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指揮者は本番に向けてどのような準備をするのか?

──本番の日以外、指揮者はどのような音楽活動しているんですか?

平林 楽譜を読んで勉強している時間が長いはずです。ピアニストやバイオリニストであれば練習ってことなんですけど、指揮者の場合は練習というよりも楽譜を読んでいることが多く、それを勉強というだけですが。 ──楽譜を見ている間に、具体的に頭の中でどのようなことを考えているのでしょうか?

平林 そもそも現場で自分自身が使い物にならないといけないので。例えば曲をやるのが2週間後だとして、指揮台に立ったときに最低限仕事になるかっていうラインがあるんです。

完成度を深めようと思ったら、大げさな話、何年かけてもいいわけです。でも日々いろいろな曲の締め切りがやってくるので、最低限仕事になる、ちゃんと手が動いて、正確に音が聞けて、正確に楽譜に何が書いてあるか把握して、というところを考えていきます。

──もし準備が不十分だった場合、どんな状況が想定されますか?

平林 オーケストラから見たらそれは一発で見抜かれます。指揮者の話だとわかりにくいかもしれませんが。単純にピアニストやバイオリニストと同じで、全然練習しないで演奏会本番に起こる現象と同じです。

指揮者がちょっとでも違うふうに動いたらオーケストラはたちまち混乱するし、怒られちゃうわけです。

──ちなみに曲の勉強時間に報酬が発生するわけではないですよね?

平林 なので、時給換算するとすごく安いと思いますよ。人によっては1つの曲に何か月もかけてきてるわけですから。そうしたビジネスの感覚に置き換えたとすると、今の自粛ムードだと商売あがったりではあります。

ただ指揮者とか演奏家の場合は、自主的にいろいろな曲を勉強しなくてはと思っている人は多いんですね。なので、今回中止になった曲もいずれまたやるかもしれないと思って切り替えているのではないでしょうか。

指揮者たちがコンクールに挑む理由

──演奏会とは違い、コンクールにはどのような役割があるのでしょうか?

平林 指揮者として大活躍するには、おそらく、何か強力なコネクションでもない限り、大きなコンクールで賞を取ることが役立つと思います。

演奏家の活躍度合いもかなり幅がありまして、それぞれの活動内容に様々な差があるのは事実です。

単純に努力で乗り越えられる差ではないので、私も死にものぐるいでコンクールで格闘するのを何年も続けてきました。

昨年はたまたま賞をいくつかいただいて、それは本当に運が良かったというか、そこに達するまでは本当に大変です。 ──コンクールで賞を得ることは、指揮者の活動に必ずしも必要なのでしょうか?

平林 私の場合はようやくコンクールで賞を取ったので、昨年くらいからようやく少しずつ可能性が見えてきたところです。同世代の指揮者を見ると、私より先を行っている人たちも、何人か思い浮かびます。

今後4、5年でコンクールをはじめとしたはっきりわかるような成果をつかめるか否かで、私の、これからどのようなオーケストラを相手に仕事をしていくか人生が決まっていく感じですね。

──賞レースへの参加以外では、普段どのような営業活動をされているのでしょうか?

平林 現実はもっとシンプルというか、すごく一般的に多い話をすれば、指揮者は指揮をしてお金を稼ぐというのが基本です。

それだけの人が多い。加えて教えることをやってる人は教える仕事もしているという感じですね。実は、自分から営業する手段というのはすごく限られてるんですよね。

例えば私はいろいろな団体と関わって仕事をしてきてますけど、飛び込み営業的にオーケストラの事務局とかに行って「すいません、こういう者なんですけど使ってもらえませんでしょうか」っていうは一度もないですね。

私の一番最初の仕事は人との繋がりでした。先輩とか先生に「代わりにちょっとこのオーケストラの練習をしてくれないか」と。

オーケストラ自体はプロアマ合わせると1000以上あると思いますが、そういう意味ではすごく狭い世界とも言えます。

──つまり案件の数自体は多いけど、指揮者は少ないということでしょうか?

平林 他の業種から見ると、明らかにそういうことが言えると思います。

指揮者を目指すのはどんな人?

写真提供:平林遼

──ここまでお話を聞いて1つ気になったのですが、指揮者を目指す人というのは、最終的にどういった目標を持っているのでしょうか?

平林 基本的に指揮者になりたい人たちには、ウィーン・フィルハーモニーとかベルリン・フィルハーモニーとか、誰もが知ってるすごいオーケストラを指揮してみたい、という思いを抱いている人が少なくないと思います。

もちろんそこに到達するのは難しいことです。なので私を含めて、それぞれ必死に頑張っている、ということだと思います。

もちろん、そうではない人にも会ったことはありますが。こんなに特殊な世界を目指す以上は、「やれるところまでやってやろう!」と思っている人のほうが多いのではないでしょうか。

──指揮者はオーケストラにおいて1人だけ。それだけでもなるのが大変そうだと思います

平林 数が少ないので当然ながら狭き門です。自分で言うのも変ですが、指揮者になるのは本当に大変です。ただ、他のプロの演奏者だと楽器が何千万円としますから。そういう意味で楽器代はかかっていませんね。

指揮者を目指してる人たちの意見を聞くと、親御さんが寛容で「いいよ、好きなことやりな」というパターンのほうが多い気がしますが、私の場合は親を説得するのにいつも苦労していました。

──大変な道だとわかっていても、平林さんが指揮者の夢を諦めなかったのはなぜなのでしょうか?

平林 なぜでしょうね。大学の門下内でも「お前は指揮者になりたい気持ちが強いな」と言われていました。たぶん、指揮者になることへの執念が強いんでしょうね。

指揮者を目指したのは中学3年生のときで、吹奏楽部ではじめて指揮をしたときに、本当に体に電気が走ったような衝撃があったんです。それからは指揮者になることだけを考えていました。

とはいえ何からはじめていいかもわからず、とりあえず有名な小澤征爾先生のような方のDVDを買ってひたすら見て、よくわからないなりに分析をしていました(笑)。

自室に貼られた、ベートーヴェンの肖像画

──ありがとうございます。では最後に、現在、平林さんが指揮者として心がけていることを教えてください。

平林 常に心がけていることとしては、演奏において作曲家と一体になることです。ベートーヴェンの曲やるんだったら、まるでベートーヴェンが指揮してるようだと思われることを一番に目指すということです。

今どれだけできているかはわからないですけれど、自分のなかで一番大切にしていることですね。

直近で言えば、中止になった演奏会もありましたが、延期になったものもあります。それに向かって努力していきたいと思っています。
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