Mika Pikazoインタビュー “本当に愛される”イラストを生み出す方法

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ニッチなサブカルチャーの積み上げが「ポップ」になっていく

──特に最近の若いクリエイターの作品を見る上で気付いたことはありますか?

Mika Pikazo 若いクリエイターさんは、吸収力が本当にすごいと思います。カルチャーの発展と共に感性や技術も変化していくのは面白いことですよね。このことは、どの世代でも上に行けば行くほど下の世代に対して思うことではないでしょうか。絵だけではなく、音楽やデザインなど様々なジャンルでアプローチの仕方がどんどん増えていると思います。

特にSNSに特化したクリエイターが増えてきました。SNSは数字が見えてしまうため、人の目を気にしすぎてしまうという問題もありますが、それ以上に「やってみよう!」「これはどうなんだろう?」といろいろなものに興味を持つ方が増えていると思います。そうした成長している若いクリエイターの中に「いつか驚異的な存在になるだろうな」という方を見かけます。

──気になるクリエイターさんを教えてください。

Mika Pikazo イラストレーターのしまぐちニケさんと映像作家のBiviさんとのユニット・擬態するメタです。カメラワークやデフォルメしたイラストの展開が素晴らしいMVを制作されています。まさに新時代の方たちだと感じます。
擬態するメタ コンセプトティザー『企劇』
Mika Pikazo 観る人の感情を揺さぶるようにつくられていて、重たいワンカットがとにかくうまい。ただイラストを描くというアプローチだけでは、こういう方たちは出てこないと思います。

──そういう方々は、先鋭的でありながらもしっかりポップに仕上げてくるバランス感覚がすごいと思うのですが、Mika Pikazoさんは作品をつくるとき、ポップさに対してどのような考えをお持ちですか?

Mika Pikazo ポップなどいわゆる「王道」は、大きなジャンルで、誰でも挑戦しやすいというイメージが一般的にあると思いますが、私は逆で、本当にポップで王道的なことをすることは大変難しいことだと思っています。

王道って広い道のように思えますけど、王って1人しかいませんから。覇道を突き進まなければいけない。どこかで「自分はこう思うんだ」と、時に根拠がなくても信じてやっていく。失敗することがあれば責任を負うことになる。反省をして、なんとかやれないかとそれでもやっていく。自分の絵はポップだとか王道っぽいとよく言われることがありますが、自分としてはめちゃめちゃマイナーなことをやっているつもりなんです。そこを「ちゃんとやる」ということの苦しさ。堂々と、自分を信じてやることってすごく怖いし難しいことですよね。

シンプルに、みんなに愛されるものをつくることはとても難易度が高く、考えてもなかなかできるものではありません。「これがみんな好きだよね」という発想では、本当に愛されるものなんてつくれない。そして王道のもの(メジャー)の中には、たくさんのサブカルチャー(マイナー)が入っていると思います。王道はサブカルチャーへの肯定でもありリスペクトなんです。

私は音楽が好きなので、よく音楽アーティストをチェックしているんですが、ニッチでまだ誰も知らないようなクリエイターさんを引っ張ってきてMVをつくっている人を見かけます。

若手のクリエイターと組んで、この人はここで輝くべきだと一手を打っていく。化学反応を起こしていく。そういうクリエイティブの可能性があると思っています。アンダーグラウンドな存在がなくてはポップが成り立たないように、ポップがあるからこそ、そこに美しいサブカルチャーが生まれていくと思っています。

アニメーションで広がった表現の可能性

──イラストレーターが1つのコンテンツに対して継続的に付き合っていくことは、企画によっては難しいと思いますが、Mika PikazoさんがデザインされたVTuberの輝夜月さんは、キャラクターも活動していたし、Mika Pikazoさんもイラストを描いてそれぞれが活きています。Mika Pikazoさんがコンテンツに関わって一緒に歩いて行くとしたら、どういうやり方があると思いますか?

輝夜月1stアルバム『×××』(SACRA MUSIC)ジャケットイラスト(2019)/協力:㈱ソニー・ミュージックレーベルズ

Mika Pikazo 自分が話をつくるなど、原作に関わることですかね。それはイラストとは違う分野ですが、絵が描けるからこそできるイメージづくりというものもあると思っています。

──以前もそうしたプロジェクトに参加されましたが、今後もご自身の原作や原案で進めていくことも考えていますか?

Mika Pikazo やってみたいとは思っています。「自分が監督をする」というほど監督に対する知識があるわけではないのですが、「誰かとものをつくっていくために必要なこと」をいろいろ学びながらやっていきたいですね。

でもそれは「やってみたい!」ということ以上に「挑戦しなければいけない」という焦燥感でもあります。チームワークはいろいろな人が関わるし、いろいろな人の人生の時間をもらうからこそ、みんなで何かを成し遂げたいという気持ちがあります。

──最近、アニメの制作をされているのも、そうした意図からですか?

pixivとWacomによるオンラインイベント「Drawfest」で、はなぶし氏と共演。© CFM

Mika Pikazo アニメーションを始めたきっかけは、アニメーターのはなぶしさんとお話しする機会があったからです。私が「アニメーションって難しいんじゃないですか?」って聞いたら、「そんなことないですよ!」と、「たとえば目を動かすにはこういう工程が必要で……」という感じで、目のまばたきや風に舞う髪の表現など、いろいろなことをやさしく教えてくださいました。そんな風に教えてもらえなかったらアニメに挑戦していなかったかもしれません。

もともと私は、絵と同じくらい、もしかしたらそれ以上に音楽が好きなのですが、音楽のMVなどの映像やライブでの舞台演出、舞台装置を含めた、総合芸術としての「音楽」が好きなんです。そうした仕事に関しては、「自分は静止画を描く人間だから関係ない」と諦めていました。でもアニメーションをやるようになってから、「もしかして自分がすごく好きだった音楽とか映像、舞台演出に関わることができるんじゃないか」という可能性を見出すことができました。 Mika Pikazo 実は最近、アニメーションのお仕事をいただきまして、自分が中心になっていろいろなクリエイターさんや撮影監督さんと一緒に仕事をすることが、2022年、2023年の新しい挑戦になります。海外の映像が好きなので、日本とは違うアプローチを少しでもできたら、と考えています。

──アニメーションを始めて、作画の表現に対して新しい発見はありますか?

Mika Pikazo アニメーションをやったおかげで画力が上がりました。イラストをつくるときは、イラストとしての気持ちよさを求めていましたが、アニメーションは動きです。

動いた髪を描くと、おでこが見えすぎたり、風で乱れた髪で顔が見えなくなるなど、1枚のイラストとしてはちょっと変になります。イラストではそういうことは避けてきれいな髪型に整えますが、「アニメーションでは思いっきりやっていいよ」と言われたので、動かすときは大胆に描こうと思いました。そうした体験を通して「イラストでももっと思いっきりやってもいいんじゃないか」と思いはじめたんです。

今までだったら「このキャラクターは髪を動かしすぎず、デザインがわかるように描いた方がいいかな」と思っていたのが、「これくらい動かしても絵として成り立つんじゃないかな」という風に変わってきました。「静止」の気持ちよさもありますが、「動的なもの」の気持ちよさもあり、それが絵にも表せるようになったと思います。


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