閉鎖的な田舎で起こるサスペンスであり、ホラーなのできちんと怖い、その上ブロマンスとしてもグッと来る。
年間数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる連載「漫画百景」。第四十四景目はモクモクれんさんによる『光が死んだ夏』です。
5月にTVアニメ化が決定した『光が死んだ夏』は、蝉がシャワシャワとけたたましく鳴く夏が舞台。そんな作中の雰囲気をさらに味わうべく、暑い日にじっとりと汗をかきながら読むのも乙です。
というわけで今回は、人ではない不気味な異形となった親友との日常を描く青春ホラー漫画『光が死んだ夏』を紹介します。
SNSで話題沸騰 アニメ化決定の大ヒット漫画『光が死んだ夏』
『光が死んだ夏』は、KADOKAWAのWeb漫画サイト「ヤングエースUP」で、2021年8月31日から連載中の漫画。作者・モクモクれんさんの初連載作品です。
親友・光の中身が人間でない何か不気味な別のモノ・ヒカルに成り代わっていることに気づいた高校生のよしきが、それでも彼のそばにいたいと願い、共存の道を探っていきます。
モクモクれんさんのXで原案に当たる作品が公開されて注目を集め、「ヤングエースUP」での連載に繋がりました。
その後も単行本の刊行前からTikTokなどSNSで話題となり、2022年3月に発売された1巻は、同年7月7日までに7刷の重版が決定。累計発行部数が、刊行後4ヶ月で25万部(電子版含む)を突破する大反響を呼びました。
現在5巻までで累計発行部数は230万部(電子版含む)を突破。「このマンガがすごい! 2023」オトコ編では1位に選出されています。
大野智敬、下野紘、KENN、内山昂輝ら8人の声優が演じたよしきとヒカル
SNSで反響を呼びヒットした『光が死んだ夏』は、コミックス刊行などのタイミングで公開されたPVも話題を集めてきた作品です。
特に2022年10月にYouTubeで連続公開された4つのPVは、主役のよしきとヒカルの同じやり取りを、計8人の声優が演技するユニークな試みで注目を集めました。
同じシチュエーションとセリフでも、声と演技が違えば雰囲気もがらりと変わります。醸し出されるよしきとヒカルの関係性も異なって見える。
どの声優のよしきとヒカルが好みなのか、視聴者ごとの意見が各動画のコメント欄に残されていて興味深いです。ちなみに組み合わせは以下の通り。
『光が死んだ夏』コミックスPV組み合わせ(敬称略)
PV第1弾 ヒカル:根岸耀太朗、よしき:大野智敬
PV第2弾 ヒカル:下野紘、よしき:松岡禎丞
PV第3弾 ヒカル:KENN、よしき:前野智昭
PV第4弾 ヒカル:榎木淳弥、よしき:内山昂輝
TVアニメ『光が死んだ夏』で、よしきと光の声を誰が担当するのか、現時点では明らかにされていません。
こうしたPVとアニメでは声優が異なるパターンも珍しくはないのですが、4つのPVに出演した声優が有力な候補となるのは間違いないでしょう。
では、以下から本作のネタバレを含む解説に入ります。未読の方はご留意ください。
いなくなった親友の面影を、人間ではない“ナニカ”に重ねざるを得ない苦しさ
『光が死んだ夏』の舞台は閉鎖的な田舎町。主人公の高校生・よしきは町の一角にある山間の村に住んでおり、村で唯一歳の近かった親友・光と幼い頃から長い時間を過ごしてきました。
そして、友情と共に、密かな好意を彼に抱いていた。
そんなある日、光が村の近くにある禁足地の山で1週間も行方不明に。結果的に無事生還した光なのですが、よしきは違和感を覚えていて……行方不明事件から半年後の夏からはじまる1話でよしきは、意を決して光に問いかけます。
「お前やっぱ光ちゃうやろ」
長い長い沈黙の後、光の顔はどろりと崩れ、明らかに人ではない姿を露わに。泣きながら「お前のこと大好きやねん」「お前を殺したくない」と、訴えてくる眼前のナニカ。
よしきは、光がもういないのであれば、偽物であってもそばにいてほしいと願ってしまいます。
親友とそっくりな形をした異形・ヒカルが、光の代わりにはならないとわかっていながら、寂しさを必死に埋め合わせようとする姿が痛々しくて辛い……。
前述したPVの第1弾に出演した根岸耀太朗さんと大野智敬さんは、本作のボイスコミックシリーズでも声優を担当。この1話を迫真の演技を再現してくれています。ぜひ一聴してみてください。
湧き上がるよしきへの思いに困惑するヒカル 異形が抱える人間らしい悩み
消えてしまった光への想いを、彼にそっくりな姿形をしたヒカルに投影するよしきの切なさ。
ヒカルは光の代わりにはならないのに、そばにいてほしいと願ってしまう自分に、自己嫌悪する痛々しい姿には哀愁があり、ぐっと来てしまいます。
他方でヒカルの中でも、湧き上がるよしきへの好意。それが光だった時の記憶の影響なのか、自分の内から生まれたものなのかに悩みます。
人間ではないヒカルにとって、好意とは理解しがたいものであり、よしきへの気持ちを持て余してしまう様子が印象的に描かれます。
そんな2人の関係はブロマンス的であると同時に、異形間の親愛関係でもあり、とても一言では言い表せない複雑なものです。
この複雑さは読者それぞれの解釈を生む余地になっており、『光が死んだ夏』が支持される理由の一つでしょう。
光の一族が背負う過酷な運命 村に潜む不可思議な謎
『光が死んだ夏』はサスペンスホラーとしても秀逸です。
禁足地の山に封じられていたヒカルが、光の身体を借りて山を降りたことがきっかけになり、村では不気味な事件や薄気味悪い怪異が発生します(ちゃんと怖いです。風呂場で後ろを振り返りたくなくなるタイプの怖さ)。
そして、ヒカルの存在を察知する者が現れはじめ、村の大人たちが事態の解決に動き出すことで、物語はよしきとヒカルの2人だけにとどまらない展開を見せていきます。
その過程で、光が村の因習を背負う一族であることが明らかになり、村自体にも不可思議な謎があると示唆され、サスペンスの色合いが濃くなっていきました。
……と、ここまでが1巻〜3巻の主な内容で、作者のモクモクれんさんいわく日常編。続く4巻と、6月に刊行されたばかりの5巻にかけては解決編となっており、現在は新章が進んでいます。
5巻までの収録分で物語もちょうど一区切りとなっているため、読みはじめるのに良いタイミングです。冒頭にも書いたように、これからの夏にピッタリなので、ぜひ読んでみてください。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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