているんだと思います。

玉手川箱太朗 今後作るものがあるとしても、ガチでわからないものになったらいいなと。正直、しっかりした夢じゃないから、ここまでやれたんだと思う。「努力をして花開きたい!」じゃなくて、「何かラッキーがないかな」っていう宝くじ感覚で始められた。

そんな二人だから、今後のこともわかっていない。「どうなれば成功だと思いますか」と問うてみても、auroragalsは答えにくそうだった。共通して挙げてくれたのは「ファンがついたら」だと言う。 玉手川箱太朗 身内じゃなくて、自然とファンができたら成功かなって。目立ちたがり家だから、目立った証拠として。売れるとかは、別にいいかなぁ。

TORIME あ!FUJI ROCKに出られたら成功なんじゃないですか? 他人の力だけでFUJI ROCKまで出れたらすごいですよね!(笑)

ははは、と笑う場に、僕からの「FUJI ROCKなめんな!」というツッコミが入って、この日のインタビューは終わった。彼らには「音楽で食っていきたい」みたいなハングリーさもなければ、金銭的な成功のイメージもない。本当に「面白そうだから」音楽制作に乗っかってみているのがわかる。

ただ、そういうふうに音楽や、広く言えば芸術に関わる在り方があっても、確かにいいのだ。とにかくガチな人が多くて礼賛もされる世界だけれど、何も全てガチでなくたっていい。そうじゃなくても作品はつくれる。趣味といえば趣味。ガチといえばガチ。この淡いこそ、僕らは「アーティスト活動」と言い表したりできるのかもしれない。

インターネットをつかった新たなクリエイティブの仕組みや、誰でも使えるツールを活用して、採算度外視で作り出す。その「遊び」から生まれる作品の違和感を、また見てみたい。

インターネットの遊び方

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