崩れゆく韓国大手事務所「HYBE」の信頼──ミン・ヒジンの退任とNewJeansの告発を巡って

HYBEはアーティスト・クリエイターファーストな姿勢を示せているか

一方、HYBEに所属しているBTSのメンバーであるジョングクさんは、14日に自身のSNSで「アーティストに罪はない(Artists are not guilty)」という文章を、NewJeansのメンバーを象徴する色のハート絵文字と共に投稿した。

隠喩的ではあるが、紛争中の組織内から出た、NewJeansメンバーへの支持とも読み取れなくはない。

これまで海外ARMY(=BTSのファンダム)を中心に、HYBEの邪魔者であるとしてミン・ヒジンさんの解任を支持する世論が少なからずあったことを考えると、興味深い解釈の余地を残す。

ここで注目したいのは、これらが皆、ポップカルチャーの直接的なつくり手であるアーティストやクリエイターから声が上がってているところにある。

エンタメ企業にとって最も重要な提供価値であるだろう創造性や芸術性は、アーティストやクリエイターの存在があってこそ生まれる(属人性が高い、とも言える)。その信頼関係に亀裂が生じているのは、エンタメ企業として致命的だ(だからこそエンタメ企業の経営倫理は、企業の価値にも直結する)。

音楽評論家のチャ・ウジンさんは「NewJeansメンバーたちを支持する」(外部リンク)というコラムを9月12日に掲載。HYBEとADORが陥っている危機的状況について、企業倫理と組織文化の観点から検討している。

その中で、チャ・ウジンさんは「、理解しがたい態度でHYBEの大切なIP(知的財産)を傷つけているのは誰なのか。 『アーティスト』と『ファン』という最優先の価値を尊重していないのは誰なのか。 多様性と創造性を保証するためのマルチレーベルという『コミュニティ』を不安にさせているのは誰なのか」と、今回の問題の責任の所在を問うている。

韓国音楽業界を寡占するHYBEの明日は

5月に、ADORの経営権を巡る内紛に関して最初にコラムをKAI-YOU.netに寄稿した時点で、筆者が問題提起したのは、経営者たちの攻防において、K-POPアーティストたちの名前が、相手への攻撃手段として使われていたことだった。

詳しくは先の記事を参照してほしいのだが、HYBEとADOR旧経営陣の対立に巻き込まれる形で、アイドルメンバーや実務スタッフたちにも攻撃の矛先が向けられてしまっていた。

たとえば、筆者はいまだにILLITの剽窃疑惑に関しては──いくら所属事務所・BELIFT LAB側の釈明の内容が劣悪で批判を集めていたとしても──否定的だし、ミン・ヒジンさんが記者会見でLE SSERAFIMもHYBEの裏切りの一例として取り上げたことに関しても批判的である。

また、紛争の最中に、ミン・ヒジンさんに対する社内の元職員からセクハラおよびパワハラの告発があったことも見過ごせない。

先の記事と同じように、様々な問題が折り重なっている今回の騒動において、HYBEとADOR旧経営陣のどちらが是か非かをはっきりさせようとする気はない。

ただ、現在のHYBEには、BTSなどの音楽を担当するレーベル・BIGHIT MUSICをはじめ、BELIFT LAB、PLEDISエンターテインメント、SOURCE MUSIC、KOZエンターテイメント、ADORなど、さまざまな傘下のレーベル/事務所が存在する。現在のK-POPを構成するメジャーな事務所を寡占している、前例のない大企業なのだ。

韓国のポップカルチャーにおけるHYBEの影響力は、あまりにも巨大すぎる。

そんな巨大なエンタメ企業に関して、非生産的な内紛のニュースばかり半年以上流れてくるのは、大衆音楽愛好家としては悲しい限りだ。

なお、韓国の国会は9月30日に、NewJeansのメンバーがHYBEから不当な扱いを受けたと主張していることに関して、参考人を招致することを発表した。NewJeansメンバーのハニさんとADORの新任代表キム・ジュヨンさんが、それぞれ選ばれている。

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