連載 | #4 ワンダーフェスティバル 2019[夏]

『FGO』ギルガメッシュの鎧をフルメタルでガレキ化 とある職人の野望

『FGO』ギルガメッシュの鎧をフルメタルでガレキ化 とある職人の野望
『FGO』ギルガメッシュの鎧をフルメタルでガレキ化 とある職人の野望

POPなポイントを3行で

  • ワンダーフェスティバル 2019[夏]
  • 金属鋳造のギルガメッシュ All Metal Body
  • ワンフェスに新しいジャンルを
7月28日に開催された「ワンダーフェスティバル2019[夏]」。

今年も数多くの個人ディーラーがガレージキットと呼ばれる個人制作の立体物を販売した。その多くはシリコンを使った型にレジンを流し込み、硬化させて原型を複製したものである。

いわば、個人でも楽に扱うことができる樹脂を使ったキットだ。

しかし、会場にはそれ以外の素材を用いた展示物を置いていたディーラーもある。

そのうちのひとつであるディーラー「BARIS Collection」が使っている素材は金属

それも扱いが比較的簡単なホワイトメタルを使った小物などではなく、鋳造を駆使した大物である。特に目を引いたのはギルガメッシュ All Metal Body。『Fate/Grand Order』(FGO)に登場するギルガメッシュの鎧を全金属で再現したアイテムである。

なかなか個人では扱えない微妙なテーパー(先細りになっていること)のかかった磨きの美しい部品をつくったのは、意外なことを生業にしているある男の野心だった。

取材・文:しげる 編集:吉谷篤樹/新見直

きっかけは「通電すると光る塗料」

BARIS Collectionを運営する吉澤氏は、バイクの部品をオーダーメイドで製作する工房を運営しているという経歴の持ち主だ。対象となるバイクはビンテージな車両が多く、製造する部品も基本的に一点物。部品は基本的に型に溶けた金属を流してつくる鋳物であり、その製造プロセスは独学で学んだという。

それに加え、バイク方面の本業で取り扱うことになったのが、電気を流すと発光する性質を持つ塗料だ。

その塗料はバイクや自動車の車体に塗ると通電に応じて光るのが売りだったのだが、車両全体に施工すると費用が高額になってしまう。

吉澤 「車一台だと総額で50〜60万円くらいになっちゃうんですよ。だからもっと小さなもの、例えばアクセサリーくらいの大きさの、小さな剣とかを光らせられないかと思ったんです。それなら安くやれるので。そこで、まずは素材になる剣を鋳造しようと」

アクセサリーのような小さな剣を光らせたりするところからスタートすれば、安い値段で面白い塗料であることをアピールできるのではないかと吉澤氏は考えた。

いわば塗料がきっかけで、バイクの部品以外のものを鋳造することになったわけである。

剣の柄の部分

刃は単体で鋳造されている

デジタル技術と鋳物の職人技を駆使 鋳造ガレキ

アクセサリー類は専門の職人である中山さんと設計し、元ネタとなるFGOのことは隅々まで研究した。

中山さんは吉澤さんと共にBARIS Collectionを立ち上げたコアメンバーで、アクセサリーの修理、磨きを本業としており、ティファニーで勤務していた程のベテラン職人だ。

ギルガメッシュの鎧など、基本的に設計は全てデジタル、3Dモデリングを駆使して進める。この3Dデータを元にして、NCフライス(材料を加工する数値制御の工作機械)で木型を製作。

ギルガメッシュの鎧のモデリングデータ

鋳物を成形するためには溶かした金属を流し込む型が必要である。多くの場合は原型を砂で固めてつくった砂型が使われるが、この砂型は一度部品を成形したらその都度型を破壊して部品を取り出さなくてはならない。

NCフライスを使ってつくった木型の場合は、およそ1000~2000回程度の使用に耐えられる。さらに部分的に型を修理しながら使うこともできるため、砂型と比較すれば効率はいい。

こちらは剣の木型

吉澤 「基本は中山と制作したのですが、データをつくるのにも専門の方をお呼びして、分担して作業を進めました。原型はほぼフルデジタルです。一応サークルのメンバーとしてワンフェスに参加したのは私と中山の2人ですが、実際にはもっとずっと多い人数が関わっているんです」

BARIS Collection吉澤さん(左)と中山さん(右)

また、表面に模様などが入っていない簡単な形状のパーツは、3Dプリンターでの樹脂製出力品を直接砂型に埋めて型をつくり、そこに金属を流すことで立体化した。鋳物自体は古くからある技術だが、3Dモデリングを使うことでプラモデルのようにパーツを組み合わせて立体物をつくることが可能になったのである。

砂型で鋳造する過程

さらに、吉澤氏らの工房の立地もプラスに転じている。

工房があるのは埼玉の越谷であり、すぐ近所には鋳物の街として知られる川口がある。吉澤氏は、型に金属を流す重要な行程をその川口の職人たちに依頼。型の設計と、成形後の研磨などを自分の工房でまかなう形としている。

砂型で鋳造した鎧の一部

吉澤 「砂型はこちらで作成して、それを川口に持っていって、湯(溶かした金属を指す)だけはそこで流してもらっています。そのあとの研磨以降の工程は、またうちに持って帰ってきて進めます。できれば外注になる工程は減らしたいですし、材料の仕入れも加工も型づくりも自社で賄えるのはうちの強みです」

丁寧に磨かれた鎧の一部

いわば川口の地場産業である鋳物の伝統を受け継いでいるのが、BARIS Collectionの商品なのだ。

夢は「プラモのようにつくれる金属のキット」

とはいえ、吉澤氏にはディーラーとしてまだまだやりたいことがある。

目下の課題は、ギルガメッシュの鎧を型に、中子を入れた状態で再製作することだ。鋳物の型は基本的に鯛焼きの型のようなものであり、上下二面の型の隙間に金属を流し込んで成形する。

そのため、内部が中空になるものを成形するときには中子という芯の部分をあらかじめ型の内部に配置しておかなくてはならないのだ。

今回展示した鎧はその中子が用意されておらず、手や脚の部品は内部が埋まった状態となっている。この内部の金属を取り除き、本当の鎧のように中空の形状にするのが目標だ。

中子が用意されておらず、金属で中まで埋まっているため相当な重量

吉澤 「モチーフになったキャラクターは金属の鎧をつけてるんだから、それが本当に金属でできてたらそれはそれで面白いと思うんですよね。でも『フィギュアを金属にする』っていう加工を受け付けている業者ってワンフェス周辺にはそこまでいないと思います。それをやれば、全体の技術もさらに上がるんじゃないかと」

さらにいえば、その先には「まるでプラモデルのように扱うことのできる、金属製のキット」をつくるという目標がある。ニッパーやのこぎりなどを使い、枠となるランナーにくっついて成形された金属製の部品を切り取って組み立てられる。

吉澤 「今のワンフェスはレジンが主流になっているけれど、そこに金属を持ってくることで新しいジャンルをつくり出していけるんじゃないかと思ってます」

そんなキットをつくることが、吉澤氏の次なる目標だ。

もちろんワンフェスはレジンのキットが主流だが、(大量生産を目的としない組立モデルである)ガレージキットには素材の制限などはない。むしろ一般流通には乗せられないような、規格外のキットを売ることができるのがこのイベントの強みである。

その意味で、ワンフェスには高精度な全金属製の組み立て式キットというピーキーな存在が成立する余地があるのだ。ガレージキットというジャンルにはまだまだ未開拓な場所が残されている

BARIS Collectionの商品と技術は、改めてそう思わせてくれるアイテムなのである。

Fateに登場するアーサー・ペンドラゴンの剣。ディテールにまで精巧につくられ、研磨の技術も光る

なお、BARIS Collectionでは、金属化させたい品物の受注や試作の相談等の依頼も受け付けており、データの製作や現物支給から金属化も可能とのこと。

重厚感ある金属の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

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しげる

Writer

1987年岐阜県生まれ。プラモデル、アメリカや日本のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や元軍人やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。好きな女優はメアリー・エリザベス・ウィンステッドとエミリー・ヴァンキャンプです。
https://twitter.com/gerusea
http://gerusea.hatenablog.com/

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ワンダーフェスティバル 2019[夏]

トイやフィギュアの祭典「ワンダーフェスティバル2019[夏]」に取材に行ってきました! コスプレはもちろん、個人ディーラーの注目ブースや、立体のトレンドなどを独自の視点で取材しています。

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