愛で差別化を図る『冴えない彼女の育てかた♭』
いまやアニメとデザインを語る上で外せない存在である両者。続いては、仕事の中でどのような点を意識してデザインしているのか、実際のプロダクトを取り上げながら、込められた意図に迫っていく。バルコロニーが手がけた仕事として染谷さんから紹介されたのは、アニメ『冴えない彼女の育てかた♭』のBlu-ray。 作品としては、複数のヒロインが登場するラブコメディでありつつも、同人ゲームの制作をテーマとした物語だ。
そこでバルコロニーでは、ヒロインの持ち物をモチーフにしたアイテムや劇中に登場する制作物を詰め込んだパッケージを目指した。携帯電話やPC、ライトノベルなど、それらを通じてアニメ内のシーンを追体験できる、まさにコアなファン向けのアイテムといえる。 染谷さんによれば、担当したバルコロニーのデザイナー・加藤祐太さんは、「本編を知っている人にしかわからないような小ネタを仕込むことで、より作品を楽しんでもらえるように工夫した」という。
高額商品であるBlu-rayを購入するほどの熱狂的なファンを楽しませる小ネタの数々は、現在も特設サイトで確認することができる(外部リンク)。 「明らかに作品に愛がないとできない」と感心した野口さんに対して、染谷さんが語った言葉が印象的だった。
「草野さんをはじめ、めちゃくちゃグラフィックデザインが上手い人たちが上の世代にいる中で、後発である僕らがどこで戦うか? デザイン以外の密度も高めていかないと、生存戦略がとれない(笑)」(染谷さん)
陳腐化しないデザインを求めた『文豪ストレイドッグス』
作品への愛について「僕にはまったく愛がないので(笑)」と冗談交じりに語った草野さんだが、「それをあえて言うことは野暮かなと。“好きなら知ってるよね”というスタンスで、わかりやすく説明することは意図的に避けている」らしい。そんな草野さんから紹介されたのは、横浜を舞台に異能力者たちの戦いを描いた『文豪ストレイドッグス』のBlu-rayだ。 制作にあたって、マフィアと探偵事務所の対立構造を抽象化。正義とは表裏一体という考えのもと、パッケージを白と黒のバイカラーで仕上げた。
一見すると極めてシンプルなケースには、疑似エンボス加工を施している。光が当たることで、「太宰治」や「羅生門」といった、作中でメタファーとなった作家や文学の一節が見え隠れ。草野さん自身「野暮かな」とも感じたものの、最低限のサービスとして取り入れたという。 ディスクの盤面にもこだわりを見せる。パッケージと同様のデザインを盤面にプリントすることも多いが、草野さんは文字情報以外はなるべく入れないように意識した。 理由として、草野さんは「価値の継続性の高さ」を挙げた。
「比較的高額なパッケージ商品は、購入すること自体に価値がある。僕もそうですけど、買った自分に価値を感じている面がある。買ったからには手元に残るわけで、それを10年後や20年後に見たときに『あの頃はこういう感じだったな』と、ひとつの時代のモノとして陳腐化させたくない。購入した時点で、デザインも含めて価値を信用されたと思っているから」(草野さん)
だからこそ「デザインとしても普遍性が高くなるように、入れる要素は厳選した」という。
デザインのトレンドを追うことの是非
デザイナーによって考え方は千差万別。デザインにおけるトレンドの取捨選択について、草野さんは「トレンドをリサーチするなということではないし、時代に合わせた見え方を意識するのは必要」と前置きした上で、デザインそのものの意味が薄まる可能性を指摘した。 「多くの人がトレンドに追従すると、コピーが量産されてデザインが縮小再生産化されてしまう。すると、デザイン自体の意味が薄まっていく。『スタイルがおしゃれだから』のような、曖昧なリソースをもとにしたイメージが構築されていくのは、デザインされる側である(アニメ)作品にとっては何ら関係ない」(草野さん)作品がデザインのトレンドとともに語られるのを避けるために「僕としては線一本でも意味を持たせたい」とその意図を説明した。
「線一本でも意味を持たせる」と聞くと、相当なバランス感覚が必要にも思える。野口さんがそんな質問を投げかけるが、草野さんによると「技術的な問題ではない」という。
「重要なのは、作品からデザインのコンセプトをきちんと選び取れるか。例えば、僕と染谷さんをはじめ、多くのデザイナーとの間に、技術的な差はほとんどない。あるのは考え方の違い」(草野さん)
すると染谷さんが、考え方の違いを「肉の提供の仕方」に置き換えて続けた。
「僕と草野さんとの違いで言うと、ここに上質な肉があった場合、僕はわりと調味料を付けたり、適当な大きさに切って盛り付けたりするタイプ。でも草野さんは、『これが一番うまい!』と塩だけ振って出す。正直、どっちも美味しいし、どっちも食べたくなるときがある。気分に応じて、どうやって肉を切り出すかということ」(染谷さん) セミナーで紹介されたケースに限って言えば、染谷さんがエンタメ性を盛っていくのに対して、草野さんは最低限のエンタメ性を担保する以外は要素を削ぎ落とした。
どちらかが正解というわけではなく、それは作品の性質はもちろん、プロデューサーや監督など、関わるスタッフとの話し合いの中で最適解が導き出される。
グラフィックデザイナーとしての仕事の広がり
セミナーは終盤、グラフィックデザイナーの仕事としての広がりに言及。草野さんと染谷さんはともに、映像商品のパッケージ以外に、アニメ本編のテロップやサブタイトルのデザインも担当している。 野口さんからパッケージと本編での関わり方における違いを問われると、2人ともそこに明確な違いはないと答えた。染谷さんは「本編であれWebサイトであれパッケージであれ、使われ方に応じて適したデザインを考えるという点は同じ」と語る。さらに、いままでも区別されてきたわけではないという。
「文字を扱うことに限定しなければ、デザインの領域は広がる。そうなると、デザインという言葉自体があやふやになってきて、それはそれで困りもの。ただし、草野さんもそうですけど、監督やプロデューサーと話し合いながらという意味では、グラフィックデザイナーというよりも、誰かと誰かの間に入ることで新たな会話やアイデアが生まれる、もはや人としての役割」(染谷さん)
そして「デザイナーだから、とは考えない方が健康的な気がする」と付け加え、さらに続ける。
「グラフィック以外でも、例えばプロダクトデザイナーでもアニメが好きな人は多いと思う。『輪廻のラグランジェ』では、ロボットのデザインを日産のデザイナーが担当していた。そういう意味では、デザイナーだからというわけでなく、自身の職種や持っているスキルを使って、コンテンツに対して何ができるのか? と考えることが重要かもしれない」(染谷さん) デザインというスキルを持った人間として、いかに作品に関わるか。染谷さんによれば「デザインを用いるにしても、どうしたら作品が面白くなるか考えることで、いろいろな活かし方がある」という。
極論として例に挙げたのがWebサイト。仮にクライアントの目的が「バズりたい」であれば「それなら公道を裸で走りましょう」と、直接的なデザイン以外の提案もあり得るのだとか。
草野さんも、「僕自身アニメが好きで、『ロボット魂』を買ったり課金したりしている。それでも、つくり手側になると、ファンの真意はわからない。だから、監督やプロデューサーが伝えたいことを届けるデザインとして、ベストな形を提案する」と語った。 ここで野口さんから「なぜ、実際に仕事の領域が広がっていったのか」と質問。
草野さんは自身の経験を踏まえながら「発注する側のリテラシーの問題」と答えた。
「最初は会社のサイトに住所しか載せてなかった。電話番号も作品事例もない、事務所の看板すら出てない、それでもアニメのエンドロールをチェックして、わざわざ自分のところに依頼してくれる。よっぼど意識が高くないとできない」(草野さん)
デザインに対する意識やリテラシーの高い人たちとの関わりが、結果としてアニメにおける仕事の広がりにつながっているようだった。
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イベント情報
AnimeJapan 2018
- 期間 2018年3月22日(木)〜25日(日)
- 場所 東京ビッグサイト
- 総来場者数 152,331人
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