連載 | #34 コミックマーケット100特集

「コロナ前を知らない人も出てくる」コミケ代表が模索する、10年後の即売会の在り方

3年ぶりの夏コミで冊子版カタログが復活

──夏コミとしては2019年以来だったことで、スタッフの中にも初参加という人が多かったのではないでしょうか?

市川孝一 もちろん、今回初めてスタッフとして登録してくれた人もいます。中には2020年のゴールデンウィークに開催予定だった「コミックマーケット98」でスタッフ登録してくれて、その時は中止となったために、今回が初参加だったという人もいました。

──初参加のスタッフが多い中で、運営面で特別に何か意識していたことはありますか?

市川孝一 初めての人でも楽しく、迷わずしっかりと取り組めるような体制づくりを日頃から行っているので、新たに何かを考えてというよりも、これまで通りを改めて徹底しました。

準備会では、セクションごとに連絡系統や様々なケースへの対応の仕方をまとめたマニュアルをつくっています。非常に細かなレベルまで落とし込まれているので、コミケット開催前には、マニュアルをベースにして、セクションごとにレクチャーを行っています。

加えて、自分だけでは判断が難しい場合、判断を仰ぐべきスタッフとの顔合わせも済ましているので、初参加であってもスムーズな連携が取れるよう心がけています。

──スタッフの思いが込められているという意味では、冊子版カタログの復活も大きな出来事だったのではないでしょうか? 市川孝一 我々はやっぱり紙が大好きなので、思い入れはありますね。これまでコミケットでは分厚いカタログを片手に歩き回っていた世代なので、つくれるならばやっぱりつくりたいと思いました。

実は、昔のカタログと比べると、今回使っている紙は厚く重くなっているんです。だから2日間開催なのに、今回の方が重い。それでもどうしてもつくりたくて、調達できる紙の量やスケジュール、部数を鑑みつつ復活させました。今のスケジュールと部数だと、以前の紙は使えないんです。

──うれしい反面、中にはどこのお店でも品切れで、手に入らなかったという声もありました。

市川孝一 そこは本当に申し訳ないと思います。ただ我々としても、万一の中止リスクや制作に必要な原材料などの状況を踏まえて、実現可能な部数を探りながらの作業だったんです。

ここまで手に取ってもらえたのは非常にうれしく、つくってよかったと実感しています。一方で、供給不足だったという意見にも耳を傾けながら、さらには世界的な原材料不足の情勢もあるので、今回の経験を可能な範囲で次へと活かしていきたいです。

2021年の冬コミから変化した制限と緩和

──「コミックマーケット100」では、2021年末の冬コミと比べて、東西ホール間の移動制限の解除やワクチン・検査パッケージの撤廃など、制限が緩和されていました。

市川孝一 社会的な状況を見守りながら、それぞれの判断を下した結果です。今回に関して言えば、政府の方針として行動制限を設けない中で、感染症対策は取りつつも、準備会としてもできる範囲でかつてのコミケットに近づけていきました

加えて、夏コミでは熱中症の危険もあるので、マスクについては世間的に緩和が進んでいることも考慮して、室内ではしっかりと着用してもらいつつ、屋外の待機列については、会話しないことを条件に外していただいても構わないという形でルールを設定しました。

それでも検温やアルコール消毒は徹底し、参加者の方々には、チケットの購入を通じて追跡可能な連絡先の共有にご協力いただいています。緩和する部分としっかり対策する部分、両輪で進めていきました。

──南・西展示棟の4階という広いスペースを設けて、検温やチケットのチェックをされていたのは“しっかり”の部分でしょうか?

通常は企業ブースとして使われることも多い東京ビッグサイトの西展示棟の4階。今回は検温やチケットのチェックなどを行うスペースとして、その後は屋内コスプレスペースとして使われた。

市川孝一 そうですね。従来であれば、主に企業さんのスペースとして使用していたエリアです。気温が上がったときに屋外で検温すると、肌表面の温度が上がった状態のため、誤検知が発生する可能性がありました。

正確な検温のために屋内のスペースを用意して、人の流れが落ち着いてきたら、屋内コスプレスペースとして開放するなど、臨機応変に対応していきました。本来は違った形での開催を考えていた(外部リンク)のですが、外的な要因のせいで、なかなかうまく調整ができずにこの形になりました。

──台風の接近もありましたが、結果的には屋内に待機できるスペースを設けていたことが、功を奏した面もあったと思います。

市川孝一 どこか運がよかった面はありますね。もちろん備えてはいましたが、結果的に、準備してきたことがうまくハマった形になりました。それでも、どうしても待機列などで雨に降られてしまった方もいるので、そこは申し訳ないと思います。

台風については、1日目が終了した直後から、風で飛ばされないようテントを畳んで対策を進めました。特に1日目の夜から2日目にかけて、印刷会社の搬入への影響が心配でしたが、無事に搬入ができて2日目を迎えられてよかったです。
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コロナ禍、100回目のコミケを振り返る

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コミックマーケット100特集

2022年8月13日(土)・14日(日)の2日間にわたって東京ビッグサイトの東・西・南展示棟(サークル・企業ブース)で開催される「コミックマーケット100」(C100)を特集。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で中止・延期を経て、2021年12月に2年ぶりに現地開催された世界最大級の同人誌即売会が迎える、記念すべき100回目。 冊子版カタログの復活、ワクチン・検査パッケージの非導入、東西エリアの移動制限解除、そして来場者数上限を8〜9万人に引き上げ──。 1975年の第1回開催以来、コロナ禍という特殊な状況でも歩みを進めるコミケ。サークル、コスプレ、一般参加者、さらには準備会と全参加者を追う。

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