YouTubeラジオ局「PILOT」 新しい時代の番組づくり
──先程あった「ジャンプカット」のほか、YouTubeの文法というか、編集の工夫の部分についてもう少し詳しく訊かせていただきたいです。白武 例えば「カメラは定点が多い」とか、「ズームにしてオチをつける」とかですね。
──ズームのほうは感覚でわかるんですが、定点カメラが多いのはなぜでしょうか?
白武 カメラマンさんにパンしたりアップしたりして「ここがおもしろいんですよ」とやられると醒めるときってあるじゃないですか。YouTubeは特に、そういうおもしろい部分に自分で気づけたほうがおもしろくなると思うんです。
──ああ、なるほど……!
白武 あとは、いまってラジオの違法アップロードがすごく多いじゃないですか。でも、そのなかには凝った編集でおもしろいものがあって。ラジオの会話に合わせて、字幕が表示されるやつですね。
──あれ、独特なグルーヴがあるというか、心地よいテンポですよね。違法なんですけど。
白武 それをオフィシャルにやってしまおう、というのが僕のやっている「PILOT」というYouTubeラジオ局です。
白武 そうなんですよ。音声と文字の組み合わせって、ニコニコ動画の弾幕、YouTuberの動画のテロップと、Web上の動画コンテンツには脈々とあるもので、視聴者としても慣れている。字幕があるから笑えるってことが多々あると思うんですよ。なので、それラジオで実現しよう、ということで。
このプロジェクトは、ラジオファンやラジオ業界を目指している人に参加してもらってみんなの理想のラジオをつくり上げていこう、という取り組みでもあるので、CAMPFIRE上にコミュニティを立ち上げて、そこから誰でも企画や制作に参加できる形にして運営しています。
──誰でもコミットできるというのはとても新しい制作体制のあり方ですね。
白武 昔だったら1つの番組に作家が10人ついていることもありましたが、いまはテレビ局がかけられるコストも減っているので、2〜3人だったり下手したら作家がいないこともあります。。
そうなると、まだ実力がつけきれていない若手がなかなか放送作家になりづらい。であれば、片手間でもいいから、意欲のある人が適正を発揮する場があって、一緒に楽しくコンテンツをつくれたらいいなと思っています。
あと、単純にオンラインサロン的な動き方を一度やってみたかったんですよ。どういうことが起こるのか、西野(亮廣)さんがいわれているようなことを、理解したくて。
──実際にやってみていかがでしたか?
白武 いま250人くらいのラジオファンの人たちと一緒につくってるんですが、やっぱり楽しいですね。あと、いままでは僕一人で考えていたものを、同時に250人の脳みそを動かして一緒につくれるんで、精度は上がりそうだなと思います。
これからのYouTubeとテレビ
──テレビとWebの広告費が逆転し、今後ますますテレビ離れが進むと言われていますが、今後テレビというのものはどうなっていくと思いますか?白武 おそらく今後テレビ番組は、ワンセグの発展版のような感じで、ネット環境で観られるようになっていくはずなんですよ。それが主流になっていったとき、使われるツールがTVerなのか、別のサービスなのか、はたまたYouTubeなのかはわかりませんが、視聴環境が変わっていくのは間違いない。
家電量販店で「テレビ」として売られてきたものは「テレビモニター」であって、テレビ番組を観る方法は必ずしも「テレビモニター」ではなくなる。
──大半の人が「テレビ番組」をスマホで観るようになっていくかもしれない。
白武 その逆もですよね。「テレビモニター」というものはすでに必ずしも「テレビ番組」だけを観るものではなく、NetflixやAbemaTV、YouTubeを観る機械になっている。今後どんどん「(地上波の)テレビ番組」がVODなどの他の映像コンテンツと同列の、選択肢の1つとしての扱いになっていくかもしれない。
──同時に、ダイバーシティやジェンダーをはじめとした権利意識の部分もアップデートが進んでいます。
白武 そういった部分に関しては僕もまだまだ勉強が追いついてないなと感じています。
例えば容姿に関するランキングなどに関しても、ルッキズムを助長するものだという認識はテレビ業界の中にも少しずつ広がりつつありますが、批難を受けてから反省、という感じで後手に回ってしまっている印象です。
先日の「美術館女子」(※)の件でも、「◯◯女子」などの一義的なタグ付けをメディアがすることでステレオタイプを生み出していくことに気づかされたり。そういう勉強を積んで、時代に合わせて改善していかないといけない。より良い価値観を社会に提示していくメディアがその遅さではいけないと感じています。
※AKB48のメンバーが各地の美術館を訪れる、美術館連絡協議会と『読売新聞オンライン』によるWeb企画。無知・無教養の象徴として「女子」という属性を用いた内容が批難を集めた。
SNSやネットニュースを見ていない人で、「◯◯女子」やMeToo運動、#BlackLivesMatterが社会問題になっていることすら認識していない人も周りにはいます。僕もSNSをチェックする習慣がなかったら気がつけていなかったと思います。
──最後に、今後YouTubeとテレビはどのような関係性になっていくか、考えを聞かせてください。
白武 いままでだったらテレビが「貧乏キャラ」「体当たりキャラ」といったキャラクターを育ててくれる場所でしたけど、テレビ番組が「キャラを育てる」のではなく、フワちゃんみたいな、すでにYouTubeで仕上がった人間のお披露目の場所として機能することもある。テレビが即戦力を求めるようになってきているかもしれませんね。
ただ、これはどちらのメディアが上かという話ではなく、横断して相互に才能の出入りが生まれてきているということでもあって。YouTubeとテレビどちらでも活動しているひとを、それぞれのメディアにしかできないやり方でフィーチャーしていくことで、映像コンテンツの世界全体の新しいエコシステムをつくっていけるんじゃないかと思います。
お笑い第7世代の言葉
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白武ときお
YouTube放送作家
1990 年、京都府生まれ。放送作家。担当番組は『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)『霜降りミキXIT』(TBS)『霜降り明星のあてみなげ』(静岡朝日テレビ)『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』(TBS ラジオ)『かが屋の鶴の間』(RCC ラジオ)。YouTube では「しもふりチューブ」「みんなのかが屋」「ジュニア小籔フットのYouTube」など、芸人チャンネルに多数参加
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