連載 | #2 水江未来のクリエイション・ミライ!

境界なんて邪魔なだけ──マンガ家・しりあがり寿×水江未来 対談

境界なんて邪魔なだけ──マンガ家・しりあがり寿×水江未来 対談
境界なんて邪魔なだけ──マンガ家・しりあがり寿×水江未来 対談

左が水江さん、右がしりあがりさん

インディペンデントの短編アニメーション作家の中でも、世界中を股にかけ、唯一無二の存在感を築き上げている水江未来さん。

2月22日からは日本初の特集上映「ワンダー・フル!!」が行われるなど、ますます旺盛な活動を展開する水江さんの連載対談第2回目のお相手は、マンガ家として知られるしりあがり寿さん。

実写映画化もされた『弥次喜多 in DEEP』をはじめ、独特のタッチと読者の予想をぶっちぎるストーリー展開から、ギャグマンガの極北をひた走る「しりあがり寿ワールド」を確立している。

一方で、チョコレートアイスバー「BLACK」のCMに起用されるほどの人気を得た、その名の通りゆるーいアニメーション「ゆるめーしょん」を制作したり、毎年、新宿Loftにて社内ロックフェスティバル「しりあがり寿presents 新春! (有)さるハゲロックフェスティバル」を開催するなど、マンガ家という枠に留まらない創作活動を続けている作家でもある。

同じ多摩美術大学グラフィックデザイン学科出身で、しりあがり寿さんが卒業した81年に水江さんが生まれたほど歳の離れた2人だが、現在では親交がある。

そこで今回、都内にあるしりあがり寿さんの仕事場に、水江未来さんとお邪魔し、改めて2人でじっくり対談いただくことに。先輩からのアドバイスから、水江さんのアニメーションの描き方講座にまで発展、貴重なお話が飛び出した。
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水江未来さんによる、しりあがり寿さんの仕事場訪問!

しりあがりさんの仕事場にお邪魔します

しりあがり こんばんは〜。どうぞどうぞ。

水江 ご無沙汰してます! お邪魔させていただきます。

しりあがりさんのお仕事場。ただし今は違う部屋で作業を

しりあがり こちらが仕事場です。だったんだけど、実は汚くて仕事ができなくなってしまって、今は向こうで仕事しています。 参考文献や、自分の本とか、色々置いてありますね。 ──画材はどのようなものを使われるんですか?

しりあがり 仕事道具には、iPadもたまに使うけど、やっぱりペンとかノートとか。ここにいっぱい刺さってるやつの中から選んで使う。

沢山のペン。ただし、ほとんどはインクが出ないそうです

水江 すごい数ありますよね……!

しりあがり でもね、ほとんどはインクが出ないんだよね(笑)。

水江 あ、使い終わったやつが多いんですね(笑)?

しりあがり 脱いだ靴下の中から、臭いの少ないやつを選んで履く感じ。だからいつも、描き出す時にそこで萎えちゃうよね、「これもでねえな〜」って。新しいのを買えばいいんだけど、すぐ出なくなっちゃうんだよね。ペン1本で、4コマを5本も描けないよ。

水江 そうなんですね。でもわかります。絶対詰まらないペンとかあればいいのに。ペンさえ詰まってなければ、こっちはいくらでも自由な線を描けるのに、ペンのせいで!! って時あります。

しりあがり 水江さんが使っているのは、細いペンでしたっけ?

水江 そうです、PILOTから出てるハイテックC。女子高生がよく使うものが、やっぱりカラーバリエーションがあるんですよね。

しりあがり へえ〜そうなんだ!

水江 しりあがりさんはカラーは何を使うんですか?

しりあがり 一番好きなのは、3色ボールペン。めんどくさいんですよ、色を変える度に手を離す。離すとどっかいっちゃうし。あと、赤青鉛筆とかも使います。

昔はテレビとかもあったんだけど、なんかいつの間にかどっかいっちゃった。

水江 そういうことあります! 逆に「こんなのもってったっけ?」みたいなこともありますね。僕は今、自宅をスタジオ化していて、学生さんやフリーランスさんを呼んで一緒に作業しているんですけど、気付いたらイヤホンとかハンカチとか増えていくんですよね。

でも、最近の悩みは、自宅と職場の区別がないから、仕事のオンオフが全くないことです。スタッフがくる時間なのにこっちがまだ用意出来ていなくて、ほとんど風呂上がりということもある。

しりあがりさんは、ご自宅は別ですか?

しりあがり 自宅は横浜だね。だから、車で行き来してますよ。

水江 いつ頃から作業場と自宅をわけたんですか?

しりあがり 36歳になって、マンガ家として独立してから、家族もいるしちゃんと切り分けようということで別々にしました。それまでは、僕はサラリーマンも続けていたので。

水江 どれくらい兼業を続けられていたんですか?

しりあがり 23歳からだから、13年間かな。元々はマンガが好きで、多摩美(多摩美術大学)の漫研に入ったんです。僕としては、最初からマンガだけでなく、CM映像とかもやってみたかった。芸術的なものじゃなくて、みんなが面白いと思うもの、ウケるものをつくりたかったんですよね。

その後、会社に入ってもマンガをずっとちょこちょこやってきて、それだけで食べていけるかわからないまま13年間、二足のわらじでした。水江さんは今いくつ?

水江 32歳です。これからが大事な時期だと思うんですけど、しりあがりさんにとっても30代って転換期だったと思うんですが、どんな感じだったんですか?

しりあがり ちょうど30歳でビールで一番搾りのCMをやって、36歳でやっと独立して、39歳で子どもができて、40歳になるかならないかで、色んな賞をいただいて。

でも、今思うと、なんか流されてたかもしれない部分もあるんだけど、とにかく30代は体力で、考えるより先に身体を動かしてた。がむしゃらにものをつくって、それをどう利用するか、どうお金にしていくか、それは後で考えればいいんじゃないですかね。実写の世界で考えたら、監督で32歳ってまだまだ若手の部類だからね。

自立した動きを表現するアニメーションってすごい

しりあがり寿さん

──では、一旦腰を落ち着けていただいて、改めて本日はよろしくお願いします。

水江 今日は忙しい中、お邪魔させていただいてすみません。

しりあがり いえいえ、こんなところで良ければいつでも遊びにきてください。

──お二人の最初の出会いはいつのことだったのでしょうか?

水江 2008年くらいですよね。まだ、「YouTube」みたいなことをやろうとしていた色んな企業が乱立していた時代で、ニフティが運営する「NeoM rePublic」という動画配信サイトがあったんです。色んな人によるチャンネルがあって、僕はまだ多摩美を卒業したばかりだったんですが、担当を持たせてもらって、月に1・2本、短い動画を配信していました。その中に、しりあがりさんもいらっしゃったんですよね。

しりあがり そう。僕、ドイツにいって映像を撮ったりしたこともあったな。でも、水江さんとは、その時はちょっとお会いしたくらいで。

水江 それとは別に、2007年から3年連続、文化庁メディア芸術祭で推薦作品に選んでいただいたんですが、その受賞パーティで、「NeoM rePublicで担当を持たせてもらっている水江です」とご挨拶したら、全く覚えてらっしゃらない感じで。しりあがりさんに覚えてもらえるようにがんばろうと思いましたよ。

しりあがり そうでしたよね…今思うと本当に失礼なことをしたなと思って。その後にも、2012年に、お互いオランダアニメーションフェスティバルに入選して、日本人作家の何人かで一緒にオランダに行こうということになったんだよね。それで、「水江未来」という名前を見て、再会するまで、てっきり女の子だと思ってて(笑)。

水江 僕の作品の流通や制作なども一緒にしているアニメーションレーベル・CALFの他のメンバーも一緒に行きましたね。

しりあがり 作品はその前にも拝見はしていたんだけど、作品と作家名が一致していませんでした、

水江 オランダでもスクリーンで観てくださったんですよね?

しりあがり そうそう、覚えてる! とにかく水江さんの作品を観て最初に思ったのは、本当によくこんなものをつくれるなということ。僕も、少しはアニメーションというものに関わっているから、水江さんの作品をつくるのはどれだけ大変か少しはわかるつもりです。

一見するとそうは思わないかもしれないんだけど、ハリウッドのわかりやすさとは違って、手描きでこんな動きを表現するのはすごいことだなと。しかも、その動きに目的がない感じがして。作家の意志というよりも、自立している。

水江 しりあがりさんにそこまで言っていただけて本当に光栄です。名前を覚えていただいていなかった頃に比べたら、少しは成長しているのかなと思いました。
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水江未来

アニメーション作家

細胞や幾何学模様などをモチーフに抽象的なアニメーション作品を多数制作。これまで、世界30ヵ国、250を超える映画祭に参加。2011年制作の『MODERN No.2』はベネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にノミネートされ、アヌシー国際アニメーション映画祭では日本人初となる最優秀映像音楽賞を受賞。山田悠介『ブレーキ』の表紙を手がけるなど、イラストレーターとしても活躍。日本初の特集上映となる『ワンダー・フル!!』が、2014年2月22日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー開始され、順次全国公開。配給:マコトヤ+CALF  詳細は公式サイトにて http://wonder.calf.jp/wonderfull/

しりあがり寿

マンガ家・アニメーション作家

981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝等を担当。1985年に『エレキな春』でマンガ家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。1994年の独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表、マンガ家として独自な活動を続ける一方、近年ではエッセイ、映像、ゲーム、アートなど多方面に創作の幅を広げている。「ゆるめーしょん」というアニメーション企画を行い、後にCMに起用されるほどの人気を得ている。

連載

水江未来のクリエイション・ミライ!

世界中のアニメ映画祭に招聘される国内アニメーション作家・水江未来さん。2014年1月から、初の特集上映を逆輸入的に行うことを記念して、その水江さんに対談連載を開始しました。 その時々で水江さんの気になるクリエイターさんのもとを訪ね、腹を割って語り合う表現の未来──ゲストには、爆ポップなアーティスト・ぬQさん、マンガ家のしりあがり寿さん。彼らとの化学反応やいかに!

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