Creepy Nuts『かつて天才だった俺たちへ』考察 助演男優こと“たりないふたり”のトビ方

道になった足跡を肯定する先駆者となった2人

Creepy Nuts / かつて天才だった俺たちへ【MV】
以上のような道のりを経て発売されたミニアルバム『かつて天才だった俺たち』。

同名の表題曲は帝京平成大学のCMのために書き下ろされ、チャレンジし続けてきた2人が若者の背を押す曲になっている。

しかしそれだけではなく、このアルバムの構成自体が、彼らの歩みを凝縮し、同時に若者へのエールになっているように思えるのだ。

ホラーテイストの「ヘルレイザー」「耳無し芳一Style」

Hellraiser (1987) Trailer
このミニアルバムは、同名のホラー映画を元にした「ヘルレイザー」からスタートする。

映画『ヘルレイザー』のストーリーは、永遠の快楽をもたらすというパズルを解いてしまった主人公たちが、苦しみこそ快楽だと拷問してくる魔導士たちに襲われるもの。

楽曲「ヘルレイザー」はこのストーリーを下敷きに、コロナ禍であっても人に会うことやライブの快楽を、色気のあるトランペットが特徴的なビートで歌い上げている。 これに続くのが、怪談「耳無し芳一」をモチーフにした「耳無し芳一Style」。

嫉妬のヘイトを撒き散らす者は相手の一部しか見えておらず、また自分自身も一部しか見えてないと歌っている。

この曲には、Creepy Nutsがメジャーになったことを揶揄する層に向けたメッセージ性が感じられる。

ADRENALINE 2019 FINALのエキシビションマッチで、R-指定さんが晋平太さんに指摘されたような意見に対するアンサーなのではないのかと。
R-指定 vs 晋平太 #1【ADRENALINE 2019 FINAL】呂布カルマが解説!

菅田将暉とのコラボ曲は何を意味するか

Creepy Nuts × 菅田将暉 / サントラ【MV】
その後は菅田将暉さんとのコラボ曲となったTHE HIGH-LOWS「日曜日よりの使者」のアレンジカバーと「サントラ」が続く。

ラジオでの菅田将暉さんとの絡みをきっかけにして交流がはじまり、コラボ制作が決まった楽曲。

特に「サントラ」は、彼らの音楽や演技、ラジオのような営みが誰かの人生のBGMになって欲しいという願いがこめられており、その制作の経緯もあってかラジオブースを舞台にしてMVが撮影されている。

この2曲は、菅田将暉さんのキャラクターもあり、ホラーモチーフの前2曲に対してとても明るい曲調。共通して、自分自身のスタイルやありふれた人生を肯定するテーマとなっている。

それはリスナーに寄り添うラジオパーソナリティーの姿であると共に、彼ら自身の肯定でもあったのではないか。 その次の楽曲は、またもホラーをモチーフにした「Dr.フランケンシュタイン」。

しかし「ヘルレイザー」「耳無し芳一Style」の上ずった声とハイテンポさが目立った曲調に対して、非常に落ち着いたトーンで歌われている。

歌詞は世の中からはみ出すこと、「ヘルレイザー」で歌ったような快楽へのあこがれを押さえつける道徳でつぎはぎにされ、本来の自分が分からなくなってしまった様を、フランケンシュタイン博士のつくった怪物になぞらえ、しかしそれを今は恨んでいないと歌っていく。 そして最後に来るのが、表題曲でもある「かつて天才だった俺たちへ」。

これまでの曲を総括するように、サウンドや歌い方ともにヒップホップとポップソングが調和しているのが特徴だ。

そして周囲の目によって全能感を奪われるという思春期特有の経験を歌いつつ、そこから踏み出しチャレンジしていくことを肯定する一曲になっている。

若者たちのカリスマに成り上がったCreepy Nuts

アルバムの流れを総括すると、怪物モチーフの「ヘルレイザー」「耳無し芳一Style」は、生き急いで社会にぶつかり続けた若い時分。

菅田将暉さんとのコラボ2曲は、チャレンジを続けたことで仲間を得て、自分たちのスタイルや方向性に確信を得たこと。

「Dr.フランケンシュタイン」は1つの境地にたどり着いたことで、かつては憎みもした世間や社会の目すら許容できるようになったことを、それぞれ表している。

これを踏まえると、「かつて天才だった俺たちへ」は、思春期の葛藤を持ちながらチャレンジを続け、その果てに成功を掴んだことで、他人のチャレンジを肯定し、自身の生きざまをもってエールを送るミニアルバムとして、より深く味わえるように思える。

思春期男子の味方だったCreepy Nutsは、若者たちのカリスマに成り上がったのだ。

『かつて天才だった俺たちへ』ジャケットの謎

余談だが、今回のジャケットおよびライナーノーツ(歌詞の描いてある冊子)には、独特の色合い、表紙のなんともいえない図形、染みや折れ目の印刷表現が施されている。

個人的には、これがどうにも使い込まれた教科書や、その表紙を剥いだ裏表紙に見える。

『かつて天才だった俺たちへ』ジャケット/画像はAmazonから

裏表紙ではないが、押し入れから引っ張り出された筆者の高校時代の教科書

このジャケットは、思春期及び学生から彼らが一皮向けたことを表現しているのかもしれないし、考えすぎかもしれない。

いずれにせよ、これまでの道筋を総括し1つの区切りに立ったCreepy Nutsが次につくるのはどんな曲になるのか。

引き続きファンとして追いかけていきたい。

ヒップホップ最前線

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