『KAWA-EDM』は「踊れる」「聞いていて気持ちいい」を意識した
──お話はとてもわかります。その上で聞きたいのですが、「ジャンルなんて関係ない」という意識がありながら、例えばなぜ今回の『KAWA-EDM』など、あえて「EDM」を前面に出されているんですか?テキサム 実は……『KAWA-EDM』ってダジャレから始まったんですよね。村田さんから「なんかやりたくない?」って言われて「アイドルのリミックス版とかいいっすね」って答えたら「アイドルってかわいいね」と。それで、「かわいい……かわEDM?」「OK」っていう流れです(笑)。
村田 肝心のアルバムの話が浅っさいね(笑)。冗談だと思うでしょ。これ本当だから!
※完全に余談だが、TOKYO LOGICのbakerさんは2014年に『waru EP』というタイトルのEPをリリースしている
テキサム 僕がやりたいことやっただけなんです。さっきの「わかりやすさ」というところにも通じるんですが、タイトルは窓口だから、キャッチーであればあるほどいい。そこで興味を持って入ってきてくれた人に、僕が今やりたいことを聴いてほしい。
──『KAWA-EDM』からは、あえて和製EDM的な、メロディアスなところを意識している印象を受けました。
テキサム そうですね。原曲がどういう風にREMIXされたがっているんだろう、どういう形なら現場で踊れるんだろうって考え抜いて。踊れる、聞いていて気持ちいいっていうその2点が大事なので、そこにステータス全振りしてつくりました。
──選曲は、90年代から2010年代まで幅広いですよね。
村田 ゆよゆっぺ/テキサムが手がける曲として、なるべく文脈がある曲が入ってます。ベビメタは「KARATE」をはじめとする曲とか、でんぱ組は「でんでんぱっしょん」のREMIXをやらせてもらってて、島袋寛子さんと今井絵理子さんのユニット・ERIHIROのデビュー曲を担当させてもらったからSPEEDの曲も入れられた。Cheeky Parade「チェケラ」はヒゲさんが作曲してますし。
テキサム その中でも、ダンスミュージックにしたら楽しそうなトラックを選ばせてもらいました。
村田 一つだけ言うと、どうにかしてモー娘。やりたかった!
テキサム 「ザ☆ピ〜ス!」、俺のカラオケでの十八番なんです! つんく♂さんは、日本でアイドルミュージックのキャッチーさを打ち出した人だと思っていて。クリエイターとして聴くと、緻密さもおおらかさも詰まった、キャッチーであるための計算がすごいと感じるんです。そんな人の楽曲を僕がREMIXさせてもらったらどうなるんだろうって、「頼むからやらせてください!!」って頼んだのですが……いつか絶対仕事したいです!
──インタビュー中にアピールをぶっ込むのはやめてください…
チャラさが最強の楽しさを生む
──バンドをやっていて、ボカロが面白いと思ってボカロでロックをつくりはじめ、EDMにハマり始めて。今日のお話の中でも、自分の意識を切り替えることができる身軽さも含めて、テキサムさんはいい意味で「チャラい」と思うんです。テキサム よく言われます、「お前何やりたいんだ」って(笑)。でもEDMには「チャラさ」もなきゃダメなんですよ。音楽には絶対その人の内面が出るもので、どういう人かどうかでトラックに違いは生まれるから。
EDMでも、普通に人と話せる外交的な人がつくると、「みんなで楽しんで盛り上がれればいいじゃん」という感じの、おおらかなドロップができる。逆に、内気な人がつくるトラックはすごく緻密だけど、でも緻密さは実はEDMにはあんまり必要じゃなかったりする。
もちろん緻密なEDMもありますが、最初に言ったように、最終的には少ない要素でどれだけドロップまでを盛り上げるかっていうのがEDMの美学だから、普段からチャラいと思われている人のほうがおおらかでEDMっぽいトラックをつくれたりするんです。……でもこれは無理やり、チャラいをこじつけてるところはありますけど(笑)! やっぱりジャンルでくくるのは意味がないと思いますし。
でも、人として楽しい人間にならないと楽しい音楽はつくれないし、人を喜ばすことができないというのは絶対ある。だからDJ’TEKINA//SOMETHINGも、人をどれだけ楽しませるか、どんなMCをしたら人がウェーイってなるか、それだけを考えてDJのような形態を取ったパフォーマンスをしています。
村田 EDMがチャラいって言われるのは、つくってる方じゃなくてお客さん側に起因する部分が大きいからね。
テキサム そうなんですよね。元々欧米の文化で、海外の人がフェスで半裸になって盛り上がってるのとか、「楽しさの最強」って感じがする。それを日本に持ってきて楽しんでいると反発が生まれて、チャラチャラ見られちゃうだけで。
──テキサムさん的には、自分が楽しいと思うことを続けていたら、自然と最強のEDMに行き着いたということですよね。
テキサム でも、僕が講義に行ったMUSE音楽院の生徒にすら「先生は本当は何がやりたいんですか?」って聞かれたのには、本当にビックリしました……。
──なんて答えたんですか?
テキサム 話を聞いてみると、その彼も悩んでいて。本当はいろんなことをやりたくて学校に入ったのに、それを講師の人に告げたら「そんなこと言ってたら、いいように使われてまったく名前も出ないまま死ぬよ」って言われたんだそうです。
でも、僕もいろいろやってるけど、まだ生きてる。だから「何か一つを突き詰めるのは素晴らしいことだけど、今の時代に音楽でご飯を食べようと思ったら逆にそれだと生きていけないと思う」って答えました。
それも突き放した答えだったかもしれないけど、「いろんなことをやってみたい」っていう意志を折ってしまうのは本当にもったいないことだし、自分がやりたいと思ったことを素直にやれないなんて音楽じゃない。
生徒もそれで納得してくれたみたいでしたけど、この答えが本当に正しいかどうかは、僕にも今もってわからないです。だから僕が結果を出すことで示すしかないし、それが何かの道しるべになるかなって思います。
意味がある仕事の最たる例はBABYMETAL
──ただ、音楽に限らずますます消費サイクルが早くなっている中で、生き残るために戦略を立てることはますます必要になっていると思います。テキサムさんが今広く活躍されているのは、クリエイターとしてのテキサムさんの力であるわけですが、確かに生徒さんが忠告されたように、いろんなことに手を出して消費されて消えてしまった才能あふれるクリエイターもたくさんいたはずです。そこを区別したものは、何だとお考えですか?テキサム それに関しては、村田さんがちゃんと考えてくれていたのが大きいと思います。曲を提供する作家としてではなく、TOKYO LOGICに所属するアーティストとして見てくれているから、消費される前にストップをかけてくれたり、大人の話をしてくれている。
村田 出会いの話でも触れましたが、作家としては、意味のない作品はやらせたくないんです。関わらせてもらった作品が売れて実績になるのか、あるいはこちらとしてある程度好きな様に制作させてもらえて経験になるのか、総合的に判断しています。
テキサム 今年の年明けに、村田さんが会議を開いたんです。「おい、今の仕事つまんねえぞ」って。
村田 TOKYO LOGIC創業メンバーで集まって話し合いました。ちょうど正月にインフルエンザで倒れていた時に、朦朧としながら「俺が死んだら何が残るんだろう、この世界に」って考えて。
――……? 自分がいなくなったら、アーティストたちはどうやって生きていくのか、ということでしょうか?
村田 そう。たまに本気で考えるんですよ、自分が不慮の事故でいなくなって解散したとしても、彼らが一人で生きていくために必要な教育はなんだろうって。そのためにも実績になることを、と常に考えています。彼の場合は、ベビメタが大きな実績でした。全米ビルボードに少しでも名前が刻まれたんですから。
テキサム ベビメタに関しては、意味があるのか、というよりも、意味しかなかった!
村田 ある日、仕事終わりの朝5時に渋谷の街頭ビジョンでベビメタの「いいね!」のPVを見たんです。その瞬間、彼に電話して「BABYMETALって知ってる?」と。
テキサム なぜか僕も朝5時に起きてたんですよね。
村田 僕もテキサムもメタルが大好きなんですが、日本の音楽シーンでは、メタルは日陰者ですし。
テキサム ネタ扱いですよね。
村田 だから、コバメタル(BABYMETALプロデューサー、小林啓)さんに会いに行って、「BABYMETALが日本のメタルシーンのメシアになってくれ」と。「そのためにはなんでもしますから、ゆよゆっぺを使ってください」とお願いしました。
テキサム そうしたら、実は僕のボカロの楽曲を聞いてくださっていて、それが始まりでした。
誤解を恐れずに言えば、ベビメタに関わらせていただいて、生きることの苛酷さ、突き詰めるとは、妥協しないとはどういうことか、本当に身をもって学びました(笑)。
──どういうことですか?
テキサム ベビメタでは絶対に妥協を許さないんですよ。普通の制作は、「この日までに納品ください」ですが、小林さんは「この日がデッドラインだから、その日まで走り続けて、一つでも素晴らしいものをつくろう」という考え方の人なんです。 「メギツネ」の編曲をやらせていただいた時は、最終的に36パターンできました。普通は出しても4つくらいなんですけど、36パターン全てやりとりしていて、イベントも重なって、やる気しかないのに体だけが追いつかなくなって、胃潰瘍で入院しました……。その甲斐あって「メギツネ」も話題になって、少しでもベビメタという名前を広げる手伝いができたはずです。
「チャラい」と「一本筋」は紙一重
──そういったクリエイターの成果がベビメタの今に繋がっていると思いますが、正直、世界のベビメタも手がけた「ゆよゆっぺ/DJ’TEKINA//SOMETHING」としての知名度はついて来ていないように思います。その点はどうお考えですか?テキサム 本当にその通りです。今も昔も、どんな有名な曲でも、作曲家の名前なんて普通は知らない。だから、それだけじゃダメなんです。自分名義の楽曲で前に立てる人間になれないと、売れたい、有名になりたいという僕の承認欲求が満たされないんです!!
──そのために、今後はどうしていく、という思いはありますか?
テキサム もっとキャッチーな曲をつくらなきゃいけないっていうのと、今の音楽業界、何がウケるかなんてわからないんだから、自分のやりたいことを突き詰める。
「チャラい」と「一本筋」は、全然違うようで紙一重だと思っています。僕はこれまでも本当にいろんなことをやらせてもらっていますが、全てを本気でやれば、全てが本物になるかもしれない。ベビメタだってその一例です。
だから、絶対にやりきる。途中でやめてしまったら、その時の自分の楽しいという思いに嘘をつくことになる。自分のやりたいことに対して嘘をつかない、その気持ちは『KAWA-EDM』にも詰め込んでます。そういうスタンスです。
ゆよゆっぺ/DJ’TEKINA//SOMETHING選! EDM入門にオススメの5曲
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DJ’TEKINA//SOMETHING
DJ’TEKINA//SOMETHINGとは? またの名をゆよゆっぺ。VOCALOIDPとしてキャリアをスタートさせ、その後ヤマハミュージックコミュニケーションズからメジャーデビュー。
BABYMETAL、ももいろクローバーZ、バンドじゃないもん!、ERIHIRO等の楽曲制作を手がける。3月に公開されたBABYMETAL の「KARATE」では作詞作曲編曲演奏ミキシングをすべて担当。見事ビルボードへBABYMETALを送り出す原動力として活躍した。
DJ’TEKINA//SOMETHINGとしては数々のロックフェスに登場。「ROCK IN JAPAN FES」に3年連続の出演、「SUMMER SONIC 2015」へ出演、さらに「COUNTDOWN JAPAN」への出場も果たしている。
海外イベントへの出演も多く、今までに、台湾、インドネシア、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール等のアジア各国を初め、アメリカ、チリ等へも渡っている。
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