生きることがアートと直結する
本展のキュレーターをつとめるヴァニラ画廊の田口葉子さんは「山田参助先生の作家としての面白みの一つとして、作品ごとに画風がガラッと変わるところにあると思います。そのため、展覧会として、最初期の雑誌連載である『どないするねん』から最新作の『新やる気まんまん オット!どっこい』まで、できる限り作品を網羅した展示にしたいとお伝えし、先生に作品のセレクトについてご勘案をいただきました」と話します。また、山田参助さんの作品はひと目見てわかるように、とにかく“線がセクシー”なのです。展示ではトーンワークも最小限のモノクロ原稿が中心で描かれた線をじっくりと見られるので、より一層、線そのものの美しさを感じられます。
作品やシーンによって、鉛筆やミリペン、マジックや筆ペンなど、線を描く画材が使い分けられており、間近で原稿を見ながらこうした表現の使い分けに思いを馳せることもまた一興。本展図録の巻末には、掲載作品一覧とともに使用画材も記載されているため、帰宅後にじっくりと照らし合わせて楽しむのもいいでしょう。 田口さんは本展の見どころを次のように話します。
「『あれよ星屑』の生原稿を見ると、表紙イラストがいくつもパーツ分けされていたり、単行本修正時の絵が1枚の原稿にまとめて描かれているなど、一つの漫画が仕上がるまでの制作の過程がわかって面白いですよね。
また、生で原稿を見ることによって、山田参助先生の画力の凄みもわかると思います。ゲイ雑誌に掲載された作品の内、後期の作品である『垣間見の夜』は原稿用紙の上に全体的に滴るようなシズル感、そして線の重みを感じますし、『あれよ星屑』5巻でカンナがストリップするシーンは、山田参助先生ご自身も『線の軽やかさが全然違う』とお話しするように、見ているだけでそれが伝わってくるはずです」 『十代の性典』表紙イラストのラフ画や『あれよ星屑』の構想ラフ、ネームといった制作資料が見られるのも、ファンにとっては嬉しいところ。 また、冒頭で述べた通り、本展ではゲイ雑誌で発表された作品も多く、性的な表現については黒塗り処理がなされていますが、それでも可能な範囲で展示として見ることができます。そもそもヴァニラ画廊ではこれまでも田亀源五郎さんといったクィアアーティストを多く取り上げてきました。
「クィアアートは、表現者が自身の好ましく、美しいと思うものを美術の世界に落とし込み、切実な意志を外に向けて誇示できるものとして、非常に重要だと捉えています。生きることがアートと直結していて、ヴァニラ画廊ではそういった表現を大切にしていきたい。
クィアアートの展示については、大きな美術館でこそ取り上げて欲しいと思いますが、性的な表現が含まれる場合、それぞれのコンセプトや来場者層などを考えると検討要素が多く、今の日本では展覧会の開催が難しい部分があると思います。弊画廊は規模が小さいギャラリーの利点を生かし、プリミティブな表現を発信できる場になれるよう努めていきたいと思います」(前出・田口さん) 過激な性表現はセンセーショナルに取り上げられることも多く、Webなどでは一律に規制の対象ともなる一方で、その中には確かに優れた芸術表現が存在しています。それらとしっかりと向き合えるということは、こうしたギャラリーの重要な機能だとも感じます。
「山田参助 博覧会」は現在、世界的にも注目を集める漫画家・山田参助さんの作品を俯瞰してみることができる貴重な展覧会となっています。興味がある方は、ぜひ足を運んでみてください!
様々な表現を巡って
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連載
“LGBTブーム”の中で、数多く輩出されるLGBT表現の数々。そこで“描かれなかったもの”、あるいはエンターテインメントだからこそ“描かれたもの”とは? 作者と送り手へのインタビューを通じて、LGBTと社会との距離を推し測る。
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