2019年7月24日、新木場STUDIO COASTにて日本一の高校生ラッパーをMCバトルで決める大会「BSスカパー! BAZOOKA!!!第16回高校生RAP選手権 令和元年スペシャルトーナメント」が開催された。
令和初の開催となる本大会では、第11回大会以降の優勝者・準優勝者に加え、審査員特別枠の1名とオーディションを勝ち抜いた8人の現役高校生MCが一回戦で激突するスペシャルトーナメント方式にて行われた。
過去の大会を彩ってきた実力派・人気ラッパーからフレッシュな現役高校生ラッパーまでが凌ぎを削り、名場面、名勝負、さらには、予想外の出来事まで巻き起こった今大会。
その中でも特に印象の強かった試合を会場の雰囲気を踏まえつつ、筆者の独断と偏見で、ベストバウトを紹介したい。
※記事初出時、一部表記に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
【写真】「第16回高校生ラップ選手権」の様子を全部見る
今の時代には珍しいリーゼントというヘアースタイルの元不良ラッパー・ベルさんは、他の試合でもRed Eyeさんの名前を頻繁に出しており、一方的に因縁を持っている様子。
対するRed Eyeさんは、第14回大会準優勝と圧倒的な実力を持っていながら前回大会不出場だった。ベルさんとRed Eyeさん対決と、Red Eyeさんの出場を期待して待っていたヘッズにとって、自然とこの2人の対決に注目が集まるのもおかしくない。
試合が始まると先行のベルさんは「顔面に引くトリガー とうとう来たなこの時が」と漢 a.k.a GAMIさんの名パンチラインをサンプリングし、さらに会場を沸かせる。
対するRed Eyeさんは「あの人が俺に言ってくれた 本当の男の強さとは 喧嘩の強さや頭の賢さなんかじゃなく心の強さ あの頃から比べてみりゃ 強い大人になれているかな 今日は確かめに帰ってきたんで 教えてくれ選手権」とJ-REXXYさんの「MY TOWN feat.紅桜」のリリックの最後を「MY TOWN」から「選手権」に変えて歌った。
Red Eyeさんの高いスキルと、レゲエに培われたバックグラウンドだからこそ許される、離れ業だ。
続くベルさんも「俺のルーツはB-boyブルース、食らったまんまのビー・バップ・ハイスクール」と自身のルーツ(バックグラウンド)を武器にアンサー。
会場は延長戦を希望するも、Red Eyeさん圧倒的なスキルには一歩及ばずにベルさんは敗北を喫した。
場数や経験の差から、今大会の一回戦は一方的な試合展開になることが多く、Bブロック第3試合までで勝ち上がったオーディション組はまさかの0人。
会場の誰もが優勝組の圧倒的な実力を認める中、迎えた一回戦最終試合のカードは、歴代最高レベルとも称された第15回大会の覇者・百足さん vs 大阪・西成区出身の実力派MC・S-kaineさん。
じゃんけんに勝って先行を選んだ百足さんは、「先端に点火するエンターテイナー ラップ選手権何がしてえか? リリース祝いに貰う2連覇」と、一発目から第6回、第7回で2連覇を果たし今大会では審査員をつとめたMCニガリさんのラインをサンプリングし会場を沸かせる。
それに対しS-kaineさんは「エンターテイナー よりもB-BOYが似合うカルチャー に生きてんだよ」と高校生離れした貫禄のあるラップでアンサー。
続く2バース目、どちらもハイレベルな攻め合いの末、試合は延長にもつれ込む。
百足さんの「リリシズム、1日中、負けが身にしみる、やられる前に呼べ119」と韻の固さを見せつけるも、S-kaineさんが「こいつは00世代(2000年生まれの総称)穴が空きすぎて撃ちたい放題だぜ」と数字ネタを拾ってアンサー。
審査員も首を傾げて決めた試合結果は、最終的にS-kaineさんに軍配が上がり、シーン注目度MAXの最強MCが一回戦で姿を消す波乱の結末となった。
迎え撃つは第14回王者のHARDY。先行1バース目からバトルビートのLeon Fanourakisさんの「BOUNCE feat. SANTAWORLDVIEW」のフックにあわせて「バウンス! バウンス! 上がれる奴ヘンザ!」と会場の雰囲気をぶち上げる。それに対し韻マンさんは圧巻の韻の連続で応酬。
HARDYの「韻ばっか踏むのがヒップホップだけど 韻だけ踏んでてても楽しくないのがヒップホップだよ」というパンチラインが出るも、韻マンさんも、韻を散りばめながら「バトルじゃなくて 韻を踏みに来た」とアンサーし、両者一歩も引かない白熱した試合が繰り広げられた。
お互いのスタイルがぶつかり合い、間違いなく今大会一番の「スタイル・ウォーズ」となった試合の結果は延長の末、HARDYさんが制すこととなった。
余談だが、個人的には韻マンさんの「焼きたてクレープ、蟹座流星群、神業プレイ集」というラインは支離滅裂だが本当に見事だと思った。
Novel CoreさんはZeebraさんのレーベル・GRAND MASTERからデビューを果たし、次世代ヒップホップシーンを担う第12大会王者だ。
Red Eyeさんも、第13回王者のG-HOPEさんや、百足さん、第11回王者・9forさんを下し準決勝まで駒を進めたS-kaineさんに勝利し決勝まで勝ち進んでいた。
ビートはRHYMESTERの名曲「ONCE AGAIN」。
先行のNovel Coreは終始「やめたいときもあった」「いつか武道館に立つ」などこれまでのライバルたちとの激闘、その熱い思いをラップに込めて歌い続ける。
しかし、Red Eyeさんは対話には応じず「黙れ12回の一発屋さん、表現者として失格だな」「武道館で世界を変える?マイケルジャクソンにでもなったつもりかよ」と終始ドギツいディスを吐き続ける。
そして、審査員が何分かの協議をおこない結果発表がおこなわれた。僅差の大熱戦を制し、優勝を飾ったのはRed Eyeさんとなった。 Red Eyeさんの現場での経験やステージングのうまさなどがNovel Coreさんを上まわったのだという。
何よりも、今大会はオールスター戦ということもあって、事前からMC同士の関係性や過去の試合など、観客も理解していたし、バトルの内容も過去の話題や仲間意識を歌ったライムが多かった。
しかしRed Eyeさんは、そんなことにお構いなく「あくまで自分」。自身の誇示するアーティスト性や未来を見据えたアティチュードによって、他のMCと一線を画していたように思う。
2012年のスタート以来、これまでヒップホップに関心がなかった人も巻き込み、「高校生RAP選手権」に出場することを目的にラップをはじめる若いヘッズも数多くいる。
そして筆者がヒップホップにハマったきっかけも、実は大学一年生のときに見た「第6回高校生ラップ選手権」だった。
即興で音楽に乗せ言葉巧みにラップをするMCたちの才能に震え、熱中してヒップホップを聴き漁ったのを鮮明に記憶している。しかしその後、徐々に音源を中心に聴くことが多くなり、MCバトルからは離れていった。 今回現場に訪れて衝撃を受けたのは「バトルの音源化」とも呼ぶべき現象だ。過去大会の様子を映すVTRでバトルのシーンが流れると、観客の多くがそのライムを覚えていて、一緒に合唱するのだ。
これはYouTubeなどで(違法アップロードの動画だろうが)過去大会の動画を何度も何度も繰り返し視聴することがなければ、できない芸当だ。
歴史の蓄積やコミュニティの醸成が進み、「高校生RAP選手権」はただのMCバトルの大会という枠組みを越え、もはや一つの文化となっている。そう思った瞬間だった。
今回、筆者ははじめて生で選手権を観戦することとなったが、出場ラッパーたちのスキルは、当時筆者が見ていたときよりも格段に上がっているように感じたし、なにより、ヘッズたちが歓声を上げる会場の熱気にはかなり驚かされた。
これからの日本のヒップホップを盛り上げていくのは間違いなく、今大会に出場した、あるいは観にきた若手ラッパーたちだ。ヒップホップを聴き続ける一人のヘッズとして「高校生ラップ選手権」さらにはヒップホップカルチャーのさらなる飛躍に期待したい。
(c)BSスカパー!BAZOOKA!!!第16回高校生RAP選手権 令和元年スペシャルトーナメント
令和初の開催となる本大会では、第11回大会以降の優勝者・準優勝者に加え、審査員特別枠の1名とオーディションを勝ち抜いた8人の現役高校生MCが一回戦で激突するスペシャルトーナメント方式にて行われた。
過去の大会を彩ってきた実力派・人気ラッパーからフレッシュな現役高校生ラッパーまでが凌ぎを削り、名場面、名勝負、さらには、予想外の出来事まで巻き起こった今大会。
その中でも特に印象の強かった試合を会場の雰囲気を踏まえつつ、筆者の独断と偏見で、ベストバウトを紹介したい。
※記事初出時、一部表記に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
【写真】「第16回高校生ラップ選手権」の様子を全部見る
オールスターvsニューカマーが激突
Red Eye vs ベル(1回戦)
一回戦において一番注目を集めていた組み合わせといえば、間違いなく「Red Eye vs ベル」だろう。今の時代には珍しいリーゼントというヘアースタイルの元不良ラッパー・ベルさんは、他の試合でもRed Eyeさんの名前を頻繁に出しており、一方的に因縁を持っている様子。
対するRed Eyeさんは、第14回大会準優勝と圧倒的な実力を持っていながら前回大会不出場だった。ベルさんとRed Eyeさん対決と、Red Eyeさんの出場を期待して待っていたヘッズにとって、自然とこの2人の対決に注目が集まるのもおかしくない。
試合が始まると先行のベルさんは「顔面に引くトリガー とうとう来たなこの時が」と漢 a.k.a GAMIさんの名パンチラインをサンプリングし、さらに会場を沸かせる。
対するRed Eyeさんは「あの人が俺に言ってくれた 本当の男の強さとは 喧嘩の強さや頭の賢さなんかじゃなく心の強さ あの頃から比べてみりゃ 強い大人になれているかな 今日は確かめに帰ってきたんで 教えてくれ選手権」とJ-REXXYさんの「MY TOWN feat.紅桜」のリリックの最後を「MY TOWN」から「選手権」に変えて歌った。
Red Eyeさんの高いスキルと、レゲエに培われたバックグラウンドだからこそ許される、離れ業だ。
続くベルさんも「俺のルーツはB-boyブルース、食らったまんまのビー・バップ・ハイスクール」と自身のルーツ(バックグラウンド)を武器にアンサー。
会場は延長戦を希望するも、Red Eyeさん圧倒的なスキルには一歩及ばずにベルさんは敗北を喫した。
百足 vs S-kaine(1回戦)
第11回大会以降の優勝者・準優勝者とニューカマーの現役高校生が1回戦で激突するというトーナメントが組まれた本大会。場数や経験の差から、今大会の一回戦は一方的な試合展開になることが多く、Bブロック第3試合までで勝ち上がったオーディション組はまさかの0人。
会場の誰もが優勝組の圧倒的な実力を認める中、迎えた一回戦最終試合のカードは、歴代最高レベルとも称された第15回大会の覇者・百足さん vs 大阪・西成区出身の実力派MC・S-kaineさん。
じゃんけんに勝って先行を選んだ百足さんは、「先端に点火するエンターテイナー ラップ選手権何がしてえか? リリース祝いに貰う2連覇」と、一発目から第6回、第7回で2連覇を果たし今大会では審査員をつとめたMCニガリさんのラインをサンプリングし会場を沸かせる。
それに対しS-kaineさんは「エンターテイナー よりもB-BOYが似合うカルチャー に生きてんだよ」と高校生離れした貫禄のあるラップでアンサー。
続く2バース目、どちらもハイレベルな攻め合いの末、試合は延長にもつれ込む。
百足さんの「リリシズム、1日中、負けが身にしみる、やられる前に呼べ119」と韻の固さを見せつけるも、S-kaineさんが「こいつは00世代(2000年生まれの総称)穴が空きすぎて撃ちたい放題だぜ」と数字ネタを拾ってアンサー。
審査員も首を傾げて決めた試合結果は、最終的にS-kaineさんに軍配が上がり、シーン注目度MAXの最強MCが一回戦で姿を消す波乱の結末となった。
韻マン vs HARDY(準々決勝)
”とにかく韻を踏み続ける”という唯一無二のスタイルで審査員特別枠での参加を果たした韻マンさんの人気は凄まじいものがあった。前回大会ベスト4という実力も折り紙つきだ。迎え撃つは第14回王者のHARDY。先行1バース目からバトルビートのLeon Fanourakisさんの「BOUNCE feat. SANTAWORLDVIEW」のフックにあわせて「バウンス! バウンス! 上がれる奴ヘンザ!」と会場の雰囲気をぶち上げる。それに対し韻マンさんは圧巻の韻の連続で応酬。
HARDYの「韻ばっか踏むのがヒップホップだけど 韻だけ踏んでてても楽しくないのがヒップホップだよ」というパンチラインが出るも、韻マンさんも、韻を散りばめながら「バトルじゃなくて 韻を踏みに来た」とアンサーし、両者一歩も引かない白熱した試合が繰り広げられた。
お互いのスタイルがぶつかり合い、間違いなく今大会一番の「スタイル・ウォーズ」となった試合の結果は延長の末、HARDYさんが制すこととなった。
余談だが、個人的には韻マンさんの「焼きたてクレープ、蟹座流星群、神業プレイ集」というラインは支離滅裂だが本当に見事だと思った。
Novel Core vs Red Eye(決勝)
待ちに待った決勝戦は、第12回で対戦経験のあるNovel Corevs Red Eyeという因縁の対決となった。Novel CoreさんはZeebraさんのレーベル・GRAND MASTERからデビューを果たし、次世代ヒップホップシーンを担う第12大会王者だ。
Red Eyeさんも、第13回王者のG-HOPEさんや、百足さん、第11回王者・9forさんを下し準決勝まで駒を進めたS-kaineさんに勝利し決勝まで勝ち進んでいた。
ビートはRHYMESTERの名曲「ONCE AGAIN」。
先行のNovel Coreは終始「やめたいときもあった」「いつか武道館に立つ」などこれまでのライバルたちとの激闘、その熱い思いをラップに込めて歌い続ける。
しかし、Red Eyeさんは対話には応じず「黙れ12回の一発屋さん、表現者として失格だな」「武道館で世界を変える?マイケルジャクソンにでもなったつもりかよ」と終始ドギツいディスを吐き続ける。
そして、審査員が何分かの協議をおこない結果発表がおこなわれた。僅差の大熱戦を制し、優勝を飾ったのはRed Eyeさんとなった。 Red Eyeさんの現場での経験やステージングのうまさなどがNovel Coreさんを上まわったのだという。
何よりも、今大会はオールスター戦ということもあって、事前からMC同士の関係性や過去の試合など、観客も理解していたし、バトルの内容も過去の話題や仲間意識を歌ったライムが多かった。
しかしRed Eyeさんは、そんなことにお構いなく「あくまで自分」。自身の誇示するアーティスト性や未来を見据えたアティチュードによって、他のMCと一線を画していたように思う。
「高校生RAP選手権」の意義、そしてバトルの音源化
現在のヒップホップブームを語るには「高校生RAP選手権」は決して欠かすことのできない大会だ。2012年のスタート以来、これまでヒップホップに関心がなかった人も巻き込み、「高校生RAP選手権」に出場することを目的にラップをはじめる若いヘッズも数多くいる。
そして筆者がヒップホップにハマったきっかけも、実は大学一年生のときに見た「第6回高校生ラップ選手権」だった。
即興で音楽に乗せ言葉巧みにラップをするMCたちの才能に震え、熱中してヒップホップを聴き漁ったのを鮮明に記憶している。しかしその後、徐々に音源を中心に聴くことが多くなり、MCバトルからは離れていった。 今回現場に訪れて衝撃を受けたのは「バトルの音源化」とも呼ぶべき現象だ。過去大会の様子を映すVTRでバトルのシーンが流れると、観客の多くがそのライムを覚えていて、一緒に合唱するのだ。
これはYouTubeなどで(違法アップロードの動画だろうが)過去大会の動画を何度も何度も繰り返し視聴することがなければ、できない芸当だ。
歴史の蓄積やコミュニティの醸成が進み、「高校生RAP選手権」はただのMCバトルの大会という枠組みを越え、もはや一つの文化となっている。そう思った瞬間だった。
今回、筆者ははじめて生で選手権を観戦することとなったが、出場ラッパーたちのスキルは、当時筆者が見ていたときよりも格段に上がっているように感じたし、なにより、ヘッズたちが歓声を上げる会場の熱気にはかなり驚かされた。
これからの日本のヒップホップを盛り上げていくのは間違いなく、今大会に出場した、あるいは観にきた若手ラッパーたちだ。ヒップホップを聴き続ける一人のヘッズとして「高校生ラップ選手権」さらにはヒップホップカルチャーのさらなる飛躍に期待したい。
(c)BSスカパー!BAZOOKA!!!第16回高校生RAP選手権 令和元年スペシャルトーナメント
歴史を積み重ねる「ラップ選手権」
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番組情報
BSスカパー! BAZOOKA!!!第16回高校生RAP選手権 令和元年スペシャルトーナメント
- 放送日時
- 2019年8月12日(月・祝)後9時〜
- 出演者
- 小籔千豊 くっきー(野性爆弾) 中嶋イッキュウ(tricot) 漢 a.k.a. GAMI
- R-指定(Creepy Nuts) MARIA(SIMI LAB) FORK(ICEBAHN) MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻
- チャンネル
- BS スカパー!(BS241/プレミアムサービス 579)
- 視聴方法
- スカパー! のチャンネルまたはパック・セット等のご契約者は無料でご視聴いただけます。
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3件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:4299)
レッドアイってバトル引退しましたっけ?
森田将輝
ご指摘ありがとうございます。編集部の森田と申します。
記述の誤り、大変失礼いたしました。改めてさせていただきました。
匿名ハッコウくん(ID:2915)
REDEYEは14回ベスト4じゃなくて、大会準優勝ですよ
韻マンVSハーディーはベスト8(準々決勝)
記事がでたらめ杉内俊哉