2020年激動のVTuberシーンを総括 今のVTuberを語ることはなぜ難しいのか?

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バーチャルタレントとアバター

バーチャルタレント」という言葉は、キズナアイさんをデビューさせた「Activ8」が積極的に提唱し、その理念は同社のバーチャルタレント支援プロジェクト「upd8」で示されていた。ただ、前述のようにそのタレント支援は大成せず、現在はキズナアイさん個人や「ホロライブプロダクション」「にじさんじプロジェクト」「バルス」「774.inc」などの主立ったVTuber事務所に「タレント」と呼ぶ文化が継承されている。

そして、現在の私たちが無自覚に「VTuberシーン」と総括する時、それは今や「バーチャルタレント」を主に指すことになると言っていい。

そこに一石を投じるのは、かつて「バーチャルYouTuber四天王」の一員に数えられたねこますさんの立場だ。

2018年11月における「VTuber活動の縮小」宣言の後、2019年4月に「バーチャルYoutuberは辞めております」と明確に自分とVTuberのあいだに一線を引いていた。 そして2020年は、彼が新たな3Dモデルに「着替え」てYouTubeでの活動を再始動させる年でもあるが、同時に「アバターのユーザーとVTuberは異なる」という主張を言葉足らずながら幾度も強調している。 ねこますさんはVTuberを「アバターを活用したタレントさん」と定義しており、もしVRC民が「アバターを使ってYouTubeに投稿する人」になったとして必ずしもVTuberとはならないと説明。ここで述べられている「VRC(VRChat)民」とは、みゅみゅさんが取材で述べたアバター利用者と文化的に共通したものだ(「バーチャルキャスト」は「VRChat」と同じく、配信だけでなくVRコミュニケーションを前提としたシステム)。

もちろん、ねこますさんの意見がVRChatの総意というわけでもないが、VRChatユーザーの多くが自らの文化を「アバター文化」として自認しているのは確かだろう。

ねこますさんが「四天王」として認知された2018年当時は、VTuberとVR業界(アバター文化)が一体となって普及していくかのような「共同幻想」が確かにあったと思う。

今でもその幻想が引き継がれ、文化としての混同が続いている部分があるが、そのままではアバター文化の発展に寄与しにくいと判断しての「辞めております」だったとすれば、2020年の潮流を鑑みてそれは予見性の高い英断だったとも思われる。

「アバター」「VTuber」「バーチャルタレント」の関係性

1万3000人まで増加したと言われるVTuberの大部分は、この「アバター」と「VTuber」と「バーチャルタレント」のあいだをふわふわと揺れ動く存在だと思っていい。

当然、明らかな「タレント」は一握りで、残りはほとんど「アバター」の在り方に近く、両者をまたいだグラデーションとして「VTuber」が存在するのではないか。

ちなみに「バーチャルタレント」と「アバター」が重なる位置には、引退前のねこます以外に「バーチャルグランドマザー小林幸子」や「アメリカザリガニ」(日テレのVTuberネットワーク「V-Clan」に参加)のようなケースが思い当たる。

「VTuber≠アバター」?

余談として、ねこますさんのツイートではVTuberも「アバターを活用する」と表現されているが、今の代表的なVTuberたちの身体はアバターと呼ぶに似つかわしくない、と個人的には感じている。

アバター(Avatar)とは語義的に「分身」を意味する。つまり2Dや3Dのモデルに対して別の姿(本体)が存在する前提になるが、VTuberの多くは「映像で見せるモデル」と「オフラインの身体」を変わらないものとして視聴者に想像させようとする違いがあるからだ(さらに言えば自称AIのキズナアイさんは「オフラインの身体」の存在をそもそも語らない)。

アバター文化では、現実の人間がいくつものモデルに「着替える」ことも容易だが、そこにはVTuberと違って「電子上のバーチャル」と「肉体のリアル」を理性で区別しているハードSF的な了解がある。

逆にVTuberによる世界観はとても抽象的で、電子も肉体も渾然一体に「バーチャルな身体」として語ろうとする。電子と肉体を区別しないから、モデルの「着替え」も安易に行いにくい。そうした了解があってもそのモデルを「アバター(本体のある分身)」と呼べるかは疑問なのだ。

ここで、アバタービジネスの展開例についても参考に振り返っておこう。

よく知られているのは、「にじさんじプロジェクト」の運営企業である「いちから」のVRコミュニケーションサービス「ユメノグラフィア」だろう。

主に「キャスト」や「キャラクター」と呼ばれているが、キャストの仕事内容として「VR空間上でアバターを介しての接客」という説明も存在していた。また、接客されるゲストユーザーが用いる3Dモデルははっきり「アバター」と呼んでいる(外部リンク)。

また、BRING社(旧アドパック)のアバターワークサービス「バタラク」や、HEROES社の「AvaTalk」が代表的な導入事例だろうか(外部リンク)。

これらはVTuber文化を意識せずに普及が進んでいるケースだが、VTuberにも可能な仕事と重なる部分もある。

例えばNHKで今年5月に放送された「所さん! 大変ですよ あなたの知らないニッポンが見える」の「人間よりアバターがいい!?」という回では他のアバタービジネスの紹介と並んで、バルスがプロデュースする「バーチャルスナック」で接客する朝ノ瑠璃さんも登場したのだが、番組内ではVTuberではなく「アバターママ」という扱いになっていた。

ある意味で、VTuber文化よりも人口に膾炙する将来性もありうるのがこうしたアバタービジネスなのだ。ねこますさんの主張にも通じるが、ある程度VTuberと切り離した認知を高める必要があると言えるだろう。

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4件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4362)

女性Vの場合、真面目だったり清楚よりかは、大体は下品でエロくて気易くて身近に感じられて勘違いさせてくれるVが皆好きだよな。にじホロが人気なのはそこ。絵も今どきの萌え萌えしてるものでロリやエロいものが多いしなー。キモオタの趣味ごった煮したのが強いんよ。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4318)

Vtuberといっても結局はその中身の魅力に人が集まる

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4276)

ホロライブの事しか内容が書かれていなくて、比較対象がないからよくわからない。

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