連載 | #1 水江未来のクリエイション・ミライ!

アニメーションって〝うなぎ〟みたい──水江未来×超新星作家・ぬQ

作品が手離れする瞬間

水江 僕がアニメーションをつくる場合、パーツ毎に描いたりするし、シーンも順番ではなく飛び飛びで描くので、そのバラバラなものを管理して、一つのアニメーションとして組みあげていくという感じなんです。完成するまで、かなり神経を使う。

ぬQ 全体が見えないですよね。自分が今どれとどれをどこまでつくっているのか、フォルダの管理のせいでごちゃごちゃになってしまって……

水江 結局、完成してみないとわからないしね。

ぬQ 私、『ニュ〜東京音頭』を改めて5分繋げて音も付けた状態を自分で鑑賞した時に、「何これ? 私こんな作品に2年かけてたんだ…」って思って、ぞっとしちゃったことがある(笑)。周りはみんなグラフィックデザイナーとして良いところに就職して働いてる中、自分はもう一回親にお金出してもらって2年間延長して大学院でこんなものをつくったのかと思っちゃいました。

水江さんは、一生懸命つくって完成したものを観て、ちゃんと自分が心の中で思い浮かべていた映像になっていますか?

水江 どうなんだろう、心の中に思い浮かべていたもの……全く一緒になったことは一度もないと思う。そういうことって起こるものなのかな? 作品によっても違うけど、ある程度の満足はする。今までやってないやり方でやると不安でしょうがないけど、自分が積み上げてきたスタイルでつくったものだと、何となく手応えがわかったり。けどやっぱり、物足りなさは絶対に感じる。

──自分の想像していない動きをする意外性がある一方で、ご自分の心象風景をアニメーションで完璧に描き切ることはできないという物足りなさもある、ということでしょうか?

水江・ぬQ うーん……。

水江 ただ、僕の場合、40歳や50歳でどういうものをつくっていられるかということを考えながら作品をつくって積み重ねていっているので、作品を一つつくって課題が見つかったらまた次でクリアしていこうみたいな、そういう感じなんです。だから、命を削ってつくっているけれど、出来上がったものに対しては割とドライと言うか。自分の手を離れてしまったら、もう次の作品をつくっていくしかないですから。

ぬQ そうですね、離れちゃったらどうしようもないですもんね。

水江 だから作品が完成する瞬間ってなんか複雑な気持ち。まだ自分の手の中で転がしていたい、みたいなとこもありますね。

細胞だけを描いてきた

水江未来「JAM」©Mirai Mizue

ぬQ 学部の時からずっとアニメーションですか?

水江 そうだね。もっと言うと、学部の頃から細胞しか描いてなかった(笑)。

──なぜ細胞だったんですか?

水江 紙を隅から隅までびちっと細胞で埋めて絵を完成させて、それを見た時の気持ちよさ、すうっと落ち着く感じが好きなんです。

ぬQ 「わあ!」っていう感じかと思ったんですが、落ち着くんですか?

水江 すごい落ち着くんだよね。ぎゅうっと密集しているもの、びっちり感が基本的に好きで。色んなピクルスが詰まった瓶とか、ぎゅうぎゅうのおかずを詰め込んだお弁当とか。

細胞を描く水江さん ©Mirai Mizue

ぬQ ……水江さん私のこと「ヤバいヤツ」みたいに色々言いますが、水江さんの方がずっとヤバいですよ! ぎっちり詰まったお弁当が好きとか初めて聞きました。でも、好きな感じというものは、私にもあります。私の場合は、キラキラしたアクセサリーとかが大好きなので、お互い作品に表れていますよね。

水江 そうかもしれないね。もう一つ、多摩美に入ったら、描写力のある上手い人だらけだったから。アニメーションだけではなく、イラストやCGの授業とかもあったんですけど、特にCGが全然できなかった。先生が何を言っているのかさっぱりわからなかった(笑)。一応、自分のキャラクターをつくってみたんですが、さっきの、完成した作品の物足りなさとは全然違う意味で、技術的に、CGで自分の思っているような形につくることができなかった。2000年代の前半から、ピクサーがどんどんCGですごい作品を出していて、ああいうのを観ていると、自分がつくるCGって何だろうと思ってしまって。

じゃあ僕が勝負できるものをと考えて、自分しか投げられない変化球を磨くことに決めて、細胞をカリカリ描き始めたんですよ。それからは、どの授業の課題でも細胞を描いていた。大学に入学した時から卒業制作で何をつくるかを考え、それに向けての4年間でした。

誰かと一緒につくること

ぬQ 9月に、ちょっとだけ仕事でアニメーションをやったんですが、本当に苦しくて。

一秒で大体24枚から30枚描いているので、2~3秒の加筆でも90枚とかになってしまう。自分が至らないのが悪いんですが、リテイクが3、4回もあると……比喩じゃなくて、本当にアニメーションという表現に殺されかけて。思い出そうとしても、9月だけ何も覚えていないんです。家にいるのに、ベッドのある部屋にも行かず、義務的に夜10時くらいにお風呂に入ろうかなというくらいで、ずっとパジャマからパジャマに着替えてるだけ。それ以外は仕事でした。そのかいあって、いいアニメーションができましたよ!

水江 すごい短い締切の中で一人でやるのは辛いよね。間に合わなかったらどうしようとか、納期を考えたら寝る時間ねーぞ、とか。

ぬQ 山村浩二さんが何かの著作で、一人でやるには限界があって、いつかみんなでやらないといけない日がくると言っていて。自分の絵やアニメを人に触われるのがすごく嫌で、私はその言葉を聞いてもなお、自分でやりたいと思っていた。でも今回、本当に死にそうになって、アニメーションを続けるためにはアシスタントが必要だと気付いた。生きるために必要だと実感しました

水江 自分と同じような人がもう一人いたらね……。

ぬQ 自分を複製して奴隷にしたい。想像上の話ですけどね(笑)! だって、私の作品のために、ここまで本気で頑張れる人は自分以外いない。私も72時間同じパジャマで机にかぶりつくなんて、他の人の作品だったらできないです。

水江 でも、人と一緒にやっていると、自分が想像もしていないアイデアが出てくることもあって、それが面白い。スタッフワークでつくっていても誰かとコラボしていてもそれは思う。自分ではやろうと思っていなかったハードルを向こうが設定してくれたり、刺激的です。

例えば『AND AND』は、僕の作品のイメージから松本亨さんが音楽や歌詞をつくってくれて、僕がそこからアニメーションをつくった。今回の特集上映「ワンダー・フル!!」でも、上映後の登壇挨拶用に、ファッションブランドのkawala BY masayoshi yamamotoさんとコラボして、ワンダーな紋付袴で登場する予定です。

ぬQ 私は、ダメです。うたれ弱いです。一度けなされてしまうと、かなり凹む方ですね。『ニュ〜東京音頭』も、とっくに完成してたのに、映画祭とかアニメーション祭とかにもなかなかひっかからなくて、「学生CGコンテスト」でようやく評価をいただいて、ようやく公開する気持ちになれた。

「【ピクシブ】【ランキング】【のる方法】」

──個展開催前も、とても心配されていましたよね?

ぬQ すっごい心配でした。同じギャラリーで既に個展を開催されていたまたよしさんやJH科学(johnHathway)さんは、開催前のソーシャルポスト数も数百だったのに、自分は35とかで……今まで自分は「pixiv向き」じゃないと言うか、Photoshopとかで描く美人画っぽい系統じゃないから、ということで予防線を張ってきた部分があったんですけど、圧倒的な人気のなさを数字で直接見て、とてもショックでした。これはもう、作品にして乗り越えないとって思って、本当に切実な気持ちで「【ピクシブ】【ランキング】【のる方法】」というpixiv研究マンガを描きました。

──反響はいかがでしたか?

ぬQ やっぱり「pixiv」をやっていれば誰でも気になる問題だったので、全然知らない人もたくさん見てくれました。

ランキングで1位とか2位の作品でも、実はSNSの口コミ自体はそれ程でもないんですよ。でも私のは15位とかだったのに、ツイート数は300ぐらいありました。本当にすごくキレイな美人画だと、「キレイだな」「スゴいな」で終わってしまうんだけど、あのマンガに対してはみんな一言「そうだよね」とか「いや、自分はそんなこと思わない」とか、一言言いたい気持ちが必ずどこかにあるから、話題を広げるにはこんな風に仕掛けをつくっていくんだなと思いましたね。

水江 うん。スゴいとしか言えないんだけど(笑)。

ぬQ いえいえ、もはや二次創作に頼るのも辞さない気持ちで、本当に真剣に(初音)ミクを描こうかなとも思いました。「いや、今は『まどマギ』か『キルラキル』か『黒子のバスケ』だ」とか、一番人気のキャラは何だろうと考えもしました。でも、愛がないのに描いても、キャラクターの性格設定もわからないし、細部がおかしくなるので、やっぱりダメだと。改めて、描きたいものを描かないと仕方がないんだという当たり前の事実にたどりつきました。

会場に展示されているぬQさんの「歯クション大銀河」

水江 そういえば、ぬQさんのサイト見たんだけど、ものすごい長い、と言うか終わりがないですよねあれ! 延々とスクロールしていると、いつの間にか別の記事になっていて、「あれ? 俺、今何読んでるんだろ?」と、突如として迷い込んでしまうつくりですよね。ある意味、あれがもう作品だよね。

ぬQ サイトだけは中3の時からつくっていました。

水江 今日、作品を順番に観て回っていても、「これ何の話だっけ?」と惑わすところは、サイトを思い出しました。

ぬQ そうかもしれない。実は、「学生CGコンテスト」でグランプリをとった時に、「これからは仕事がくる!」と思って、私に仕事を頼もうとしている人があのサイトを見ると引いてしまうから、おしゃれなtumblrみたいな感じにしようと思って、一度全部消したんです。それで、名前と学歴、受賞歴を載せて、仕事募集中とだけ書いておいたんですが、待てど暮らせど何の連絡もこなくて……毎日サイトを更新しているうちに、「今日はもえちゃんとここに行って」「今日はもえちゃんと」「もえちゃんと」というお知らせが増えていき、いつもの感じに戻っていました。

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関連キーフレーズ

水江未来

アニメーション作家

細胞や幾何学模様などをモチーフに抽象的なアニメーション作品を多数制作。これまで、世界30ヵ国、250を超える映画祭に参加。2011年制作の『MODERN No.2』はベネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にノミネートされ、アヌシー国際アニメーション映画祭では日本人初となる最優秀映像音楽賞を受賞。山田悠介『ブレーキ』の表紙を手がけるなど、イラストレーターとしても活躍。日本初の特集上映となる『ワンダー・フル!!』が、2014年2月22日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー、順次全国公開。配給:マコトヤ+CALF  詳細は公式サイトにて http://wonder.calf.jp/wonderfull/

ぬQ

絵画、まんが、アニメーション作家

東京生まれ。多摩都美術大学大学院修士課程デザイン専攻修了。04年、ポートフォリオサイト「ぬQのHP」を開始。2012年、修了制作のアニメーション『ニュ〜東京音頭』が、第18回 学生CGコンテスト最優秀賞などを受賞。2013年には、連作絵画<さよちゃんシリーズ>をアニメーション化、MTV番組内で放映中。また、11月から12月にかけて、pixiv Zingaroにて個展「3点トーリツ展」を開催。

連載

水江未来のクリエイション・ミライ!

世界中のアニメ映画祭に招聘される国内アニメーション作家・水江未来さん。2014年1月から、初の特集上映を逆輸入的に行うことを記念して、その水江さんに対談連載を開始しました。 その時々で水江さんの気になるクリエイターさんのもとを訪ね、腹を割って語り合う表現の未来──ゲストには、爆ポップなアーティスト・ぬQさん、マンガ家のしりあがり寿さん。彼らとの化学反応やいかに!

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