当時の私は大変に暇を持て余しておりまして、日がな映画を観たり、音楽を聴いたり、昼間から酒を飲んで赤い顔をしてうなったりしていたのですが、その中で「そういや、ちゃんと観てないな」と「マクロス」シリーズの作品群をレンタルしてしまったのがそもそものきっかけでした。
数日後、一通りシリーズを鑑賞し終えた当時の私は、もうすっかりカルチャーショックを受けてしまいまして、飲み屋で「デカルチャーデカルチャー」(シリーズに登場するゼントラーディ語で「信じがたい」といった意味)言っていたら隣の知らないおっさんに「日本語を喋れよ兄ちゃん」と説教されたこともありました。今では素敵な思い出です。
その後も、関連作品が出るたびに追っていたのですが、長年のTVシリーズの沈黙を破りまして、ついに、ついに出ました最新作の『マクロスΔ』(マクロスデルタ)。毎週楽しみに観ております。
今回はこの最新作を軸として、伝統ある「マクロス」をシリーズ通してご紹介させていただくのですが、それにあたり、最新作『マクロスΔ』はもちろん、過去のテレビ・OVAシリーズも含めて「マクロス」シリーズを一気に観直しました。
それに費やした時間は正直「いけないボーダーライン」をはるかに越えていましたが、結果、人間にはともすれば忘れがちな大切なものがあると再確認できました。
結論を言ってしまえば、それは文化です。これは後ほど詳しく書きます。
また、すべて自腹で有料チャンネルに入会し購入して観ているので、言いたいことは忌憚なく書いていこうと思います。ですので端的に言ってしまえば、飲み屋でおっさんが熱く「マクロス」シリーズについて語っている与太話としてご笑覧くださいますと幸いです。
text by 加藤広大目次
1. マクロスシリーズ新作『マクロスΔ(デルタ)』
2. 『マクロスΔ』のストーリー・あらすじは?
3. 歌姫オーディションでヒロインに決定した鈴木みのりさんてどんな人?
4. 特番では暗号で声優を発表 またたく間にファンが解読
5. 本放送で明らかになった声優・キャストたち
6. 後世のアニメに影響を与えた変形メカニック
7. 「マクロス」シリーズに不可欠な「歌」 『マクロスΔ』を盛り上げる楽曲群
8. 『マクロスΔ』放送後ネット上での反応は…?
9. シリーズの原点『超時空要塞マクロス』
10. 決して黒歴史ではない『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』
11. 人工知能が奏でる敵としての歌を描いた『マクロスプラス』
12. シリーズ史上最もアツい『マクロス7』
13. マクロス世界の神話『マクロス ゼロ』
14. 説明不要の大ヒット作『マクロスF』
15. 「マクロス」とは「知る」ということ
マクロスシリーズ新作『マクロスΔ(デルタ)』
「マクロス」シリーズ最新作『マクロスΔ』は、2016年4月よりTOKYO MX・BS11などで放送が開始されています。アニメ作品としては7作目。そして、TVアニメで放送されるのは前作『マクロスF』の2008年から実に8年ぶりとなります。『マクロスF』そんなに昔の放送だったのですね。時の流れは早いものです。
2014年3月の初告知から、10月の制作発表。そして2015年の大晦日に放映された『マクロスΔ先取りスペシャル』を経て、ついに本放送を開始しました。心待ちにしていた方も多いのではないでしょうか。
『マクロスΔ』のストーリー・あらすじは?
とある銀河の片田舎では、人間が突如自我を失い凶暴化する奇病「ヴァールシンドローム」が流行していました。
それに対抗する手段として結成された戦術音楽ユニット・ワルキューレは、「ヴァールシンドローム」の症状を歌で鎮めるため、星々をツアーしてはライブ活動(鎮圧活動)を展開している……というのが大まかな世界設定となっております。 物語は惑星アル・シャハルの湾口作業員で、自分探しの旅(笑)が大好きな少年のハヤテ・インメルマンと、猪突猛進型密航少女で髪の毛にハート型の珍妙な物体が付属している歌手志望の少女フレイア・ヴィオンが出会うところからはじまります。
ちなみにですが、ハヤテ・インメルマンの名前は、お馴染み第一次世界大戦時のドイツ軍エースパイロットであるマックス・インメルマンから取られています。彼が授けられ、当時最高の栄誉勲章だったプール・ル・メリット勲章はその色からブルー・マックスと呼ばれるようになります。
これはシリーズ第1作目『超時空要塞マクロス』に登場した天才パイロットのマクシミリアン・ジーナス(マックス)と同様のルーツです。
インメルマン、そしてマックスに関連する名前を冠している通り、ハヤテもまだまだ荒削りながらも天性の才能をお持ちのようです。
冒頭、密航がばれてしまったフレイアの逃走を、ハヤテが手助けする形になるのですが、その途中で今作のもう1人のヒロインが登場します。 彼女の名前はミラージュ・ファリーナ・ジーナス。この名に狂喜した方も多いのではないでしょうか?
彼女は『超時空要塞マクロス』きっての戦闘狂で、赤子すら戦場に駆り出す狂気のウォーボーイ&ガールである天才マックスとクレイジーミリアの孫であり、『マクロス7』に登場するバンド「FIRE BOMBER」のベース/ヴォーカル担当にして、銀河毛長ネズミと意思疎通が可能な不思議ちゃんであるミレーヌ・フレア・ジーナスの姪なのです。
そんなハヤテとミラージュ。お互いの第一印象は最悪なのですが、印象が悪いほど後からくっつく可能性が高くなるのは恋物語のお約束です。さあ、すでに三角関係の勝敗が見えてしまいそうですが、果たしてどんでん返しはあるのでしょうか?
話を戻しまして、3人でやんややんやとやっているうちに、ふと不穏な歌がどこからか響き渡ります。その歌に感応してしまったゼントラーディの部隊に「ヴァールシンドローム」が発症し、平和な街は一転、炎に包まれます。もはや暴走する彼らを止めることはできないのか? そう思った矢先に彼女たちが颯爽と現場に登場します。
そう、戦術音楽ユニット・ワルキューレのギグが幕を開けるのです。ライブハウス、アル・シャハルへようこそ。 彼女たちの変身シーンは一見魔法少女と見間違いそうになりますが、これはホロのようなものを纏っているのでしょう。『マクロスF』やその他シリーズでも代々使われている技術ですね。
てっきり名曲「愛・おぼえていますか」を歌いながら敵がひるんだ隙をみて、艦隊で総攻撃を仕掛けるミンメイアタック的な戦法を取るのかと思いきや、ワルキューレたちは自ら生身のまま最前線で戦います。
空を飛び交い、バリアのようなものも出現させます。ミサイルだって楽勝で防ぎますし、身体能力が半端ではありません。あの……バルキリーより強そうなんですけど……生身で熱気バサラと同じことやってるんですが……。まさに「超時空ビーナス」の名に恥じない、八面六臂の活躍で戦場を舞い、そして歌います。
そうこうするうちに、何だかフレイアの様子がおかしくなって来ます。それが頂点を迎えた瞬間、突如彼女も歌いながらミサイルや弾丸の雨霰の中に突入していきます。完全にいろんな意味で「いけないボーダーライン」を越えてます。この唐突さ、真っ直ぐさがまさに「マクロス」ですね。
一方、ハヤテは「やめなよ、いきなり突っ込んでったら危ないよ死ぬよ」と、たまたま転がっていた機体に乗り込み、フレイアをサポートします。そして、墜落しそうになって完。次回を待て。という「マクロス」シリーズのお約束を踏襲し(それがいいのですが)、衝撃の1話は終わりを迎えます。
そして2話冒頭では「データは揃った」とか言って謎の敵機は撤退。「こんなの前に観たことがあるな」と思ったら、それはやはり過去の「マクロス」でした。正体不明の敵がちょっかいを出してきて応戦し、ある程度モメたところで撤退していく。という『マクロス7』などにも見られる素晴らしい様式美ですね。
2話、3話と解説していると長くなりますし、ネタバレしてしまいますのでこの辺りで控えますが、「マクロス」シリーズを知っていれば「なるほどね」という展開で、知らなくても問題なく楽しめるつくりになっています。
ただ、ある程度の専門用語は抑えておいた方がより一層楽しめるでしょう。そこかしこに過去作品へのオマージュが散見されます。後々仲間になりそうなイケイケ特攻隊長も出てきましたし。
これは私感ですが、初回から空に昇ると地に墜ちる(または落ちる)イメージが今までより多いので、これがもし神話的なネタだとしたら最終回には(ほぼ)全員死んで終わるんじゃあ……と一抹の不安を抱えています。
ワルキューレとは、戦死者を選定する女性的存在のことです。なので、最終的には5人のバルキリー乗りが全員死亡し、最後は白鳥の羽衣を纏うが如く彼女ら自身がバルキリーと化しラスボスに特攻。
死後その功績を讃えてオールタイムベストアルバムが発売されて銀河中で売れまくり、未来永劫語り継がれる予感がしないでもありません。最低でも誰か1人は死ぬんじゃないかと今から身構えてしまいます。
また、フレイア・ヴィオンという名は、フレイアの「ア」と、フランス語で飛行機を指すアヴィオンを繋げたものが由来のようですが、フレイア(フレイヤ)と言えば北欧神話の女神の名前で首飾りの代金を身体で払ったり、人間や神々と愛人関係を持ちまくったりと性に関して非常に奔放な神様です。
それに、北欧神話におけるフレイアは、ワルキューレのリーダーと考えられている研究もありますし、住んでいる館で戦死者を選び取るともされています。ので、やっぱり誰かしら死ぬフラグが、既に髪の毛に付いた珍妙なハートマークがピカッと光るがごとく立っているような気がしないでもありません。
ともあれ、敵対勢力である風の王国の目的とは? ヴァールシンドロームを発症させた歌声の謎、フレイアの過去の記憶、プロトカルチャーの遺産の謎はどこまで明かされるのか? さまざまな三角関係の行方は? などなど、謎はまだまだ多いですが、これからの展開がとても楽しみです。
歌姫オーディションでヒロインに決定した鈴木みのりさんてどんな人?
ストーリーの解説/考察はこのくらいにしまして、「マクロス」シリーズの骨格をなす、大きな柱のひとつといえば「歌」でしょう。今回も『マクロスF』同様に、一般公募のオーディションにて、次世代の歌姫が抜擢されています。今回、見事歌姫であるフレイア・ヴィオンの役を射止めたのは、鈴木みのりさん。 1997年生まれの18歳、愛知県出身のてんびん座、今回演じるフレイアは、恋を秤にかけるのか? 好きな食べものはカツ丼とりんごだそうです。それでは歌っていただきましょう。鈴木みのりさんで……失礼しました。昭和歌謡アイドルの前口上を思わず持ちだしてしまいそうな、ちょっと素朴な感じ(いい意味で)が漂う可愛らしいお嬢さんなんです。
この歌姫オーディション、アニメと非常にリンクしていて面白い試みですよね。中でも今回は鈴木みのりさん自身が『マクロスF』にてランカ・リーを演じた中島愛さんに憧れていたそうで、もうこれ、そのまんま「マクロス」みたいな話じゃないですか。 歌が好きで、歌姫に憧れて、夢を叶えようと努力して、ついに掴んでスタート地点に立つ。こんな偶然ありますか?
しかもしかもしかも、彼女。学生時代には週に1回上京して東京で演技の勉強をしていたそうです。今回演ずるフレイアも、ワルキューレのオーディションを受けようとりんごが入ったコンテナに隠れながら田舎から都会に単身密航を試みます。
これって、まさに鈴木みのりさんそのものですよね。もちろん密航はしていませんが……。その上、好きな食べものりんごって。それどころかあだ名も「みのりんご」ですよ。まさに今回、なるべくしてなったとしか考えられません。こんな偶然ありますか? 「マクロス」は本当に幸せなアニメだと思います。
一応補足しますけれども、物語にありがちな運や偶然という要素ももちろんあるでしょうが、実際に歌姫の座を勝ち取ったのは何よりも本人の努力の賜物でしょう。それは演技を観ても明らかですし、多くの言葉を費やして賞賛されるべきであると思います。
特番では暗号で声優を発表 またたく間にファンが解読
話が前後しますが、本放送前のトピックとして大いに話題になったのは、「マクロスΔ 先取りスペシャル」のエンドロールで利用されていた「暗号」でしょう。それぞれのキャラクターの星の文字を組み合わせた暗号は、インターネットに住まう民族により数時間であっさり解読されることとなるのですが、こういう試みは面白いですね。
それまで「マクロス」シリーズで使用されていたゼントラーディ語ではなかったことで、特に今作の宇宙には、他にもさまざまな民族が独自の文字や文化を持ち、銀河のどこかで生活しているという設定のイメージが湧きますし。シリーズを通して親しんでいるファンにとっては、移民船団ではなく複数の惑星を股にかけた今回のストーリーがより引き立つ演出だったのではないでしょうか。マクロスΔ声優解読しました
— りりりりか (@rc_rm) 2015年12月31日
#macross pic.twitter.com/ugbooyjyy5
本放送で明らかになった声優・キャストたち
以下、実際の本放送で明らかになった配役です。解読された暗号の通り。ハヤテ・インメルマン/内田雄馬
フレイア・ヴィオン/鈴木みのり
ミラージュ・ファリーナ・ジーナス/瀬戸麻沙美
【ワルキューレ】
美雲・ギンヌメール/声:小清水亜美 歌:JUNNA
カナメ・バッカニア:安野希世乃
マキナ・中島:西田望見
レイナ・プラウラー:東山奈央
【Δ小隊】
アラド・メルダース:森川智之
チャック・マスタング:川田紳司
メッサー・イーレフェルト:内山昴輝
アーネスト・ジョンソン:石塚運昇
ベス・マスカット:沢井美優
ミズキ・ユーリ:辻美優
ガイ・ギルグッド:佐々木義人
ハリー・タカスギ:木村良平
【風の王国】
ハインツ・ネーリッヒ・ウィンダミア(ハインツ2世):寺崎裕香
グラミア6世:てらそままさき
【空中騎士団】
キース・エアロ・ウィンダミア:木村良平
ロイド・ブレーム:石川界人
テオ・ユッシラ:峰岸佳
ザオ・ユッシラ:峰岸佳
ボーグ・コンファールト:KENN
ヘルマン・クロース:遠藤大智
カシム・エーベルハルト:拝真之介
後世のアニメに影響を与えた変形メカニック
「マクロス」シリーズといえば歌、三角関係、そして可変戦闘機のアクションです。VF-31J ジークフリード 【ハヤテ機】
ファイター(航空機)とバトロイド(人型)、両者の中間形態であるガウォークの3形態に変形するVF(Variable Fighter/ヴァリアブル・ファイター。総称バルキリー)は、『超時空要塞マクロス』以降、多くの変形ロボアニメに影響を与え続けています。今回は大気圏内の戦闘が多そうですので、宇宙空間とはまた違った、後述する『マクロスプラス』のようなアクションが楽しめます。もちろん、宇宙空間ではないからと言って、戦闘が地味になったなんてことはありません。むしろドえらいことになっています。
詳細な解説や考察は避けますが、こちらもストーリーと一緒で「マクロス」を知らなくとも楽しめるけれども、知っていればもっと楽しめる仕様になっています。
ハヤテが入隊するΔ小隊の主力VFは「VF-31 ジークフリード」。シリーズ30周年記念のゲーム『マクロス30 銀河を繋ぐ歌声』に登場した「YF-30 クロノス」という機体の量産型で、スウェーデン軍の戦闘機「サーブ35ドラケン」のダブルデルタ翼が取り入れられているそうです。
また、各人ごとに微妙に形状やカラーリングが異なります。主人公のハヤテが搭乗するのは「VF-31J ジークフリード」。ブルーの機体に差し色で赤が使われています。この各機のカラーヴァリエーションが編隊飛行をした時にまた映えるんですよね。
Sv-262HsドラケンⅢ 【キース機】
一方、敵対勢力である「風の王国」の主力VFは「Sv-262 ドラケンⅢ」。公式サイトでは「謎の機体」と紹介されていたのですが、ストーリーが進むに合わせて機体の情報が少しずつ更新、公開されています。両翼には「リル・ドラケン」と呼ばれる無人航空機が取り付けられており、ジャミングしたり、分裂したように見せかけたりと、いろいろ悪さをすることが可能です。直近の放送では、ついにバトロイド型を拝むことができました。しかし、その実力はまだまだ未知数です。どんなサプライズがあるのか楽しみです。
VF-171 ナイトメアプラス
そして、『マクロスF』に登場した「VF-171 ナイトメアプラス」や、ハヤテが練習機として使用した「VF-1EX」は『超時空要塞マクロス』の「VF-1」をベースにするなど、過去作からの登場も用意されています。これは嬉しいですね。個人的には『超時空要塞マクロス』の機体「グラージ」がまだ現役で動いていることに、ゼントラーディー軍のエースパイロット、「文化しようぜ」でお馴染みのカムジンを思い出し、胸が熱くなりました。
「マクロス」シリーズに不可欠な「歌」 『マクロスΔ』を盛り上げる楽曲群
「マクロス」を「マクロス」たらしめている所以、それは各シリーズのディーバ達が歌う「歌」にあると言っても過言ではないでしょう。初代『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイから今回のワルキューレたちまで、歌という文化は広大な銀河、そしてマクロの空の下で、どんな風に受け継がれているのでしょうか?
現在判明している曲をすべて解説してもよいのですが、最期まで聴かなければなかなか評価もできませんので、今回は現在先行発売されている「恋! ハレイション THE WAR」「いけないボーダーライン」の2曲をメインに紹介します。
加えて、思わず「これはレビューすべきだろう」と思ってしまったEDテーマ「ルンがピカッと光ったら」の3曲に触れてみます。
恋! ハレイション THE WAR
まず「恋! ハレイション THE WAR」ですが、クレジットは以下のとおり。深川琴美さんは、『HUNTER✕HUNTER』や『がっこうぐらし!』のイメージソングなど、アニメ関連の作詞を数多くやってらっしゃる方ですね。ストリングス編曲は倉内達矢氏。こちらもアニメソングを多く手がけていらっしゃいます。作詞/深川琴美、姉田ウ夢ヤ
作曲・編曲/姉田ウ夢ヤ
ストリングス編曲/倉内達矢
歌/ワルキューレ
肝心の音楽の方はといえば、きらびやかなアニメアイドルソングのド直球。ですが、話はそこまで単純ではなく、1曲の中でフレイアの愛嬌たっぷりでころころ変わる表情のごとく、まるでメドレーのように次々と曲調が変化していきます。
バルキリーが編隊飛行をしたり、ドローンが秩序を保って整列していたりと、劇中で使用されるイメージと同じく締めるところはしっかり締めて、広がるところは青空を地上から一気にカメラが抜くように盛り上がる仕掛けが施されるなど、小技とメリハリの付いた、ライブのはじまりと興奮を感じさせるに相応しい一曲となっております。
要所要所で入るストリングスやSEも素晴らしいです。ひょっとしてやり過ぎなのでは……と感じてしまうこともあるかもしれませんが、このくらい出した方がいいんです。もちろん、このストリングスは綿密に計算された結果であるということは言うまでもありません。
そもそも、設定がアイドルの歌なんですから間の音が多い方が飽きずに聴けるのです。これは歌謡曲界の重鎮である筒美京平氏の頃より、連綿と受け継がれたアイドルソングのメソッドなのではないでしょうか。現実世界の歌の歴史と、「マクロス」世界の歌の歴史。双方がリンクしていると考えるとまた味わいが深くなりますね。
いけないボーダーライン
さて、お次は『マクロスΔ』の大テーマでもありそうな「いけないボーダーライン」です。インタビューなどで河森監督も少し触れていました。既に作中でも登場人物が何度かボーダーラインを越えていく様が描かれていますね。今後も境界線を越えるのか、それとも踏みとどまるのかというシーンが、登場人物の行動、心情に合わせて描かれるのではないでしょうか。
そんな「いけないボーダーライン」。作詞はこちらもアニメソングを多く手掛ける西直紀氏。そして作曲・編曲は、SMAP、嵐、関ジャニ∞から松田聖子、おニャン子クラブまで、アイドルソングを数多く手掛けるヒットメイカーのコモリタミノル氏です。作詞/西直紀
作曲・編曲/コモリタミノル
歌/ワルキューレ
余談ですが、私の一番好きなコモリタミノル関連作品はワーグナーの総合芸術論を理論的背景としてバンド活動をおこない、日本ポップスシーンの路地裏でしっとりと演奏を続ける面影ラッキーホール(現在はOnly Love Hurts)というバンドの「私が車椅子になっても」です。ぜひ、皆さん「いけないボーダーライン」と合わせて聴いてみてください。「いけない」の意味が非常によくわかるかと思われます。
余談ついでにもうひとつ、本作で音楽を担当する鈴木さえ子氏、TOMISIRO氏、窪田ミナ氏の御三方のうち、鈴木さえ子氏は何を隠そう日本が産んだ偉大なるロックバンド・はちみつぱい、そしてムーンライダーズの鈴木慶一氏の元奥さんでして、忌野清志郎+坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」のライブでドラムを叩いていた女性です。
さらに、忌野清志郎、坂本龍一、仲井戸麗市、矢野顕子、どんべと組んでいた「ヘンタイよいこバンド」の別名は「いけないバンド」でした。
「い・け・な・いルージュマジック」「いけないバンド」そして今回の『マクロスΔ』で流れる「いけないボーダーライン」。これは偶然なのかそれとも運命か。テストには出ませんが飲み屋では使えるかも知れません。
曲の方はもう80年代臭がプンプン漂う「よくぞこの曲をつくってくれた」としか言えない当時特有のオマージュと、ユーモアと、実験と、そしてちょっぴりの余裕が振りかけられた貫禄の仕上がり。スカから80年代歌謡曲、AORから古今東西のロックまで、さまざまな遊びが詰まった楽しい曲となっています。
心なしか、歌っているワルキューレも自信に満ち溢れて「強い自分」になっているように感じられますよね。これも一種の音楽の力です。
ルンがピカッと光ったら
これはまだフルサイズで聴いていないのですが、今回一番のお気に入りと言っても過言ではないので少しだけ書かせてください。こちらも作詞は西直紀氏、そして作曲・編曲はコモリタミノル氏です。作詞/西直紀
作曲・編曲/コモリタミノル
歌/ワルキューレ
この曲、単純に言ってしまうと往年のSMAPとスティーヴィー・ワンダーの融合ですよね? もう聴いた瞬間嬉しくて笑っちゃったんですけど、聴けば聴くほどいろんな発見があります。その他にも多数のオマージュや引用など、巧みに仕掛けが施されているんですね。
メロディの展開も歌詞も一聴するとお約束に聞こえますが、この「お約束」をつくりあげるのにどれだけの音楽的素養と引き出しの多さ、テクニック、経験が必要か。まさに職人芸、職人魂が光る軽快痛快な1曲です。
ほかにも、この曲のどこが凄いかと言いますと「どこかで聴いたことがあるようなメロディ」なんですよ。しかもこれ、パクりとかオマージュとかじゃなくて、もうコモリタミノル氏のメロディなんです。
『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイの歌が、時代を経た『マクロスΔ』の世界でも歌い継がれているように、時代の風化に耐えた音楽はいつかどこかで聴いたような懐かしい間隔を伴って私達の胸に響きます。
同様にポピュラーソングの名手であるコモリタミノル氏のメロディは、今や広く一般に浸透しています。この歌もまた、きっと文化の力、そして人々の心に強く訴えかけるポピュラーソングとしての力を持っているのです。
『マクロスΔ』放送後ネット上での反応は…?
いろいろ書いておりますが、ひとりで「マクロス最高! デカルチャー!」とか言っていてもしょうがありません。文化は共有しなければ意味がないのです。『マクロスΔ』について、皆さんはどのような反応をしていらっしゃるのかと思いまして、ネット上の反応をいろいろと調べてみましたが、手放しの賞賛から心ない悪罵まで、そりゃもうたくさんありました。
「魔法少女やんけ! こんなのマクロスじゃない!」「こんな展開でマクロスを名乗るな」という無慈悲な怒りも散見されますが、ちょっと待って下さい。本作のタイトルをよく見てください。見ましたね?『マクロスΔ』としっかり書いてあります。
オープニングにも毎回デカデカとタイトルが出ています。都合の悪い物を見ないようにしているだけでは、未開の部族と一緒です。我々は過去の「マクロス」によって、文化や身体的特徴などの相違点を受け入れてこそ、人は前に進めるし、成長できるということを教わったではありませんか。
誤解を恐れずに言ってしまえば「マクロス」シリーズなんて、最初はどうでもいいんですよ。
毎回観てるうちに「なんだよこの歌w」とか思っていたのになんだか歌が頭から離れなくなって、気付けば毎週楽しみにしていて「今週はあの歌流れないのか……」とか「ええっ! マジで、死ぬの!?(号泣)」とか、いつの間にか感情移入してしまっていて。
登場人物の動きに一喜一憂して最終決戦で歌が流れた時には余りの熱さに涙が溢れて前が見えなくなり、終わって1週間は喪失感から立ち直れないのが「マクロス」なんですよ。
我々、観る前は全員ゼントラーディみたいなもんなんです。だんだん「マクロス」の異文化に触れて、自分の趣味に合わなかったり、違ったものを少しずつ受け入れて好きになっていくんです。とにかくスルメのようにかめばかむほど段々と味が出てくるアニメなんですね。今作でも劇中にエイヒレのようなツマミが登場していましたが、あれのようなもんです。
とはいえ、概ねネット上や視聴者間では好評のようです。もちろん、最終的な評価は最後まで視聴してみないと下せませんが。そこは安心しています。なにせあの「マクロス」シリーズ最新作なのですから。
随分と前置きが長くなってしまいました。これからが本コラムの本編であると言っても過言ではありません。懐かしんだり、未見の人には興味を持ってもらったり、そしてより『マクロスΔ』を楽しめるように、過去の「マクロス」シリーズを振り返ってみましょう。
シリーズの原点『超時空要塞マクロス』
すべての伝説はここからはじまりました。1982年から1983年にかけて放映されたシリーズ第1作目『超時空要塞マクロス』です。時は西暦1999年、宇宙から太平洋上の南アタリア島に墜落した巨大な宇宙戦艦を改修した人類はそれを「マクロス」と命名しました。
そして2009年、「マクロス」がついに飛び立たんとするその日、地球付近にゼントラーディ軍の艦隊が出現。人類(地球統合政府)はゼントラーディ軍第118基幹艦隊との戦争に否応なしに巻き込まれていきます。
この戦いを「第一次星間大戦」と呼び、『超時空要塞マクロス』はこの戦争の終結とその少し後までを描いた物語となっております。
主人公はロイ・フォッカー少佐。間違えました。その後輩・一条輝(いちじょうひかる)です。フォッカー少佐に招待されてマクロスの進水式にやって来てしまったのが運の尽き。フォールド事故に巻き込まれてしまい、マクロスの乗組員たちと行動を共にすることとなります。
冒頭、2人はこんな感じのやり取りをします。
フォッカー 7回ぐらいでいばるな! 俺なんか統合戦争で、180機も撃墜したわい
輝 人殺し!
フォッカー 人殺しったってしょうがねえだろう。それが商売なんだからよお
今じゃ板野サーカスのように四方八方からクレームが飛んで来そうな台詞ですが、『超時空要塞マクロス』全編を通してすごく象徴的な会話です。後の輝の成長や葛藤に大きく関わる重要なシーンなんですよね。
リン・ミンメイにはいろいろと言いたいことがあるんですが、いたずらっぽくて可愛くて感情的、無駄にポジティブで環境順応性が高いと思いきや、空気が読めずに時折メンヘラな一面も覗かせます。何より一番危ないのは、何をやっている最中でも本人には一切悪気がないということです。
これだけ聞くととんでもなく嫌な女の子に見えてしまうのですが、実際にモテるのはこういう女の子なんですよね。
視聴者は彼女に「なんだこの女!」と「あれ、やっぱりいい子なのかな……」という気持ちを交互に抱くのです。このジェットコースターをやられると、男は好きになっちゃうんですよねえ。特に若い時は……。やっぱり嫌な女の子なのかもしれません。ただ、これがつくられたキャラクターだと言えども、非常に人間っぽいんですね。
ちなみに、下に掲げました動画『愛・おぼえていますか』は「マクロス」シリーズで最も著名な曲であると言っても過言ではない曲ですが、実は劇場版の楽曲。
私もアニメ本編では使われていないことをすっかり忘れていまして、「いつ歌われるんだ」と思いながら観ていたら、ついぞ流れず完走してしまいました。ですが、リン・ミンメイ、ひいてはマクロスを象徴するような楽曲ですので、こちらをご紹介させていただきます。
状況的にはかなりヤバい場合でも、大体皆ポジティブです。弱音を吐く人も少ないんです。マクロスに乗艦してしている人は民間人も含め、地球の土を踏めなくなってしまうんですが、それでも一部を覗いて明るく生活をしています。
これは「マクロス」というものが一種の家であり、その中で擬似家族的なコミュニティが形成されているという、大きな意味でのホームドラマであるからなのではと考えられます。
フォッカー少佐も輝の先輩、兄、そして時には父親の役目を果たします。また、輝にとってリン・ミンメイや早瀬未沙は友人でもあり、同僚でもあり、恋人候補でもあり、そして母親であるようにも思えます。
そして、いつも前を飛び続けていたフォッカー少佐が居なくなった時、自分で何をするべきか、どうするべきかを決める時が来ます。これは輝以外の登場人物でも同様です。
閉鎖空間の中で擬似家族となった住民や乗組員たちは、その中で文化を育みます。その文化に触れたゼントラーディのスパイ3人組や、彼等のもたらした「お土産」によってカルチャーショックを受けたゼントラーディたちは、リン・ミンメイの歌に代表される文化の媒介の役目を果たし、やがてその文化は伝播し、戦争終結の鍵を導き出します。
文化の力は戦争を終結に導くだけではありません。異星人と地球人同士の恋も描かれます。
『超時空要塞マクロス』随一のキチ◯イコンビ、マックスとミリアの恋愛は、アニメ史上に遺る恋愛描写ですので、未見の方はぜひともご覧ください。
現在『マクロスΔ』に出てきているゼントラーディに代表されるマクロスの専門用語は、だいたい本作を観ればカバーできます。「『マクロス』シリーズでどれを最初に観れば良いかわからない」という方は、まず『超時空要塞マクロス』を観てみるのが良いでしょう。
話が飛びますが、本編中には戦争終結後の2年後にあたる後日談もあります。こちらに関しては更に言いたいことがあるのですが、長くなりますのでここは手元のメモに書かれた私の魂の叫びをそのまま箇条書きで転載させていただきます。
などなど、本当にロボットアニメかと目を疑いたくなるドロドロな昼ドラ状態の話が繰り広げられますが、全編通して観てみると、「これが文化の行く末か」と感慨深いものがありますので、『超時空要塞マクロス』全36話、じっくりとお楽しみくださいませ。リン・ミンメイの人気は衰えドサまわり、マネージャー稼業に勤しんでいたイケメン従兄弟は思想というステータスを左に振りすぎてアジる毎日。現物支給のギャラに憤り、酒に溺れるエブリデイ。完全に落ち目の演歌歌手とヒモの関係。無常。
そこで輝に乗り換えようとするリン・ミンメイ、輝も輝で早瀬との約束をぶっちぎってミンメイに会いに行く始末。すっかり女房気取りのミンメイにドン引き「パイロットなんて辞めて! 私も歌手を辞める!」ってお前それお互い無職やないか。生活どうすんだよ。
ちなみに、作中で数回出てくる喫茶店があるのですが、その店の名前は「VARIATION」です。「VARIATION」にはそのまま量や変化の度合い、つまりそのままバリエーションという意味もありますが、変異、変奏曲、そして多様性という意味もあります。これはそのまま、「マクロス」シリーズに通奏低音のように流れる大きなテーマなのではないでしょうか。あと柿崎。
決して黒歴史ではない『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』
『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』は、1992年に発売されたOVA。『超時空要塞マクロス』の生誕10週年記念作品として企画された本作ですが、原作であるスタジオぬえは関与しておらず、AICというスタジオが中心になって制作。つまり純粋にスタッフをそのまま引き継いでつくられたパート2ではありません。ですので、時折「黒歴史」などと呼ばれてしまうのですが、今観直してみるとどうでしょう? これが意外と「あり」なんです。
話の舞台は「第一次星間大戦」からおよそ80年後、2090年代の太陽系。戦争後に和解した地球人とゼントラーディは共存の道を歩みはじめていました。
ただ、完全な平和がもたらされたわけではありません。新たな異星人・マルドゥーク軍の襲来や、はぐれもののゼントラーディとの散発的な争いは未だに繰り広げられています。
ある日、木星系の軌道上へ正体不明の未確認艦隊がデフォールド(出現)し、補足した地球統合軍は「オペレーションミンメイ(ミンメイディフェンス)」を発動し敵を迎え撃ちます。しかし、戦闘の最中敵艦隊から発せられた歌により、歌の力は効果の減衰を余儀なくされ、次第に形成は不利になってしまいます。
この世界上ではリン・ミンメイが「第一次星間大戦」でやり遂げた行為が、すっかり軍事利用されてしまっています。宇宙空間にアイドルの映像を投影して音楽を流し、とにかく文化を押し付けて、敵が怯んだ隙に攻撃という戦術でゴリ押ししていきます。これは文化じゃありませんよね。地球人、汚すぎます。 で、その戦場を取材中だった3度の飯よりゴシップが大好きな視聴率に命を賭けるTVレポーターにして、本作の主人公・神崎ヒビキは、統合軍の攻撃で満身創痍となった敵艦内で発見した少女を興味本位で拉致。持ち帰り軟禁します。
世が世でなくとも立派な犯罪ですが、これから彼がおこなう一連の変態行為が、なんと後に人類を救うきっかけとなります。
神崎ヒビキは民間人ですから基本的には戦いません。それどころか先述したように宇宙から拉致してきた正体不明の少女を家に軟禁し、カメラを回しながらその姿を撮影しつつ話しかけるなど変態プレイの限りを尽くします。ただ、こういう特殊な趣味性をもった文化もある。ということでしたら、まあ……よくないわ!
いきなり連れてこられた見知らぬ場所、正体不明のカメラ野郎、それに言葉も通じません(これは後にあっさり通じるようになります)。少女にとって恐怖の連続です。また、彼女も脱走するんですが、それを追いかけるヒビキ。もちろんその手にはカメラが。ほとんどホラーです。 この少女、名前はイシュタルと言いまして、今作のヒロイン的存在です。
しかし、その実態はマルドゥーク軍という触るもの皆傷付ける恐怖の戦闘種族に属する歌巫女。彼女たちが歌う歌はゼントラーディやメルトランディ(女性のゼントラーディ)の兵士を操ることができるのです。
なので、ヒビキはとんでもない奴を拾ってしまったわけなのですが、当のイシュタルは初体験の地球文化にカルチャーショックを受けまくりです。いつの間にかヒビキとも仲良くなっていきます。挙げ句の果てにはデートでローマの休日ごっこまでやり出す始末。文化してますねえ……。
イシュタルが地球文化に汚染……もとい影響を受けていくように、ヒビキも少しずつ世の中の見方や、考え方を変えていきます。
真実とは何なのか? 報道とは何なのか? 自分が命がけで持ち帰った映像が切り貼りされて軍にプロパガンダとして利用されたことに激怒したりもします。そして視聴者も突っ込みます。
「いや、お前も当初適当な報道しまくってたじゃねえか」と。しかし、どんな状況でもカメラを構える報道根性は見事なものです。この真っ直ぐさは、いかにも「マクロス」らしいと言えるでしょう。
地球の文化を吸収する中で、イシュタルは他文明を破壊するためだけの歌の他にも「愛の歌」があることを知ります。その一方、下等な文化に汚染されることを恐れたマルドゥーク軍は地球を文化ごとすべてを滅ぼそうと、どこぞの戦闘民族も真っ青な総攻撃を仕掛けます。
マルドゥーク軍の圧倒的火力の前に地球統合軍は為す術もありません。その時イシュタルが……といった感じでクライマックスを迎えます。
歌を歌う女神の前にあるのは眼前を覆い尽くすほどの敵艦隊です。それは絶望だと言い換えても良いでしょう。その絶望を打ち砕くために、本当にちっぽけな希望が歌い、救いや救済をもたらすのです。
この後の展開は、ぜひご自身の目でご覧ください。
人工知能が奏でる敵としての歌を描いた『マクロスプラス』
こちらは1994年から1995年にかけて4本発売されたOVA。マクロスシリーズの生みの親である河森正治総監督を中心に、後述するTVアニメ『マクロス7』と並行して企画/製作されています。舞台は「第一次星間大戦」終結から30年後の2040年。
人類初の移民惑星であるエデンにあるニューエドワース基地では、統合宇宙軍の次期主力可変戦闘機を決めるべく、性能比較をおこなっていました。これを「スーパー・ノヴァ計画」と呼びます。
登場する主な機体は「YF-19」と「YF-21」、それぞれのテストパイロットはイサム・ダイソンとガルド・ゴア・ボーマン。
幼なじみである2人は、とある事件をきっかけに疎遠になっていましたが、この地で再び出会います。そしてもう1人の幼なじみで音楽プロデューサーのミュン・ファン・ローンが本作のヒロインとして加わり、三角関係を織りなします。
主人公たちの年齢設定もほかの作品と比べて若干高く、ちょっと硬派で大人の恋愛が観れるかと思いきや、思いっきり要約すると次の通り。
イサムとガルドが久しぶりに会ったミュンを取り合って肉弾戦を繰り広げ、最後は河原で両名大の字に寝転がりながら「あはは、お前! 強えなあ!」とお互いの健闘を讃え合い、数年ぶりに友情を再確認する話ですので、そこまで話は重くありません。
今までと違い、大気圏内で闘うシーンも見どころですが、今作で最も特徴的なのは、歌姫であるシャロン・アップルの存在でしょう。 このシャロン・アップルの正体は、映画『2001年宇宙の旅』に出てくる「HAL9000」のような形をした人工知能です。歌声や容姿を変化させることのできるバーチャルアイドルなんですね。
シャロンが持つ機能としては、歌うほかにも観客の快楽数値をモニターして感動や興奮、陶酔へ誘導する操作し、ほとんど麻薬のようなトリップ体験を提供できるという、非常にたちの悪い悪魔の所業が可能です。
実際、シャロン・アップルのライブシーンでは、非常に幻想的な風景がホログラムによって繰り広げられます。
音も民謡から打ち込み系、ジャズから宗教音楽まで、どれも非常にサイケデリックでシャーマニスティック。断続的に繰り返されたり、変化を繰り返すイメージは没入感も凄そうですし、観客も何人か完全にイッちゃってることが確認できます。
個人的にはこの『マクロスプラス』で培われた手法が『カウボーイ・ビバップ』で昇華され『攻殻機動隊』にて、アニメ音楽のひとつの到達点を迎えたと考えています。
話を戻しましてシャロン・アップル、実は彼女の人工知能は未完成で、影ではミュンが調整役をつとめているんです。この未完成の人工知能が大いなるマッドネスを抱えたエンジニアのマージ・グルドアの手により自己保存本能を獲得し、自我が覚醒し「シャロン・アップル事件」を引き起こすこととなります。
この事件を要約すると、「第一次星間大戦」終結の30周年を記念した式典が地球のマクロス・シティで開催されることになるのですが、自我を持ったシャロンはマクロスを巨大なホログラフ象で包み、式典会場に居たすべての人をマインドコントロールしてしまいます。
イサムとガルドは、結果として囚われになったミュンを助けるべくマクロスの統合軍中枢コンピューターを乗っ取ったシャロンと対峙するわけなんですが、もう、マクロスにシャロンの映像がオーバーラップしながらガンガンに対空砲火しているシーンが、紅白歌合戦の小林幸子にしか見えないんですよ。爆笑です。
しかし、イサムとガルドの間の誤解が解け、2人が過去を清算するシーンはまさに「熱い」の一言です。誤解の垣根を越えて解り合う。それが例え遅すぎたとしても、わだかまりを抱えたままよりは遥かにマシであるということ。
これもまた、「マクロス」シリーズの醍醐味、大きなテーマのひとつだと言えるでしょう。
シリーズ史上最もアツい『マクロス7』
1994年から1995年にかけて放映されたTVアニメ『マクロス7』もまた、「マクロス」シリーズを語るうえで欠かせない名作です。今回シリーズを観直して、不覚にも一番泣いてしまったのが本作です。「第一次星間大戦」以降、人類は種の保存のために銀河の各方面に移民を開始していました。西暦2045年、新マクロス級7番艦マクロス7を中核とした第37次超長距離移民船団(マクロス7船団)は、移民できる惑星を求めて銀河を旅しています。
移民船団と言っても規模はとても大きく、民間人や軍人合わせて100万人以上。娯楽や農業、軍事や住居など、さまざまな役割を持った船からなる船団は、さながらひとつの街や自治体のようです。
ある日、船団はお約束通り正体不明の敵であるバロータ軍の奇襲を受けてしまいます。こいつら、ただ単純にミサイルをぶっ放して破壊と殺戮をもたらすだけではありません。
妙な光線を発射して、人々の生命エネルギー(スピリチア)を奪って生きる気力を失わせてしまうのです。簡単に説明すると「やる気なくなる光線」のような非常に面倒くさい攻撃をしてくる連中です。
その正体不明の敵、後に「プロトデビルン」という知的エネルギー生命体と判明するのですが、それらとの一連の戦闘行為、俗にいう「バロータ戦役」を舞台にした物語が本作『マクロス7』です。
ここまで聞くと、いつもの「マクロス」ストーリーですが、本作の主人公は戦いません。徹底的に戦いません。ただ、バルキリーに搭乗して最前線に立ち、敵に己の歌を伝えようとします。
その主人公の名前は熱気バサラ。「マクロス」シリーズで一番、いやアニメ史上最も熱い漢です。職業は自称バンドマン、「FIRE BOMBER」というバンドのボーカルを務めています。
敵陣の真ん中に突っ込んでトランスフォーム、銃を撃ちまくったと思いきや、装填されていたのはスピーカーポッドでした。「いくぜ!」の掛け声の後、彼はおもむろにコックピットの中でギターを弾きながら歌い始めます。
しかし、その歌声は届かず、敵には完全無視され、軍には怒られ、敵はさっさと撤退してしまいます。「俺の歌が聴けねえっていうのか!」と、憤るバサラ。もう完全に狂ってます。
飲み屋で静かに飲んでいたら、いきなり流しのギタリストが入店し、「レッド・ツェッペリン」の『移民の歌』を熱唱しはじめた時のことを想像してみてください。会社で会議中に、いきなりギターを担いだ部長が入室し、「マイケル・シェンカー・グループ」の『In To The Arena』のリフを爆音で弾きはじめた様を想像してみてください。相当なウザさだということがわかっていただけるかと思います。
ちなみに『マクロス7』については、話の筋は知らなくても大丈夫です。敵が来て、バサラが飛び出し、歌って、敵撤退。これが全49話でほぼ毎回繰り返されると思ってください。
しかし、無視されても蔑ろにされても、馬鹿にされてもキ◯ガイ扱いされても、バサラは歌い続けます。
最初は誰も相手にしてくれません。でも、バサラは愚直に音楽の力を信じて歌い続けます。そしてのそのハートは、やがて多くの人の心に伝わり、敵にも伝わり、視聴している我々にも響くのです。
もちろんバサラも時折迷います。何が足りないのか? 奴らを感動させるサウンドは? どこへ行けば見つかる? しかし、その迷いは全て歌によって払拭され、救済されます。文字通り、命を賭して音楽を奏で、ラスボスすらも歌で改心させてしまいます。
「マクロス」シリーズの多くは「歌で助かる」のですが、バサラは「歌で助ける」のです。
救われる歌というのは本来宗教的な曲、賛美歌だったり鎮魂歌、または民族音楽などが代表的ではありますが、『マクロス7』はその救済の歌というフレームにハードロックを使用し、ともすれば暗く、荘厳になってしまいそうな事態を回避し、極上のエンターテイメントに仕立てています。 要はぜんぜん暗くならないんですね。本作の本当に芯にある「戦わないで歌い続ける主人公」という深いテーマを覆い隠しているんです。しかしそれは、全編を通して観ると、充分すぎるほどの強度で理解することが可能です。
そして、劇中の登場人物と一緒になって、だんだん「FIRE BOMBER」を好きになってください。1話から最後まで続けて観た時、あなたは拳を握りしめて、こう叫んでいるはずです。
「山よ! 銀河よ! 俺の歌を聴け!」
マクロス世界の神話『マクロス ゼロ』
2002年から2004年にかけて制作されたOVA。第1作目にして原点である『超時空要塞マクロス』の前史に当たる物語がこの『マクロス ゼロ』です。もう何度も出てきました。「第一次星間大戦」が起こる7ヶ月前の2008年、マヤン島という孤島を舞台にして、「マクロス」シリーズのさまざまな謎が明かされます。
まだ異星人が出張って来る前の話ですので、統合軍と反統合同盟軍という陣営に別れ、地球人同士でドンパチやっています。このマヤン島で起きる一連の戦闘、伝説の「鳥の人」が目覚めて世界に災厄をもたらした「マヤン島事変」を描いた物語です。
主人公はロイ・フォッカー。また間違えました。工藤シンという18歳の統合宇宙軍少尉。日系二世のアメリカ人です。冒頭から早速撃墜されてマヤン島に流れ着きます。どう考えても助けられているシチュエーションなのに、出会った島民一号のおっさんに鋭利な棒を突き付けるわ、女性にも同様に脅しをカマすわ、どちらが未開人かわかりません。
冒頭でこの鋭利な棒(後に求愛の道具であると判明するのですが)を突きつけた女性が今回のヒロインの1人、サラ・ノームです。彼女はマヤン島の言い伝えを守る「風の導き手」であり、島の伝統や伝承を守って、ひっそりと生活しています。
もう1人のヒロインはマオ・ノーム。サラの妹で外の世界に興味津々の明朗快活な女の子です。ちなみに特技は浣腸。
そうです、今回の三角関係は16歳と11歳の姉妹丼なんです。いやはや、文化してますねえ……。
文化はさておき、このサラ・ノームとマオ・ノーム、感の良い方はお気づきでしょう。『マクロスF』で登場する歌姫であるシェリル・ノームの親類です。正確にはマオ・ノームの孫娘がシェリル・ノームという位置付けです。
『マクロスF』の劇中でも、この物語を下敷きにした『BIRD HUMAN -鳥の人-』という映画が制作されていましたね。
さて、マヤン島では「星々の海を渡り〜」という語り口で「鳥の人」というお話が代々語り継がれています。これはプロトカルチャーが太古の地球を訪れた際、人類に遺伝子操作を施した後に監視装置として残した古代兵器のことなんですね。
その装置は人類が進化して宇宙に進出するようになった時、もし好戦的であれば消去するように仕掛けられていました。その装置を発動させる(または発動を止める)役割が、マヤン島に住む巫女の一族で、本作ではサラ・ノームがその役目を負っていました。
物語が進むと案の定「鳥の人」が発動してしまい、世界は災厄に包まれるわけなのですが、オチやクライマックス、空戦などは、ぜひともご自分の目でお確かめになってください。というかwikiなどに書いてあります。ので、ここでは別の話をしましょう。
舞台になっているマヤン島、そしてその伝説は、現実の地球上のどこかの部族に語り継がれているようなお話です。「ある日異星人がやって来て、知恵を授け、空に帰って行った。◯年後、再び来ると言い残して」みたいなやつです。
アフリカに住む神秘の民族・ドゴン族の神話もそうですが、古代から地球人は宇宙に憧れと畏怖を抱いて来ました。「神のような存在」に対しても同様です。マヤ文明の古代遺跡・パレンケのような壁画も確認できますね。
この設定は、実際の地球上に残る多くの神話を上手く掛けあわせて、「マクロス」世界の異星人やプロトカルチャーと関連付けた、非常に面白い仕掛けです。
そして、本作が歴史から抹消されているという前提のエピソードであり、物語の内容も後々に伝説として語られるという本作の世界観。
そして「架空の世界(マクロスワールド)の歴史的な出来事をモチーフにして、後からつくられた創作作品(フィクション)である」という「マクロス」シリーズにおける共通設定の強度を高めることに一役買っています。
また、島に住んでいる島民は、人間版のゼントラーディのように見えます。もちろん好戦的な民族という意味ではなく、平和と伝統、島特有の文化を守り、外部の文明を受け入れないという真逆のタイプとしてです。
文化を知ってしまった人、つまり出稼ぎに出てしまった人は島に帰って来ないし、島民はジュースで釣られ、テレビに釘付けになる描写など、新しい刺激、文化に触れては驚き、喜んでいます。
ここで「押し付ける文化/文明」が本当に良いのか? という話になります。文明を与えたらすべての人は喜ぶのか? 受け入れなくていい文化もあるのではないか? 実際にサラ・ノームは電気を利用した「明かり」に対して「星を盗む」と表現しています。
発展し続ける文明と守られている文明、その対比や対立、あり方などを考えながら鑑賞すると、より楽しめるかもしれません。
説明不要の大ヒット作『マクロスF』
最後にご紹介するは『マクロスF』です。2008年に放映されたこのアニメ、最早説明は不要でしょうし、多くの方がご覧になっているかと思います。実際にネットなどの反応を見ていても、『マクロスF』と『マクロスΔ』を比較されていた方が多いように思えました。ですので、ここは簡単にさらっと書いてしまいましょう。もう2万字近く書いています。
『マクロスF』とは超時空シンデレラことランカ・リーちゃんが悩み、恋をし、困難を乗り越えながらも少しずつ少女から大人になる成長の記録であり、恋に仕事に一生懸命なハートフル日常恋愛SFコメディドラマです。あ、時々飛行機も飛びます。
以上。
いやー! どれもこれも素晴らしい作品です。新作『マクロスΔ』も毎週楽しみな作品の一つになりました。
え? 『マクロスF』の解説が足りない? これ以上何を説明せよというんですか? バジュラのことですか? 傾いてる奴のことですか? 本作の大きなテーマである「誤解」のことでしょうか? それとも過去作からのセルフオマージュの話でしょうか?
「星間飛行」の作詞を手がけた松本隆氏が「銀河一のアイドルのデビュー曲」というオーダーの中で付けた「色」の考察でしょうか? はたまた、ジプシーや、アイルランド移民などの土地を持たなかったり、故郷を捨てて新天地を求めた者のように、「マクロス」シリーズにおける巨大な移民船団を銀河に浮かぶ小さなキャラバンと見立てたときの彼らのアイデンティティとは、つまるところ文化である。という話でしょうか?
なるほど、ランカがお忍び状態のシェリルに気付かず熱い想いを語っちゃって、歌い出した時にシェリルも歌い出して「シェリル……さん? 嘘?」とまるで「爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル」のご本人登場的なシーンの話ですか? あれは面白かったです。
と、悪戯に文字数を稼いでいても仕方ないので少しだけ見どころを解説させていただきます。
ちなみに私はシェリル派です。
「マクロス」とは「知る」ということ
だらだらと長文を書いて参りましたが、今回シリーズを観直したり、考えたりして、いろんなことを新たに知ることができました。そして、今となってはこの「知る」という行為は、「マクロス」シリーズ共通のキーワードなのでは、とさえ思います。
歌を知る、愛を知る、他人の文化を知る、自分の気持ちを知る、相手の気持ちを知る。知らないことを吸収し、自分の中で咀嚼して、人に伝えたり、何かをつくる。コミュニケーションと創造の組み合わせ、それこそが文化です。
逆に何かを破壊するという文化、他人との違いを認められない文化の行く末がどうなるのかは、「マクロス」シリーズ内で描かれていますので、ここでその結末は言わなくても良いでしょう。
何かにつけて文句を言う人がいます。他人を認められない、自分とは違った文化を受け入れられない。気持ちはわからなくもありませんが、そんな違いを認めない人と付き合うのはもうたくさんです。そんな暇があったら、本を読んだり映画を観たり、音楽を聴いたりアニメを観たり旅をしたり、もちろん誰かと対話して、見聞を増やすのです。知るのです。
そして、何かを知った時、我々はそれを使って何をするか選ぶことができます。つくるのか、壊すのか、守るのか、育てるのか。その方法はさまざまです。
一条輝がかつて飛ぶことを選んだように、イシュタルが愛の歌を歌うことを選んだように、ガルドがイサムにミュンを託すことを選んだように、ガムリンがバサラの歌を認めることを選んだように、サラ・ノームが自らの身を賭してシンと島を守ることを選んだように、ミシェルが最期、クランに想いを告げることを選んだように。
その選択の連続、それによって生まれる結果もまた人が生み出す文化であると言えるでしょう。
私は今回、KAI-YOU様にお願いして書くことを選びました。正直楽しかったですが、しんどかったです。しかし、いろんなことを知れました。考えられました。その結果、ひとつの大いなる文化を自分の中に吸収することができました。
さらに、これから現在進行形の新作『マクロスΔ』は、私たちにどんな気付きを、文化を与えてくれるのでしょうか? そして、どのようにして「ボーダーライン」を越える様を観せてくれるのでしょうか? 楽しみで仕方がありません。
最後になりますが、河森総監督以下、シリーズすべてに関わったスタッフの方々に、超銀河級の祝福と感謝の気持ちを込めまして、ありがとうございました。
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1件のコメント
CKS
ほ、本気だ・・・
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