通販とバーチャル空間 オンライン上での即売会の可能性
──リアルな即売会が開催されない一方で、通信販売やVR(バーチャル空間)をはじめとする仮想空間上でのイベントが注目されました。それらがリアルな即売会の代替になりえるのか、どうお考えですか?三崎 前提として、選択肢が広がることは喜ばしいことです。今後もさまざまな要因からリアルで開催できないケースが出てくるかもしれない。そのときの対応策として、これまでの通販に加えVRという選択肢が増えたのはよかったと思います。
ただ、完全にリアルな場と同じ体験ができるかといえば、当然難しさがある。というか、それぞれに良さがあるということです。たとえば通販は、会場で購入したときのように荷物が重くならないし手軽。一方で、リアルな即売会のような同人誌との偶然の出会いは少ない。
即売会では、運営がなるべく同じ傾向のサークルが隣同士になるよう配置しています。目当てのサークルに行けば、自然と自分の好みに近い本を見つけやすくなる。
そうしたキュレーション力みたいなものは、ネット書店の検索機能やタグづけだけでは代替しきれないかもしれません。あとは、仮に好みの本を見つけてあれこれカートに入れて、いざ会計しようと思ったら「ん? 3万円?」と金額を目の当たりにすると我に返ってしまう可能性も(笑)。 ──会場ではサークルごとにお金を払う、かつ熱気によって麻痺してしまう感覚が、通販だと鮮明になってしまうとわけですね。VR上でのイベントはいかかでしょう?
三崎 8月に開催された「ComicVket」は純粋にすごいなと。新しい取り組みでありながらもおよそ400サークルを集めたわけですから。また女性を中心に、RPG風のインターフェースが特徴的な「pictSQUARE」も人気を集めているようです。
当然、まだ新しいがゆえに課題もあって、特にサーバーの問題は大きいですね。イベントが人気を集めて参加者が増えたらサーバーが落ちてしまった──そんなことになってはもったいないですが、サーバー増強はサービスのマネタイズにも関わってくる部分なので、簡単な問題ではありません。
オンライン上でそれをいかに表現するか、もしくはリアルとVRを使い分けるのか。イベントの性質や参加者の意識にもよるのでなんとも言えませんが、まだピンと来てない人も多いので、今後の動向は注視していきたいですね。
戻りつつある状況、カギは「新刊がどれだけ出てくるか?」
──夏前のほとんど開催できない状況から変わりつつある中で、今後についてはどのように見通されているのでしょうか?三崎 運営側としては、まずは日々変わる状況、政府の方針を注意深く見守っていくことが必要です。規制の緩和にあわせて、その上で「どうすれば安全か?」という知見を積み上げて、対外的にもきちんと説明する。参加者に安心・納得してもらわない限り、いくら呼びかけても人は増えないので。
一方で、冒頭で申し上げた通り、即売会そのものは徐々に数が増えつつあります。9月14日には、東京都立産業貿易センター浜松町館がリニューアルが完了して、22日に最初の即売会が開催されました。
9月の4連休中には、赤ブーブー通信社さんが開催した女性向けの即売会もあり、サークルの参加率も8月の2割から5割程度まで回復してきている印象です。27日の「サンシャインクリエイション」もサークル・一般参加者が集まっていました。少しずつですが、戻りつつあるのは間違いありません。
10月には「COMIC CITY SPARK」や「COMIC1」、「博麗神社例大祭」、そして11月には「コミティア」も控えています。秋の即売会シーズンでもあるので、感染防止策をきちんと講じながら、盛り上げられるといいなと。
──感染防止の観点はもちろん重要ですが、それ以外の懸念点はなく、2021年はより本格的に即売会が開催できそうですか?
三崎 来年について、各運営団体はそういった意識を持っていると思います。ただ1つ気になるのは「新刊がどれだけ出てくるか?」ですね。新刊の存在はイベントにとって重要ですが、これはもうサークルや作家の気持ちの問題なので。
現在、即売会が戻りつつあると言いましたが、それでも新刊の数はまだまだ少ない印象です。創作は心が平穏じゃないと難しい面があるので、社会や生活が混乱している状況下にあって、いつも通りに創作に向き合えないことだってある。
即売会の数や参加者が増えていることはサークルにも伝わっていると思うので、今後の即売会を無事開催して、環境をいつも通りに近づけていくしかないのかなと。どうすればサークルが新刊をつくる状況になるのか?──さらにみんなで知恵を絞っていくことになると思います。
ただ、これだけは伝えておきたいのが、ガイドラインを守った上で開催することも、その場に参加する/しないについても、「それぞれの判断」でいいということ。過度に自粛を強調しすぎるのも、強引に参加を煽るのも、どちらも文化を継続する上では不要な行為です。
日本の同人文化は必要不可欠
──最後に、三崎さんは同人文化を必用不可欠なものだと考えていますか?三崎 自分の思いや考えを、安価に、誰でも形にして、自己表現として発表できる場というのは、あまり多くはありません。
海外にもZINEのような自主制作の印刷物は少なからずあります。それでも、たくさんの個人が同人誌を制作して、それを売り買いする場があるという意味で、日本ほどインフラが整っている場は貴重で、日本の強い特色だと思っています。
加えて、日本の漫画やアニメ、ゲームの業界自体が広い裾野を持っているわけですが、同人文化はそういった裾野をさらに広げている。さまざまなクリエイターたちが、世に出る前に作品を発表できるゆりかごとしての機能も備えています。
一方で、商業ベースにはのらないオルタナティブな作品の発表の場でもあります。こうした「場」が続いていくことが、必要不可欠なのは言うまでもありません。願わくば、来年には「コミケ」も開催されることを期待しつつ、私自身も同人文化への貢献の形を模索していきたいですね。
同人業界で続く試行錯誤
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