グニョグニョアニメーションのつくり方
しりあがり 水江さんの作品は一貫して変わらないんですが、最近は動きがよりグニョグニョしてきてる。今までもすごいグニョグニョしていたけど、最新作の「WONDER」では、突き詰めるとここまでいくんだと感じました。水江 アニメーション自体、元々すごく中毒性の高い表現だと思うんです。大学入学してすぐに、1枚の絵では上手く自分のエネルギーを表現できないという壁にぶちあたって。その打開策が、アニメーションでした。
アニメーションは、つくり続けている限り、どんどんエネルギーを注げる。しかも、観ている側への中毒性が高く没頭させるだけじゃなくて、つくっている僕自身、動きを追求する快楽にのめりこんでいったんです。
しりあがり 幸せな出会いだよ。水江さんがアニメーションと出会ったというのは、世の中にとっても良いことで、「あのグニョグニョした動きは水江さんに任せておけばいい」というところまで確立しつつありますよ。ちょっとしたコツなのかもしれないけど、何か規則的だったり均等だったりではなく、全然予想できない動きじゃないですか。ああいう風に伸ばしたり縮めたりする動きのつくり方って、マニュアルにはならないんでしょうね。
水江 アニメーターとして考えると、ある程度、動かし方の様々なテクはあると思うんですが、僕のは僕にしかできないやり方ですから。それも自己流として出来上がってきたんですが、基本的には、前のコマと同じ場所に線を引かないように意識しています。
たとえ動かないものでも、手描きで線を引くと、多少の誤差は発生してしまうもので、それをアニメーションにしてみると、細かく振動するような固い動きをするんですよね。僕の中には、柔らかい動き、バネのような弾力のある動きが気持ち良いという定義があるんです。ほんのちょっと線をズラすだけでも、グニャーンとした動きになる。
しりあがり すごい、なるほどな……! 水江さんの使っている画材だと一番細いので0.5mmだよね? ほんのちょっとって、それ1本分くらいとか?
水江 いやーどうでしょうね…結局ズラすって言っても、ズラし方も全部ランダムですから。やっぱり、描かないと説明できないですね(笑)
しりあがり あ、じゃあ紙とペンならあるのでこの場で是非!
水江 え、この場でですか!? 水江 こういう風に線を描いても、僕は、何かの形にしようとしては描かないんですよね。普通、アニメーションって目的があって動かすものだと思うんです。歩くシーンでは後ろにある右足を出して前に出すという動きを意識的に描くわけじゃないですか。
でも、目的がない動きってどんなだろうっていつも考えていて、こういう風に、ほんのちょっと、内側や外側に線の場所を動かす。最初に描いたコマをそこまで重要視しないと言うか、紙を重ねて描く時でも、早い段階で一番下の絵を抜くんです。元々の原形がどんなものだったかわからなくなるので、そこに縛られずに描くと、自然と、ちょっとだけズラしているだけなのに、いつの間にかどんどん細長くなっていったり、今度は縦に潰れていったり。そのうち、もはやちぎれそうになってしまったら、じゃあ実際にちぎっちゃおうという風に動かしていく。 言葉で説明すると長くなるんですが、実際はただ線を少しずつズラしなが、そこで起こった現象に対して、自分がさらにきっかけを加える感じですね。
しりあがり じゃあ、アニメーションをつくるにあたって、あまり先まで考えず、大まかなことだけ考えるくらいなんですか?
水江 そうですね、その場でどんどん描いていく気持ち良さを大事にしています。気持ち良さの連続でつくっていくような。
しりあがり寿が撮影、水江未来によるグニョグニョアニメのつくり方
しりあがり ほんとだ! いや、これは貴重だな。水江さんのアニメーションは、1秒24コマのフルアニメですよね。よーし、真似するぞ(笑)! でも、その水江メソッドで100人がつくると、100通りのアニメができちゃいますよね。水江 そうなんです! 僕はずっとそれを恐れてますよ(笑)。
なりゆきを楽しむ
しりあがり 僕がずっとやっている「ゆるめーしょん」は、トレースだからね、描いてて気持ち良さみたいなのはあまりないかもね。水江 「ロトスコープ」という手法ですよね? まず実写で撮影して、それをトレースしてアニメにする。
──最近だとテレビアニメでロトスコープを用いた『惡の華』が話題になりましたよね。
しりあがり 僕の場合、どんなものをどんな風につくるかという最初のイメージにはこだわるけど、動きの指示も特にせずに、振付をやってくれているラッキィ池田さんに曲の指定だけして、踊ってもらったものを取り込む。しかも、トレースも、僕はなぞるのがすごい下手だから、今は他の人にやってもらっています。
水江 でも、しりあがりさんのアニメにおけるラッキィさんって、僕で言うところのアニメーションの線ですよね。自分でこうしようと思って意識して描いてるわけじゃなくて、線の趣くままに出来ていくわけですから。手先が意識を持っているわけじゃないけど、脳からの司令ではない、その間で生まれる偶然のようなものを大事にするっていう面白さ。
しりあがり寿 『ならべうた「徳川15代将軍」』
しりあがり なりゆきっていいよね。大好き。脳味噌が先行すると、計画を立てて、それに対する達成率になってつまらない。絶対100%には届かないし。なりゆきの方が意外なものができて面白い。水江 僕もなりゆきを楽しんでます。一般的には、なりゆきでつくるのはダメって言われるじゃないですか。
しりあがり そうなの?
水江 いや、どうなんでしょう……例えば、今多摩美の、情報デザイン学科のメディア芸術コースというところで、非常勤でアニメーションを教えているんですが、生徒から絵コンテが全然出て来ないと、「講評会で一体どんなものがでてくるんだろう?」って不安ですね。他人の場合だと、ある程度わかるように絵コンテ見せておいてほしいとか思います(笑)。それにそういう教え方がやっぱりスタンダードなんです。
しりあがり でも、水江さんが先生だと、もし先生がつくっている作品の絵コンテを見せられても、わからないですもんね(笑)。水江さんの作品は動きそのものを表現していて、まさにアニメーションだから。
水江 生徒にはそう思われているんでしょうね…(笑)。今は、授業では10秒のフルアニメーション制作を課題にしています。どうせアニメーションをつくるなら、フルで動くってどういうことだろうというのを一回経験してもらいたくて。
しりあがり それは大切なことだと思う。マンガの教え方も近いと思うんだけど、例えばストーリーから入ると、まず全体を考えてそこから細分化するというつくり方になる。でも、細部を増殖させるような方法もあって、例えばこの人がどれだけ怒っているかを表現するところから膨らませていくみたいな。
ストーリーも大切だけど、そこを先行させてつくってしまうと、いかにまとまっているかとか、伏線がちゃんと回収されているかとか、そういうところが評価の対象になってします。まとまっている作品も気持ち良いけど、どこか退屈なことも多い。
──しりあがりさんがどういう風にマンガを描くんですか?
しりあがり 俺、どうやってんだろうね(笑)? でも、全体感でつくっちゃうことの方が多いですね。ざっくり構想はするけど、緻密にはやらない。どうせ下書きしても、その通りには描けないしね。
水江 僕も下書きはしないです。2回も線を引くことになるじゃないですか。でも、色んな感情が入っている最初に引いた線の方が、絶対にいい。2回目の線は、はみ出さないようにしようというただの作業になっているんです。そういうのは、線からにじみ出るものですからね。
しりあがり 逆に、さっきも話したけど、僕はなぞるのが下手だから、たどたどしくて良いのかもしれないですね(笑)。
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水江未来
アニメーション作家
細胞や幾何学模様などをモチーフに抽象的なアニメーション作品を多数制作。これまで、世界30ヵ国、250を超える映画祭に参加。2011年制作の『MODERN No.2』はベネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にノミネートされ、アヌシー国際アニメーション映画祭では日本人初となる最優秀映像音楽賞を受賞。山田悠介『ブレーキ』の表紙を手がけるなど、イラストレーターとしても活躍。日本初の特集上映となる『ワンダー・フル!!』が、2014年2月22日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー開始され、順次全国公開。配給:マコトヤ+CALF 詳細は公式サイトにて http://wonder.calf.jp/wonderfull/
しりあがり寿
マンガ家・アニメーション作家
981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝等を担当。1985年に『エレキな春』でマンガ家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。1994年の独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表、マンガ家として独自な活動を続ける一方、近年ではエッセイ、映像、ゲーム、アートなど多方面に創作の幅を広げている。「ゆるめーしょん」というアニメーション企画を行い、後にCMに起用されるほどの人気を得ている。
連載
世界中のアニメ映画祭に招聘される国内アニメーション作家・水江未来さん。2014年1月から、初の特集上映を逆輸入的に行うことを記念して、その水江さんに対談連載を開始しました。 その時々で水江さんの気になるクリエイターさんのもとを訪ね、腹を割って語り合う表現の未来──ゲストには、爆ポップなアーティスト・ぬQさん、マンガ家のしりあがり寿さん。彼らとの化学反応やいかに!
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