ネット同人音楽即売会「APOLLO」座談会 ランキング偏重時代の救世主なるか?

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「超まとめ」API公開が生んだ広がり

──「未知の作品の発掘」という目標は、「同人音楽超まとめ」でも同様に掲げられていたかと思います。今回、ゲストのお2人は「同人音楽超まとめ」のAPI連携をされていましたが、連携したアプリ・サービスの話もうかがえますか?

えふ 「同人音楽超まとめ」はブラウザベースだから、PCに張り付いていないといけない。でも、音楽視聴って移動時間にするものだから、やっぱりアプリが最適だと思っていたので、自分は「同人音楽DEMOプレイヤー」をつくることにしたんです。

「同人音楽超まとめ」と連携した「同人音楽DEMOプレイヤー」

YouTubeやSoundCloudなどは検索条件を設定してヒットした曲を自動的に持ってくるという風にしているんですが、どうしてもノイズが入ってしまう。だから、実は内心ずっと「超まとめ」さんはAPIを公開してくれないかなと思っていたので、実際に公開されてこれ幸いと連携させていただきました。

まつらい 僕も、APIが公開されたので、すぐに「M3Viewer」と「超まとめ」を連動させてもらいました。

「M3Viewer」

AnitaSun そもそも「超まとめ」のAPIなんて誰も必要ないだろうと思っていたので、最初は公開する気は全然なかった。でもつくろうと思えば一瞬でつくれるものだったんですね。

そんな時、友人から連絡があってiPhoneアプリをつくりたいからAPIを公開してくれと頼まれて。それで、30分後にはAPIを用意して公開したところ、ものの数時間でデモをつくってくれたのがお2人だったんです。

しかも、どちらも「同人音楽超まとめ」が目指している方向性と合致してまして、「これはすごいことになったぞ」と。

「同人音楽超まとめ」の視聴ページ

ほしいのに存在しなければ、自分でつくればいい!

えふ もともとの話で言うと、同人音楽という分野だけに絞り込んで音楽を聞くっていうようなプレイヤーのアプリは私が調べた限りでは見つからなかったんです。

でも、やろうと思えば色んなプレイヤーや検索のアプリをつくれるなと。これがあったならば私が使いたいというだけですけれども、みんな使ってくれたりするんじゃないかと考えたところから始まったんですよね。

まつらい 僕が「M3Viewer」をつくった目的は、一緒にサークルをやってるハヤブサPくんの挨拶回りを応援したいというのが最初ですね。

「M3」とかで何をするかというと自分の知り合いのところに行くじゃないですか。でも、M3に出ていても把握できていなくて挨拶に行けないこともあって。じゃあ自分がフォローしている人が全部一括でわかったら挨拶回りしやすいよね、というのが一番初めの構想でした。

いくらTwitterでフォローしていても、それを自分でさかのぼってまとめ直すというのはとても面倒くさい作業だと思うので、それが一括で出来るようにしようというのが目的ですね。

AnitaSun 僕も、自分がほしいけどなかったからつくったという意味では、同じようなものです。

同人音楽を探す時、昔だったら同人音楽について特集してるサイトみたいなものっていっぱいあったんですよ。「制作のしおり」さんですとか。もしくはデモ曲をいっぱい集めた数枚組のCDとかが定期的にリリースされた。

それが結局のところTwitterが出てきてから、一気に個人のWebへのアクセスが減ってしまった。かと言って、Twitterだけ見てたって結局流れていくから全然ストックされないじゃないですか。でも、そもそも同人に限らず日本の音楽業界には、毎週新しいオリコンTOP30まで聞き続けられるサイトなんてないんですよね。

中高生に「今週のオリコンTOP20の曲を挙げられる?」と聞いても答えられない。彼らにとっては、ボカロが投稿されているニコ動やYouTubeの方が身近で、そのランキングに上がっている曲が偉いんですよ。

でも、同人音楽にはネット上の器がない。だから、同人音楽と言えばここをチェックすればいいくらいの集約的な意味を込めて「超まとめ」をつくったんです。

背景の情報が薄れた音楽に必要とされるのは、作家との関係性?

AnitaSun 昔は、CDだけじゃなくて色んな文章がたくさん書かれたブックレットがありましたよね。例えばDEEP PURPLEのアルバムには、このシーンから影響を受けてあのシーンに影響を与えているとか、実はバッハを聞いていたとか。かと思えばメタリカのあいつがどういうことを言っていて、だからこのアルバムは重要なんだ、さぁ音楽を聴け! みたいな情報がちゃんと明示されていました。

今は、パッケージとしても配信に移ったり、ブックレットがあったとしても写真だけ載っているだけみたいなものが主流です。つまり、音楽に対する付帯情報が失われてしまったんですよね。それは音楽雑誌の力が失われてしまったことともリンクしている。

特に同人音楽には、これまでも付帯情報というものはほとんど存在しなかった。「誰々P」みたいに検索してもニコニコ大百科くらいしかない。あの短い記事が全てで、音楽を楽しむための情報がそれしかないという、小説やアニメ、映画と大違いな状況です。

アニメなんて膨大な情報があって、むしろ感想サイトやWikipedia、掲示板を見る方が面白かったりする。それも含めてのコンテンツを楽しむってことじゃないですか。『ハルヒ』や『エヴァ』の考察サイトも沢山あったし、映画も『スター・ウォーズ』をはじめ半端じゃないファンサイトが存在する。

例えばボカロPの中で屈指の成功を収めている「カゲロウプロジェクト」も、ただ音楽を聞くだけじゃなくて、小説や漫画によって立体的な展開をして付帯情報を増やしたことで、変な言い方ですが、音楽だけじゃないという点で音楽として楽しめるようになっている。

まつらい それはすごくわかります。音楽そのものももちろんですが、その音楽をつくっている人の人間性や、その人との関係性の方も重要なのかなって思います。

だから、音楽とTwitterを連携させるというのも、まさにその関連性を可視化出来るものがほしかった。だからTwitterをベースにしたんです。目的がはっきりしていて、逆に新しい音楽を見つけることには適さないサービスですが。

AnitaSun いや、適してますよ! J-POP の超ビッグアーティストが新しいアルバム出しても中々売れないみたいな報道があるじゃないですか。でも、そもそもいつそのアルバム出たか、みんな知らないんですよ。

最近音楽が売れないと言うけれど、そもそもどんな新譜があるのかを知らせることさえできていない。知らないものを買うことはできない。

逆に同人音楽は、やっぱり「M3」と「コミケ」あわせだから、大抵そこで新譜が出るということがわかっている。だから買い逃しというのも比較的少なくて済む。

「APOLLO」や「超まとめ」同様、「M3Viewer」のAPI連携も、同じように未知の作品を知る機会を提供する点では一緒です。知っている人の新しい音楽が出た瞬間に大量に試聴させることもまた、新しい音楽に出会うということだと思っています。

ランキング偏重時代の同人音楽の行方

AnitaSun とはいえ、同人音楽業界には色んな問題が横たわっている。例えば試聴環境が整備されていないとか、どんなサークルがあるかを体系的に調べようがないとか、やっぱり敷居は高いと思うんですよね。お2人は、同人音楽にどんな問題を感じていますか?

えふ 音楽って、ラジオやテレビで流れてくることで聞くきっかけになることも多い。でも、同人音楽は、普段生活していて自然に耳に入ってくることなんてまずない。聞く側が動機をもって必ず能動的に探さなくちゃいけないですよね。

同人音楽をやっている人達は、何千枚何万枚と発売しているわけではないし、イベントでほそぼそと自分の好きな音楽を売る人が大多数です。そして、彼らが自分の音楽を宣伝する媒体は、動画サイトや自分のHP、Twitterなどがほとんどです。

だからイベントで通りすがりの人に聞いてもらうとか、例えば私の場合はすし〜さんのネットラジオ「すし〜のあぷらじっ!」で紹介してもらうとか。それで温かい感想もいただくことで継続できる気持ちも維持できている。つくる側にとってもありがたいし、聞く側にとっても、そういうふうに同人音楽を探す専用の入口がもっとあってもいいんじゃないかと。

まつらい 問題という訳ではないですが、最近は同人音楽を同人音楽と思わないで聞いている人もいますよね。高校の頃の友人たちも、YouTubeでピンとくるものが、洋楽のメジャーだったり日本の同人音楽だったりして、ほぼ同列にみなして全く同じように楽しんでいたように思います。

サークルの方でも、「ニコニコで知ったのでM3は初めてです」とか「とらのあなに行くのが初めてだからどこにCDが売っているかわかりません」みたいなファンの声をいただきます。同人音楽のリスナーが増えてきている証拠でもありますが。

AnitaSun 入ってくる入り口がどんどん変わってきましたね。

話を聞いてみると、今の高校生はボカロを聞いてる子が多くて、その中でも、当時の私がオリコンに中々入ってこないピチカート・ファイヴやサニーデイ・サービスを一生懸命掘っていた感覚で、彼らは同人音楽を掘ってるんですよね。

驚くべきことに、実際に高校生の男の子何人かに聞いてみたところ、先輩から教えてもらって同人音楽を掘るようになって、それがイケてる文化として継承されてきていると。だって、彼らがいう「堀ったアーティスト」が例えば感傷ベクトルさんですよ。ついにそんな風に同人音楽が掘られる時が来たか、という感じ。

──それは、ジャンルやメジャー/マイナーの垣根がなくなってフラットに受け入れられているということでしょうか?

AnitaSun でも、私は、昔の方がフラットだったと思っています。今は、YouTubeやニコ動で大きく取り上げられるものは世界的な広がりを見せる時代です。逆に注目をちょっとでも外れると、ランキングに載らないと、どうしても埋もれてしまう。つまり、ランキング・キュレーション偏重の世界になっている。そして、そのキュレーションも大して機能していません。

かつては、リアル店舗の売り場というキュレーションが、今とは段違いに機能していました。店舗毎にランキングの中身も違い、スタッフのおすすめコーナーもあり、顧客も分散していました。

ネットベースのキュレーションにおいては、ゲームのダウンロード販売でも音楽動画でも、等しく、ランキング外になった瞬間に突然アクセスが激減するんです。リアル店舗などと比べても。

そのため、今のインターネットの形では、極端な格差が生まれやすくなっています。一部の人が目立つと、それ以外の人は昔以上にスポットを浴びにくい。

それは今の同人音楽にも同じことが言える。特に、ニコ動中心じゃないサークルは、即売会しかアピールの場所がない。

目につきさえすれば、洋楽も同人音楽も横並びになれるという状況は、面白いと思います。ただ、とにかく今、その入り口が少ない。

即売会で数時間待ちの長蛇の列を作る大人気サークルが、それだけのヒキがありながら実は一般的には一切知られていないみたいなことが起きている。それはやはり入り口の少なさが原因ですし、もったいないとも思うんですよね。

YouTubeで優れた同人音楽に偶然出会う確率は極めて低いわけで、その感覚をもっと多くの人にとって当たり前にするためには、もっと整理された入り口が絶対必要ですよね。その機能を果たそうというのが、「超まとめ」や「APOLLO」です。

だから、「超まとめ」のAPIを使っていただいたことで、より同人音楽の広がりは増しているはずだし、どんどんそういう取り組みは進めていきたいと思っています。今日は、「APOLLO」主催としても色んな発見がありました。ありがとうございました。
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イベント情報

APOLLO(アポロ)第二回

開催日時
11月20日(金) 21:00 〜 23日(月・祝) 24:00

参加登録はこちらから https://booth.pm/apollo/

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AnitaSun

同人音楽サークルBitplane主催

2014年2月まで、IT企業や音楽関連企業に勤務。 2014年4月にWebサービス「同人音楽超まとめ」、2014年11月にpixivと共同開催で「APOLLO」をリリースし、ネットで大きな話題を生む。

Web:http://bitplane.info/
同人音楽超まとめ:http://dm-matome.com/
ネット音楽マーケットイベント「APOLLO」:http://booth.pm/apollo/

まつらい

web制作、映像制作、音楽制作

2010年、高校生の時にシンセサイザーに触れ、高校3年の秋に初めてM3に参加する。2014年にFalconnectを結成。2015年5月にM3Viewerを公開した。現在は大学でインターネットと創作の関係性を勉強しつつ、映像制作やフロントエンドエンジニアをしている。

Twitter:https://twitter.com/matsurai25
Web:http://matsurai25.info
Falconnect:http://falconnect.net/m3v/

efufp

エンジニア/「Floresta Prateada」主宰

1986年生まれ。中学生の頃にBMSと出会い、作曲とBMS作りを始める。2007年、同人音楽サークル「Floresta Prateada」を立ち上げ、以来各種イベントに合わせて同人音楽を製作している。趣味でもアプリ開発をしているが、本業はシステム屋であり、その他大勢の1人としてWEBシステムやモバイルアプリの開発をしている。

Floresta Prateada : http://flopra.com
SoundCloud : https://soundcloud.com/efufp
同人音楽DEMOプレイヤー : http://flopra.com/doujin-demo-player/

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