北米のアニメーション業界は、どのように制作をフルデジタル化したか?

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北米のアニメーション業界は、どのように制作をフルデジタル化したか?
北米のアニメーション業界は、どのように制作をフルデジタル化したか?

POPなポイントを3行で

  • 日本のアニメ業界に残るアナログ作業
  • 北米と日本のシステムの違いは?
  • アニメーションをデジタル化する際に超えなければいけない壁
アメリカでは、多くの2Dアニメーション制作がデジタル化される中、日本のアニメ業界では、今でも紙とペンを使ったアナログな作業が多く残っています。アナログな制作手法により、素晴らしいクオリティのアニメがたくさん産まれている一方で、アナログならではの苦労も存在しています。

「日本のアニメ制作は、北米とは全く違う。独自のシステムで動いている。だから日本では、アニメ制作のデジタル化がなかなか進まない。」

そう思われることは、少なくありません。

しかし、北米のスタジオも日本のスタジオと同じように、成長する市場のニーズに対応するために紙からデジタルに移行し、苦労を重ねてきた歴史があります。それはちょうど、日本のスタジオが現在直面している課題と似たものでした。

需要の増加と変化に合わせて生産性の向上が求められる中で、北米のスタジオはそれまでのやり方を変えることで生き延びてきました。

私は、Toon Boom Animation Inc.の遠山といいます。弊社は、デジタルアニメーション制作用のソフトウェアを開発しており、本社が所在するカナダでは25年の歴史があります。弊社サイトに記載しているような、アメリカやカナダのトップスタジオに利用していただきながら情報交換をしてきた私たちならではの視点で、今回は北米アニメーションのデジタル化に関するお話をご紹介したいと思います。

※本記事の内容は、Toon Boom本社のMarie-Eve Chartrandが来日した際に日本国内で行った講演内容をもとに制作されました

アニメ市場に対する需要は、世界的に急成長している

ここ数年、アニメーションコンテンツに対する需要は、世界中で増加しています。その一つの要因が、オンライン動画配信プラットフォームの登場です。

NetflixやHulu、Amazon Prime VideoやYouTube Premiumなど、大きな資本を持つ企業が、オリジナルコンテンツを持ち、インターネット上で有料配信することに力を入れています。 また、特に北米では、これらの配信プラットフォームに対抗する形で、従来のテレビ局によるオリジナルコンテンツへの投資も積極的になっています。

これは、良質なコンテンツを制作するスキルと経験のある日本のアニメスタジオにとってはビジネスチャンスと言えます。しかし、これらのプラットフォームと仕事をする場合、時に従来のテレビとは異なる要件を満たす必要があります。例えば全話数を一度に納品しなくてはならなかったり、従来よりもうんと短い納期で制作してほしい、と言われる場合もあります。

また、より高い解像度のディスプレイが世にあふれ、インターネット回線が高速になる中、コンテンツの4K&8K対応もいよいよ本格化してきました。

こういった、これまで求められてこなかった要求に回答するためのひとつの手段が、アニメ制作のフルデジタル化です。

日本とアメリカのワークフローの違い

冒頭で触れたように、アニメ制作のデジタル化の話をする際によく耳にするのが「日本とアメリカではアニメ制作のワークフロー(手順)が違うから、デジタル化は難しい」ということです。

確かに、日本・北米双方のワークフローに細かな違いはあります。しかし、共通している部分も多くあります。 これは、Toon Boomの過去の調査から図解した一般的な日本のワークフローです。

スタジオや作品によって作り方は千差万別だという前提がある上で、しかし大きな流れを図解すると、この図に近い手順になるはずです。 一方、こちらは一般的なアメリカでのワークフローです。ご覧の通り、大きな流れとしては日本とさほど変わりません。

若干の違いは、レイアウトから仕上げに至るまでの流れで、日本の方がややそれぞれの工程で重ねる確認のプロセスが多くなるようです。

つまり、もし直面する需要の変化に対応する手段として制作のフルデジタル化を選択する場合、ワークフローの若干の変更は必要になるものの、それはやってやれないほど巨大な壁ではないのではないかと、弊社では考えています。

決して簡単にできるような変革ではありませんが、北米のスタジオにもできたことが日本では出来ない、ということはないはずです。

ふた通りの「デジタル化」を理解して、正しい方法を選択する

「デジタル化をやってやれないことはないけど、デジタル化すると逆に作品のクオリティが落ちるのでは?」

こんな風に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

私たちは、アニメ制作ソフトを開発する者として常に、最も大切なのは作品のクオリティだと考えています。これまでにアニメーターさんたちが培ってきた技術を、最大限生かしてもらいたいと願っています。その上で、作業がより生産的になったり、これまでとは違う表現の仕方を実現したり、変化する需要に応えるオプションを提供するのが、テクノロジーの役割です。

このように考える私たちは、デジタル化にチャレンジされるスタジオさんやクリエイターさんには、正しい方法を選択していただきたいと考えています。正しい手法の選択が、高いクオリティの作品制作に繋がるからです。 実は「(2Dアニメーションの)デジタル化」と言っても、様々なやり方があります。現在北米で主流のものをふたつ挙げると、ひとつが「ペーパーレスアニメーション」で、もうひとつが「カットアウトアニメーション」です。

ペーパーレスは、現在日本の多くのスタジオが紙で行なっていることをそのままデジタル化(ペーパーレス化)するような方法です。例えばキャラクターであれば、全てのキャラクターの動きを毎回、全コマ分描くことになります。

一方のカットアウトは、まず最初にパーツ分けされたキャラクターを作っておき、そのキャラクターのパーツをキーフレームで動かす手法です。はじめに時間をかけてリグ入りのキャラクターを作っておき、様々なカットにそのキャラクターを使うという考え方をします。

それぞれの手法のメリットを理解することが大切です。

ペーパーレス & カットアウトそれぞれのメリット

ペーパーレスにしてもカットアウトにしても、フルデジタル化である事には変わりはありません。そこでまず、両者に共通するフルデジタル化のメリットを挙げます。

● 作画中にいつでも動きの確認(プレビュー)ができるので、崩れに気付きやすい
● 描いてしまった線の取り消しや修正、描画の再利用ができるので、修正のハードルが下がる = 質にこだわることができる
● 作業画面を拡大できるので、細部にこだわれる
● ベクター線であれば、4Kや8Kにも対応できる = 質の向上につながる
● 紙を回収し、スキャンし、スキャン画像からゴミ取りするという工程が不要になり、無駄な作業が減る
● 大量の紙を整理したり、保存しておく必要がなくなり、スタジオ経営の負担が軽くなる


そして、デジタル化手法の中でも特に、ペーパーレス手法でデジタル化をすることのメリットは、次のような点です。


● これまで紙と鉛筆で行なってきた方法と同じワークフローで制作できるので、導入へのハードルが低い
● 動作間を全て描くので、キャラクターのポーズやスタイルを決める際の自由度が高い


逆にカットアウトのメリットは、次のような点です。

● 最初に作ったパーツをずっと使えるので、長編シリーズになる程制作期間を短縮できる
● 「動画」「クリーンアップ」「仕上げ」という工程が不要なので、キャラクターを動かすためにかかる時間が短い


また、ペーパーレスとカットアウトそれぞれの特徴として、一般的にペーパーレスは作画に時間がかかり、カットアウトは準備段階に時間がかかります。 総合すると、ペーパーレスアニメーションはユニークなレイアウトや動作を多用するような作品に向いていると言え、一方のカットアウトアニメーションは、同じキャラクターが何度も登場するようなアニメや長編シリーズに向いていると言えます。

ちなみに北米のスタジオでは、この二つの手法をハイブリッドした制作を行うことも少なくありません。

北米のスタジオは、アニメ制作のデジタル化をどのように乗り越えたか?

新しいワークフローをこれまでの業務に取り入れることは、容易ではありません。

これは世界共通ですが、きっと確立したやり方がある日本では他の国以上にデジタル化を難しくする要因があるはずです。

しかし、デジタル化に舵を切るのであれば、段階的に取り組まなくてはなりません。これは大なり小なり、北米のスタジオも同じでした。彼らも元々は紙に絵を描いて動かしていて、大勢の紙に慣れたアニメーターと共に変革に挑んだのです。

アニメーションのデジタル化をする際に、乗り越えなければいけない点がいくつかあります。

● 新しい技術の習得や、トレーニングに当てる時間やリソースがないこと
● 機材に投資するための費用がないこと
● 新しい手法で作品を企画し、実際に納品しなければならないことと、そこにリスクがあること
● 同じ手法を取らない他のスタジオとの協業する際に、支障が生じる可能性があること
● 現在の手法に慣れた現場のアニメーターや監督、プロデューサーが賛成しないこと

この課題を解決するために北米のスタジオがとってきた方法は、次のようなものでした。

1. 段階を踏んで、新技術を導入する

まずはこれまでの手法とデジタル手法とを混ぜ、例えば絵コンテはデジタルで、作画の80%は従来通り紙で、残りの20%はデジタルで、というような形で制作することがあるそうです。少しずつ実験を重ねながら、リスクを最小限に抑えてデジタル化に向かうのは、地味ながら着実な方法です。

2. 紙での作業に慣れたスタジオとは、分業して協業する

もし発注先が紙での作業を好む場合、自社ではデジタルで絵コンテとレイアウトを作り、原画から動画までは相手が紙で行う、というような住み分けを行う場合があるそうです。綺麗に分業できるポイントを探ることが大切です。

3. トレーニングは、まずは興味がある人から

デジタル導入に際しては、まずはスタジオ内で興味を持つ方だけを中心にトレーニングをするのが良いでしょう。新しい技術に対して抵抗のある方は必ずいますが、仲間や同僚が成功しているのを見て、その仲間からやり方を教えてもらうのが、最もスムーズな移行の方法です。

4. ソフトウェアメーカーと組む

気軽にソフト開発メーカーに相談し、実現したい手法に対して必要な機能が全て含まれているソフトを間違いなく導入できるようにするのもポイントです。もちろん、Toon Boomにもお気軽にご相談ください。

まとめ

多くの場合、これまでのやり方を急に変革するというのは、歴史ある業界にとって簡単なことではありません。あくまで段階的に、ステップを踏むことが大切となるでしょう。

もちろん、デジタル化をしないというのもひとつの選択肢です。

ただ、ニーズの変化への回答として、フルデジタルのアニメ制作に挑戦するのであれば、どこかで橋を渡らなければいけませんし、渡るなら少しでも早い方が良いでしょう。

市場のニーズの変化は「いつか」ではなく「今」訪れています
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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:2874)

アニメーターの負担はデジタル化したところでアナログとほぼ変わらない。
下手したら増える。
そして、ほとんどのアニメーターは社員ではなくフリーもしくは作品ごとの拘束、
デジタル機器の導入、ソフトの習熟、スタジオごとのフォーマットなど
アニメーター個人にコストが全振りされてるような状態で、デジタル化を無理にすすめてもさらにアニメーターの負担が増えるだけです。
目先の技術の前に雇用環境の改善が必須です。