ギャルの聖地・渋谷を舞台にした変遷
初期ギャル文化を代表するリゾートファッションブランド・アルバローザ(ALBA ROSA)は、SHIBUYA109に入っていたショップ・ミージェーン(me Jane)で扱われていたもの。SHIBUYA109は、ギャルの聖地としては知られていた(2階が援助交際の待ち合わせスポットとして有名だったが、実際には言うほど多くなかったという実感)が、ここで実際にギャルファッションが売られるようになるのは少しあと、1995年のリニューアル以降だ。
それ以前は、むしろ安いギャル服は、池袋が中心だったと言われている。エゴイスト(EGOIST)など、のちにカリスマ店員で知られるようになるギャルショップが109に入り始めると、誰もがお金をかけずにギャルファッションに様変わりできるギャルの民主化時代がやってくる。
渋谷も、富裕層子弟のたまり場から民主化され、誰もが関東圏内からやってくる場所になった。そして、同時に渋谷は情報発信地としての役割も担っていた。当時は、学校が終わると高校生たちが渋谷に集まってきた。その中の目立つ子たちのスナップを載せる雑誌が登場し始める。『東京ストリートニュース!』(1994年創刊)、『egg』(1995年創刊)、『Cawaii!』(1996年創刊)といった雑誌たちだ。
かつてコミュニティー内でやり取りされたファッションなどのトレンドは、多少の時間差を経て全国に拡散していった。まだこの時代には、地方と東京には、情報伝達の速度に大きな格差があった。それは、のちのSNS時代になるとほぼ解消されていくことになる。 渋谷を根城にするサークルの活動、いわゆる“ギャルサー”が盛んになるのは1997、8年頃。クラブを借りての活動が行われるようになる。この頃には、関東近郊の高校生たちが集まるようになった。
例えば、渋谷駅の地下のスペースなどで夕方に練習するギャルたちの姿がよく見られたが、これは大宮から新宿を結んでいた埼京線が、1996年に渋谷(同時期に恵比寿まで)延伸したことも影響していたと思われる。
電子部族化するコギャルたち
前出の渋カジ族やチーマー、カラーギャングといった男の子の流行は、その後、時代の変化とともに埋もれていったが、ギャルは廃れなかった。その文化は現在まで続いている。なぜギャルは生き残ったのか。それはギャルが流行・風俗である以上に、コミュニティーとしての性質が強いからではないだろうか。ギャルを語る上で、ツールやガジェットとの関わりは欠かせない。ギャルが登場した90年代は、アナログ主体だった社会インフラがデジタルに切り替わりつつある時代だった。
『族の系譜学』の著者・難波功士は、1993年時点の女子高生・三種の神器「バレッタ、ミサンガ(プロミスリング)、ルーズソックス」がのちの90年代半ばになるにつれ「ポケベル、システム手帳、使い捨てカメラ」などに変化し、同年代後半にはケータイ・プリクラ・ティーンズ誌といったメディアやグッズなどに変わっていったと指摘する。
使い捨てカメラがプリクラに変わった。まさにアナログからデジタルへという変化。ビジネスマンのために整備されつつあった情報環境をギャルたちがハックし、自分たちのメディアとして利用したのだ。
その代表的な例がポケベルだ。歴史は思いのほか古く、サービス開始は1969年。70年代の刑事ドラマで、初期のポケットベルが使われる場面をよく見かけた。出先の刑事のベルが鳴り、近くの公衆電話から刑事課の番号に折り返す。「事件か? 現場は? 急行する!」といった具合だ。 90年代半ばまでのポケベルは数字しか送れなかったが、それでも暗号みたいにメッセージをつくって送っていた。11が「あ」で22が「き」といった換字表をもとにメッセージを打つのだ。
携帯、スマホ時代の現代からは想像がつかないだろうが、みんな公衆電話に並んでポケベルのメッセージを発していた。なんでそんな面倒くさいことを? いや、単に端末同士の直接通信ができなかった時代なのだ。
ギャル時代にポケベルが流行ったいまのアラフォー世代には、いちいち換字表を見ずとも数列を文章化したり、その逆を脳内変換できたりする強者たちがいる。ポケベルは、「724106(ナニシテル)」といった具合に宛字式暗号を送るツールとしても使われていた。
もちろん、ギャルの仲間内でしか通じないような複雑な暗号文に発展。ちなみに1994年頃以降、カタカナのメッセージなども送れるようになるので、暗号的なポケベル通信の時代は、ほんの数年間だったことになる。
1995年からサービスが始まったデジタル方式の移動体通信のPHSは、この発展形として普及。ポケベル、PHSという2つのメディアの切り替え時期に高校生だった世代は、モバイル通信のデジタル化にまっさきに対応した世代だろう。
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AIKA
セクシー女優
1990年8月25日生まれ。ティーパワーズ所属
Twitter:https://twitter.com/AIKA50
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速水健朗
編集者・ライター
主な著書に映画やドラマに描かれた東京を論じる『東京β 更新し続ける都市の物語』(筑摩書房)や『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。『バンド臨終図巻』(文春文庫)などがある。佐藤大、大山顕らと結成する団地団にも在籍中。現在、1980年代のバブル時代の文化やドラマについての書籍を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/gotanda6
Blog:https://hayamiz.hatenablog.com/
連載
女性における日本特異の文化として、時代の流行とも絡みながら平成の30年間に独自の変遷をたどってきた「ギャル」。 振り返れば常にギャルがいた平成から令和を迎え、その元年が終わろうとするいま。2020年という新たな10年間を前に、1990年代/2000年代/2010年代と時代を彩ってきたギャルを振り返る。 書き手は1973年に生まれ『ケータイ小説的。』(2008年)で浜崎あゆみらギャル文化の象徴とケータイ小説との密接な関係に切り込んだライターの速水健朗。 象徴的なアイテム・制服をまとい各年代のギャルを演じるモデルは、ギャル女優として活躍するセクシー女優のAIKAと今井夏帆というギャル文化をリアルタイムで経験してきた2人。 当時のギャルを取り巻く環境とその中で彼女たちが武装化、部族化、ハードボイルド化していったのか。それぞれが経験してきた(または未体験の)ギャル文化に思いを馳せてほしい。
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