“歌”は心を伝える
──土屋さんが、声優をされる上で意識されていることはありますか?土屋太鳳 わたしは、セリフを全部覚えてからアフレコに行くようにしています。そうして初めて「その人(キャラ)として話せる」というか。私の場合はそうしないと「役を生きる」ことができなくて。
──「演じる」を超えた「役を生きる」は、実写・アニメ問わず土屋さんにとって大事なキーワードですよね。
土屋太鳳 そうですね。特にアニメ等では、台本を持ちながらだと役がなかなか入ってこないんです。本番では一応台本を持っているけれど、セリフを体に馴染ませてから臨んでいます。
──声優に初挑戦されたテレビアニメ『僕だけがいない街』の際にも、同様のお話をされていたと記憶しています。
土屋太鳳 実は今回のディレクションを担当してくださった方は、『僕だけがいない街』でもお世話になった方なんです。すごく縁を感じましたね。
──さらに今回は、劇中歌も全4曲担当されています。素晴らしい楽曲ばかりでしたし、土屋さんの歌声も伸びやかでとても素敵でした。
土屋太鳳 ありがとうございます。でも、シオンの歌声は私の音域より遥かに高くて、最初は「これは試練だな」と感じました(笑)。
事前に“仮歌”を入れて下さった方が本当に素晴らしかったので、「この方のほうが“(役が)生きる”んじゃないでしょうか……」と皆さんにお伝えしたくらいなんです。
それでも監督やプロデューサーさんに「大丈夫!」と言っていただけて、そこからは必死にレコーディングしました。 ──そんなことがあったのですね……。では歌唱シーンはかなり苦労されたのですね。
土屋太鳳 はい。高音域ということもあって、喉の使い方がわからなくなってしまって……。いまは色々と経験させていただいて「高音はこう出せばいいんだ」というのが少しずつ見えてきたのですが、レコーディングまでは、まだ息の量を調節するのも難しかったです。
シオンにとって、“歌”は心を伝える大事なツールのひとつです。だからなんとかシオンの声に当てて歌いたいと思っていたのですが、最初はなかなか大変でした。
声帯結節を乗り越えて
──なるほど。ではAIの歌声を参考にしたというよりは、ご自身の演技プランと連動させて歌声をつくっていった形ですね。土屋太鳳 そうですね。私自身、歌うのは好きなのですが、人前で歌うと緊張してしまうのであまり得意なほうではなくて(苦笑)。
アフレコの時はまだ、高い声に対してすごくコンプレックスを持っている時期で。ミュージカルで経験を積ませていただいたこともあって、今回はシオンに助けてもらいつつ、楽しくも必死に声を出していました。 ちょうど本作のレコーディングと同時期、2020年の10月からミュージカル『ローマの休日』に出演していたのですが、公演前に数曲、公演後に最後の1曲と、分けてレコーディングさせていただきました。
実はそのタイミングで声帯結節ができてしまって……。
──えっ! それは大変でしたね……。
土屋太鳳 「いま治さないとミュージカルの本番に間に合わない」ということになり、ダメもとで「ミュージカルが終わってから収録させていただけませんか……?」と監督や皆さんにご相談したら、快諾してくださったんです。
それもあって、最後の楽曲「You've Got Friends 〜あなたには友達がいる〜」はすごく印象に残るものになりました。ミュージカルの後に収録させていただいたおかげで、公演で得た経験も盛り込めたのですが、この曲自体が1曲目の「ユー・ニード・ア・フレンド 〜あなたには友達が要る〜」のアンサーソングでもあるので、自分自身の成長を反映できたんです。
──素敵なお話ですね。土屋さんの経験が、シオンの成長や物語全体にリンクしていった。
土屋太鳳 最後の楽曲は人間らしさも入れて歌いたいと思っていたので、色々な意味で奇跡的でしたね。シオンに背中を押してもらった気持ちです。
もちろん全部の楽曲が大好きで、どの曲もメロディも歌詞も、人の背中を押してくれる素晴らしいものばかりだと思っています。3曲目の「Lead Your Partner」は個人的に大好きなテンポですし、2曲目の「Umbrella」もとっても良い曲ですよね。
シオンはいつも自分のためじゃなく、誰かの幸せのためを思って歌うから、私も同じ気持ちで歌いたいと思ってレコーディングに臨みました。
──出来上がった映像をご覧になって、いかがでしたか?
土屋太鳳 キャラクター一人ひとりの表情が豊かでリアルさもあり、「老若男女問わずに様々な方々がどこかで持っている感情が描かれている作品なんじゃないか」と感じながら観ていました。
普段私は、自分が出演している作品を試写で観るときに緊張してしまって、あまり覚えていないんです(笑)。でも今回は、自然と感動しながら観ていました。
歌もキャラクターも愛おしいですし、共感して観ていただけるのではないかと思います。そしてきっと、観てくださる方と一緒に成長して、寄り添ってくれる作品になっていると思います。
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CD情報
映画『アイの歌声を聴かせて』オリジナル・サウンドトラック
- 価格
- 3,300円(税抜)/3,630円(税込)
- 音楽
- 高橋 諒
- 作詞
- 松井洋平
- 歌
- 土屋太鳳・咲妃みゆ
- 劇伴曲+劇中歌(5曲)を収録
- 発売元・販売元
- バンダイナムコアーツ
関連リンク
SYO
映画ライター/編集者
1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。映画作品の推薦コメント・劇場パンフレットの寄稿や、トークイベント・映画情報番組への出演も行う。カフェ巡りと猫をこよなく愛する。
Twitter(@SyoCinema)
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