連載 | #2 水江未来のクリエイション・ミライ!

境界なんて邪魔なだけ──マンガ家・しりあがり寿×水江未来 対談

因果かダイナミズムか

──しりあがりさんは、マンガとアニメそれぞれを制作する際、意識を切り替えたりしていますか?

しりあがり マンガとアニメって、近いんですよね。水江さんの作品のような、物語性のない「ノンナラティブ」と呼ばれるものは違うけど、物語があるものであれば、作者の頭の中での現実とは違った時空間のイメージを何かに投影するという意味では、それほど違わないんです。

水江 ノンナラティブのマンガってありうるものなんですか?

しりあがり 例えば、横山裕一さんとかはそうかも。僕の作品にもあります。

ノンナラティブのマンガの一例として、しりあがりさんの『なんでもポン太』

ストーリーもあるけど、それが作品の本質ではなく、表現としてどう遊べるかを追求しているという意味では、ノンナラティブなのではないかと思います。 マンガの場合、ナラティブかどうかは、因果で結ばれているかどうかで決まるんです。要するに、原因があって結果があるのか。その因果関係があるものはナラティブ。

その因果が切れている作品はマンガにもあって、それは音楽と一緒なんです。ミの後にソがきて、ドがきて……それは原因とか結果ではなく、もっと抽象的な、連なりだけがある。そういうものは、コントラストだったり調和だったりを志向している。だから、水江さんの作品も、音楽に近いですよ。

──連関性よりも、アニメーションとしてのダイナミズムに振り切っているということですよね。

水江 「WONDER」も、そういうところは意識してつくっています。自分がコントロールするのではなく、既に動き出している状態のアニメーションをつくりたいんです。僕は、アニメーションを動きだけに集約させたい。そこにどんな面白い可能性が秘められているか。自分でも、それを見てみたいと思うんです。

しりあがり 水江さんの作品は、どんどんそういう方向にいっていますよね。動きに絞って表現しているということ自体が、水江さんのオリジナルなんだと思う。

水江 最近、キャラもののアニメをつくっているんですけど、ずっと抽象アニメだったから、キャラの動きも抽象的になってしまうんです。と言うよりも、具象的なものもグニャグニャさせてみたい。そうしたらもっと気持ち良いかもしれないし、アニメーションなら、それもできる。だから面白いんです。

藤田純平さんとの共作で制作中の「ももんくん -momom-」

しりあがり でも、少なくともマンガにおいては、今の主流はノンナラティブな作品ではなく、やっぱりナラティブで感情移入ができる没頭型なんですよね。

楽しいことをやろうと思ったら、境界なんて邪魔なだけ

水江 僕にとってしりあがりさんは、マンガ家じゃないんですよ。2009年から毎年開催されている「さるハゲロックフェスティバル」もそうです。

しりあがり 「さるフェス」は、新年会好きのオヤジがやっていることだから(笑)。

水江 でも、好きが高じてフェスを企画することもそうですが、やっぱり、ジャンルに関係なく面白いことをやろうとしている人はすごいと思うんです。

僕も、KAI-YOUさんがpixiv Zingaroで大勢の作家さんを集めて開催した「世界と遊ぶ!」展に参加させてもらった時に、それまで、短編アニメーションのジャンルの人たちばかりの場所にいたので、他のジャンルで面白いことをやろうとしている人たちと交流できるのがとにかく楽しかったんですよね。今回の「WONDER」の上映でも、そこで知り合ったkawalaの山本昌義さんとコラボしてます。

おもむろにkawalaのサングラスを装着する水江さん

こういうサングラスをつくっているファッションデザイナーさんなんですが、ベルリン国際映画祭で「WONDER」をプレミア上映する際には、彼がデザインしてくれた着物で出るんです。

喜んでサングラスをかけてくださったしりあがりさん

外に目を向ければ、色んな可能性が広がっていると思うんです。だから、マンガやアニメというだけではなく、ジャンル関係なく様々な取り組みをされているしりあがりさんに尊敬を抱いているんです。

しりあがり いや、やりたいことをやっているだけで、それが何かの身を結んでいるわけではないんですよ、僕の場合。でも、あんまり人のことはわからないけど、僕から見ていて、水江さんの作風は、インテリアにもなりえるし、例えばテレビ番組のセットみたいなところにも向いてるから、どんどん広がっていくでしょうね。ただ、焦らなくていいと思うんです。

ここまできたらピュアなところを失わないでほしい。これから、似たものやそれっぽいものが出てきた時に、「これぞ水江未来だ」というものをどうやって残すか。水江さんが大事にしている抽象的な動きをさらに尖らせていく方向でいけば、誰も追随できない気がする。
まあ、色々話しましたけど、そんな考える必要なく、好きなことをやっていればいいんだよ!

──お2人とも、制約を設けずにジャンル横断的に動かれている点で、端から見ていても似た印象を受けます。

しりあがり だって、楽しいことをやろうと思ったら、境とか邪魔くさいだけですよ。

──しりあがりさんは、これからまた新たに挑戦したいことはありますか?

しりあがり とは言え、もう歳だから、何をするにも体力がなくて(笑)。でも、人と話していると、興味がそれに引っ張られるんですよね。だから、今日はアニメがつくりたい。

「ゆるめーしょん」も、2012年に展覧会やって、何となく自分の中では区切りがついたって感じだったんだけど、その後CMにもなって、もうちょっとやろうかなとも思っているんだけど、どうなるかはわからないね。やっぱり、めんどくさがりだからね(笑)。

しりあがりさんのお仕事場の玄関にて。「まだまだやるら。」

水江 いや、僕も気持ちは同じですよ。アニメーションはめんどくさいものですもん。制作過程は苦痛ばかりで、得られる喜びなんて、それが動いているのを見た一瞬だけですから。

しりあがり そうだよね。一つ聞きたいんですが、水江さんは、これからアニメーションの潮流はこうなっていくみたいな予想ってありますか?

水江 予想ですか……でも、僕がいつも思うのは、絵画や音楽と比べると、映画やアニメーションって、歴史が浅い。それを考えると、もっと色んな可能性を秘めていると思うんですよね。

どんなジャンルもそうですが、例えば「アニメーションはこういうものだ」という既成イメージがあって、常にそのイメージとのせめぎ合いから新しいものが生み出されてきています。今、10〜20代の若い表現者が増えて、僕らが若かった頃とは全く違う影響を受けて育っていると思うんです。

僕らは、特定の作家の特集上映を単館系の劇場で観たり、大学の授業では順番に歴史を辿っていくので、緩やかに正しく色々な作品を知った。その代わり、際物はあまり出て来ないという側面もあって。
今は「YouTube」とかがあるから、全部をいっしょくたに、平坦に吸収する世代なんですよね。彼らがこの先、一体どんなものをつくっていくのか、興味もおそろしさもある。これからの10年で、日本のアニメーションは大きく変わる、何かが起こっていくという予感があります。

しりあがり 例えば今って、美少女が登場するようないわゆる萌え? というかそういうアニメが膨大な量つくられてますよね。あーゆー中から淘汰されて何が出てくるか? あるいは周辺のアートとかの分野があのジャンルをどうとりこんでいくか? あるいはとりこまれて何が生まれるか? 興味はあります。だから、そういう意味でも、一番変わる可能性がある分野かもしれないですよね。

──「アニメーション」という分野が、ということですよね?

しりあがり 今はもう、「動画」っていう括りなんじゃないでしょうか。日々インターネットに投稿される、すごい面白い自主制作のアニメから大変な話題を呼ぶ素人の一発芸みたいな動画と同じ土俵に立つってことだから。

水江 本当にそうですよね。でも、アニメーションも負けてないと言うか。アニメーションという分野に限定した時、日本の作品は世界的にも「ストレンジでカラフル」というイメージなんです。むしろ、昔からのアニメーションにとらわれている作品はヨーロッパの方が多い。

しりあがり 一緒に行ったオランダでも、向こうの作品には、NHKで子ども向けに流れる数分のアニメか、制作費のそんなにかかっていないディズニー作品みたいなものが多く、あまり新鮮さを感じなかったんです。

水江 僕もはじめて映画祭に参加した時に、違和感を感じて。世界から見た時、日本のアニメーション作家って、なめられるかストレンジな人たちって思われるかのどちらでした。だから、国内だけじゃない、アニメーションだけじゃない、さらには海外からのイメージを払拭するために、僕らは戦っていかないといけないなと、ぼんやりと思っています。
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水江未来のクリエイション・ミライ!

世界中のアニメ映画祭に招聘される国内アニメーション作家・水江未来さん。2014年1月から、初の特集上映を逆輸入的に行うことを記念して、その水江さんに対談連載を開始しました。 その時々で水江さんの気になるクリエイターさんのもとを訪ね、腹を割って語り合う表現の未来──ゲストには、爆ポップなアーティスト・ぬQさん、マンガ家のしりあがり寿さん。彼らとの化学反応やいかに!

関連キーフレーズ

水江未来

アニメーション作家

細胞や幾何学模様などをモチーフに抽象的なアニメーション作品を多数制作。これまで、世界30ヵ国、250を超える映画祭に参加。2011年制作の『MODERN No.2』はベネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にノミネートされ、アヌシー国際アニメーション映画祭では日本人初となる最優秀映像音楽賞を受賞。山田悠介『ブレーキ』の表紙を手がけるなど、イラストレーターとしても活躍。日本初の特集上映となる『ワンダー・フル!!』が、2014年2月22日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー開始され、順次全国公開。配給:マコトヤ+CALF  詳細は公式サイトにて http://wonder.calf.jp/wonderfull/

しりあがり寿

マンガ家・アニメーション作家

981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝等を担当。1985年に『エレキな春』でマンガ家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。1994年の独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表、マンガ家として独自な活動を続ける一方、近年ではエッセイ、映像、ゲーム、アートなど多方面に創作の幅を広げている。「ゆるめーしょん」というアニメーション企画を行い、後にCMに起用されるほどの人気を得ている。

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