プラモデルとしての写真作品
村上 からぱたさんは『月刊モデルグラフィックス』っていう雑誌の編集をしてたんだよね。これは「こうやって模型をつくるとおもしろいよ」ということを紹介する雑誌なんですね。ひょっとするとこの写真作品は、模型誌の編集者の感覚で、「こうやって写真を撮るとおもしろいよ」っていうプレゼンテーションなんじゃないかなと思うと、からぱたさんの言いたいことの真意が見えてくる。からぱた それは大いにありますね。あと、旅してきた場所の中に、圧倒されてしまうような風景があって、でもその場所を画像検索してもロクな写真がない。じゃあ俺がもっといいのを撮ってやろう、みたいな気持ちもありました。
村上 わかるけど、でもそれはフリーで公開されている写真だからでしょ。『NATIONAL GEOGRAPHIC』だったら、もっといい写真載ってるわけじゃん。
からぱた でも『NATIONAL GEOGRAPHIC』のカメラマンは、綿密な準備をしてから最高の1枚を撮るために現地に出向くわけじゃないですか。そりゃいいもの撮れますよ。
村上 からぱたさんのロジックって、わざと低い方を見てるよね。低い方を見てロクでもないと感じて、それよりいいものをつくろうっていうのはある種の……B級グルメをおいしく食べる、みたいなメソッドを用いてるでしょ。それは、高い素材をつかっておいしいものをつくるっていう方法には興味がないってこと?
からぱた いちばんいいカメラを使って、本当にいい場所に出向いて、シャッターチャンスを待つ時間があれば、そりゃいい写真が撮れるでしょ、って思ってる部分はあります。
村上 だとしたら、からぱたさんがやろうとしてることって「数千円のプラモデルをかっこよく作ったら『ヤフオク!』で70万円の値がついた俺すごくない?」みたいな話に聞こえます。
からぱた 結構近いと思います。今言われて、近いかもって感じました。
村上 それって海洋堂スピリットに似てますね。海洋堂も昔、外国のプラモデルを当時、数千円で買ってきて、それを組み立てて塗装して、30万円くらいで売っていたという。1970年代ですよ。そこで彼らは「世の中こんなもんか! だったら俺たちすごくない?」って思ったというね。
それで大量につくろうとして、海洋堂館長の宮脇修さんが噴霧器で一気に塗装してたら、シンナー吸いすぎてメニエル病になっちゃったと伝記に書いてました。そういうところから、革新的なものが出てくるわけです。 からぱた 僕の場合は「俺ちょっとすごくない?」っていうより、「みんなも撮れるよ」って言いたいんです。僕が見てもうまいなと思う中高生もいるし、仲間内でもすごいなってヤツはいるんですよね。人に見てもらいたいっていう気持ちをみんな持ってるはずなのに、みんなそれぞれの現状に留まっている。もっと人に見てもらったり、作品が売買される状況をつくりたいです。
さらに今の写真シーンでは、フォトアートの文脈として「いま、こういうのがイケてます」っていうのを示すメディアと、そんなアート文脈には全然関心がないガジェットオタクためのメディアの2種類しかない。その中間領域で「こうしたらもっとおもしろいよ」とわかりやすい例示をしたいんです。
簡単に言うと、権威と評論ありきで成立しているフォトアートのシーンも、犬とか小さいサボテンとかラテアートの写真をInstagramとかに上げて、「いいね!」がついて喜んでるヤツらもみんな「よくないね!」って思ってます(笑)。
村上 俺、サボテンすごい好きなんだけど。あと、犬も好き。
からぱた ……そうじゃなくて、100円ショップとかで売ってるなんか小さくてかわいいみたいなサボテンとか、町で見かけた猫を撮ったような写真を「かわいい」って言われて喜んでるヤツとか……。
村上 猫ってさ、Web動画の対象物として、マーケティング的にも最強だよ。
からぱた それはそうなんですけど、動画を作ってマーケティングまで考えているならいいんですよ。それが写真だと、あんたの写真がかわいいんじゃなくて、それ猫がかわいいだけだからねってなります。
村上 なるほどね。
からぱた 今、にゃるほどねって言いましたね(笑)。
村上 言ってないよ!……まあ、あなたの伸びしろは信じています。僕もからぱたさんと同じ年齢の時には、状況論ばっかりで、世の中に文句をたれてました。
でも作品をつくっていくと、世の中のこのあたりにターゲットがあって、自分はそこに向かって作品をつくっているのではないか、という確信めいたものができてくる。だからこの先に向けて、作品をつくっていってほしいです。
そして、からぱたさんの射程にある、状況への憤りもわかりました。つまり、彫刻業界に対してプラモデル業界は長らく日陰商売だったけど、今となってはオタクカルチャーの追い風もあり、それが反転していると。彫刻業界っていうのはコンテクストも野心もなかったから、発展することがなかったわけで、それを写真業界に重ねてるわけですね。
いまだに美大には彫刻科がありますが、感度のいい学生はフィギュアの造型師になったり、プロダクトデザイン方面に就職しています。でも写真の場合は、ツールが安価になったからセミプロみたいな人がたくさんいると。
そんな俺達の足回りの良さと知識、そこそこのクオリティ、それをつくりだせるコストパフォーマンスのよさを使えば、おもしろいものができる。それをみんなが楽しんでいるうちに、1つのジャンルとして成立させられるんじゃないかってことだよね。
からぱた まさにその通りで、ジャンルというか1つのレイヤーをつくることができればと思ってます。そのためにまずは自分がその先行事例になって、ミドルレンジでものをつくることのおもしろさや可能性を世に問うていきたいですね。
この記事どう思う?
0件のコメント