ゲームコミュニティの新たなプレイヤー
さて、ここからようやくe-Sportsの話だ。ゲーム実況者が牽引するゲームカルチャーのコミュニティーにおいて、新しいプレイヤーが登場し始めている。
ご存知、プロゲーマーの存在だ。
冒頭でちらっと触れたように、e-Sportsおよびプロゲーマーはそのゲームの継続性に貢献しうるため、コミュニティーにとって重要な存在になり得るだろう。
それは『フォートナイト』も同様で、ワールドカップの決勝戦に向けて、e-Sportsシーンも盛り上がりを見せている。その盛り上がりに比例して、2018年後半くらいからYouTubeにおいて、“上手さ”で知名度を上げ始めているプレイヤーが増えている。
その代表格がリズアートさんというプロゲーマーだろう。彼は、『フォートナイト』の国内競技シーンで多大な影響力を誇るCrazyRaccoonというプロチームに所属し、大会にも出場している。
同時期には、同じくCrazyRaccoonのメンバーが台頭。特に、YouTubeのチャンネル登録者数24万人を達成したうゅりるさんの存在は大きい。さらには今年のワールドカップ出場を決めたCrazyRaccoonのベルさんとスカーレットさんのベルスカコンビも、徐々に人気を獲得しつつある。
CrazyRaccoonが名実ともに国内『フォートナイト』においては影響力のあるプロチームだが、ワールドカップの開催にあわせて、草分け的に実力派のプレイヤーも現れている。
中でも、やはりソロモードにて決勝進出を決めた2人は要注目だ。TAKAMURAさん(現CrazyRaccoon。出場決定時にはねこくんさんというゲーム実況者のクランに所属していた)と、ゲーム実況者・ボドカさんのクラン・Riddle所属のまうふぃんさんだ。ちなみにクランとは、「チーム」の別称であり、主にFPSゲームで使用される。
ワールドカップ出場を勝ち取る以前より、彼らはコミュニティーにおいてある程度の知名度があった。彼らがどうやってファンを獲得したかというと、それはもう言わずもがなYouTubeだ。
そして、もともとTAKAMURAさんが所属していたクランは、『フォートナイト』をきっかけにゲーム実況者となって知名度を獲得したねこくんさんのクランである。ねこくんさんもまた「チート疑われた人のキル集シリーズ」をYouTubeに投稿して人気を獲得した、国内フォートナイトシーンにおいては“上手さ”で動画が伸びた先駆けだったように思う。
e-Sportsがコミュニティの外に広がる理由
そんなゲームカルチャーとYouTubeの関係性において、さらにひとつ面白い展開が生まれ始めている。何より私自身、この動きを知って、「ポップカルチャーにとって“競技”とは何か?」という問題意識を強く意識した。
例えば、ゲーム実況者の総長ウララさんが以下のような動画を投稿した。
あるいは、リズアートさんがESL(エレクトロニック・スポーツ・リーグ)の世界大会に出場した際に、その結果を受けてユーザーからのバッシングが起きていたことに対するゲーム実況者・ボドカさんによる動画投稿。
YouTubeにおいて、人間関係をコンテンツにすることはよくあることだが、e-SportsやYouTubeでのコミュニティがより盛り上がっていけば、選手やチームを応援する、あるいはディスるなど、「e-Sportsを観戦すること」がコンテンツになる時代が来るかもしれない。少なくとも、その片鱗は生まれている。
YouTubeという2019年のポップカルチャーの中心地には、ゲームに限らず、いわゆるYouTuberによる企画系や音楽のMVなど幅広いコンテンツが日々投稿されている。その中で、例えば、急上昇や関連動画としてe-Sportsの動画が上がることがあれば、それはより幅広い層へ、つまり現状のe-Sportsの外側へと届きうる。
そしてそれは、YouTubeというプラットフォームとそこで活躍するクリエイターという生態系が存在するからこそ生まれる新しいカルチャーだと思っている。
e-Sportsという言葉が流行る前から、これまでもコミュニティーベースで熱量のあるゲーム大会は数多く開催されてきた。
これまでの競技シーンに敬意を表しながら、2019年に改めてe-Sportsという新しい冠をつけるなら、その新しさとは何か?
それは、例えば、2019年2月に開催されたゲーム『レインボーシックス シージ』の世界大会で、野良連合 vs FNATICの一戦がYouTubeの急上昇に上がってくる…みたいな、インターネットによって私たちの熱量が外へと届く可能性がある、ということではないか。
は?っていうか、昨日の野良連合とfnaticとの試合のアーカイブが65万再生でYouTube全体の急上昇ランク2位なのばちくそやばくない…???
— ニゲロオリゴ糖@ゴミカスエイム🌈 (@revym92rg) February 16, 2019
【タイムシフト】レインボーシックス Six Invitational 2019 Day4 野良連合が初の決勝ステージ!どこまで進めるか? https://t.co/lBXXRdscB3 @YouTubeより pic.twitter.com/fzDhHfca8P
ゲームはもうオタクだけのものじゃない
ゲームカルチャーの拡張性は、漫画やアニメ、音楽などのほかカルチャーへの波及、YouTubeという巨大プラットフォームとの共犯関係へとつながっている、という話をしてきた。そういった変化によって、あるいは別の要因も絡みつつも、またひとつ変化していることがある。
ゲームカルチャーのユーザー層だ。
その象徴的な動きも、『フォートナイト』で起こっている。
それは、2019年にフォートナイトのコミュニティーにダルビッシュ有さんと三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのELLYさんが現れたことだ。 海外では、サッカー選手のネイマールさんが、ラッパーのドレイクさんが、あるいは前述のDJ・マシュメロさんが『フォートナイト』のプレイヤーとして有名だ。
彼らの参戦は、いわゆる「有名人とYouTube」の関係性においても面白い流れだ。
2017年の草なぎ剛さんのYouTuberデビューをきっかけにYouTubeと芸能人の関係性にある種の雪解けが起きている。ダルビッシュ有さんは自身のYouTubeチャンネルはあるものの、およそ1年更新されていない。
にもかかわらず実況者による『フォートナイト』のライブ配信に突如現れ、突発的に一緒に『フォートナイト』をプレイするという神ムーブをかましている(もちろんプレイの一部始終はYouTubeで配信されている)。
いつも通りの何の変哲も無い『フォートナイト』のゲーム実況に、プロの野球選手というか、メジャーリーガーとして現役で活躍しているスーパースター・ダルビッシュ有さんが降臨する、という事件。「そんなフランクでいいのか!?」というシンプルな衝撃がある。
ただ、個人的に感動したことは、3月に行なわれたESLによる『フォートナイト』の大会を観戦するゲーム実況者・ボドカさんとねこくんの配信に、突如ELLYさんが現れたことだ。
真夜中のインターネットの片隅とも言えるようなYouTubeでの配信に、芸能人がフランクに現れるという“事件”。「そんなフランクでいいのか!?」というシンプルな衝撃(2回目)。
「彼も芸能人である前に人間だ」という意見もあるだろうけど、いやいやそれにしたって、とリスナー視点としてはやはり驚きと嬉しさが大きい。
草なぎ剛さんやそれに続くカジサックさんが新しい生存戦略的にYouTubeを選択しているのに対して、本田翼さんをはじめ、趣味の延長としてよりフランクにYouTubeを活用する動きが生まれ始めている。
もちろん、いずれの場合も、マーケティングの延長であることも否定しない。むしろ「YouTubeならいいよね」という判断があったはずだ。
芸能人×YouTubeという動きを加速させるような注目すべき“事件”であったし、それはポップカルチャーの中心地として絶大な人気を誇るYouTubeと、新しいカルチャーやスターが生まれるかもしれないという期待に満ちたe-Sportsという両輪の求心力にほかならない。
同時に、ダルビッシュ有さんやELLYさんといった非オタクが当たり前のようにゲームをやっているということ。それは、ゲーマー=オタクという図式はもうとっくの昔に終わっていることを意味する。もっというと、“ゲーム好き”の意味合いすらも変わっていると思う。
eSportsが持つべき“哲学”とは?
ここまで過去→現在と、『フォートナイト』を中心にe-Sportsについて語ってきたが、ここからは未来について触れていこうと思う。ここまで語ってきたことは、e-Sportsが、ゲームの競技性を軸として、YouTubeや音楽、映像といったほかのカルチャーシーンにもコミュニティーが広がっている新しいポップカルチャーだということ。“次世代のスポーツ”という見せ方は、e-Sportsの一側面でしかない。
e-Sportsが今までにない新しいカルチャーという視点では、例えば、YouTubeにおける大会のミラーリングの是非がたびたび議論になるが、すべてのYouTubeのクリエイターにミラーリングを容認してほしい。これまで話してきたように、もしコミュニティーでの盛り上がりを重視するならば(そして、当面はそれが最優先事項だと思うが)、重要な対応だと思う。
ユーザーが自分の好きなゲーム実況者あるいはプロゲーマーの配信で大会を楽しむというカルチャーはこれまでにない新しい方法だ。
e-Sportsにおけるコミュニケーションの話で言うと、スポンサーとユーザーのコミュニケーション方法もまだまだ議論の余地があると思っている。例えば、e-Sportsチームにスポンサードしている企業は所属チームのプロゲーマーのライブ配信中にスパチャを送るのはどうだろう?
1万円を5回。それだけで「は? やばいやついるwww」「○○の公式じゃんwww」「さすがすぎる(笑)」みたいなユーザーのリアクションが生まれ、ライブ配信を見ていたユーザーはスポンサー企業のファンになるはずだ。
そして、それをプロゲーマーが動画化すれば、さらに多くのユーザーがそのスポンサー企業のスパチャムーブを知ることになる(=スポンサーの認知拡大)。
こちらはリズアートさんが突如高額スパチャされたときの動画。ほかの動画と比べても高い再生回数になっている。
YouTubeにおいて、ドッキリ企画はもはや鉄板だ。
上記のような話はあくまでも一例だが、動画時代のコミュニケーションについて議論をより発展させるのもまた面白いし、e-Sportsだからこそ生まれるアイデアや企画、サービスがあるはずだ。
e-Sportsを新しいスポーツの1ジャンルとして捉えるよりは、ジャンルを越境して広がり続けるゲームにおいて、「一番上手いやつ」を決めるというe-Sportsの“哲学”を推していきたい。
つまり、ゲームをはじめとして、アニメや音楽、YouTubeなどを巻き込み、内包したポップカルチャーというコミュニティの中で一番上手いやつ──“ポップカルチャーの王”──に、ゲームの競技性に魅せられたゲーマーはなってほしい(トッププレイヤーは“◯◯の王”という愛称で呼ばれることもあり、そういったカルチャーへのリスペクトも込めて)。
そして、究極的には、大会における光や音、トロフィー授与などの演出1つひとつが、勝ち進む者たちを称えるものであってほしい。
それこそが、e-Sportsという新たなカルチャーが目指すべき哲学であると考えている。
そして、そんな“ポップカルチャーの王”を決めるための、『フォートナイト』のW杯の決勝が7月26日から28日(日)にかけて開催される。新時代のヒーローが誕生する瞬間を、みんなで観戦し、応援し、目撃しよう!
『フォートナイト』を取り巻くトピックス
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