魔夜峰央×山田マリエ 描き、描かれ──エッセイ漫画を巡る親子対談

「漫画なんてそんなもんでいい」

──親子としてのフラットな関係性でこそ成り立ったエッセイ漫画作品に、ご自身としてはどのような思いを込められていますか?

山田マリエ なんでしょうね。「漫画家はヒット作を1本か2本描いていればずっと印税で食べていける」という幻想を抱いている方がいると思うんですけど、そうじゃないよということがわかったかな? って感じですかね(笑)。

『親バカ』シリーズも、例えばこれから子育てをする方への見本みたいな感じになっているかな。漫画って、自分のことを描いていても、他の誰かの助けになっている感じがするんですよね。こうやって娘側の気持ちが記録されることによって考えられることもあるのかもしれません。 魔夜峰央 私の場合は、エッセイ漫画に限らず、常にハッピーエンドで面白おかしく描きたいなと思っている。世の中に嫌なことはいっぱいあるわけだから、別に漫画でそういうことを描く必要はないわけです。

『ドラえもん』だったかな。のび太くんが漫画を読んで笑ってるんですけど、なんで笑っているかというと、もう夏休みも終わりなのに宿題を何もやってない、それを忘れるために漫画を読んで笑っている──それでもいいんじゃないかと。漫画なんてそんなもんでいいんじゃないかなと思います。笑って一時、嫌なことを忘れられれば、それで十分役目を果たしていると思います。 魔夜峰央 落語家の立川志らくさんは「芸は粘りと反射神経」と言っていましたけど、漫画もそうかもしれません。例えば人から言われたことを素直に受け取る心と、そうじゃなくて自分がこう思うんだと突っ張っていく力が、ちょうど拮抗してないとうまくいかないと思うんですよ。

どっちか片方、人の意見に左右されてばっかりでもいけないし、自分の我を押し通すばっかりでもいけない。人の意見を聞きながらながら自分を通していくという間の細い線を、いかにうまくバランスとっていくかが大事なんだと思います。

──そのバランスをとるには、どうしたらいいのでしょうか?

魔夜峰央 知識をとにかく増やすことは大事だと思っています。今、パソコンでもスマホでも情報はすぐいろんなことを調べられる。でも、それは決して知識ではないですよね。自分の頭の中にあって自由自在に使いこなせて初めて知識と言える。

私の場合、知識というものは引き出しに入っていないんです。生まれたときから今まで、知識は全部目に見える形で自分の中にあるんですよ。だから上から見ると、あれとこれをくっつけたら面白い話になるぞというのはわかるんです。

山田マリエ 私はまだ、創作的なオリジナル漫画を描いて出しているわけではないので、どうやったら話がつくれるのか逆に知りたいですね。

魔夜峰央 いろんな要素を重ねておいてそれがどこに転がっていくかを見ていく方法と、まず結果があって、そこからストーリーをつくっていく方法と。

山田マリエ 結果から逆算というのは『パタリロ!』の「FLY ME TO THE MOON」とか「忠誠の木」とか?

──2話とも、『パタリロ!』コミックス10巻に収録されている感動的なエピソードですね。

魔夜峰央 1970年代に『つる姫じゃ〜っ!』(土田よしこ原作)っていうギャグ漫画があったんですけど、その中で1本だけちょっと悲しいお話があったんです。それを読んだ時に「あ、ギャグ漫画でもこういうことやっていいんだ」と思って『パタリロ!』でもそういう感動的な話を描きたいなと。

特に「FLY ME TO THE MOON」の時にはどうやって泣かせる話を描けばいいかわからないから、自分でいろんなストーリーを頭の中で組み立てては壊し、組み立てては壊し、多分100本以上つくったと思うんです。たくさんの中から自分的にヒットしたものを描いたんで、ものすごい効率の悪いつくり方。だからもう、ああいうのは書かないと思います。

山田マリエ 例えばSFが描きたい、殺人事件が描きたいみたいに、やりたいことを決めるところから始めるとか?

魔夜峰央 そういうところから始めた方が書きやすいとは思う。でも私は、描き終わるまでこれがミステリーになるのかSFになるのかわかないってことがよくあります。

山田マリエ 一番参考にならない(笑)。

魔夜峰央 言ってるだろう、私のやり方は人の参考にならないんだよ(笑)。そもそも私はネームをつくらないから、「この漫画は最後どうなるんだろう」と自分でもわからないんですよ。最後の3ページを隠すと、ミステリーなのか時代劇なのかわからない、くらいのつくり方をしている。だから自分でもハラハラしているんですよ。

取材の合間、なぜかプロレス技の話になり、魔夜先生が娘の山田さんで実演…?

……からのハグ

──ネームを描かないのも、かなり異例のことですよね。

魔夜峰央 『パタリロ!』を描き始めて1年くらいはネームも描いていました。当時の担当に「ネームも原稿もどうせ同じだから、めんどくさいから(ネーム)描かなくていいよ」と言われてから描かなくなったんです。だから私の漫画は、シェフのおまかせコースしかないんです。「◯◯なものを描いてくれ」というオーダーは受け付けられない。

大体皆さんね、良いものを描こうとしすぎるんですよ。だから苦しい。私はいい加減につくっているから楽なんです。私は、6割を出せたらいいんじゃないかなといつも言っています。そういう姿勢であれば楽ですよ。別にストーリーも、そんなに良いものをつくろうと思わなければ、いくらでも出てきます。ただ私は、締切だけは絶対に守ります

──それは何か理由があるのでしょうか?

魔夜峰央 最初から締切は守っていましたよ。ただ、締切を守らない漫画家の担当編集からある話を聞いたことがあって。その日もとっくに締切を過ぎていて。編集が、セリフの部分をハサミで切ってコマに貼る作業を手伝いながら、その漫画家の背中を見て「このハサミで刺したら気持ちいいんだろうなー」と思ってしまったという話を直接聞いた時から、もう怖くて。それからは絶対締切だけは守っています(笑)。

山田マリエ うわあ……。

──それは……。

魔夜峰央 あと、長続きの秘訣は、とにかく健康ですね。バレエ教室をやっている妻に巻き込まれる形で44歳から始めて、うんと痩せて健康になりました。漫画を描き続けるなんて、絶対身体によくないですからね。皆さんもバレエやりませんか?

取材後、筆者が参考のために持参していた私物のコレクションすべてに進んでサインしてくださったお二人

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