「人って狂うとこうなるんだ」 TRPG原作の舞台『狂気山脈』現場レポ

演者とキャラがリンクし、見る人に響いた魂の叫び

ユマーリングの後、滑落や吹雪などの相次ぐトラブルによって憔悴しつつも、登山家は頂上へと歩みを進めていく。これまで何度も口にしてきた「前人未踏の最高峰への単独登頂」という目的の根源を語り始める。

その根にあったのは、「いいよな、誰かのために生きる人生は、誰かに必要とされる人生は」「俺は山を登ることでしか自分を示せない、だから1人で登るんだ。誰かと一緒じゃなきゃ山を登れないやつらを見返すために」といった孤独感だった。

魂の限り叫ぶショーンさん/画像は配信画面のキャプチャー

これまで幾度となく「単独登頂」という目標を口にしながらも、同時に先を行く第二次登山隊の姿を追いかけ、彼らの存在を拠り所にし、認められたいと願ってきた登山家。

その彼が、極限状態の中で魂の叫びをあげる様は、ショーンさんの鬼気迫る演技もあり凄まじい迫力を持っていた。

最後の難関とぶっつけ本番のチャレンジ

登山家がついに最後の難関「大黒壁」へたどり着くと、その瞬間、壁の上からは墨汁が降り注いだ。

この表現が素晴らしいのが、普通にビックリさせられるのもそうだが、白かった壁を「大黒壁」へと変化させる視覚的な表現、さらにはシナリオ「狂気山脈」の“大黒壁の岩肌を傷つけると黒くぬるぬるした金属を溶かす液体が出てくる”という設定の再現にもなっている点だ。

何度目かわからない「そうくるか~!」ポイント/編集部撮影

さすがに現場では我慢したが、もし配信を見ていたら「なるほど!」と口に出して唸ったに違いない。

ピッケルが使えないことを悟った登山家は素手でのフリークライミングにチャレンジすることになるのだが、実はこの仕掛け、1度切りの仕掛けであるためショーンさんがリハーサルで登っていないらしく、ぶっつけ本番だったそう。

その難易度から「登頂に失敗した結末も用意されている」と事前にアナウンスされていたほどの難所を、ショーンさんが足を滑らせつつ、絶叫しながら登っていく様子は本当にハラハラさせられた。

本当に足を滑らせながら登っており、手に汗握らされた/編集部撮影

舞台を終えて、小ka栗ショーンとディズムのコメント

無事に大黒壁の登攀を終え、エンディングまで演じきったショーンさんの一礼で幕を閉じた本舞台。

配信が切れると、ショーンさんは周りで見守っていた仲間たちへも深々と一礼。それにこたえる仲間たちの拍手に包まれながら、本舞台は本当のフィナーレを迎えた。

あわただしくアフタートークの準備が進む中、裏では、無事最後まで演技を終えたショーンさんの元に駆けつけたまだら牛さんが思わずハグをしたり、登攀技術の指導を行ったおんでぃさんが「今までで一番いい動きだったよ」と声をかけていたり。

我ながらなぜカメラを回していなかったのかという貴重なシーンも(筆者は)見られた。

アフタートークまでの間、記念撮影を行うショーンさん/編集部撮影

舞台「狂気山脈単独登頂」は、強大な山にその身一つで立ち向かう不屈の物語であり、ショーンさんの熱演もあって非常に個人的な感情を原動力にした人間ドラマでもあった。

その点において今回の舞台は、かつてディズムさんは「(TRPGで)ゲームマスターとして一緒に物語をつくりつつ、視聴者がまだ見たことのない相手の一面を引き出したい」と語ったその理想を体現している。

そして、まだら牛さんによる原典「狂気山脈」ではプレイヤーにゆだねられていた「登山家たちが山を登る理由」の一端を補完していたと言えるだろう。

最後に、主演をつとめたショーンさん、脚本・演出をつとめたディズムさんにコメントをいただいている。

ショーンさんコメント
今回の台本は、ディズムが当て書きをしてくれたものです。彼は私の誰にも言えないような部分の人間性を見抜いているので、劇中で登山家が怒っていた部分、泣いていた部分、"なにくそ"って言っていた部分は大体私がこれまで人生で感じてきたものです。

台本を見たときは実際に登攀することや1人芝居という点には驚きましたが、私の人間性を発揮できるということで、同時にチャンスだとも感じました。今舞台を終えてみると、これまで抱えてきたどこか煮え切らないような部分を置いてくることができたので非常にすっきりとした気持ちです。

ガミガミ言われるし、2ヶ月近くあった稽古はつらかったですが、演じている最中は、とにかくハキハキしゃべり、何人視聴者がいても伝わるような表現ができるように意識していました。いつも驚天動地でやっているハチャメチャなアドリブとは違うスタイルですが、初めて見る人にもいい具合に伝わったらいいなと思ってます。面白かったっす。

ディズムさんコメント

シナリオ「狂気山脈」を舞台にするとしたら、僕たち驚天動地倶楽部が一番面白いなとは思っていたんですが、全員が参加する形式はすでにTRPGでやってしまっていました。しかも、まだら牛がアニメ映画をつくっている以上、ゲームを繰り返していても新たな価値を付加することはできない。

そんな時、ショーンならフィジカルの部分も魅せることができ、一人舞台という価値を生み出せるんじゃないかと思い脚本をつくり始めました。今回ショーンには最早コメディみたいなものも含めて「動く驚天動地倶楽部」らしいことをたくさんやってもらいました。

今回はショーンだったので、今後はJ.B.やペレ夫ももちろん、4人でも、「TRPGではこんな表現もできるんだぞ」っていうのを広めていきたいです。

クライム・オン!!!

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