会場はゲンロン カオス*ラウンジ 五反田アトリエ。カオス*ラウンジ主宰の美術家/批評家の黒瀬陽平さんによる単独キュレーションの展覧会となる。
キービジュアルに用いられているのは、福島県いわき市の古峯神社からみた薄磯海岸の写真だ。
一年に一度、開帳される「3月の壁」
参加作家は、関優花さん、宏美さん、藤城嘘さん、宮下サトシさん、弓指寛治さん、Houxo Queさん。それぞれのインスタレーションや絵画が展示されるほか、パフォーマンスも行われる。また、展覧会のタイトルにもなっている、東日本大震災を記憶するための壁画「3月の壁」の制作は秋山佑太さん、新井健さん、梅沢和木さん、藤城嘘さん、弓指寛治さん、和田唯奈さんによるもの。
壁画「3月の壁」は、2019年3月に五反田アトリエ内に制作。毎年3月に開帳するために、アトリエ内に「壁」として存在している。
黒瀬陽平さんは2020年という1年を「オリンピックを直前にひかえ、国を挙げて、震災慰霊を強制終了させようとする空気」だとステイトメントで評し、東京に「賽の河原」を出現させると宣言している。
2019年の3月、東日本大震災を記憶するために《3月の壁》を描いた。 記念館ではなく、友人を招く部屋のように。モニュメントではなく、部屋の片隅にある仏壇のように。時間とともに、ゆっくりと変化していきながら、それでもいつも近くにあって、関係している 「壁」として、アトリエ内に常設している。
今年もまた、3月がやってくる。
オリンピックを直前にひかえ、国を挙げて、震災慰霊を強制終了させようとする空気のなか、3月がやってくる。被災地では、防災緑地が次々と完成し、震災の痕跡、記憶が消されてゆく。東京も 東北も、それぞれがそれぞれのやり方で、震災の記憶を遠ざけ、消し去ろうとしている。
震災後ぼくたちは、いわき市の豊間地区、薄磯地区を定期的に訪れていた。
豊間と薄磯は、いわき市のなかでも津波被害が深刻だった場所で、震災後に防災緑地計画が立てられた。津波の被害にあった豊間中学校を、震災遺構として残すべきという議論があったが、住民感情に配慮するということで取り壊しになった。その跡地には広大な防災緑地が、まっさらで、匿名的な風景を描き出している。
薄磯海岸の東の端に、「賽の河原」と呼ばれる小さな砂浜があった。崖に囲まれた小さな海岸で、昔から水子供養の場所として、たくさんのお地蔵さんが祀られていた。賽の河原だから、お参りに来た人々は小さな石を積み上げ、積石をすることで供養していた。
ところが、今年に入ってこの賽の河原がなくなろうとしている。豊間薄磯地区の防災緑地が完成したことに加え、この賽の河原のエリアにも、再開発の手が伸びようとしている。
震災が記憶を薄れ、その痕跡が消え、慰霊が強制終了してしまうのは、東京だけの問題ではないようだ。
去年の「3月の壁」は、一枚の絵を、防潮堤に見立てた上で津波のモチーフを描いた。今年は、その壁のまわりに、痕跡すら追えなくなってしまった震災遺構や、失われゆく「賽の河原」のような、特定の場所の記憶を呼び込みたいと思う。 あるいは、石積みをするたびに獄卒に崩され続ける、成仏できないこどもたちの姿は、空疎なお祭 りムードのなかで開催されるオリンピックに参加する選手たちの姿と、重なって見えるのかもしれない。
ビジョンなき復興計画と、慰霊を終わらせるためのオリンピックにあらがって、東京に「賽の河原」を出現させる。いやむしろ、防災緑地やオリンピックによって、慰霊されず、供養されない、むき出しのままの、地獄としての賽の河原が現れるのかもしれない。 「展覧会について」黒瀬陽平
カオス*ラウンジのこれまで
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イベント情報
3月の壁 ──さいのかわら
- 会期
- 2020年3月11日(水) - 3月22日(日) 13:00-20:00 会期中無休
- 会場
- ゲンロン カオス*ラウンジ 五反田アトリエ / 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
- ウェブサイト
- http://chaosxlounge.com/
- 参加作家
- 関優花、宏美、藤城嘘、宮下サトシ、弓指寛治、Houxo Que
- 《3月の壁》制作
- 秋山佑太、新井健、梅沢和木、藤城嘘、弓指寛治、和田唯奈
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