ギャルはいつから“盛り”を始めたのか
ギャルを語る上で重要な概念は「変身」である。まず、ギャルとは変身願望の強い生き物である。例えば、クラスの目立たない女の子たちと自分たちの違いに意識的である。そして素の自分とは別物になることに喜びを感じる。つまりいかに“盛る”かは、ギャル精神の本丸である。『「盛り」の誕生』の著者である久保友香は、ギャルたちの変身を「シンデレラテクノロジー」と名付けた。重要なのは、テクノロジーが関与していること。久保は“盛り”(言葉としての登場は2000年過ぎ)の要素を3つに分けている。
この3つの要素の重なりが“盛り”なのだ。1. 通信 2. 画像加工 3. メイク
メイク(3)は、つけまつげにアイラインにカラコンが基本。これは今も変わらない。メイクの違いで言えば、アムラーの時代には、眉は極端に細くなり、急角度が付けられた。
肌の色の競争の激化は「ガングロ」「ヤマンバ」といったギャルの亜種を生み出していった。日焼けマシーンも、90年代に普及したメイクの延長線上にある技術装置だろう。これらの変身ツールなしにギャルは語れない。
画像加工(2)はどこから始まったか。“プリクラ”という言葉を生んだ最初のプリントシール機「プリント倶楽部」の登場は1995年。“プリ帳”が生まれるのはもう少しあとのことだが、当時は友だち同士で撮ったプリクラや彼氏と撮ったプリクラをシステム手帳に挟んだりしていた。 ギャルの写真との親和性は、その少し前の時代に確認できる。使い捨てカメラは、90年代半ばくらいには、“ギャルの三種の神器”のひとつと言われていた(ほか2つは、ポケベルとシステム手帳)。
ここで重要なのは、“盛り”のテクノロジーは、単なる変身のためにあるのではなく、同時にコミュニケーションツールでもあったことだ。例えば、ガングロ、ヤマンバといったメイクは、モテを意識せず仲間意識を優先して生まれたメイクだ。メイクは、仲間とそれ以外で差異を示すものでもあったのだ。
ポケベルの独自の利用、通信が仲間だけで通用する暗号化したのも、仲間内の輪を強化する作用があった。そして、プリクラや写真の交換、アルバム化(プリ帳)は「所属するコミュニティーのビジュアル化」(前出『「盛り」の誕生』参照)、つまりSNSの前身のような役割を果たしていたという。
“変身”や“盛り”への想いと友だち同士のつながり。この2つが結びついたことで、ギャルは単なる流行ではなく、長く続く“コミュニティー”=部族へと変化したのだ。
アムラーの登場とギャル史における大事件
安室奈美恵のような薄眉、ロン毛、茶髪、そして厚底ブーツというスタイルの女の子たちをアムラーと呼ぶようになったのは、1996年頃のこと。シャネルを愛用する人々を「シャネラー」と呼んでいたのが先だった。当時の安室奈美恵はギャルたちのクイーンだったが、彼女も「変身」を実体化したような存在だった。14、5歳くらいのまだ幼さが目立っていた時代からテレビに出ていた彼女が、みるみる安室奈美恵 with SUPER MONKEY'Sの一員としてブレイクし、さらにMax Matsuura(松浦勝人)、小室哲哉といった有名プロデューサーに見いだされてソロシンガーとして成功を収めていく。
その安室奈美恵の最大の変身は、1997年10月の妊娠・結婚発表だ。弱冠20歳の彼女が結婚、さらに妊娠の発表として伝えられた。トップスターから妻、そしてママへという大転身。
この“変身”こそが、マスメディアや大人たち以上に、当時10代だったギャルたちに大きな衝撃を与えたギャル30年史における最大級の事件だった。以降、日本でも“できちゃった結婚”の件数が急増することになる。
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第2回:ハードボイルド化した彼女たち
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AIKA
セクシー女優
1990年8月25日生まれ。ティーパワーズ所属
Twitter:https://twitter.com/AIKA50
Instagram:https://www.instagram.com/aika_honmono/
速水健朗
編集者・ライター
主な著書に映画やドラマに描かれた東京を論じる『東京β 更新し続ける都市の物語』(筑摩書房)や『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。『バンド臨終図巻』(文春文庫)などがある。佐藤大、大山顕らと結成する団地団にも在籍中。現在、1980年代のバブル時代の文化やドラマについての書籍を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/gotanda6
Blog:https://hayamiz.hatenablog.com/
連載
女性における日本特異の文化として、時代の流行とも絡みながら平成の30年間に独自の変遷をたどってきた「ギャル」。 振り返れば常にギャルがいた平成から令和を迎え、その元年が終わろうとするいま。2020年という新たな10年間を前に、1990年代/2000年代/2010年代と時代を彩ってきたギャルを振り返る。 書き手は1973年に生まれ『ケータイ小説的。』(2008年)で浜崎あゆみらギャル文化の象徴とケータイ小説との密接な関係に切り込んだライターの速水健朗。 象徴的なアイテム・制服をまとい各年代のギャルを演じるモデルは、ギャル女優として活躍するセクシー女優のAIKAと今井夏帆というギャル文化をリアルタイムで経験してきた2人。 当時のギャルを取り巻く環境とその中で彼女たちが武装化、部族化、ハードボイルド化していったのか。それぞれが経験してきた(または未体験の)ギャル文化に思いを馳せてほしい。
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