連載 | #1 水江未来のクリエイション・ミライ!

アニメーションって〝うなぎ〟みたい──水江未来×超新星作家・ぬQ

アニメーションって〝うなぎ〟みたい──水江未来×超新星作家・ぬQ
アニメーションって〝うなぎ〟みたい──水江未来×超新星作家・ぬQ

左が水江未来さん、右がぬQさん pixiv Zingaroの「3点トーリツ展」にて

テレビなどで放送される30分枠のアニメでも、劇場上映用の大作アニメでもなく、制作・配信・上映まで全てを作家自身が手がけるインディペンデントの短編アニメーション。

水江未来さんは、圧倒的な色彩感覚に裏打ちされた躍動感溢れる映像と身体が踊り出す音楽の調和によって、多幸感に満ちた生命の息吹を描く「細胞アニメーション」をつくり出してきた。

「ワンダー・フル!!」フライヤー©2014 CALF

その作品は世界的に評価され、2012年には、アヌシー国際アニメーション映画祭で日本人初となる最優秀映像音楽賞を受賞する等、華々しい経歴を持っている。そんな水江さんが、2014年2月22日(土)から、ヒューマントラストシネマ渋谷を皮切りに、日本初の特集上映「ワンダー・フル!!」を行う。

短編アニメーションが決して根付いているとは言えない日本において、逆輸入という形で日本初となる特集上映が行われる水江さん。今回、その水江さんによる連載対談を企画させていただくにあたり、対談相手のご希望をうかがったところ、かつてKAI-YOUでも「爆ポップ」な存在として取り上げた、気鋭の絵画・漫画・アニメーション作家のぬQさんのお名前が挙がった。
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そこで、12月3日までpixiv Zingaroにて開かれているご自身初となる個展「3点トーリツ展」にうかがい、対談を敢行。ポップなアニメーションを手がけてきた水江さんが「新時代の到来」と評するぬQさんと、じっくり腰を据えて語り合っていただいた。

「甘いマスクの人」とトレンディドラマの登場人物

──お二人の出会いはどのような形だったんですか?

水江 僕もぬQさんも、多摩美(多摩美術大学)のグラフィックデザイン科出身なんです。僕の在学最後の年、大学院2年生の時に、ぬQさんが大学1年生で、その1年間だけかぶっているんだけど面識はなくて、僕が卒業してから知り合いました。けど、その頃は本名で活動していたので、彼女が「ぬQ」だと認識したのは、もっとずっと経ってからでしたね。

ぬQ 最初、私は「ぬQ」での活動はずっと隠していましたから。徐々にバレていきましたけど……。私の方は、卒業して活躍されている方として、近藤聡乃さんたちと並んで水江さんのことを授業で聞いていたので、もちろん知っていました。だから、自分とは関係ない、巨匠の方なんだなというイメージでした。直接お会いする機会ができてからは、私たちは、水江さんのお顔が甘い感じなので、「甘いマスクの人」って言ってました!

水江 私たちって飯田さん(笑)?

──飯田さんというのは?

水江 ぬQさんは、僕が審査員をつとめている「学生CGコンテスト」で2012年に『ニュ〜東京音頭』で最優秀賞をとったんです。飯田萌さんは、その時に、『臓器大学』という切り絵アニメーションで優秀賞をとった方です。

ぬQ 萌ちゃんとは、高校・大学・大学院・職場が一緒なんです! 一緒に通勤もしてます。毎日LINEでも「早く会いたいね」って言い合ってて、プライベートでも週に1・2回は絶対に会っています。それくらい仲良しな飯田さんと、水江さんのことをずっと「甘いマスクの人」って呼んでいたんです。

水江 あ、ちゃんと(話が)戻ってくるんだね(笑)! 今絶対このまま戻ってこないと思ってたけど、ここがぬQさんのスゴいところなんですよ。見ている方は不安だけど、どれだけ遠くに飛んでいっても、ちゃんと着地するというのは、作品にも表れている。

ぬQ 私も、飛びっぱなしの人の作品を観ていると「えっ!」と思うので、ちゃんと着地するようにしてるかもしれないです。それで、水江さんはいつもすごい可愛い色の服を着ているので、目立っていました。

水江 いや、ぬQさんの初対面もインパクトもあったよ! 東京工芸大学とタマグラの合同授業があった時に、遊びにいったことがあったんです。その打ち上げに、ぬQさんは今日みたいなパーティ用のドレスを着てきていて、みんなに突っ込まれていました。まるでトレンディドラマから出てきたような感じで、その時の衝撃が強く残ってた。それから2年くらい経って、『ニュ〜東京音頭』で初めて「ぬQ」としての作品を拝見しました。そこでようやく彼女の本名と「ぬQ」が繋がったんだけど、僕としては「なるほど」という感じでした。

──「ぬQ」だということを隠していたのはなぜなんですか?

ぬQ 中学生の頃、「pixiv」ができるよりも前の「お絵かき掲示板」というイラスト投稿文化が盛んだった時に、適当につくった捨て垢が「ぬQ」だったんですよ。

魯迅の著作で、『阿Q正伝』という作品が、国語の教科書で紹介されていたんです。国語の教科書にこんな言葉が出てくるなんて、シャ乱Qみたいで面白いと思って、それを真似して「ぬQ」と付けました。けど、投稿した絵にコメントがつくようになって、意外にも自分でもそれが楽しみになって、そのままぬQとして活動をずっと続けていました。

でも、ぬQを主な活動にできるなんて思ってもいなかったので、いつか社会人やデザイナーになれたら、ぬQの活動は辞めるつもりでした。だから、学校では本名で制作していたんですが、『ニュ〜東京音頭』で受賞した時に、知名度も何もない本名よりも、これまでのネット上での活動も統合しようと決意して、やっと公でぬQと名乗り始めたんです。

細胞アニメーションと高速キラキラアニメーション

水江 作品を初めて観たのは、確か、ひらのりょう君がTwitterで「『ニュ〜東京音頭』ヤバい」と言っているのを見かけたんだったと思います。
完成版 ニュ~東京音頭  NEW TOKYO ONDO
僕からすれば、ひらの君に関しても「ヤバい人が出てきた」と思っていたから、その人がヤバいって言っている作品はすごいヤバいんだろうと思って観たら、本当に新時代の到来を感じた。ひらの君も映像ユニットの「最後の手段」もそうなんだけど、絵柄がどことなく懐かしいんだよね。

ぬQ イラストレーターのMEMOさんらもそうですが、今、一周してバブルに戻った感じの表現が多いかもしれませんね。

水江 今の若いアーティストたちは、小さい頃に受容してきたアニメやマンガの影響がそのまま自分の表現として自然な形で出ている。そういう新世代を前にして、僕は古い世代になっちゃっているのかもと感じることがあります。

ぬQ でも私も、久野遥子(「Airy Me」の作者)さんを見た時に、全部負けてて、もうダメだと思いましたね。初めて「筆を折る」という意味がわかった。

水江 早いよ(笑)! でも、タマグラにいると、次から次に身近にスゴい人が現れるから、頑張ってコツコツ積み上げてきてようやく自分が主役になれる時が来たかと思ったら、いきなりひっくり返されるという経験をすると思う。

ぬQ でも、水江さんの作品に似ている人は、全く現れませんよ。だから、絶対そのままでずっと大丈夫だと思います。
WONDER - ​complete​ trailer - THANK YOU Kickstarter Backers!
水江 え、ありがとう、じゃあ頑張ります(笑)。細胞アニメーションは、今のところ僕だけですね。似たような作品が出てきたら怖いけど……。

ぬQ 仮に、今後現れても「第二の水江未来」としか言われないと思います。私は、水江さんが自分の作品を「細胞(セル)アニメーション」と名前を付けているのが、すごくうらやましい。私の作品にも名前がほしくて、ずっと探しています。今のところ、アニメに関しては、1秒間30枚のフルフレームで描いているので「高速キラキラアニメーション」と言っています。

水江 「高速キラキラアニメーション」は良いね(笑)! インディペンデントで制作する短編アニメーションは、人に観てもらうために、何か呼び名をつけるというのは大事かもしれないね。「アニメーションをつくっています」と言うと、大抵「じゃあジブリとかガンダムとか?」という話になる。テレビや映画ではなく、主に映画祭やイベントなどで上映するような……と説明しなくてはいけないですからね。

ぬQ そう! そうするともう、段々向こうの興味がなくなっていく。だから名前大事ですね。ちょっとサボった時は24枚なんですけど(笑)。

アニメーションは〝うなぎ〟みたい

水江未来「AND AND」©Mirai Mizue

水江 サボって24枚なら十分スゴい。僕も30枚の時もあるけど、基本的に24枚でつくっています。24枚以上だと、1フレーム1フレーム絵が変わっていく気持ちよさがある。

ぬQ ありますよね! 『ニュ〜東京音頭』に2年もの時間がかかっちゃったのは、アニメーションの作画向きでない、絵画の絵柄しか持っていなかったこともありますが、何よりも毎秒30枚描いてしまっていたのが原因でした。もう少しフレームレートを落とせばいいと色んな方に言われて、次の作品は20枚に落としてみたんですが、やっぱりすごい遅くて。24枚にしてみたら、ちょうど良かった。

水江 一度30枚とかを経験してしまうと戻れない。20枚のアニメだと、動きが止まって観えると言うか。僕らは一回、その線を超えてしまったんだよね。

ぬQ わたしはまだ超えてはいないと思うんですけど(笑)。でも、20枚だとはっきりと足りなかった。自分の絵はよく動くのが取り柄だったので、遅いとただの節約したGIFアニメーションになってしまうというのがわかりました。

水江 動きの密度だよね。なんか時々、自分のアニメーションを〝うなぎ〟みたいだなって思う。全部自分が描いたものなのに、コントロールの外に飛び出していく感じ。あー動き出しちゃった! そんな動きするんだ! みたいな(笑)。

ぬQ うなぎみたい(笑)!! そういうことあります。なんかそれを観ると、笑ってしまいますよね。

水江 ぬQさんは1枚、どれくらいの時間で描くの?

ぬQ 中割(原画と原画の間の動きを埋めて滑らかにする絵)なら早いですが、原画(動きの要所要所を描く絵)だったら20分。さらにしっかりした絵だったら30分とかはかかっています。『ニュ〜東京音頭』の、東京のビルが光でワーッとなっているところは、一回一回拡大してもう一度描き直したりして、3秒で1週間。ちなみに、絵画なら1枚につき、急いで3日間から1週間とかです。

ぬQさんの「さよちゃんとエビ天の大陸トーヒコー」シリーズ

水江 絵画とアニメーションとで、それぞれどういう感覚でつくっているの? 僕も仕事でイラストは描くけど、個人的には全然描かなくなった。自分の中で、一枚の絵を描いても、なんかまだ完成していないと言うか……ぶつけた熱量が、ちゃんと全部ガシッと消化されていると思えるのは、アニメーションなんです。

ぬQ それも思うんですけど、でも逆にアニメーションだと描けないような細部には、絵画が良い。細かいきらめきや線を見てもらえるし、アニメーションにはない静けさがありませんか? あと、アニメーションの画面の規格サイズとして、基本的に横長だけというのも気になる。そして、何がオリジナル(原形)なのかもわからないところがある。

ぬQさんのマンガを読む水江さん

水江 そうだね、アニメの場合は、画面や投射、音響や音量の違うによって、全然見え方は変わりますね。

ぬQ  pixiv Zingaroで展示するために、久しぶりに卒業制作の1m超えの大型絵本のマンガを引っ張り出して読んでみたんです。大きな本のページをめくる動作や、光沢のある白や黒のはっきりした紙の感じが、いいなって。映像も好きですが基本的には観るだけで、アクションできないし、光には質感もない。

水江 でも、自分を覆い尽くすような感じで上映される映像の体験もある。それに、手描きのシミもはっきり映っていたり。そういったものが映像の質感だとも言えるかもしれない。僕はアニメーションしかやってないから、何かと比べて質感がないとかは考えていなかったですね。

ぬQ 私は欲張りなのかも(笑)。どれか一つだけでは、表現し切れないんです。でももし一つしか選べないとなったら、私はアニメーションを選びます。アニメーションには、音や言葉も全部入れられる。それに、私はお話を大切にしているので、話をしっかり伝えるための展開を持たせられるので、一つだけならアニメーションがいい。

水江 質感はどうするの?

ぬQ 仕方ないので捨てます(笑)!

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水江未来のクリエイション・ミライ!

世界中のアニメ映画祭に招聘される国内アニメーション作家・水江未来さん。2014年1月から、初の特集上映を逆輸入的に行うことを記念して、その水江さんに対談連載を開始しました。 その時々で水江さんの気になるクリエイターさんのもとを訪ね、腹を割って語り合う表現の未来──ゲストには、爆ポップなアーティスト・ぬQさん、マンガ家のしりあがり寿さん。彼らとの化学反応やいかに!

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