「地球はやっぱりヤバいですよ」
──直感というのは、このインタビューのひとつのキーワードですね。後ほど掘り下げたいのですが、その前に、もう一つ。先ほど車から「木が芽吹いている」のに心が奪われるという話がありました。一方、「ゆれる」のリリックも、冒頭の「心がゆれる瞬間」が、「バイト帰りのサンセット」とか「季節の変わり目を感じた時」というのも、木の芽吹きへの気づきと同じ感覚ですよね。昔からそういう、自然からのインスピレーションの方が、人のクリエイションより強く惹かれる部分があるんですかね。田我流 そうですね。多分、そっちの方に目がいってますね。人間界に慣れすぎちゃってるのかな(笑)。
ミミズって雨が降ったら、土の中にいると窒息してしまうんですよ。水が土に入り込んで空気が吸えなくなると中から出てきて、それで雨になると這っているんですけど。そういうのが気になりますね。伸びている時はこのデカさなのに、突っつくとこんなに小さくなるんだ、とか(笑)。それって単純にものすごい生々しい。その生々しさこそがナチュラルというか。
なんていうのかな、例えば映像にしても、今は次々に新しいカメラが出て、それで撮られたものが“新しい”ですよね。けど新しいカメラを一番初めに使えば、それが新しいのは当たり前。で、アッという間に次のカメラが発売されて、それが次の“新しい”に取って代わる。基本的にそのイタチごっこ。
パソコンもそうだし、音もそうだし。どこかのメーカーがあのプラグインを出しました、この音色を出しましたと。そこから、みんなその音になって、気がつけばそれも終わって、また次の新しいのが来る。服の流行りと同じだし、そういうのは自分にとってどうでもいいことかもしれない。確かに人のインスピレーションというよりは、自然とか神がつくり上げたデザインの方がヤベェとは思っているかもしれない。
──こじつけるわけではないですが、それって「チル」に直結する世界観ですよね。都会の喧騒とかリズムってやっぱりチルの対極にあるものというか。ちなみに田我流さんにとってお気に入りのチルアイテムとかってあったりするんですか?
田我流 アイテムですか……。地球?
──……?
田我流 (地球)そのものですかね(笑)。地球はやっぱりヤバいですよ。もうこれ自体が大きいアイテム……地球がスタジオって感じです。そういう感覚をもって生きていくのが一番面白いんじゃないかな。
──なるほど……! 田我流 あとアイテムではないですけど、休憩は取りますね。耳が疲れると何もやる気が出なくなるので。そういう時は銭湯に行って何回もサウナ入って、出て……みたいな。無我になってる時とか、そういう時は確かにチルではありますね。
(サウナは体力を)削り取ってるだけなんですけどね。強引にそこに持っていってるので、ちょっと違うかな。無理やり削り取ってゼロにするみたいな。意図的に頭のコンセントを抜くっていう。そりゃあ、ちゃんと意識的に時間をとって休んだ方が後々いい仕事ができるというのはあります。
俺の制作には“寝かし”という工程があって。耳をずっと使っているから、つくって1日置かないとわからなくなるんですよ。録ってから一旦寝かして、客観的な状態で聴き直して、アリなのかナシなのかがわかる。
──ダメな時もあるんですね。
田我流 ダメなものはダメですね。ある程度色々つくってきたので、精度は上がっているはずですけど、だからって制作したものすべてが良いかというのはまた違う話。ただ、失敗した方が精度が高まるきっかけがたくさん落ちているので、成功したからそれで良いわけでもないですけどね。ボツテイクから次のOKテイクのフレーズが生まれたりするので、無駄なものは何一つないです。
今はミックスまで自分でやるようになったりとか、色々実験中の段階。楽しいですよ。常に楽しくしようとはしています。慣れちゃうし、飽きちゃうので、プレッシャーや刺激を自分に与えて、少しずつ焦点を合わせている感じ。
“フォース”の謎が解けた瞬間
──そういう制作過程──例えばレコーディング、寝かし、ミックス──の中で、さっきおっしゃっていたような、地球や自然からのフィーリングは具体的に作品にはどのように投影されていくのですか?田我流 そうですね。ある音像をつくり上げる時に、朝靄(あさもや)……例えばですけど、朝靄ってあるじゃないですか。
あの“モヤ感”をどうやって表現しようか。俺の場合、そういう発想に繋がってくるんじゃないですかね。それを音で、コレかなアレかなとずっと模索していく感じ。最近はそういうのが制作に生きている気がします。
──とても興味深いです。ただ、そういう自然のインスピレーションって、すごく抽象度の高いものですよね。どういう時に“来た!”という感覚を得られるのですか?
田我流 直感ですね、それは。直感でしかほぼほぼ来ない気がします。めちゃくちゃ追いかけて最後に閃くこともありますけど、それは最近あまり重要視してないのかな。「良いもの」をつくろうとめちゃくちゃ時間をかけて考えれば、「良いもの」はできるかもしれないけど、その間に余計なものまで入り込みやすくなってしまう。いらないトレンドだったり、人の目や評価だったり。
そういうのを排除するために、直感だけでもいいんじゃないかとか思い始めてますね。それが“フォース(The Force)”だと思う。やっと謎解けた、“フォース”って直感のことだったんだ!……って、大丈夫ですか、こんなインタビューで(笑)。
──バッチリです(笑)。「ゆれる」が生まれた時も直感とおっしゃっていましたし、やはり田我流さんの創作の重要なワードなのだと思います。そして、この直感への気付きって、まさに今回の(CHILL OUT MUSICの楽曲)「Idea」のリリックそのものですよね。「直感、それは才能 閃きの電気巡る脳細胞」という1ライン目に直結しています。 田我流 そうそう。こねくり回してもしょうがないから、その時に浮かんだものを表現することが素晴らしいんじゃないかという。なんていうんだろう……直感って、一人ひとりに対して多分全然違う表れ方をするスーパーオリジナルなものだと思うんです。
その時点では誰からも何の影響も受けていない。降りてきちゃっているものだから。それがもっとも本来の各個人を形成しているパーソナリティーの泉の根源というか。そこに最近はフォーカスを当てるようにしている。
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