村上隆×からぱた フォトアートとInstagramの間にある写真の未来

原動力はシーンへの憤りと音楽へのコンプレックス

からぱた なるほど。じゃあそもそもの経緯から話します。これらの作品は旅行期間中に撮っていたんですけど、その半ばくらいからカメラも三脚も重くて、全部捨てたいくらいな気持ちになっていました。あまりに重くて大変でムカついたんで、この苦労を売りたいって思ったんです。

それ以前に、僕はもともと音楽に対して、すごくコンプレックスを持ってました。音楽の世界ではDTMを使って、部屋の中にこもって曲をつくって売ることができるわけです。そこで成果が出せれば、レーベルから声がかかってメジャーデビューするチャンスもある。

でも写真には身近な人に売るためのプラットフォームがない。もし画像データを100円で買えたとしても、僕だったら買おうとは思わない。

お金にしたいと思ったら写真集をつくるしかないと思って、旅の途中からずっと東京の印刷所の料金表を眺めてたんです。写真を売ったり買ったりすることをもっとみんなができれば、色んな人が作品を発表するチャンスが増えるはず。であれば、先陣を切って自分がやってみようと考えました。

さらに言うと、こうして僕がやったことは、メインストリームのフォトアートの世界からはどうせ無視されます。写真業界の色んな話を聞くと、評論家が「これはいい写真だ」と評価を決めて、展示をやらせ、その作家がギャラリーに所属して、というモデルがあるんですが、それでも作家として写真を撮って食べていける人はほとんどいない。

それはあまり健康だと思えなかった。そこにも一石投じたいと思っています。実際に写真に詳しい人からアドバイスをもらって、編集者の後藤繁雄さんに「THE PHOTO / BOOKS HUB, TOKYO 2014」っていうイベントで写真集を渡しに行ったんですが、当然のようにリアクションがないですよね(笑)。まあ僕が後藤繁雄って人を知らなかったのも問題ですけれど……。

Kaikai Zingaroに展示されている、同展のメインビジュアル

村上 後藤さん知らなかったの? それは嘘だよ!

からぱた いや、マジなんですよ。

村上 それは信じられないなあ。でもあえて真に受けて説明しましょう。後藤繁雄さんっていうのは、編集者で、かつ写真を見る目は本物だと自他ともに認めてる方です。

たしかに90年代〜ゼロ年代の写真シーンを牽引した人でもあるんだけど、端的に言うと僕は「現代美術の事で間違った事、あれこれコメントすな!」って思ってるんですね。

からぱた なんでそこまで思うんですか?

村上 後藤さんの一言、「写真って大きくプリントしたら、現代美術として成立する」と言い切ったんです。それはある対談だったと思いますが、なんか2人の間では、そういう現代美術なんて気にしないよな、的な、斜に構えて話すのがかっこいい、みたいなサブカル的ロジックで話していました。

でもそれを写真や現代美術に憧れてる若者が真に受けてしまっては大間違いを起こすし、現代美術への偏見を助長しかねません。

からぱた なるほどなるほど。

村上 からぱたさんがいけないのは、ある意味、そういうサブカル的なかっこつけしいな感じで、後藤繁雄を知らない、とうそぶいて「村上隆のギャラリーで展示をさせてもらうことになりました!」なんて言って写真集渡すとこです。姑息な気がする。

それでも尚、からぱたさんに共感したのは、シーンの裾野を広げたい思いから過激なことを発言して、逃げ場をなくすことで自分が高みに進む可能性を高める、という気持ちでやってるところでした。作品を見る前から、そこに共感していたわけ。

からぱた 恐縮です。でも本当に作品全然見てないですよね(笑)。

村上 でも旅行中に撮ってた写真、SNSで見てましたよ。ウユニ塩湖で空が写り込んでるやつとか、うるさく言うだけあってオモシロイ構図とか探しだす打率高いなって思った。見た人が自分でストーリーを感じられるようなものって、コレクティブなものになってゆくんです。それが何度も反芻できるとなお良い。

からぱた それは見る側のひとりよがりなストーリーでもいいんですか? 「作者の眼差し」みたいなものはなくてもいいんですかね?

村上 「作者の眼差し」って何? わかんない。それ、いわゆる日本写真界のテーマみたいなもの? ストーリーが大事ですよ。僕は若い頃、藤原新也さんの作品が好きでした。作品を見てる素人の目線に近いのにどこかずれてる彼の眼差しと、彼の語る作品のストーリーに魅了されたんですね。

彼は本をいくつも出していて、そこで写真についていちいち説明してるわけ。すると、なんということのない風景に込められた思いが理解できて「おお、すごい!」ってなる。

からぱたさんがTwitterにあげてた写真には、テキストがついてたでしょう。そこに藤原新也さんや沢木耕太郎さんのような旅に出たくても出れない人間への癒やしを創造できる雰囲気を感じて、いいなって。

からぱた それで言うと、僕はもともと編集者なので、いわゆる写真家の視点で写真を撮ってないところはあると思います。例えば、雑誌でボリビアの特集をやるとしたら、こんな写真がほしいなっていう気持ちで撮ってる部分が正直ありますね。

村上 あと2階のBar Zingaroにも大きくプリントした作品があるけど、僕はあれも好きですね。

オープニングレセプションが行われたBar zingaroに展示されている、ポスター作品

からぱた あれは作品というより、インクジェットでプリントしたポスターですよ。なので出力が粗いっちゃ粗いです。

村上 そうなの? やっぱり僕は現代美術家なので、インパクトがあって好きだなあ。

からぱた それはさっきの話じゃないですけれど、単純に大きいからじゃないですか(笑)!

村上 あ、ほんとだ。さっきの批判と同じ文脈か! まずいまずい! でも、小さいとよく見えないよ、老人には。

【次のページ】プラモデルとしての写真作品
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