アニメ映画『ふりふら』対談 原作者 咲坂伊緒と監督が向き合った「高校生が生きる世界」

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監督が“花”に込めた想い「何度も観ることで新しい気づきを」

──今回アニメ版を拝見して、色彩の豊かさに魅了されました。これもアニメの強みを生かした演出かとは思いますが、最初から決めていたのでしょうか?

黒柳 そうですね。特に冒頭の「実際の景色と、水たまりに映っているアジサイの色が違う」は当初から狙っていたところです。この映画をつくる上で、「表向きだけで流れているものがすべてではない」を最初から提示しておこうと思って。

原作を何度も読み込むことで発見があるのと同じように、映画も何度も観ることで新しい気づきがあるようにしたかったんです。

──季節の花などが「季語」となって、時間の移り変わりを示している部分も素敵でした。

黒柳 アニメーションではあるけれど、僕たちがいま生活している現実世界との橋渡しが必要だなと考えたんですよね。空想上の物語ではなく、僕たちと同じようにこの世界にいる子たちだよ、と伝えたかった。現実とアニメーションのふたつの接点として、花を用いました。

見落としがちではあるんですが、世界にはまだまだこんなに綺麗なものがあるんだよ、という意味合いもあります。
BUMP OF CHICKEN 「Gravity」アニメMV
──BUMP OF CHICKENの楽曲との相性も、素晴らしかったです。

黒柳 プロデューサーの伊藤隼之介さんともお話して、「人の背中を押す作品にしたいね」ということになり、まさに適任だったBUMPのみなさんにお願いした形ですね。

これは伊藤さんがおっしゃっていたことですが、「BUMP OF CHICKENの楽曲は、ラブソングではない。身近な『僕と君』を歌っていることが、ラブソングに聴こえてくる。本作も、恋愛作品だけど“人”を描いているから、まさにぴったりだ」と。全員一致でした。

咲坂伊緒と黒柳監督、漫画家とアニメーターを目指した理由

──余談ですが、おふたりが漫画家とアニメーターを目指された理由をうかがえますでしょうか。咲坂さんは、「満員電車がいやだった」と過去に話されていましたが…。

咲坂 満員電車がいやだったのと、学生のころから朝決まった時間に起きるのがつらかったんです(笑)。

漫画って、資格もいらないし初期費用もそんなにかからない。絵を描くのは昔から好きだったから、やってみたらすごくやりがいがあって、面白かった。すごくラッキーでしたね。

──ただ、決まった時間に起きなくていい代わりに、24時間365日考え続けなくてはいけない仕事でもありますよね。

咲坂 原稿終わったら一瞬逃れられるのかな、と思ったらもう次の話を考えてますしね(笑)。たしかにお話づくりにずっともてあそばれている感じはありますが、「あれ、これしんどいかも? こんなに考えないといけないんだ!」とは思いつつ、いやだなって思ったことはないんですよね。

──まさに天職だったんですね。黒柳監督はいかがですか?

黒柳 僕は中学3年生のときに『耳をすませば』を観て、高校に行くよりイタリアに行ったほうがいいんじゃないか? と思って(笑)。結局、もうちょっと勉強が必要だからということで高校に行くんですが、要するに自分の転機となるタイミングでアニメーションがあったんですよね。

自分が悩んでいたときにアニメーションが助けてくれたから、自分もつくる側になることで受けてきた恩恵を返したいと思って、結構早い段階でアニメーションに進むことを決めました。

──いまのお話、本作の和臣にも通じるものがありますね。

黒柳 そうなんですよ。だから照れくさいです(笑)。

──(笑)。そんな黒柳監督にとって、アニメをつくり続ける原動力とは?

黒柳 やはり、アニメーションが好きでしょうがない、というのが一番ですね。

1本の映画でも、その映画が公開された年や観客の受け取るタイミングで、印象ってまったく変わると思うんです。

それらがすべてうまく合致して「自分の人生を変えられたな」と誰かに思ってもらえるタイミングにたどり着くためには、つくり続けないといけない。そこに出会えるまでは、続けていきたいですね。 © 2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会
© 咲坂伊緒/集英社

クリエイターたちの言葉

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作品情報

アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』

原作
咲坂伊緒「思い、思われ、ふり、ふられ」
(集英社マーガレットコミックス刊)
監督
黒柳トシマサ(「舟を編む」)
脚本
吉田恵里香
公開日
9月18日(金)全国ロードショー
キャスト
島﨑信長 斉藤壮馬 潘めぐみ 鈴木毬花
井上喜久子 田中秀幸 久川綾 井上和彦 堀江瞬 佐倉綾音
主題歌
BUMP OF CHIKEN「Gravity」(TOY’S FACTORY)
アニメーション制作
A-1 Pictures
配給
東宝

【Introduction】
「ストロボ・エッジ」に恋して、「アオハライド」で青春したすべての人へ咲坂伊緒が贈る青春三部作、最終章──

咲坂伊緒が描いた大人気少女コミック「ストロボ・エッジ」と「アオハライド」(集英社マーガレットコミックス刊)。2014年に「アオハライド」が実写映画化&テレビアニメ化、15年に「ストロボ・エッジ」が実写映画化されると、ティーンを中心に社会現象となり、咲坂伊緒の世界に日本中がときめき、青春した。そして2020年、両作の系譜を継ぐ「咲坂伊緒 青春三部作」の最終章、累計部数500万部を突破する「思い、思われ、ふり、ふられ」が満を持して映像化。
史上まれにみるアニメーション&実写での連動W映画化プロジェクトが始動!

アニメーション制作は、大ヒット作品『劇場版 ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール-』のA-1 Pictures。監督には「舟を編む」(第21回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞)の黒柳トシマサ。ときめきや切なさといった細やかな感情をアニメの魔術でドラマチックに描ききります。
声の出演には島﨑信長、斉藤壮馬、ヒロインに潘めぐみと、人気・実力を兼ね備えた豪華キャスティングが実現。さらに、潘演じる“朱里”とWヒロインとなる“由奈” を、オーディションを満場一致で勝ち取った大注目の新人声優、鈴木毬花が演じる。
4人の高校生の過ごす、青春時代の何気ないようで特別な時間。等身大の主人公たちが繰り広げる恋模様と、毎日の中で自分自身・他者と向き合いながら成長していく姿を瑞々しく描いた、新たな青春恋愛映画の金字塔が誕生する!


【Story】
全員片思い ―あの子が好きな君を、好きでいてもいい?―

偶然出会った、全くタイプの違う【朱里】と【由奈】、朱里の義理の弟の【理央】と由奈の幼馴染の【和臣】は、同じマンションに住み、同じ学校に通う高校1年生。夢見がちで恋愛に消極的な由奈は、理央に憧れるが、自分に自信がなく一歩踏み出せずにいる。理央はかつて朱里に想いを寄せていたが、親同士の再婚により、気持ちを告げられないまま、想いを胸のうちに抱えていた。また、恋愛に対して現実的な朱里は、率直でどこかつかみどころない和臣のことが気になり出し、割り切れない初めての感情に戸惑う。そして和臣は、ある“秘密”を目撃し、葛藤を抱えることになり…。それぞれの思いは複雑に絡み合い、相手を思えば思うほどすれ違って−。

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