アニメ映画『ふりふら』対談 原作者 咲坂伊緒と監督が向き合った「高校生が生きる世界」

アニメ映画『ふりふら』対談 原作者 咲坂伊緒と監督が向き合った「高校生が生きる世界」
アニメ映画『ふりふら』対談 原作者 咲坂伊緒と監督が向き合った「高校生が生きる世界」

アニメ映画『思い、思われ、ふり、ふられ』原作者・咲坂伊緒×黒柳トシマサ監督対談

POPなポイントを3行で

  • アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』
  • 原作者の漫画家・咲坂伊緒×黒柳トシマサ監督対談
  • 「高校生の世界を描きたい」──尽きない思い
漫画家とアニメ監督。お互いの“思考”は、どう違うのだろう?

今回のインタビューのテーマは、そんな疑問からスタートした。話を聞いたのは、『ストロボ・エッジ』や『アオハライド』で知られる人気漫画家・咲坂伊緒さんと、テレビアニメ『舟を編む』で高い評価を受けた黒柳トシマサ監督。2人は9月18日に公開されたアニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』(通称・ふりふら)で、初タッグを果たした。

『思い、思われ、ふり、ふられ』は、高校生の男女4人をメインに据えた青春恋愛群像劇。恋に夢見がちだが引っ込み思案な由奈と、映画監督になる夢を持ちながら、口には出さない幼なじみの和臣。

2人が暮らすマンションに、恋に現実的で活発な朱里と、クールな弟・理央が引っ越してきた。由奈は理央に惹かれていくが、理央の中に、両親の再婚により義理の姉となった朱里への想いがまだ残っていると知り……。
アニメ映画『思い、思われ、ふり、ふられ』予告
咲坂さんが生み出した、4人の想いが切なく交錯するストーリーを、黒柳監督は豊かな色彩でエモーショナルに映像化。2人の才能が融合した、必見の作品に仕上がっている。

本インタビューは、本作を中心に、「漫画の創作術について」「アニメーションの演出について」「漫画のアニメーション化について」など、つくり手の“業(わざ)”にフォーカスし、お届けする。

取材・文:SYO 編集:恩田雄多

『ふりふら』原作・咲坂伊緒も驚いた、監督の読み込み

『思い、思われ、ふり、ふられ』原作者の咲坂伊緒さんと黒柳トシマサ監督

──まずは、原作者の咲坂さんから見たアニメの魅力、黒柳監督から見た原作の面白さを教えてください。

咲坂伊緒(以下、咲坂) 自分が描いていない部分を見せてくれるのが、すごく楽しいですね。コマとコマの間だったり、漫画だと一コマだけで終わらせているところに肉付けされて、映像になる。そこがアニメの魅力かと思います。

今のご質問にも関連するかと思うのですが、私、監督にちょっとお聞きしたいことがあるんです。

黒柳トシマサ(以下、黒柳) おっ、何でしょう?

咲坂 由奈が朱里の誤解を解きに乗り込んでいくシーンで、うつむかないように自分の手であごを上げているんですが、打ち合わせのときか何かでご説明しましたっけ? 誰にも気づかれないけど、自分ひとりで満足して描いていたところだったから、出来上がったものを観てびっくりしちゃって(笑)。

黒柳 あれは……読み解きました(笑)。

咲坂 わ、すごい! 「あれ、しゃべったっけ?」と思っていたので。めちゃくちゃ嬉しいです。

黒柳 ありがとうございます! ──いまお話しされていたシーン、非常に印象に残る部分でした。しかし、事前に聞いていなくてもそこまで読み解けるのは、驚きですね。

黒柳 もう何度も何度も読みますからね。でも、自分もそれを発見したときに「見つけた!」と思いました(笑)。

その手前のシーンで、理央が「下を向かないで」と言ってからの、由奈の「上を向かなくちゃ」なんですよね。すごくちゃんとつながっている。

咲坂 それを映像の一連の動きで表現してくれたからこそ、由奈の人物像がより見えてきましたよね。いやーすごい……。すみません、嬉しすぎて興奮してしまいました(笑)。

黒柳 (笑)。いまお話しいただいた部分もそうなんですが、咲坂先生の作品は、恋愛だけじゃなくて“生活”をちゃんと捉えた上で、物語が成立していると感じます。だからこそ、読み込んで読み解くのが面白いんですよね。

──原作を「読み込む」は、黒柳監督の中でも大切な作業なんですね。

黒柳 そうですね。原作をお好きな方がたくさんいらっしゃる中で映像化させていただくわけですから、「自分が一番読み込まなくちゃ」とは常々思っています。 ──ちなみに、打ち合わせの際に咲坂さんからリクエストしたことはありますか?

咲坂 細かくリクエストした記憶はなくて、朱里の母親の捉え方をすり合わせていた気がします。ここまで家族に踏み込んだ話をこれまで描いてこなかったこともあって、朱里の母親を記号的なものにしたくない、とはお伝えしましたね。

黒柳 朱里は、自分の母親が父親とうまくいかなくて離婚して、そのあと理央の父親と恋をして結婚する、という流れを全部見ていますよね。その朱里がまた自分でも恋をするということは、母の行動を決して不快には思っていない、ということでもある。彼女の恋愛観を描く上でも、とても重要な部分でした。

キャラクターそれぞれが物語を進めるためじゃなく、ちゃんと「生きている」と感じられること──これは、先ほど軽くお話した原作の魅力ですし、今回すごく大切にしたことでもあります。

『ストロボ・エッジ』『アオハライド』──描きたい“核”は、ずっと変わらない

──咲坂さんにうかがいたいのですが、コミックスを読むとキャラクターの誕生日などのほかに、好きな音楽なども細かく設定されていますよね。最初から決めて描き始めるのでしょうか?

咲坂 最初の段階でガチガチに決めちゃうとストーリーが進みづらくなることもあるので、プロフィール表も年表もつくらず、ちょっとしたヒントぐらいにとどめますね。描いているうちに「あ、きっとこの人はこういうのが好きだな」が見えてきて、プロフィールが自然と出来上がっていきます。

基本的に、キャラクターと地道に対話する形でストーリーをつくるんです。「あなたにこの行動をさせても大丈夫ですか?」っておうかがいを立てて、確認してから描きますね。自分から全然動いてくれないキャラクターもいるので(笑)。

──ここもぜひお聞きしたいのですが、咲坂さんの作品に登場するキャラクターは皆、『ストロボ・エッジ』でも『アオハライド』でも『思い、思われ、ふり、ふられ』でも、他者への気遣いや思いやりがとても美しいと感じています。

咲坂 特別意識して描いたことはなくて、いまのお話をうかがって「なるほど、そうか」と思いました(笑)。

ただ、憧れはあるのかもしれないですね。自分自身が、他者を思いやれる人たちが素敵だなと感じているから、描いてしまうのかもしれません。 咲坂 私が描きたいことの“核”って、ずっと変わらないんです。伝え方とか道具は変わるけど、人の気持ちは昔から同じじゃないですか。制服の着こなしとかは時代に合わせてチューニングは必要だと思いますが、“思い”の部分だったり、人の描き方はブレない気がします。

あと、本作の取材で女子高生の方の質問に答えたんですが、自分でもよくわからないけどすごくテンションが上がっちゃって(笑)。高校生の子たちの世界を描きたい! という思いが尽きないんですよね。

──ありがとうございます。原作の人物描写についてうかがってきましたが、アニメの人物描写についても教えてください。黒柳監督は「コマとコマの間を描く」ときに、どういった感覚でつくられますか?

黒柳 僕の場合、出発点は原作で、今回であればなるべく咲坂先生の感覚に近づこうとはします。そのために、とにかく読み込みますね。

あと、「原作を大好きな人にも近づきたい」という思いはあります。自分が原作のファンにならないと、原作を好きな人たちにちゃんと応えられない。

今回も、尺の問題があって残念ながら原作のすべてを描くことはできないわけです。限られた時間の中で完結させるためにアニメ独自の展開にする中で、原作を読んでいるときの感覚とあまり違わない状態まで持っていきたい。だからこそ、なおさらこの感覚は大切でした。

咲坂 原作だと、連載中に「ちょっと方向修正したいな」と思ったら微調整できるけど、尺が決まっている映画はそうはできないじゃないですか。

しかも、なんとなくのエッセンスをつまんで2時間にしても、絶対に成立しない。フックをつくるために、本当にいろいろなアイデアを出さなくちゃいけないんだな、と改めて感じました。

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