VTuberグループ・ホロライブ所属の星街すいせいさんが、初めて作詞・作曲をした楽曲「綺麗事」。
1月22日にリリースされた星街すいせいさんの3rdアルバム『新星目録』のラストを飾るファンク/ロックナンバーだ(編曲はMidnight Grand Orchestraの盟友・TAKU INOUEさん)。
「それぞれの革命」をテーマに据えた今回のアルバム。その最終盤でVTuberの歌姫は、自ら音と言葉とを紡ぎ、<綺麗事を吐くその口が嫌いだから歌うんだ>と歌い上げる。
星街すいせいさんは一体、何を<綺麗事>とし、怒りをぶつけているのだろうか。
失敗を恐れる潔癖な生き方は<綺麗事>である
一般的に、「現実を無視して、表面だけを取り繕うこと。体裁を繕うこと。また、体裁ばかりで現実味のない事柄」(外部リンク)がイメージされる<綺麗事>。
きれい‐ごと【綺麗事】
① 手ぎわよく美しく仕上げること。また、よごさないできれいにすますこと。
② 現実を無視して、表面だけを取り繕うこと。体裁を繕うこと。また、体裁ばかりで現実味のない事柄。
③ 手などをよごさないですむ、楽な仕事。出典:コトバンク『精選版 日本国語大辞典』
しかし、今回の自作曲の中で星街すいせいさんは、おそらくその意味合いでは<綺麗事>を使っていない。
どちらかと言えば、「よごさないできれいにすますこと」「手などを汚さないで済む、楽な仕事」に近いニュアンスで選んだ言葉だと筆者は考えている。
「綺麗事」の中で綴られるのは、<今、自分なりの生き方なのに/潔癖な思考に縛られたままで><虚勢を張る衝動で隠して 綺麗なままで生きてたいのか>と、不完全を許せず、失敗を恐れる保守的スタンスへの批判。
そして、<諦めているその顔が僕の事を曇らせる><諦めを塗り重ねて 「本当」が見えなくなってしまうんだ>と、現代社会に蔓延る諦念への怒りだ。
自らは挑戦しないどころか、安全圏から石を投げ、他人の失敗や不完全さを嘲笑う──それを正解とする完璧主義/潔癖主義的な生き方こそを<綺麗事>とまとめ、それに対する反骨心を露わにしているのだ。
決して諦めず挑戦したからこそ、VTuberの一番星は輝く
代表曲「ビビデバ」の大ヒットなどもあり、今でこそバーチャルシンガーの代表的存在として世間から認識されるようになった星街すいせいさん。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。
VTuberとして活動する前はアイドルを目指しており、様々なオーディションを受けていたもののあえなく落選。
そこで、2018年3月にVTuber個人勢(=企業に所属しないVTuber)として活動を始めたもののうまくいかず、2019年5月にオーディションと交渉(※1)の末、カバー株式会社の音楽レーベル・イノナカミュージック(※2)に加入することが決定。
(※1)星街すいせいさんは、オーディションの結果、カバーへの入所を一度断られている。
(※2)ツラニミズさん主宰のホロライブとは別ブランドの音楽レーベル。2022年4月に終了。
しかし同年12月、サポート体制の強化などを理由に、女性VTuberグループ・ホロライブに転籍──と、ホロライブに所属するまでだけでも、紆余曲折を経ている。
その後も、スターダムをのし上がる中で、VTuber/バーチャルシンガーという新しい概念/存在だからこその抵抗や批判が(表には見えない部分も含めて)あったことは想像に難くない。
それでもきっと、挑戦することを決して諦めなかったらからこそ──<ずっと欲張って/きっと間違えて/それでも歌おう>とし続けたらからこそ、星街すいせいさんはVTuber/バーチャルシンガーシーンを導く一番星として、燦然と輝いているのだ。
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