なぜ村上隆はアート界隈で話題沸騰の「NFT」出品を取り下げた?
NFT(非代替性トークン)とは、ノン・ファンジブル・トークンの略称。証明と記録で所有者を特定できるブロックチェーン技術を活用し、複製が容易なデジタルデータの「オリジナル」の価値を担保する仕組みだ。贋作が複製されやすいデジタル資産にプレミア価値が付加できる点に注目が集まり、アートシーンにおいては自身の作品をNFT化し出品するのが一大ブームとなっている。
村上隆さんも、唯一無二性を担保したNFT作品の出品を発表し、注目を集めたひとりだった。
村上さんはNFT作品の発売を延期・再検討した理由について自身のInstagramにて以下のようにコメントしている。
どういうことだろうか。村上さんが触れている点を本稿で解説したい。NFTの長所を生かし、コレクター/オーナーの皆様の利便性、作品所有の満足度や安心感を最大化するためには「作品のコンセプトを踏まえ、ERC721や1155のメリットとデメリットを考慮した選択」「独自のスマートコントラクトの要否」「独自ストアフロント構築の要否」「IPFSの要否」その他、さまざまなテーマに対して慎重な検討と議論を重ねて、より最適な形式でNFTをご提供して行くのが良いだろうと考えました。 村上隆さんのInstagramより
購入したNFT作品が消失してしまうリスク
NFTは、ERC721やERC1155という異なるトークン(ブロックチェーン技術を利用して発行された暗号通貨)規格によって実現している。現在デジタルアートで一般的に利用されているERC721は、所有者の証跡や履歴が公開されておりトークンの所有者を容易に追跡できることで、その唯一無二性を担保している。
(後発のERC1155も同様の特性を持たせることができ、さらにはNFTの売買時の手数料が少なく開発も容易であるメリットもあるが、大手ウォレットアプリであるMetamaskが未対応などの理由で主流ではない)
一度発行されたトークンのデータを変更することはできない。しかし、データとコンテンツの紐付け方によっては、同じことがコンテンツ(作品)にも言えるとは限らない。例えばURLをデータとして指定している場合、URL先のコンテンツが交換・削除されたり、リンク自体が削除される可能性がある。
このような事態を避けるため、コンテンツに固有のURLを非中央集権的な方法で作成するのがIPFSという仕組みである。
NFT作品の権利を守るために
また、村上さんは「Murakami.Flowers」の出品の際、「著者と提携している企業が提供するゲームやメタバースサービスで作品の画像を使用することは許可されています」と説明していた。しかし、各種NFTプラットフォームで出品した場合、そのライセンス条件がトークンに正確に反映されるわけではないというのもポイントである。このNFTアート(以下「作品」)を購入することにより、購入者は作品の所有権を取得するものとしますが、著作権、商標権、またはその他の知的財産権を購入者および村上隆および/またはカイカイキキ株式会社に譲渡することはできません。 。(「作成者」)はそのような権利を保持するものとします。
したがって、たとえば、(i)作品の画像(スクリーンショットなど)を家庭での使用の範囲を超えて他の人に提供する、または(ii)それらを商業目的で使用する(たとえば、バッグ、Tシャツなどの製品に使用する) 、またはスマートフォンのケース、本での公開、または電子商取引サイトや企業のWebサイトへの投稿)は、上記の知的所有権の侵害に該当するため、禁止されています。
画像を改変または編集して作品を使用することも、当該知的財産権の侵害に該当するため、禁止されます。
著者と提携している企業が提供するゲームやメタバースサービスで作品の画像を使用することは許可されています。利用可能なゲームとメタバースサービスの詳細については、Kaikai KikiのWebサイト(https://www.kaikaikiki.co.jp/)にアクセスして参照してください。
当然ながら、自然言語で記述されるライセンス条件はトークンを構成するコードの一部にならないため、誰もが正確に守るとは限らない。
もし、各種NFTプラットフォームにない独自のライセンス情報を付与するのならば、契約条件の締結や履行がプログラムによって自動で実行される仕組み(スマートコントラクト)や売買するWebサイト(ストアフロント)から準備する必要がある。
推測も含むが、以上が村上さんが「Murakami.Flowers」の出品を取り下げ、発売を延期・再検討した理由の解説となる。
また村上隆さんは触れていないが、「NFTアートが環境破壊につながる」という点での議論もあり、それらの批判を受けてアーティストが出品を取りやめるといったケースも存在している。
インターネットと文化とお金
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