【ゆよゆっぺインタビュー】米ビルボードにその名を刻んだ青年がシンガーソングライターとして3度目のデビューを果たした話

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「ゆとり教育」に納得がいかなかった

ゆよゆっぺアー写

「でも『アナル解放拳』っていう曲出してた人が『Hope』を出すとは……数ヶ月も隔ててないわけですよね? 振れ幅がすごすぎ」

僕 何処 白 黒
君に会いたくて
また涙流すだけなんだろう
心の奥底 閉ざした思い出
届かない声が響きあってく

ずっと続く幸せだと
思っていた私は
アナタという光消えて
長い夜が来るの… 『Hope』歌詞より一部抜粋

「二面性はありますね。所属アーティストだけど、僕はゆっぺくんを理解するまでにすごい時間かかりましたから」

「わかります。芯からお調子者かというと、そうでもない」

「お母さんも、ゆっぺさんの二面性についてもお話してました」

知らない人に話かける社交性や、物怖じしない目立ちたがりな気質は今までお話した通りですけど、それでいて、すごく思慮深い一面もありました。小説を読むのが好きで、よく図書館に通っていましたし、作文コンクールで受賞したこともありました。一番印象的だったのは、高校の卒業旅行で沖縄に行った感想文で、みんな『楽しかった』という内容なのに、一人だけ戦時中の沖縄での出来事に思いを馳せて書いていて、親の欲目もありますけど、少し物の見方が違うのかもしれないと思いました。ゆっぺ母

「めちゃくちゃ恥ずかしいけど、オカン良い感じに言ってくれたんだなー(笑)。当時、考えはひん曲がってましたね」

「それはなぜですか?」

「不良とか問題児ではなかったけど、今考えると周りからすごいズレてたと思います。音楽で生きていくって小さい頃から決めてたし、特に高校では夜中までバンドの練習とかライブばかりだったから、授業もまともに受けてなかった。ガンガン2点とか取って、卒業のために先生に土下座したこともあれば、『おまえはもう学校にいなくていい』と言われたこともありました」

「学校は楽しくなかったですか? それは、アルバムのテーマにもなってる『ゆとり教育』への不満も関係していますか?」

※ゆとり教育:2002年度から施行された、「詰め込み教育」への反動として学習量を減らして自主的な思考力を養う方針に重点を置いた教育。学力低下が問題視され、2008年頃からは「脱ゆとり」へ転換していった

「学校は嫌いでした。小中高って大きくなるにつれて、ゆとり教育に理不尽さを感じるようになりました。根は真面目なので、はじめは先生の言っていることを真に受けるけど、一人ひとり言っていることが違うんですよ。例えば、給食に七味を持ってきて使ってる先生がいて、『あ、七味もってきていいんだ』って思ってたら、他の先生から『勝手なことするな』ってめっちゃ怒られたんです」

「……七味、ですか??」

「そう、七味! どうでもいいことだと思いますよね? でも、そのどうでもいいことで叱られて、しかも理由がわからない。

ほかにも、中学で『選択音楽』っていう新しい教科ができた時にバンドを組んで、文化祭の時、俺らの代で初めてバンドをやらせてもらったんです。出し物は座って見るのが基本だったんですけど、ライブが盛り上がりすぎてみんなが前に集まってきちゃって、先生たちが力づくで戻したんですね。授業の成果としてちゃんと盛り上げたのにもかかわらず、その時もやっぱり怒られて。

ルールとしては理解できる。でも、なぜそうしなきゃいけないのか?を説明してくれないから、納得できないことも増えて。自分には理由が必要だったんですよ。なぜ名前順に並ぶのか、なぜみんな同じ格好でなければいけないのか。厳しい校則がある一方で、校長先生は『個性を伸ばしなさい、自主性を尊重しなさい』って全校集会では言いますよね。そのギャップが、わからなかったんです」

アルバムを完成させた今ならわかる

「実は、お母さんも、教員としてではなく、ゆっぺさんの母として、『ゆとり教育』について答えてくれました」

ゆとり教育には悪い面もあるかもしれないけれど、おおらかな教育であったと思います。私たち夫婦も教員ですが、勉強についてとやかく言ってきませんでしたから。人と競争して勝つだけではない、他人を思いやる気持ちのゆとりを育む方針でなければ、息子は今のようにはなっていないと思います。反抗期らしい反抗期もなく、家族や友達に気を使える人間でしたし、早くから音楽を探求することもできたのだと思います。ゆっぺ母

「今ならわかるんです。大人になったから、じゃなくて、『ゆとりだから本気になれない』を完成させた今だから、ようやくそれがわかります。音楽って唯一、マイナスの感情を良い方向にアウトプットできるものだと思うんです。例えば、飲みの席で自分の愚痴言ってたらウザいやつだけど、音楽ではそれが許されるというのは、『Hope』をつくって気付くことができた」

「とくに今回収録されている楽曲は、必ずしもポジティブじゃないものを作品に昇華するという側面が強く出てますよね」

「過去の自分と向き合う作業は、めちゃくちゃ辛かったですけどね……。でも、自分が本当に音楽でやりたかったものを取り戻すためには必要な作業でした。学生時代に溜め込んたヘイトや『ゆとり』と言われ続けたことへの不満を全部そこに置いてった(笑)。自分で言っちゃいますけど、何より人間として成長したっす。

特典DVDに収録したんですけど、中学の担任だった松下先生にインタビューさせてもらったんです。その当時抱いていた不満、疑問に、先生の口から答えてもらえた。そのインタビューを経てハッとしたことは、オカンの言っていることと同じで、この教育を受けていなければこのアルバムはできてないってこと。

松下先生

ここまで人と外れたことをやっていてもなんとか許されてこれたのはゆとりのおかげ。義務教育が終わって社会に出たら、ゆとり教育とのギャップはやっぱり感じます。商業音楽を制作するようになって、『郷に入れば郷に従え』という場面に山ほど遭遇しましたから。

そこで、自分という自我がなくなってもダメだし、ワガママだけを通して全く郷に入らなくてもダメ。バランスをとって、人間的に成長していくしかない。結局は競争社会だから、自分の中で解決できない人間は淘汰されていくんです」

「そこで淘汰されていくというのは、すごいシビアですよね」

「シビアっすよ。結局、金稼いだ方が強いですよ。俺だって稼ぎたい。でも、稼ぐためには、自分の意見を通せないといけない。ちゃんと目立って稼ぐためには、それで人の心を動かすためには、人間的に成長しないといけない。この国にいる以上、この国で音楽をやる以上、人とつながらないといけないですから」

ゆとり世代の代表が思うこと

「ゆっぺさんの言っていること、すごくよくわかります。でも、『バランスをとる』っていう考え方で本当にいいのかなって最近は思う。実際、すでに売れてる人って、周囲をものすごい振り回してるし迷惑もかけてるんだけど、逆に売れてるからなんとかなってる。ライブハウスの店長が、『昔はめちゃくちゃな人間ばかりだったけど、今のバンドマンってみんな良い子だよね』って話してたことがすごく印象に残ってるんですよ」

「俺はそもそも気を使う人間だし、人に頼むより自分でやる方が楽なんですよね。別に飲み物くらい、スタッフに頼まないで自分で買えばいいのにって思っちゃう。

でも、音楽づくりの面では、それはもういろんな方に迷惑かけてます(苦笑)。自分のやりたいことを100%通してる。じゃないと絶対できないっす。ミキシングエンジニアさんにも、スタジオじゃなくて絶対家で聴かないとヤダって言って、申し訳ないけど機材を全部持ってきてもらいましたもん」

「そうなんですね。それが聞けてよかったです。僕もゆっぺさんも、周りにすごい気を使う方じゃないですか。でも、音楽をつくる上で、そんなことは気にしてられないですもんね」

「その通りですね。バランスをとるというのは、人間的な意味合いが大きいです。音楽の面では、今回、YAMAHAに春日(嘉一)さんという音の魔術師がいて、その方はすべての音に根拠を持たせようとしている人なんです。それで、『俺は今までちゃんと音の根拠を見つけられてきただろうか』って振り返ってみました。

なんでこの音なのか、なんでこのコードなのか。音だけじゃなくて歌詞も、俺は本気でこう思っているのか? を突き詰めた。あの時なんで本気になれなかったんだ? なんで昔好きだった人に思ってることを言ってあげられなかったのか? 黒歴史ノートを読み返すような感じで、つまづいたら一つ一つ拾い集めて、やり直していった感じです」

「根拠を埋めなおしていく作業をした、と」

自分のアルバムの歌詞カードを読み返す

「売れる売れない、キャッチーかどうか、じゃなくて、俺がやりたかったんです。今回は、自分と、自分の音楽と向き合いたかった。ゆとり教育についても、俺の答えを押し付けるわけじゃなくて、受け取ってくれる人の自由です。教育問題に、とか、問題提起したい、とかは一切ないです。

ただ、それに苦しんでいた自分がいたことを発信して、受け取ってくれた人が何かしら感じてくれたら嬉しいです。わかるって思ってくれる人も絶対いるはず……たぶん。それで本気になれ、とも言わない。まあ、そこも『おまえはまだ本気になれてない』って言われるのかもしれないですけど(笑)」

「人間的に成長したかどうかわからないけど、昔の尖ってた頃のゆっぺさんに戻ってきたかもしれないなって思う」

「『メジャーデビューする意味わかんねえっすよ』とかね(関連記事)」

「『レーベルのやつら全然音楽聴いてねえっすよ』とかね(笑)」

「いろいろためこみすぎるとぶっ倒れて入院するってこともわかったので(関連記事)」。今までは、音楽と生活のバランスをとるのが下手で、すごくぎこちない音楽活動してましたもん。それがようやく『ゆとり』の制作をしたことで、できるようになりました」

「お母さんもそこだけを心配していました」

応援はしていますが、昔から心配はしています。今でもそうです。浮き沈みのある世界だし、集中すると本当に周りが見えなくなってしまうので体も心配です。しょっちゅう電話で話しているので、こういう形で改まって質問することとかはないんですけど、体は大丈夫? ご飯は食べてる? ちゃんと寝てる? それだけを聞きたいです。ゆっぺ母

「そうですね。入院した時は本当に心配をかけてしまったので。『ほらな、仕事受けすぎ』っていうファンからの反応もいっぱいありましたよ(笑)。ライブも1本飛ばした。どうしても納品しなきゃいけないものもあって、2日間の外出届けを出してなんとか…。

俺は自分を凡人だと思ってます。だから、すべてを音楽に注がないとプロとして太刀打ちできない。音楽やってなかったら死んでましたもん。他にやりたいこともないし。だから、寝食を忘れてしまうのはどうしようもないところがあるんですが、人間として無理なラインが自分でもわかったから、生活のルーティンを保つ意識をもつようになりました」

「僕、これまで何度もお会いしているのですが、今回、ゆっぺさんという人間にようやく触れられた気がします」

私たち、音楽は好きですが、打ち込み音楽なんて聴いたことなかったし、息子がボーカロイドをやっていると聞いて、初めてその存在を知ったくらいです。でもそこから、「初音ミク」を知って、私は八王子Pさんのファンになりました(笑)。ベビメタさんも大好きです。いろんな音楽のジャンルを知ることができました。息子の活動は、わたしたちを知らない世界に連れていってくれます。

どんなに家に帰るのが遅くなっても、Twitterは毎日確認しています。あまりライブのこととか教えてくれないので、こっちで勝手にチケットを購入して見に行っちゃいますね(笑)ゆっぺ母

「オヤジやオカンにビートルズやサザンを教えてもらったように、俺も『ゆとりだから本気になれない』で誰かに何かをプレゼントできてたらいいなって思うっす。あざっす」

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ゆよゆっぺ(DJ'

アーティスト

平成元年生まれのゆとりど真ん中世代。茨城県大洗町出身。
2008年頃から、「ニコニコ動画」にて、VOCALOIDを使った楽曲の投稿を開始。2012年、YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONSよりボカロPとしてメジャーデビュー。
また、DJ'TEKINA//SOMETHINGとして自主制作リリースされたCDにはamazonダンスチャート1位を獲得。ROCK IN JAPAN FES. 2013, 2014, 2015, 2016と4年連続でDJとして参加。2016年春にはavexからメジャーデビュー。
作家としては、2016年にはBABYMETAL『KARATE』を作詞作曲編曲ミキシングまでを行い、ビルボードチャートへの入曲を果たす。現在はBABYMETALはじめ、他アイドルへの楽曲提供、声優とのコラボ、DJ活動として各種Remix、バンド活動ではエモ・ハードコア界隈でボーカリストとして活躍する等ジャンルや界隈にとらわれない活動を展開する。
2016年10月にはゆよゆっぺ名義で、シンガーソングライターとしてメジャーデビューを果たした(都合3度目)。

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