エナジードリンク「ZONe」(ゾーン)が手がける「IMMERSIVE SONG PROJECT」。ZONeのコンセプトであるImmersive=没入をテーマに、様々なアーティストの楽曲・MV制作を支援、展開している。
第1シーズンではバーチャルYouTuber(VTuber)のKizuna AI(キズナアイ)さんや花譜さん、YOASOBIが参加したプロジェクトに、今回は「春を告げる」で一躍知名度を上げたシンガー・yamaさんが参加。新たな化学反応に期待が高まっている。
yamaさんといえば、ネット発の新鋭として唯一無二の歌声で注目される1人。今回は、登録者数100万人のYouTubeチャンネル「しらスタ【歌唱力向上委員会】」を運営するボーカルトレーナー・おしら(白石涼)さんにyamaさんの魅力について直撃。
「暴力的なまでの歌唱力。3秒で心をつかまれる」
──そうyamaさんを評するおしらさんが、トレーナー視点でyamaさんの歌声を紐解いていく。さらに、TikTokからヒット曲が生まれる現行の音楽シーンやアーティストについての解説、今まであまり語られてこなかった、おしらさん自身のバックグラウンドも必見だ。
取材:坂井彩花 編集:恩田雄多
おしら 人前で歌うようになったのは、大学生になってアカペラサークルに入ってからです。それまでも好きで歌っていたんですけど、もともとはめちゃくちゃ下手でした(笑)。中学生の頃なんて、友達とカラオケに行くと「下手!」って言われちゃうレベル。そもそも音があってないみたいな……。
──想像がつかないですね。どのようにして上手くなっていったんですか?
おしら 大学へ行くために浪人していた1年間、歌の練習しかしてなかったんですよ。そこで少しは変わったかなって思います。
──歌がしたくて浪人したと?
おしら そういうわけではないです(笑)! 第一志望の大学に落ちて、精神的にすごく病んでしまったんです。その反動で歌っていた記憶があります。
実は中高がダンス部だったので大学でも続けようと思っていたんですけど、浪人期間のストレスで踊れないレベルまで太ってしまったんですよ。最初は「それなら歌うか」と軽い気持ちで始めました。
──その1年がなければアカペラサークルに入ることもなかったかもしれないですね。歌を仕事にしようと意識したのはどのタイミングなんですか?
おしら 周囲が就活を始めた大学3年生の後半かな。スーツだけは絶対に着たくなかったんですよ(笑)。音楽しかなかったわけじゃないんですけど、消去法で「歌の先生ならいけそう」と思って。 おしら 中学生の頃、ボイストレーニングに通っていた原体験が大きいかもしれません。当時教えてもらった先生が、めちゃめちゃ歌が上手くてキャリアもすごい、かっこいい人だったんですけど、何を言っているか全然わからない(笑)。でもめっちゃ楽しかったんです。だから「これなら自分でもできるんじゃないか」って思いました。
──とはいっても、YouTubeでの楽曲解説を観ると、おしらさんはすごく言語化能力が高いじゃないですか。初心者でも「何がすごいか?」をスッと理解できる説明だと思います。
おしら それは、もともとの私が下手だったからですね。歌に限らずですけど、感覚でできてしまう人って、もともとできる側の才能を持った人なんです。へたっぴが天才に一歩でも近づくには、努力で埋め合わせしなきゃいけない。
本来、相手に伝えるには、理解できる言葉や見え方が必要なので。自分が言語化や視覚化を用いて練習してきたことが、動画に活きているんだと思います。誰だってわかりやすく言葉にしたり、矢印みたいに見える化したりすれば、音の細部まで聴けるようになるんですよ。
──つまりおしらさんには、言語化・視覚化できるレベルで、音が見えているってことですよね。
おしら そうですね、それは私が聴覚過敏だからだと思います。にぎやかなお店や人混みに行くと気持ち悪くなっちゃうんですよ。
普段はネガティブに働くこともあるんですけど、音楽を聴いているときは活きてきますね。音程や和音はクラシックをやっている方のほうが知覚できると思うんですけど、リズムや声の変化に気づくのは得意なんです。
おしら 一次フィルターにストリーミングチャートやYouTubeなどでの再生回数といった数字、二次フィルターとして自分の好き嫌いみたいなイメージです。
特にここ半年はTikTokですね。年明けくらいからYOASOBIの「夜に駆ける」、瑛人さんの「香水」、yamaさんの「春を告げる」などの人気が急上昇した印象です。1曲通しで聴くとほかにも完成度の高い楽曲はあるんです。
でも15秒や30秒など短い尺の動画が特徴のTikTokの場合、今挙げたような楽曲のほうがインパクトが大きい。人気といわれるアーティストでもTikTokで流行ったことがないと若い子は全然知らないなんてこともありますよ。【YOASOBI - 夜に駆ける】鳥肌まちがいなし!天使の歌声がTHE FIRST TAKEに登場
──ちなみにおしらさんのレッスン生からは、どんな曲が好まれているんですか?
おしら レッスンで人気な曲はまた違った傾向があるんですよね。最近だと、いろいろなアーティストが一発撮りでパフォーマンスする企画「THE FIRST TAKE」の影響がめっちゃ強いです。
あのチャンネルを観るとやっぱり歌いたくなるみたいで。あとは「THEカラオケ★バトル」や「歌唱王~歌唱力日本一決定戦~」といったコンテスト系番組の影響も強いように思います。
──TikTokで人気な曲も世間的に流行っている曲も歌いたくなる曲も、全部別なのは興味深いです。TikTokで流行る曲にはどんな特徴があると思いますか?
おしら いくつかパターンがあると思うんですけど、ひとつは振り付けしやすい曲。最近だとShuta Sueyoshiさんの「HACK」やひらめさんの「ポケットからきゅんです!」とか。
それから誰でも耳に残る単語が入っている曲も強いですよね。瑛人さんの「香水」も、そのタイプ。“ドルチェ&ガッバーナ”って、ドルガバが何かわかっていなくても、耳に残りますよ。あとは、ピアノの印象的なリフが入っているもの。YOASOBIの「夜に駆ける」もずっとピアノのリフが入っていますからね。瑛人「香水」
──「夜に駆ける」のYOASOBIや「春を告げる」のyamaさんはネット発のアーティストですが、おしらさんはどのような印象を持っていますか?
おしら 歌声だけで売れるのは、すごくかっこいいですよね! 顔を出さないからパーソナリティーが出てこない。
最近だとaimerさんやUruさん、ヨルシカもそうですよね。そういうアーティストに共通しているのは、「マジで歌が上手い」ということ。みなさん、意味がわからない精度で歌うんですよ。
──“意味がわからない精度”ですか。
おしら 例えばyamaさんは、タイミングが合っていることはもちろん、後ろで鳴っている楽器に合わせて言葉の強さがひとつひとつ違うんです。
“タッタッ”ってバスドラムっぽいときもあれば、“タァッタァッ”ってスネアっぽいときもあるし、“ターター”ってシンバルっぽいときもある。どう考えても、後ろの音を聞いているとしか思えない。
そういうレベルで歌が上手いからこそ、TikTokのような短い時間でも「この人…やべぇ!」って伝わるんでしょうね。
おしら いろいろあるんですけど、柔らかさを持ったままリズム感がいいところですね。柔らかさと打楽器的な歌い方って相性がすごく悪いので、そもそも組み合わせて使えることがありえないんですよ。
マイケル・ジャクソンさんは打楽器的な歌い方ですけど、声が柔らかくはないですよね。MISIAさんはその逆。太さもあるし柔らかいけど、打楽器的ではない。【yama - 春を告げる】暴力的なまでの歌唱力。3秒で心を掴まれます
おしら 最近もMiletさんやUruさんみたいな柔らかいシンガーはたくさんいますけど、yamaさんみたいに打楽器的な人はいない。柔らかさと打楽器的なリズム感を両立させて、心地いい違和感を残せるのがすごいです。
──ZONeの「IMMERSIVE SONG PROJECT」から生まれた新曲「あるいは映画のような」では、yamaさんの魅力がどのように表れていましたか?
おしら 1フレーズのなかでクルクルと変わっていく声の表情です。笑っているときと泣いているときとで、人間って声が変わるんですけど、その変化が本当にすごくて。
歌詞で言うと、最初の「夜 遊泳」では笑っているのに、「飛び乗る最終電車」くらいからは泣いている。「午前0時 夜 遊泳」「飛び乗る最終電車」って、情報としてはフラットじゃないですか。ポジティブでもネガティブでもない。yama - あるいは映画のような (Official Video)
おしら でも「夜 遊泳」で笑って「最終電車」で泣くことによって、違和感を生み出しているんです。だからこそ、グッと惹きつけられるというか。リズム感と両立させながら、その表現をしているのは本当に巧みだなと思いますね。
──本来は表現できないような感情の乗せ方をしていると。
おしら 歌詞だけだとストーリーが読みにくいけど、yamaさんが感情を声に乗せるからこそシーンが思い浮かぶというか。大阪の女に会いに行くのかもしれないし、帰りたくないのに帰らなきゃいけないのかもしれない。そんなふうに声の表情だけでストーリーをつくっていく意図が明確にあるんだと思います。
ロジックとして決めてるのか、yamaさんの頭のなかにある映像なのかはわからないですけど、癖だけで歌っているシンガーとは表現力が段違い。
特に「月の裏側では溜息をついてる」の歌い方は痺れました!。 それまでは打楽器っぽく歌っていたのに、後ろの鍵盤に合わせて急に鍵盤っぽい歌い方になるんです。少しぬめっとさせることによって、シーンを変えているんですよね。リズムからもストーリーが見える! ヤバい!って(笑)。
おしら 斬新な曲が多い印象ですね。特にボカロ系の曲は、ライブで披露することを想定せずにつくられることも多いみたいなので。聴いていても、ボーカル的に「これはライブではできないんじゃないか?」と感じる曲も多いです。
それから男性・女性問わず、歌声に情報量が少ないタイプのシンガーが多いように感じます。ヨルシカのsuisさんも表情がないわけではないんですけど、想像に任せる余白がある。わざと表情をつけない歌い方というか…。【歌い方】だから僕は音楽を辞めた / ヨルシカ(難易度A)
──歌声に表情がないと聴く側はどのように感じるんですか?
おしら 想像を働かせやすいぶん、共感しやすいんですよ。コレサワさんや奥華子さんも情報量が少ないタイプ。本人はギャン泣きして歌わないけど、聴いているほうはギャン泣きしてしまう。細かい意味を与えないから、誰しも自分と重ねることができるんです。
──ネット発のアーティストが多数輩出された要因の1つに、ニコニコ動画やYouTubeなどでの「歌ってみた」文化があると思います。
おしら 個人的には、カラオケ文化に馴染めなかった人たちから生まれた側面もあるのかと思います。カラオケってなんだかんだ人の目を気にしなきゃいけないし、一緒に行った人によって歌える曲って限られてくるじゃないですか。でも「歌ってみた」なら自分で好きな歌と向き合えるので。
「nana」や「Pokekara」などサービスも増えて、自分の歌を発表するハードルは下がっているような気もします。自分もYouTubeを始める前は、ネットに自分の歌声を投稿するなんて「そんな恥ずかしいことできない!」って思ってたんですけど、いつの間にか気にならなくなりました。【広瀬香美】米津玄師さんのLemonを歌ってみた
おしら 反面、「歌ってみた」で評価されることのハードルは、すごく高くなっている。芸能人の方々が参入してきたので、カバー文化でのし上がろうとしている素人にとっては、難しい状況な気がします。
広瀬香美さんみたいな人にやられちゃったら、どんなに歌が上手くたってネームバリューでも数字でもクオリティでも勝てない。今までのような「歌ってみた」は、初期がそうであったように、今後少しずつクローズドな方向に進んでいくように思えます。
──なるほど。ある種の揺り戻しが起きるかもしれないと。いろいろなお話ありがとうございました! ただ……最後に1つだけ、ZONeの「IMMERSIVE SONG PROJECT」は没入がテーマなので、おしらさんが2020年上半期に没入したものを教えてください。
おしら ぼつにゅう!?!??
──はい、ぜひ! ここだけはどうしてもお聞きしたいです!
おしら 没入……わかりました。2020年上半期没入ランキングだと2つあります。
1つは『愛の不時着』という韓国ドラマ。韓国の女性がパラグライダーで北朝鮮に不時着して現地の軍人と愛を育み、北朝鮮から脱出を図る話です。すっっっっっごく面白いんですよ!
2話に1回くらい脱出が成功しそうになるけど、全16話なので途中で上手くいくわけないんです(笑)。次はどうやって失敗するんだろうってワクワクしちゃう。『渡る世間は鬼ばかり』を観ているような感覚です。毎回絶対バッドエンドみたいな。
もう1つは「Nizi Project」。私は恋愛対象が男性なので、そもそも女の子のオーディションには興味がなかったんです。可愛いなって思えないし、顔も覚えられない。NiziU 「Make you happy」
でも、ボイストレーナーとして参加しているJ.Y. Park(パク・ジニョン)さんの対応には興味があって。彼が若い人に対してどうやって声をかけるか見ていたら、女の子の顔も全員覚えて、結局みんなを応援していました(笑)。
両方とも、観たあと3日間くらいなんにも手につかなかったくらい没入してました!
第1シーズンではバーチャルYouTuber(VTuber)のKizuna AI(キズナアイ)さんや花譜さん、YOASOBIが参加したプロジェクトに、今回は「春を告げる」で一躍知名度を上げたシンガー・yamaさんが参加。新たな化学反応に期待が高まっている。
yamaさんといえば、ネット発の新鋭として唯一無二の歌声で注目される1人。今回は、登録者数100万人のYouTubeチャンネル「しらスタ【歌唱力向上委員会】」を運営するボーカルトレーナー・おしら(白石涼)さんにyamaさんの魅力について直撃。
「暴力的なまでの歌唱力。3秒で心をつかまれる」
──そうyamaさんを評するおしらさんが、トレーナー視点でyamaさんの歌声を紐解いていく。さらに、TikTokからヒット曲が生まれる現行の音楽シーンやアーティストについての解説、今まであまり語られてこなかった、おしらさん自身のバックグラウンドも必見だ。
取材:坂井彩花 編集:恩田雄多
言語化・視覚化できるレベルで音が“見える”おしら
──おしらさんはいつ頃から歌を始められたんですか?おしら 人前で歌うようになったのは、大学生になってアカペラサークルに入ってからです。それまでも好きで歌っていたんですけど、もともとはめちゃくちゃ下手でした(笑)。中学生の頃なんて、友達とカラオケに行くと「下手!」って言われちゃうレベル。そもそも音があってないみたいな……。
──想像がつかないですね。どのようにして上手くなっていったんですか?
おしら 大学へ行くために浪人していた1年間、歌の練習しかしてなかったんですよ。そこで少しは変わったかなって思います。
──歌がしたくて浪人したと?
おしら そういうわけではないです(笑)! 第一志望の大学に落ちて、精神的にすごく病んでしまったんです。その反動で歌っていた記憶があります。
実は中高がダンス部だったので大学でも続けようと思っていたんですけど、浪人期間のストレスで踊れないレベルまで太ってしまったんですよ。最初は「それなら歌うか」と軽い気持ちで始めました。
──その1年がなければアカペラサークルに入ることもなかったかもしれないですね。歌を仕事にしようと意識したのはどのタイミングなんですか?
おしら 周囲が就活を始めた大学3年生の後半かな。スーツだけは絶対に着たくなかったんですよ(笑)。音楽しかなかったわけじゃないんですけど、消去法で「歌の先生ならいけそう」と思って。 おしら 中学生の頃、ボイストレーニングに通っていた原体験が大きいかもしれません。当時教えてもらった先生が、めちゃめちゃ歌が上手くてキャリアもすごい、かっこいい人だったんですけど、何を言っているか全然わからない(笑)。でもめっちゃ楽しかったんです。だから「これなら自分でもできるんじゃないか」って思いました。
──とはいっても、YouTubeでの楽曲解説を観ると、おしらさんはすごく言語化能力が高いじゃないですか。初心者でも「何がすごいか?」をスッと理解できる説明だと思います。
おしら それは、もともとの私が下手だったからですね。歌に限らずですけど、感覚でできてしまう人って、もともとできる側の才能を持った人なんです。へたっぴが天才に一歩でも近づくには、努力で埋め合わせしなきゃいけない。
本来、相手に伝えるには、理解できる言葉や見え方が必要なので。自分が言語化や視覚化を用いて練習してきたことが、動画に活きているんだと思います。誰だってわかりやすく言葉にしたり、矢印みたいに見える化したりすれば、音の細部まで聴けるようになるんですよ。
──つまりおしらさんには、言語化・視覚化できるレベルで、音が見えているってことですよね。
おしら そうですね、それは私が聴覚過敏だからだと思います。にぎやかなお店や人混みに行くと気持ち悪くなっちゃうんですよ。
普段はネガティブに働くこともあるんですけど、音楽を聴いているときは活きてきますね。音程や和音はクラシックをやっている方のほうが知覚できると思うんですけど、リズムや声の変化に気づくのは得意なんです。
TikTokで流行る共通点、理解不能な精度のシンガー
──動画で紹介するアーティストは、どうやって選んでいるんですか?おしら 一次フィルターにストリーミングチャートやYouTubeなどでの再生回数といった数字、二次フィルターとして自分の好き嫌いみたいなイメージです。
特にここ半年はTikTokですね。年明けくらいからYOASOBIの「夜に駆ける」、瑛人さんの「香水」、yamaさんの「春を告げる」などの人気が急上昇した印象です。1曲通しで聴くとほかにも完成度の高い楽曲はあるんです。
でも15秒や30秒など短い尺の動画が特徴のTikTokの場合、今挙げたような楽曲のほうがインパクトが大きい。人気といわれるアーティストでもTikTokで流行ったことがないと若い子は全然知らないなんてこともありますよ。
おしら レッスンで人気な曲はまた違った傾向があるんですよね。最近だと、いろいろなアーティストが一発撮りでパフォーマンスする企画「THE FIRST TAKE」の影響がめっちゃ強いです。
あのチャンネルを観るとやっぱり歌いたくなるみたいで。あとは「THEカラオケ★バトル」や「歌唱王~歌唱力日本一決定戦~」といったコンテスト系番組の影響も強いように思います。
──TikTokで人気な曲も世間的に流行っている曲も歌いたくなる曲も、全部別なのは興味深いです。TikTokで流行る曲にはどんな特徴があると思いますか?
おしら いくつかパターンがあると思うんですけど、ひとつは振り付けしやすい曲。最近だとShuta Sueyoshiさんの「HACK」やひらめさんの「ポケットからきゅんです!」とか。
それから誰でも耳に残る単語が入っている曲も強いですよね。瑛人さんの「香水」も、そのタイプ。“ドルチェ&ガッバーナ”って、ドルガバが何かわかっていなくても、耳に残りますよ。あとは、ピアノの印象的なリフが入っているもの。YOASOBIの「夜に駆ける」もずっとピアノのリフが入っていますからね。
おしら 歌声だけで売れるのは、すごくかっこいいですよね! 顔を出さないからパーソナリティーが出てこない。
最近だとaimerさんやUruさん、ヨルシカもそうですよね。そういうアーティストに共通しているのは、「マジで歌が上手い」ということ。みなさん、意味がわからない精度で歌うんですよ。
──“意味がわからない精度”ですか。
おしら 例えばyamaさんは、タイミングが合っていることはもちろん、後ろで鳴っている楽器に合わせて言葉の強さがひとつひとつ違うんです。
“タッタッ”ってバスドラムっぽいときもあれば、“タァッタァッ”ってスネアっぽいときもあるし、“ターター”ってシンバルっぽいときもある。どう考えても、後ろの音を聞いているとしか思えない。
そういうレベルで歌が上手いからこそ、TikTokのような短い時間でも「この人…やべぇ!」って伝わるんでしょうね。
柔らかさと打楽器的なハリを両立するyamaの歌唱
──「春を告げる」についての動画でも解説していますが、yamaさんの魅力ってなんだと思いますか?おしら いろいろあるんですけど、柔らかさを持ったままリズム感がいいところですね。柔らかさと打楽器的な歌い方って相性がすごく悪いので、そもそも組み合わせて使えることがありえないんですよ。
マイケル・ジャクソンさんは打楽器的な歌い方ですけど、声が柔らかくはないですよね。MISIAさんはその逆。太さもあるし柔らかいけど、打楽器的ではない。
──ZONeの「IMMERSIVE SONG PROJECT」から生まれた新曲「あるいは映画のような」では、yamaさんの魅力がどのように表れていましたか?
おしら 1フレーズのなかでクルクルと変わっていく声の表情です。笑っているときと泣いているときとで、人間って声が変わるんですけど、その変化が本当にすごくて。
歌詞で言うと、最初の「夜 遊泳」では笑っているのに、「飛び乗る最終電車」くらいからは泣いている。「午前0時 夜 遊泳」「飛び乗る最終電車」って、情報としてはフラットじゃないですか。ポジティブでもネガティブでもない。
──本来は表現できないような感情の乗せ方をしていると。
おしら 歌詞だけだとストーリーが読みにくいけど、yamaさんが感情を声に乗せるからこそシーンが思い浮かぶというか。大阪の女に会いに行くのかもしれないし、帰りたくないのに帰らなきゃいけないのかもしれない。そんなふうに声の表情だけでストーリーをつくっていく意図が明確にあるんだと思います。
ロジックとして決めてるのか、yamaさんの頭のなかにある映像なのかはわからないですけど、癖だけで歌っているシンガーとは表現力が段違い。
特に「月の裏側では溜息をついてる」の歌い方は痺れました!。 それまでは打楽器っぽく歌っていたのに、後ろの鍵盤に合わせて急に鍵盤っぽい歌い方になるんです。少しぬめっとさせることによって、シーンを変えているんですよね。リズムからもストーリーが見える! ヤバい!って(笑)。
ネット発アーティストの歌が共感を生む理由は“余白”
──先ほどから名前が挙がるヨルシカはVOCALOID(ボーカロイド)、yamaさんは「歌ってみた」でも活動していたネットカルチャーを背景とするアーティストです。他のアーティストと比べたとき、楽曲における特徴はありますか?おしら 斬新な曲が多い印象ですね。特にボカロ系の曲は、ライブで披露することを想定せずにつくられることも多いみたいなので。聴いていても、ボーカル的に「これはライブではできないんじゃないか?」と感じる曲も多いです。
それから男性・女性問わず、歌声に情報量が少ないタイプのシンガーが多いように感じます。ヨルシカのsuisさんも表情がないわけではないんですけど、想像に任せる余白がある。わざと表情をつけない歌い方というか…。
おしら 想像を働かせやすいぶん、共感しやすいんですよ。コレサワさんや奥華子さんも情報量が少ないタイプ。本人はギャン泣きして歌わないけど、聴いているほうはギャン泣きしてしまう。細かい意味を与えないから、誰しも自分と重ねることができるんです。
──ネット発のアーティストが多数輩出された要因の1つに、ニコニコ動画やYouTubeなどでの「歌ってみた」文化があると思います。
おしら 個人的には、カラオケ文化に馴染めなかった人たちから生まれた側面もあるのかと思います。カラオケってなんだかんだ人の目を気にしなきゃいけないし、一緒に行った人によって歌える曲って限られてくるじゃないですか。でも「歌ってみた」なら自分で好きな歌と向き合えるので。
「nana」や「Pokekara」などサービスも増えて、自分の歌を発表するハードルは下がっているような気もします。自分もYouTubeを始める前は、ネットに自分の歌声を投稿するなんて「そんな恥ずかしいことできない!」って思ってたんですけど、いつの間にか気にならなくなりました。
広瀬香美さんみたいな人にやられちゃったら、どんなに歌が上手くたってネームバリューでも数字でもクオリティでも勝てない。今までのような「歌ってみた」は、初期がそうであったように、今後少しずつクローズドな方向に進んでいくように思えます。
──なるほど。ある種の揺り戻しが起きるかもしれないと。いろいろなお話ありがとうございました! ただ……最後に1つだけ、ZONeの「IMMERSIVE SONG PROJECT」は没入がテーマなので、おしらさんが2020年上半期に没入したものを教えてください。
おしら ぼつにゅう!?!??
──はい、ぜひ! ここだけはどうしてもお聞きしたいです!
おしら 没入……わかりました。2020年上半期没入ランキングだと2つあります。
1つは『愛の不時着』という韓国ドラマ。韓国の女性がパラグライダーで北朝鮮に不時着して現地の軍人と愛を育み、北朝鮮から脱出を図る話です。すっっっっっごく面白いんですよ!
2話に1回くらい脱出が成功しそうになるけど、全16話なので途中で上手くいくわけないんです(笑)。次はどうやって失敗するんだろうってワクワクしちゃう。『渡る世間は鬼ばかり』を観ているような感覚です。毎回絶対バッドエンドみたいな。
もう1つは「Nizi Project」。私は恋愛対象が男性なので、そもそも女の子のオーディションには興味がなかったんです。可愛いなって思えないし、顔も覚えられない。
両方とも、観たあと3日間くらいなんにも手につかなかったくらい没入してました!
「ZONe」IMMERSIVE SONG PROJECT
「ZONe」IMMERSIVE SONG PROJECTeカルチャーを愛するファン、クリエイターのための超没入エナジードリンク『ZONe』IMMERSIVE SONG PROJECTでは、『ZONe』のコンセプトであるImmersive=没入をテーマに設定し、様々なアーティストの新しい楽曲・MVをサポートする。
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