ウルトラマンは母性原理で戦っていた? 心優しきヒーローと命をめぐる物語

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『ウルトラマン』にはなぜ恋愛描写がないのか?

『ウルトラマン』を、後番組である『ウルトラセブン』や『帰ってきたウルトラマン』と見比べてみると、『ウルトラマン』だけ恋愛描写がないのだ。

セブンは、ダンとアンヌとの淡い恋物語が描かれ、帰ってきたウルトラマンの主人公・郷隊員には坂田アキというガールフレンドがいた。

ところが、ウルトラマンのハヤタ隊員には浮いた話がまるでない。女性隊員であるフジ隊員と恋愛関係に発展するわけでもなければ、他にガールフレンドがいるわけでもない。

これは、ハヤタ自身がもともと恋愛に興味がない男性だというより、ウルトラマンと合体したために、恋愛に興味が無くなったと考えたらどうだろうか?

仮にウルトラマンが女性だとしたら、ハヤタと合体したウルトラマンは、雌雄が一体となった生物、すなわち、性別を超越した存在になることになる。

シャーマンは霊的な存在と交わらなければならないので、基本的に結婚ができない。

父と母 最終回のウルトラマン/ゾフィーの会話から考える

ゾフィーがウルトラマンを迎えに来た時、ウルトラマンは自分が光の国に帰ってしまったら、自分と命がつながっているハヤタが死んでしまうので戻ることはできないと言った。

それに対しゾフィーは、君は十分に戦ったから、地球人もわかってくれるはずだと言って説得した。そして、地球の平和は、人間の手でつかみ取ることに意味があると言うのだ。

この、ウルトラマンとゾフィーの会話は、子供に寄り添い、自分の命を削ってまで、子を守ろうとする母親と、子供の自立を促す父親の対比を表現しているようにも思える。

自分の手で人間を守ろうとするウルトラマンは、母性原理の象徴であり、人間の自立を促すゾフィは父性原理の象徴である。

そして、人間の自立の重要性を説くゾフィに対して、ウルトラマンは「それなら自分の命をハヤタにあげてくれ」と言い出したのだ。そして「自分は2万歳も生きた、しかし、ハヤタは若く、寿命も短いから、自分の命を代わりにあげてくれ」と言う。

その姿は、自分の命を引き換えに、わが子を生きながらえさせようとする母親の姿のようにも見える。

これに対し、ゾフィは「そんなに地球人のことを好きになったのか」と、どこか呆れたように言うと、自分は命を二つ持ってきたから、これをハヤタに渡そうと言って、ウルトラマンとハヤタの体を分離させた。

それは、まるで、へその緒を切って、赤ん坊を取り上げようとしているようでもある。

ウルトラマンは疑似的にハヤタの母親になっていたのに対し、ゾフィは疑似的にハヤタの父親になっていたと考えると、ウルトラマンは地球人を、母親のような慈愛の心で守っていたと観ることができるのだ。

『シン・ウルトラマン』ラストシーンの意味とは?

さて、『ウルトラマン』の実質上のリメイク作品である『シン・ウルトラマン』はどうなのか?
前述したように、男性性や力強さを感じさせないデザインや、リピアという名前を持つなど、女性性をさせる要素はあるが、『シン・ウルトラマン』は原作に比してもぶっきらぼうな言動が多いため、どこか分かりづらい。

ただ、本作の企画、脚本を担当した庵野秀明は、自身の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するロボット(正確には人造人間)・エヴァ初号機に母性原理を持たせていることは有名である

エヴァには主人公である碇シンジの母親・ユイの魂が宿っており、シンジは母の魂とシンクロして、エヴァを操縦しているのだ。

庵野秀明監督がなぜ、主人公の搭乗するロボットに、母性を持たせたのかは不明であるが、庵野秀明が『ウルトラマン』の大ファンであるという話は有名で、『新世紀エヴァンゲリオン』もやはり『ウルトラマン』の影響から生まれた作品である。

エヴァがウルトラマンをモデルにしたのだとしたら、庵野秀明はウルトラマンを母性原理のヒーローとして見ていたと考えることができる

そして、『シン・ウルトラマン』の最後は、ゾーフィ―とウルトラマンの力で蘇った主人公・神永新二の主観視点で終わるが、どことなく、神永新二の仲間たち、禍特対のメンバーが、生まれてきた赤ん坊を迎えるような構図に見えないだろうか?

『シン・ウルトラマン』とは、母のような慈愛を持ったヒーローの力によって、神永新二が死んでから、再び生まれ変わるという、生命の回帰を巡る物語でもあったと考えられるのだ。

庵野秀明がつくり、残すもの

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