連載 | #1 水江未来のクリエイション・ミライ!

アニメーションって〝うなぎ〟みたい──水江未来×超新星作家・ぬQ

贅沢で無駄なアニメーション

──ぬQさんのことを激賞されているマンガ編集者の竹熊健太郎さんは、TwitterでぬQさんの作品群を「ぬQサーガ」と形容されていますが、ご自分ではいかがですか?

ぬQ 「サーガ」と言うと恥ずかしいんですが、私の作品は全部つながっているのは本当です。絵画作品の「さよちゃんとエビ天の大陸トーヒコー」シリーズに登場するさよちゃんが、夏休みの宿題が終わらないから全部を爆発させて、時間や大陸を拡大させた世界で起こっているお話なんです。それぞれのお話を、その時々で機会があった順に発表しています。自分の中では、結末も全部含めて、もう決まっています。

水江 作品に関して、何を聞いてもすらすら返ってくるところが、黒坂圭太さんと似ていると感じました。黒坂さんの『緑子』も、一人で十何年かけてつくった長篇アニメーションですが、そこに登場するキャラたちのことを聞くと、ひとり一人のエピソードを全部スラスラ答えてくださる。そういう創作物に対する距離感というか、既に自分がその中にいるような感覚が、黒坂さんと同じなんです。

ぬQ ほんとですか! 私、黒坂さんに似てるなんてとても嬉しいです!

──ぬQさんは水江さんの作品について、どう考えていますか?

ぬQ 私はずっと、水江さんの考えるストーリーを観てみたいと思っています。最近、しっかりしたキャラクターものの作品を描かれていて、それが完成するのが楽しみなんです。

水江 ちなみに、ちょうど今つくっている『ももんくん-momon-』というアニメーションのストーリーは、僕ではなく、今回コラボしているアニメーション作家の藤田純平さんが考えたストーリーを、アニメーションにする際にもう一度僕が想像するという、変なつくり方になっています。

ぬQ それを観たいです。私はずっとお話を描いてきたから、結論ありきじゃないけど、お話くさいお話な気がしてしまうんです。しかも、大抵私はオチから先につくっていくので、この展開はみんなに見透かされているんじゃないかという気がして心配になる。だから、私の全く知らないようなつくりかたをしている、お話を普段つくらない人のお話を観てみたいです。

水江 今回は、一応、普通にストーリーがあって話が展開していくんだけど、抽象アニメーションでやっているようにつくっているので、最終的にどうなるか自分でもわからない。つまり、コンテの中で自分が作画しているシーンは、描いていて一番気持ちいい順番で。しかも、描いているとどんどん足していってしまう。無駄に動かしたくなってしまうんですよ。

アニメーションの作業量は膨大だから、テレビアニメとかでは無駄を省いて制作するのが基本。でも、僕は、どんどん無駄なものを足していったらどんなアニメーションになるかなと考えてしまうんですよね。

ぬQ 私もずっと、主要なキャラは静止画で、背景だけがずっと動いているアニメをつくりたいと思っていました!

水江 本来描くべきところではなく、どうでもいい部分をめっちゃ描いてみたい。ある意味、だらしないアニメと言うか、色んなものがくっついたブクブクなアニメーションをつくってみたい。

ぬQ 無駄ってすごい贅沢ですよね。私も、贅肉がつきすぎて、元々の形がわからないようなものをつくりたい。

ぬQさん

──ところで、2人はテレビアニメはご覧になりますか?

ぬQ 最近は『カイジ』ブームです。カイジの音声をラジオがわりにしていて、辛くなったら聞いています。「今頑張らないと死ぬっ!」と自分に言い聞かせています。食べそうになった時もカイジを思い出して我慢する。私はこれを「カイジダイエット」と名付けました。

水江 僕はアニメもマンガもそこまで詳しくないです。何十話、何十巻とか、ずっと続いて終わりが見えないので、連載物が苦手なんです。添い遂げないといけないわけだから、最初から「これは何巻で終わります」と言ってほしい。

ぬQ 抽象アニメーションをつくる水江さんの意見として、納得です。逆に私は物語を描いているから、お話が続いていても全然苦じゃないんです。

ポップになりたい

水江さん

──最後に、「細胞アニメーション」を制作され続けてきた水江さんと、絵画・漫画・アニメーション作家として注目を浴びるぬQさんがそれぞれ、今後も追求していきたいことを教えてください。

水江 僕は、ポップになりたいというテーマがずっとあります。

ぬQ そうなんですね。気持ちよさを追求されているというのは感じます。

水江 「実験アニメーション」と言うと、アンダーグラウンドな仙人のような人がこもってつくっているようなイメージがあるけど、そうではなくてもっと開かれたものにしたいと思って抽象アニメーションをやっているんです。

ぬQ 確かに、自主制作のアニメーション、暗い作品が多いと感じる時があります。一人でやっていると、心象風景がどんどん暗くなっていくからでしょうね。もっと、はじける感じの作品が増えたらいいなと思います!

水江 具体的に今後追求したいことはいくつかあるけど、僕は、音楽の力はアニメーションにおいてとても強いものだと思っている。一昨年から音楽の人につくってもらって、新たな可能性が開けたところがあるので、それを追求していきたいですね。

ぬQ 水江さんの作品は、音楽をすごい大事にされていますよね。

水江 「WONDER」も、パスカルズという、14人編成のアコースティックオーケストラグループに音楽を担当してもらいました。パスカルズ好きには、音楽ありきでつくったアニメーションのように見えるかもしれないけれど、実際は逆。僕のアニメーションがあって、そこにあわせて展開を考えて音楽をつけてもらうという、珍しい方法を採用しています。

「WONDER」©CALF – CaRTe bLaNChe – Mirai Mizue - 2013

ぬQ 専門家の人に聞いたんですが、ミュージカルの文化などが盛んではない日本では、映像に合わせて音楽を展開させる「スコアリングミュージック」ができる人が少ないんだそうですね。

水江 そうですね。ただ、やってみると、自分の映像に対してこういう風に解釈してくれたんだというのが、音を聞けばわかるので、それが非常に面白かったですね。音楽とのコラボは僕が今一番大事にしていることかもしれない。

ぬQ 私は、自分の中に既にストーリーが存在しているので、自分でも満足できて、みんなにもわかってもらえる、一番良い形で、ひとつ一つ丁寧に丁寧に発表したいです。

まだどこで発表するかは、全然決めていません。それぞれ、アニメがいいのかマンガがいいのか、理想的な表現も決まっていないので、機会がある度に発表して、完結させたいと思っています。
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水江未来のクリエイション・ミライ!

世界中のアニメ映画祭に招聘される国内アニメーション作家・水江未来さん。2014年1月から、初の特集上映を逆輸入的に行うことを記念して、その水江さんに対談連載を開始しました。 その時々で水江さんの気になるクリエイターさんのもとを訪ね、腹を割って語り合う表現の未来──ゲストには、爆ポップなアーティスト・ぬQさん、マンガ家のしりあがり寿さん。彼らとの化学反応やいかに!

関連キーフレーズ

水江未来

アニメーション作家

細胞や幾何学模様などをモチーフに抽象的なアニメーション作品を多数制作。これまで、世界30ヵ国、250を超える映画祭に参加。2011年制作の『MODERN No.2』はベネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にノミネートされ、アヌシー国際アニメーション映画祭では日本人初となる最優秀映像音楽賞を受賞。山田悠介『ブレーキ』の表紙を手がけるなど、イラストレーターとしても活躍。日本初の特集上映となる『ワンダー・フル!!』が、2014年2月22日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー、順次全国公開。配給:マコトヤ+CALF  詳細は公式サイトにて http://wonder.calf.jp/wonderfull/

ぬQ

絵画、まんが、アニメーション作家

東京生まれ。多摩都美術大学大学院修士課程デザイン専攻修了。04年、ポートフォリオサイト「ぬQのHP」を開始。2012年、修了制作のアニメーション『ニュ〜東京音頭』が、第18回 学生CGコンテスト最優秀賞などを受賞。2013年には、連作絵画<さよちゃんシリーズ>をアニメーション化、MTV番組内で放映中。また、11月から12月にかけて、pixiv Zingaroにて個展「3点トーリツ展」を開催。

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