KAMITSUBAKI STUDIOのゲーム×音楽プロジェクトへの挑戦「ANMC」クリエイター座談会

kahoca、むト、WaMiの解釈を込めた歌唱で完成した『ムーンレスムーン』

──『ムーンレスムーン』では、オープニング曲、主題歌、挿入歌の3曲が制作されていますよね。

Kazuhide Oka いずれの楽曲も、ゲーム内のシーンで、主人公・ヨミチの心情を印象的に表現する曲として流れます。

各コンポーザーに僕が書いたシナリオや資料を共有して、ミーティングもした上で曲をつくっていただきました。

──楽曲にはゲームの世界観も反映されているということですね。

kahoca 私が歌う「アウトライン・シーサイド」(オープニング曲)のコンポーザーのハルハさんと打ち合わせをした際にも、そうしたOkaさんの物語を解釈して歌詞を書いているとうかがいました。

私自身、資料を読み込む中で、不安定で迷ってるような状態のヨミチが、いろいろな世界を歩く中で少しずつ進む道が開けていくようなイメージを持ちました。

なので、「アウトライン・シーサイド」でも最初はちょっと暗い雰囲気を意識して、後半は徐々に明るく光が見え始めるようなイメージで歌いました。

8月28日(水)リリースのオープニング曲「アウトライン・シーサイド」ジャケット

むト 私も担当曲の「Sad Sad Hot Latte」(主題歌)を初めて聴いたとき、ヨミチが夜道を一人で歩いているイメージが浮かびました。

寂しさや憂うつ感を感じるけれど、決して暗くはなくて、前を向いているような世界観と、コンポーザーの春野さんが制作された曲の魅力を、どうやったら表現できるんだろうと考えました。

実際に春野さんとも相談した上で、耳元でささやいているような、世界で一人で歌っているような雰囲気を意識して歌っています。

個人的には初めての歌い方だったんですけど、『ムーンレスムーン』という世界観に寄り添う過程で、私自身も成長できたかもしれません。

──「Sad Sad Hot Latte」は、むトさんにとって新たな挑戦になったと。

むト そうですね。レコーディングの後に、私の息成分多めの歌い方に合わせて、(春野さんが)さらに楽曲をアップデートしてくださったんです。

そういう部分を汲み取ってくださったおかげで、さらに『ムーンレスムーン』の世界観に寄り添えた楽曲になったんじゃないかと思います。

8月7日リリースの主題歌「Sad Sad Hot Latte」ジャケット

──kahocaさんは、「アウトライン・シーサイド」の歌唱において意識した点はありますか?

kahoca 私も、普段のユニット活動(Empty old City)では、感情を思い切り出すような歌い方をしてこなかったんです。でも、「アウトライン・シーサイド」では、特にサビで感情を出したいと思いました

具体的には、私が受け取った印象を出し過ぎず、聴き手が自分の経験や感情を重ねられるだけの余白も残しつつ、感情を出すような歌い方です。

それから、落ちサビに「暗い暗い暗い」という歌詞があるんですけど、この3回繰り返す「暗い」を全部異なるニュアンスで歌うことになったんです。

ただすごく難しくて、OKが出るまでかなり時間がかかってしまい……15回くらい録り直しています(笑)。最終的には、感情を出さない部分と出す部分、いいバランスで歌えたんじゃないかなと。

Kazuhide Oka むトさんとkahocaさんそれぞれが『ムーンレスムーン』を通じて、新しい歌い方に挑戦してくださって、それでご自身が成長できたと感じていることがめちゃくちゃ嬉しくて。本当に感動しています……!

「ANMC」では、いろいろなクリエイターの方がコラボレーションして、今までやったことのない方向性を目指してほしかった。それが参加してくれる方々にとって良い経験になったらと、恐れ多くも思っています。

もう一人のシンガーであるWaMiさんの楽曲「月の匂い」(挿入歌)のレコーディングに同席して強く感じたのは、WaMiさんも含めて3人が歌ってくださることで楽曲が完成するということです。

もっと言うと『ムーンレスムーン』が完成した印象もありました

WaMi:シンガー/作詞家。Awairo。2step・disco house・ベースハウスなど、ダンスミュージックの様々なトラックを独特の歌声で横断するアーティスト。「YouTube Music Weekend 7.0」や「Music Unity 2023」等にも出演し活動幅を拡張中。

9月4日(水)リリースの挿入歌「月の匂い」ジャケット

──『ムーンレスムーン』が完成した?

Kazuhide Oka 例えば、kahocaさんが歌った「アウトライン・シーサイド」を聴いて、初めて「『ムーンレスムーン』はこういう作品なんだ!」と理解できたような感覚です。制作を通じて、個人的にとても印象的なポイントでした。

実は、3人が歌った曲を受けて、ゲーム本編でMVが流れた後のシーンの演出に手を加えています

当初はちょっとごちゃっとしたゲーム画面だったものを、楽曲を聴いた上で「この楽曲が流れるなら、このシーンはもっとシンプルな方がいい」みたいな。

『ムーンレスムーン』ゲーム画面

──完成した楽曲に合わせて、ゲーム内容を再度調整したと。今回3つの楽曲では、それぞれMVも制作されています。制作工程は前後するかもしれませんが、MVの内容も『ムーンレスムーン』に影響を与えましたか?

Kazuhide Oka どちらかと言うと、僕自身の作品への理解が深まったという感覚に近いですね。

そもそも自分が考えた物語がアニメーションになるのって、めちゃくちゃ嬉しいです。その上で、MVを見て初めて「このシーンってこういうことだったんだ」と気づくところもありました。

例えば、「月の匂い」のMVの中にビー玉が転がるシーンがあるんですけど、『ムーンレスムーン』の作中にそんなシーンはおろか、ビー玉だって一度も出てこないんです。

映像をつくってくれたLINTALOさんに「何でこういうモチーフを使ったんですか?」と聞いたら、「(該当シーンに登場する)2人のコミュニケーションを表現してるんです」と言われて、「なるほど!」と。

僕はもともと小説も書いていたんですが、そのせいか映像的な表現が得意ではありません。「映像だとコミュニケーションはこうやって表現するのか」と、刺激になりました。

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