VTuberと音楽にまつわる環境・状況は、この1年で一気に変化した。
コロナ禍がようやく終わりを迎え、ライブハウスやコンサートホールに声と熱気が蘇った。オンラインからオフラインへ、インターネット空間に閉じ込められていたバーチャルタレントたちが、ようやく外の世界へと活躍の場を広げていったのだ。
2023年は、大手VTuberグループであるホロライブ・にじさんじを中心に、大小様々な会場でライブ公演が実施された。
2022年はピーナッツくんが着ぐるみ姿でヒップホップフェス「POP YOURS 2022」に出演したことが大いに話題となったが、2023年はホロライブ所属の星街すいせいさん、ネットレーベル・Appearance所属のSifarさんらが、野外音楽フェスへの出演を果たした。
「THE MUSIC DAY」や「FNS歌謡祭」のような地上波の大型音楽番組に、VTuberが出演するケースも増えてきている。 また、メジャーレーベルもVTuberシーンにさらに接近。ユニバーサルミュージックがホロライブとの共同レーベル「holo-n」を設立したほか、ANYCOLORとVirgin Musicによる音楽レーベル(Altonic Record/RFMO Record)から音源リリースが続いた。
シーンの中で長く活動していた女性ソロシンガーのMaiRさんや朝ノ瑠璃さんがビクターエンタテインメントから、七海うららさんがエイベックスからメジャーデビューした。
2017年末/2018年に端を発するVTuberブームから5年を迎え、長い活動歴・形成されたファンダムに支えられながら、様々な挑戦が試みられている格好だ。 これが2023年のVTuberと音楽にまつわる環境・状況である。
ドラスティックな変化が起こった年だからこそ、シーンから生まれたヒットソングもさまざまな筋道を辿っている。短い字数ではあるが詳細を記してみた。
またこういったシーンの広がりがあったことをうけ、心痛めながら外した楽曲がある。HACHIさんの「Deep Sleep Sheep」、ROF-MAOの「ウィーアーポップスター」、星街すいせいさんの「プラネタリウム」の3曲だ。
特に星街すいせいさんは先にも述べたような白眉の活躍を続けていたわけだが、ファンからすれば「なぜ?」と思われるだろう。その理由は今回選んだ10曲について触れればご理解いただけるはずだ。
「東方Project」のアレンジ曲で知られる同人サークル・IOSYSの手による電波ソング。9歳になったしぐれういさんがリスナーを足蹴にする、口リコンを題材にした楽曲だ。
その内容については一部から批判もあがり、賛否両論を巻き起こした。その是非はさておいて、「粛聖!! 口リ神レクイエム☆」は、古のインターネットらしいジョークが、いかに強烈なのかを現代に示した。
一方、MVのダンスアニメーションが、海外のヒップホップ楽曲を使った2次創作動画によって広がり、BMWやLotus Carsといった自動車メーカーが制作した広報動画にも登場した。アニメルックとアニメーションという特徴は、ネットミームにもなるコミカルさを持つ、VTuberにとって鋭い武器であると証明した。
新たなフェーズに入り、不退転の覚悟をMaiRさん自身が綴った詞、朝日が昇っていくような高揚感のある曲は、ロックへの傾倒を形にしたアルバムの始まりにピッタリとハマっている。
ホロライブやにじさんじのようなネームバリューのある大手VTuberグループに所属していない、彼女のようなソロシンガーがメジャーデビューするという躍進は外すことはできない。
2023年4月に1stアルバム『ARU』を発表。ウィスパーボイスを淡々と聴かせていくボーカルと低温度に整ったシンセ・サウンドがメインとなったアルバムの中でも、「あおいゆめ」は傷をなでるような繊細さを漂わせる珠玉の1曲だ。
妹的な存在である明透(読み:あす)さんとともに、バーチャルシンガーユニット・Albemuthとしても活動しており、毎月新曲をリリース。その活動ペースは、バーチャルシンガーとしての印象をより強めている。
RIOT MUSICの所属メンバーは歌配信を毎日欠かさず放送していることが多いが、彼女もその1人。
初のアルバム『White Reflections』から先行リリースされた「我儘コンフリクト」は、アグレッシブなギターリフとハイトーンな松永依織さんのボーカルが相まったアッパーなロックソング。一途なラブソングのようで、ファンに寄り添いたいと願う彼女らしいメッセージソングとしても読み解ける歌詞にも注目だ。
バンド感のあるアグレッシブなサウンド、不遇な出来事に悩める自分を肯定していく言葉の数々。「夢現妄想世界」は、彼女たちのデビューを飾るにふさわしい華々しい1曲となった。
メディアミックスプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」のキャラクターデザインで仕上がったVTuberが活動するということもインパクトが強いが、それ以上に「夢現妄想世界」は名刺代わりとして印象深い1曲となった。
混沌としたインターネットカルチャーの中で互いにリスペクトをしていた両者のコラボ曲ということで、原曲の時点でファンからも人気を集めた1曲だった。そしてここに、カナダ・トロント拠点のコレクティブ・six impalaがリミキサーとして参加。
ハイパーポップの様式を活かしてリビルドされ、すでに分解・分裂寸前だった原曲をさらに分解しつつ、有機的にハマりあう電脳スクリーモな1曲へと変幻した。
彼女の低めの枯れた声は、分厚く音色でぶん回されるギターとドラミングに負けない、特異な存在感を放っている。2023年、常闇トワさんは、1stフルアルバム発表に初のソロライブ公演と経験を積んだ。2024年以降にどのようなアクションを起こすかは注目だ。
「美少女無罪♡パイレーツ」は、年を経るごとに広がっていた音楽的冒険やコミカルな要素は一度トーンダウンし、改めて「宝鐘マリンとは?」を詰め込んだ自己紹介ソングである。MVがTikTokなどで大きくバズり……という煽り文句は彼女にとってはもはや恒例のこと。すっかりネットカルチャーを引っ張る顔役となった彼女の充実を示す1曲となった。
そのインパクトから1年、新たな衣装と共にリリースしたのが「カミサマレコード」だ。デビュー曲に引き続き、作詞・作曲・編曲を広川恵一さんが担当。太いベースサウンドを中心にしたグルーヴィなダンスチューンとなっている。
"にじさんじの新世代"という視点で見られがちなバーチャル・タレント・アカデミー出身者の中で、その第1期生である彼女ら3人にとって大事な1曲として支持されていくはずだ。
自身初のアニメタイアップとなった楽曲だが、トゲついた質感の歌声とギターリフが絡み合うこの曲で強い印象を与えたといえよう。女性のVTuberがポップシーンへと次々に進出するなかで、男性タレントといえばやはり彼が先頭を切るはず。「にじさんじフェス2023」でも卓抜とした印象を残した彼の両肩には、自ずと大きな期待と注目が集まっている。
コロナ禍がようやく終わりを迎え、ライブハウスやコンサートホールに声と熱気が蘇った。オンラインからオフラインへ、インターネット空間に閉じ込められていたバーチャルタレントたちが、ようやく外の世界へと活躍の場を広げていったのだ。
2023年は、大手VTuberグループであるホロライブ・にじさんじを中心に、大小様々な会場でライブ公演が実施された。
2022年はピーナッツくんが着ぐるみ姿でヒップホップフェス「POP YOURS 2022」に出演したことが大いに話題となったが、2023年はホロライブ所属の星街すいせいさん、ネットレーベル・Appearance所属のSifarさんらが、野外音楽フェスへの出演を果たした。
「THE MUSIC DAY」や「FNS歌謡祭」のような地上波の大型音楽番組に、VTuberが出演するケースも増えてきている。 また、メジャーレーベルもVTuberシーンにさらに接近。ユニバーサルミュージックがホロライブとの共同レーベル「holo-n」を設立したほか、ANYCOLORとVirgin Musicによる音楽レーベル(Altonic Record/RFMO Record)から音源リリースが続いた。
シーンの中で長く活動していた女性ソロシンガーのMaiRさんや朝ノ瑠璃さんがビクターエンタテインメントから、七海うららさんがエイベックスからメジャーデビューした。
2017年末/2018年に端を発するVTuberブームから5年を迎え、長い活動歴・形成されたファンダムに支えられながら、様々な挑戦が試みられている格好だ。 これが2023年のVTuberと音楽にまつわる環境・状況である。
ドラスティックな変化が起こった年だからこそ、シーンから生まれたヒットソングもさまざまな筋道を辿っている。短い字数ではあるが詳細を記してみた。
またこういったシーンの広がりがあったことをうけ、心痛めながら外した楽曲がある。HACHIさんの「Deep Sleep Sheep」、ROF-MAOの「ウィーアーポップスター」、星街すいせいさんの「プラネタリウム」の3曲だ。
特に星街すいせいさんは先にも述べたような白眉の活躍を続けていたわけだが、ファンからすれば「なぜ?」と思われるだろう。その理由は今回選んだ10曲について触れればご理解いただけるはずだ。
目次
しぐれうい「粛聖!! 口リ神レクイエム☆」
厳密に言えば2022年に発表された楽曲なのだが、2023年のヒットソングを紹介する上で、9月に公開されたMVの再生回数がVTuber史上最速で1000万回を突破し、数ヶ月のうちに7000万回に到達したこの曲を外すわけには行かない。「東方Project」のアレンジ曲で知られる同人サークル・IOSYSの手による電波ソング。9歳になったしぐれういさんがリスナーを足蹴にする、口リコンを題材にした楽曲だ。
その内容については一部から批判もあがり、賛否両論を巻き起こした。その是非はさておいて、「粛聖!! 口リ神レクイエム☆」は、古のインターネットらしいジョークが、いかに強烈なのかを現代に示した。
一方、MVのダンスアニメーションが、海外のヒップホップ楽曲を使った2次創作動画によって広がり、BMWやLotus Carsといった自動車メーカーが制作した広報動画にも登場した。アニメルックとアニメーションという特徴は、ネットミームにもなるコミカルさを持つ、VTuberにとって鋭い武器であると証明した。
MaiR「未完成アンチテーゼ」
4月26日に発表したメジャー1stアルバム『未完星』の1曲目を飾る曲。MaiR(旧名義:星乃めあ)さんは、2018年7月に“バーチャルシンガー”としてデビュー後、オリジナルアルバムを2枚リリース。2021年に改名してより本格的な活動へシフトすると、今春ビクター・エンターテイメントからメジャーデビューを果たした。新たなフェーズに入り、不退転の覚悟をMaiRさん自身が綴った詞、朝日が昇っていくような高揚感のある曲は、ロックへの傾倒を形にしたアルバムの始まりにピッタリとハマっている。
ホロライブやにじさんじのようなネームバリューのある大手VTuberグループに所属していない、彼女のようなソロシンガーがメジャーデビューするという躍進は外すことはできない。
存流「あおいゆめ」
花譜さんやDUSTCELLらを擁し、黎明期から独自のスタンスで存在感を示していたクリエイティブレーベル・KAMITSUBAKI STUDIO。その中のSINSEKAI RECORDに所属しているのが存流(読み:ある)さんだ。2023年4月に1stアルバム『ARU』を発表。ウィスパーボイスを淡々と聴かせていくボーカルと低温度に整ったシンセ・サウンドがメインとなったアルバムの中でも、「あおいゆめ」は傷をなでるような繊細さを漂わせる珠玉の1曲だ。
妹的な存在である明透(読み:あす)さんとともに、バーチャルシンガーユニット・Albemuthとしても活動しており、毎月新曲をリリース。その活動ペースは、バーチャルシンガーとしての印象をより強めている。
松永依織「我儘コンフリクト」
ここ1年でVTuber運営含む様々な会社と経営統合し、グループ企業化しているBrave group。その中で音楽に特化したRIOT MUSICに所属し、2020年9月から活動しているのが松永依織さんだ。RIOT MUSICの所属メンバーは歌配信を毎日欠かさず放送していることが多いが、彼女もその1人。
初のアルバム『White Reflections』から先行リリースされた「我儘コンフリクト」は、アグレッシブなギターリフとハイトーンな松永依織さんのボーカルが相まったアッパーなロックソング。一途なラブソングのようで、ファンに寄り添いたいと願う彼女らしいメッセージソングとしても読み解ける歌詞にも注目だ。
夢限大みゅーたいぷ「夢現妄想世界」
これまでも、UUUM、吉本興業、バンダイナムコ、SONYなどエンタメ業界で力を発揮していたプロダクションやメーカーからVTuberがデビューしてきたが、2023年はブシロードから印象的な5人が登場した。バンド感のあるアグレッシブなサウンド、不遇な出来事に悩める自分を肯定していく言葉の数々。「夢現妄想世界」は、彼女たちのデビューを飾るにふさわしい華々しい1曲となった。
メディアミックスプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」のキャラクターデザインで仕上がったVTuberが活動するということもインパクトが強いが、それ以上に「夢現妄想世界」は名刺代わりとして印象深い1曲となった。
PAS TASTA「peanut phenomenon(feat. ピーナッツくん) [six impala remix]」
ウ山あまねさん、Kabanaguさん、hirihiriさん、phritzさん、quoreeさん、yuigotさんと近年支持を集めていた6人のトラックメイカーによるPAS TASTAに、VTuber/ラッパーのピーナッツくんがコラボした楽曲が「peanut phenomenon」だ。混沌としたインターネットカルチャーの中で互いにリスペクトをしていた両者のコラボ曲ということで、原曲の時点でファンからも人気を集めた1曲だった。そしてここに、カナダ・トロント拠点のコレクティブ・six impalaがリミキサーとして参加。
ハイパーポップの様式を活かしてリビルドされ、すでに分解・分裂寸前だった原曲をさらに分解しつつ、有機的にハマりあう電脳スクリーモな1曲へと変幻した。
常闇トワ「ライメイ」
ホロライブは、アイドルグループと語られることが多く、実際にそのような売り出し方が目につく。だが、そのルックスや声の可愛らしさ/キャラクター性だけが彼女たちの魅力ではない。星街すいせいさん、AZKiさん、Mori Calliopeさんらの活躍を見ればわかるように、才能のあるシンガーが揃っており、常闇トワさんはこの轍をおいかける最右翼であろう。彼女の低めの枯れた声は、分厚く音色でぶん回されるギターとドラミングに負けない、特異な存在感を放っている。2023年、常闇トワさんは、1stフルアルバム発表に初のソロライブ公演と経験を積んだ。2024年以降にどのようなアクションを起こすかは注目だ。
宝鐘マリン「美少女無罪♡パイレーツ」
昭和後期から平成までのポップカルチャーやサブカルチャーに強く、今日食べる食事から年齢や下ネタまで、さまざまなネタを調理していく宝鐘マリンさんは、コミカルな存在である。そのコミカルさは、自身のソロ楽曲に全面に活かされ、「Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆」「Unison」「I'm Your Treasure Box *あなたは マリンせんちょうを たからばこからみつけた。」と年を経るごとに大きな反響を集めていった。「美少女無罪♡パイレーツ」は、年を経るごとに広がっていた音楽的冒険やコミカルな要素は一度トーンダウンし、改めて「宝鐘マリンとは?」を詰め込んだ自己紹介ソングである。MVがTikTokなどで大きくバズり……という煽り文句は彼女にとってはもはや恒例のこと。すっかりネットカルチャーを引っ張る顔役となった彼女の充実を示す1曲となった。
Ranunculus「カミサマレコード」
2022年3月16日にデビューした天ヶ瀬むゆさん、先斗寧さん、海妹四葉さんによるRanunculus。ハイテンポなポップナンバー「DONBURA KONBURA SPEAKERS」でデビューを飾ると、ハイテンションなムードをほとばしらせたこの曲は、多くのリスナーの心を射抜いた。そのインパクトから1年、新たな衣装と共にリリースしたのが「カミサマレコード」だ。デビュー曲に引き続き、作詞・作曲・編曲を広川恵一さんが担当。太いベースサウンドを中心にしたグルーヴィなダンスチューンとなっている。
"にじさんじの新世代"という視点で見られがちなバーチャル・タレント・アカデミー出身者の中で、その第1期生である彼女ら3人にとって大事な1曲として支持されていくはずだ。
葛葉「Black Crack」
名実ともににじさんじを引っ張るトップランナー・葛葉さん。2023年は配信にイベントににじさんじ内外の企画にと、様々に顔を出しては大いに場を盛り上げた。そんな中で、音楽活動として最も大きなインパクトを残したのは「Black Crack」のリリースだ。自身初のアニメタイアップとなった楽曲だが、トゲついた質感の歌声とギターリフが絡み合うこの曲で強い印象を与えたといえよう。女性のVTuberがポップシーンへと次々に進出するなかで、男性タレントといえばやはり彼が先頭を切るはず。「にじさんじフェス2023」でも卓抜とした印象を残した彼の両肩には、自ずと大きな期待と注目が集まっている。
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